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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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「偽りの姫君 アドヴァンスステージ」

季節は初春、といえどまだ寒さの残る三月の話だ
朧気に桜が蕾をつけるはじめる様なそんな時期
「・・・卒業か、大して意味のない通過儀礼だな」
おそらくこの時期、この日と言うものは大多数の人間にとってそれなりに印象深い日になるんだろうが幾度と繰り返してきた戦いを乗り越えた俺にとっては
それはただの通過地点に過ぎない
彼女を守るという使命はこれで終わりというわけだ 
「貴方はこの三年間よくやってくれたわ影咲狼牙・・・いえ北川真樹君」
この学園でいう“卒業式”ということもあっていつもとは違うきっちりとしたスーツ姿の担任、西田先生もといノスフェル=ドクトル上層幹部は誰もいない屋上にに佇む俺に声を掛ける

───『北川君!そんなところにいないで教室に戻りなさい!!』     

なにか別次元の声がした気がするがそんなことはどうでもよかった
「“三年間”?・・・俺は前世の時代から光の巫女を守り続けてきたつもりだが?」
「私が管理する今回の世界での貴方の役目は三年間、そう決まっていたのよ」
「それは俺が光の巫女とは“違う道”を選んだからか?」
俺の言葉にノスフェルは少し視線を逸らし言葉を濁すように呟く
「そうね・・・それが君の選択というならば光の巫女“東藤沙紀”彼女のことは南風君に任せるしかないというのが本部の解答よ」
                    
───『北川君、貴方が東藤さんのことが好きなのは充分わかったけど貴方は東藤さんと同じ高校には行けないのよ、諦めなさい!』

あーあーあー聞こえない、受験に失敗して東藤と同じ高校に行けない俺に西田先生がなにか言っている気がするが聞こえない認識しない言葉として理解しない
「もういい、もういいんだ光の巫女は既にその力を失っているのだから。」
「あの恋文であの二人付き合い始めたものね」
妄想と現実が入り混じり自分の世界が崩れそうになるのを必死に心の奥隅で留めようと全身を強張らせる
「もはや光の巫女としての能力を失った彼女は一般人と変わりない、それに今の俺には“別次元の姫君”がいる!」
「ほう・・・やはり“別次元”へ堕ちたか狼牙!!」
「・・・ガルフォード!!」
閑散とした屋上に高らかとガルフォード、南風章の声が響く。俺は声を荒げ言葉を返すが奴は精神的に余裕を見せつけるが如く大きく手を広げ悠然とした様子で此方へと歩を進めていく
あの日、光の巫女東藤沙紀の机にラブレターを忍ばせたのは 南風章だった
そして東藤沙紀はあいつの告白を受けいれ今ではクラスでもお似合いのカップルと持て囃されている
「残念ながら光の巫女はお前ではなく俺を選んだ、そうなれば“別次元”へ堕ちることもやむないな狼牙!しかしいかんぞ“別次元”の女は!」
「なんだと・・・!?」
怒りの感情にあらわにする俺に不敵な笑みを堪えるようにガルフォードは続ける
「“別次元”の姫君には触れることはできない、そもそもただのデータのようなもんだ生きちゃいないんだよ!騙されているってことに気が付けよ狼牙。今だったら間に合うぜ?貴重な青春時代を偽りの姫君へとささげるなど愚の骨頂、こちらの世界へ戻って来い!」
「フッ・・・なるほどね」
俺はただ静かにガルフォードの言葉を聴いた、だがその言葉が絶望を知った俺にはなにも響きはしない
あるのは静寂、限りなく静かで落ち着いた確固たる愛の世界しかない
「わかってないなガルフォード、彼女達とは触れる必要なんてないんだ」
「なに・・・?」
「彼女達と俺は心で繋がっている、絶望の淵へ堕ちた俺に生きる希望を与えてくれたのは彼女達なんだ。彼女達は俺の心、気持ちを絶対に裏切ることはしない!!」
屋上に俺の心の叫びが響き渡る。
それにはその場にいたガルフォード、ノスフェルはその言葉に押し黙るしかなかった
「これはもう完全に堕ちたな、狼牙!」
嘲笑うガルフォード、呆れた様子のノスフェルを前に俺は改めて宣言する
「さっきから堕ちただとか言っているがなガルフォード、それは違う・・・!」
そうだ、これは今のこの世界を生き抜くために“ヒト”がたどり着くべき理想郷ッ!
「“到着”したんだよ・・・」
ああ、この選択が数年後後悔に変わることがわかっていたのならば過去に戻って自分へと伝えたいものだ

 

                                                      END

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いつから始まったのか、いつになったら終わるのか
漠然とした気持ちのまま僕は屋敷の玄関から表へ出ようとしていた、その矢先だった
「御主人様!お待ちください、アッシュ御主人様!!」
少し遠くから僕の名前を呼ぶ声がする、振り返ると僕のメイドであるウィステリアがその長くて美しい黒髪を揺らしながら僕の鞄を持って走ってきている
「ウィステリア走らなくても大丈夫、僕はここにいるよ」
「あ、いえ・・・申し訳ございません、御主人様の大事な鞄をお忘れになっていたのでつい」
息を切らして駆け寄ったウィステリアを少し嗜めるように僕は言う
実の所僕が鞄を忘れたのはわざとだ、わざと忘れればこうやってウィステリアが気づいて持って来てくれるとわかっていたから
「でもありがとうウィステリア」
僕は鞄を受け取ると優しくウィステリアの頭を撫でる、すると予想通りに彼女は恥ずかしそうに俯くと顔を逸らした。そしてただ小さく「アッシュ御主人様」とだけ呟く
それが僕にとっては愛おしくて堪らなかった
「ウィステリアっ」
気持ちは直ぐに行動となって動いた。僕は鞄を手放すとその愛しい彼女の身体をぐっと引き寄せ抱きしめる
「え、あっ・・・御主人様っ!」
ウィステリアは抵抗するように身を捩ったがそれは演技だ、強く抱きしめるとすぐにその抵抗はなくなり僕に身を預けるように身体を寄せる
「ダメです、いけませんこんなところで御主人様」
僕はウィステリアの言葉を無視して彼女の背中から腰に掛けてゆっくり味合うように弄る。ウィステリアは僕の攻めに小さく身体を震わせ耐えている、それが僕の中でぐっと熱く、愛おしくなっていくのを感じる
「二人っきりの時はアッシュって呼ぶように言ったじゃないか」
「で、でもアッシュ様・・・こんなところでは誰かが来てしまいます」
「誰も来ないさ」
「けどそこにヴァンダイクが・・・」
ウィステリアは消え入るような小さな声で僕達の側を悠然と歩く猫、ヴァンダイクを指差す
ヴァンダイクは僕が小さい頃からこの屋敷に住んでいる猫だ。どうゆう種類かまでは知らないが白い毛むくじゃらの体でいつも朝御飯を用意しているウィステリアを探していたように見える、キョロキョロと首を振りながら辺りを見渡している
「なにヴァンダイクはお腹が空いてるだけさ、ウィステリアがここにいるからやってきたんだろう。大体僕達のやっていることなんてヴァンダイクにはわからないさ」
僕の言葉にヴァンダイクは「にゃーご」と鳴き声をあげると静かにその場から離れ庭のほうへと歩いていった
「ヴァンダイクも自分がお邪魔虫だってわかったんだよ、そんなことよりウィステリア・・・」
しっぽを振りながらその場を立ち去っていくヴァンダイクの後姿を横目で見送ると僕は抱き寄せたウィステリアの顔を引き寄せる
「好きだよウィステリア、君は僕のことを好きかい?」
「勿論、お慕い申しておりますアッシュ様・・・」
「そうかよかった、なら」
頬を染めて答えるウィステリアに僕はゆっくりと顔を近づけその柔らかい唇にキスをする、そしてそのまま熱く甘い彼女の舌を感じるように自分の舌を絡ませていく
「んっ・・・んっ、ふぁ御主・・・様っ・・・」
ウィステリアの必死に応えようと発する甘い吐息が僕の気持ちを高揚させていく
僕はそれを楽しむように舌を動かすと少ししてそれを止め、顔を離す
厭らしく僕とウィステリアの唇の間を唾液の糸が垂れる
「御主人・・・アッシュ様?」
恥かしがり屋のウィステリアが顔を真赤に染めながらも何故突然行為をやめたのかという不満の表情を見せる。
そう、ウィステリアのその表情が僕は見たかったんだ
「ウィステリア、キスが上手くなったね。あれかな僕の知らないところで幼馴染のジェードと練習でもしたのかな?」
僕は彼女の耳元に顔を近づけると彼女を困らせるような悪戯な言葉を吐いた
「そ、そんなことしてないです!ジェードとはただの幼馴染でそんな関係じゃないんですっ・・・私が、私が好きなのはアッシュ様だけですっ!」
「そうだよねウィステリア、ごめんね変なこと聞いて」
この答えが返ってくることはわかっていた、そしてこの喜びを幾度となく味わいたかった
僕は再びウィステリアの唇にキスをする、その幸せがいつまでも続くようにと

 


「それじゃ行ってくるねウィステリア」
「はい、御主人様・・・いえアッシュ様」
私は頭を下げアッシュ様を見送る。大丈夫だっただろうかちゃんと笑顔を見せれただろうか?いつものそれが不安になりつつも今は御主人様が私を愛して求めてくれたことの方が気持ちを高揚させていた
「顔、紅くないかな・・・ジェードやアザレアさん、私が御主人様とこんな関係になっていること知ったらどう思うだろう?」
少し乱れた服を直しながら考える。いつからだろう私が御主人様とその、恋人のような関係になったのは今となっては何故か凄く昔の話のように思えてくる
私の御主人様であるアッシュ様は幼い頃に両親をなくし自立するまで親戚の間をたらい回しの様にされてきたらしい、誰からも愛されることなく誰も愛することもなく
だから御主人様が私のことを愛していると仰ってくれたとき物凄く嬉しかった
それは私がメイドとして御主人様にできる最高の奉仕だからだ
「にゃー」
「あらヴァンダイク、戻ってきたの?」
先程庭のほうへ行ったヴァンダイクが小さく鳴き声をあげながら戻ってきた
私はヴァンダイクを抱きかかえるとその白い毛並みを優しく撫でてやる
「ごめんね、すぐに朝御飯を用意してあげるから。あ、あとさっき貴方が見たことは誰にも内緒よ?って猫だから喋れないか」
冗談っぽく言うとヴァンダイクは「にゃー」と一鳴きして私の腕からするりと抜け屋敷の奥のほうへ駆けていく
「あ、待ってヴァンダ・・・あっ!」
思わず私は声をあげてしまった
ヴァンダイクが駆けていく先を目で追いかけようとして顔を上げた私の先には長い金髪のメイド、私の同僚であるアザレアさんが立っていたからだ
「アザレアさん・・・」
「同じ猫でもヴァンダイクも泥棒猫とは仲良く出来ないって感じね」
「えっ?」
そう言うとアザレアさんはカツッ、カツッとハイヒールの音を鳴らし私の方へと近づいてくる、もうそれが怒っているというのを表しているのは想像しなくても分かっていた
「ウィステリア、貴女さっき御主人様となにをしていたの?」
「別に何も・・・ただ御主人様が鞄を忘れられていたからそれを渡していただけよ」
「嘘つき!」
アザレアさんはそう叫ぶと私を力任せに突き飛ばす。思わずつんのめってしまい私は壁に叩きつけられた
「い、痛いですよアザレアさん」
「わかってるんだから!!そうやって隠していても・・・!貴女と御主人様がどうゆうことしてるかって事くらい!」
抵抗する私の腕を壁に押し付けアザレアさんは更に続ける
「貴女御主人様のこと好きじゃないって言ってたじゃない、私に譲ってくれるって言ってくれたじゃない!!それなのにっ!!」
アザレアさんは金髪の長い髪を揺らし声を荒げる
ああ、アザレアさんも御主人様のことが好きなんだ
確かにそんな話をアザレアさんから聞いた覚えがあるし約束した憶えもある
けどそれも今となっては虚ろに消え行く記憶の中にしかない
「ごめんなさい、あの時はそう言ったかもしれないけど今は私も御主人様のことが好き・・・さっきだって御主人様から求められてキスをしたのよ。このさいだからはっきりと言います、アザレアさん貴女は御主人様のこと諦めたほうがいいです」
「・・・・・・そう、やっぱりそうなんだ」
私が呟いた一言にアザレアさんは静かに押し黙るしかなかった
だって仕方ないじゃない、アッシュ御主人様は私を選んでくれたんだもの
自分に魅力がなくてアッシュ御主人様に振り向いてもらえなかったからって私をいじめるなんて筋違いよ
「あはは、じゃあねぇウィステリア・・・貴女にキスしたら御主人様と間接キスになるかしら?」
突然錯乱しているのかアザレアさんは私に顔を近づけ意味不明なことを呟く
「な、なにを言っているんですかそんなわけないでしょアザレアさん!」
私は近づくアザレアさんから顔を逸らし否定する、いくらなんでも何を変なことを言っているんだこの人はそう思った
───けど逸らしたから気が付かなかった、アザレアさんの表情が残忍に歪んでいたことを
「ウィステリア・・・」
「な、なんですか!私ヴァンダイクに朝御飯を準備しなくちゃいけないんです、そろそろ離してくれませんか?」
「・・・死んじゃえ!」
一瞬アザレアさんの言った言葉の意味が理解できなかった、だがすぐに私の腹部に激痛が走りその言葉の意味と彼女のやろうとしていることに戦慄する
「あっ・・・・がぁっ、アザレ・・・アさん!」
銀色のナイフが、私の腹部に押し付けられじわりと白いエプロンを鮮血に染めていく。必死に抗おうとするも痛みに力が入らずそれに更にアザレアさんは体重を掛けて私の身体にナイフを押し付けてくる
「死んじゃえばいいのよ、いつもいつも私に見せ付けるように御主人様といちゃつく貴女なんか!!」
「あ、ぐぅっ・・・!」
必死に痛みに堪えようとするも意識は朦朧としゆっくりとしかり確実に死に近づいていった

 

「はぁ・・・はぁ・・・・!!!」
息が切れる、動悸が激しい、目の前には力なくぐったりと壁に凭れ掛かるようにしてもう二度と動かない同僚がいる
「私、殺しちゃったのねウィステリアを」
誰に言うことなく私は呟く。けどいいんだ、いずれにしろ彼女はこうなる運命だったんだから
生きて抵抗されていたさっきまでと違い死んでしまえばどうということはない、ただの塵だ
そう考えたらすぐに気持ちは落ち着いた、そうして次に自分がやらなくてはならないことを行動に移さねばと思考を巡らしていく
だってそうでしょ、死んでいる人間の幸せなんて誰が望むものか!生きている私が最大限にその幸せを享受すればいいだけなのよ、ウィステリアはそのための踏み台にすぎないのだ
「とりあえず返り血がついた私のエプロンは外して・・・と、後は死体を隠さないといけないけど」
私は辺りを見渡し手短で私の言うことを聞く僕とも言うべき存在を探す
「・・・ふふ、いた!相変わらず暢気に薔薇の世話をしているのねジェード」
窓の外に見える緑色の髪をした青年の姿を確認すると私は満足して笑みを浮かべる
自分の幸せのためならあらゆるものを利用してやる
私は薔薇園に出るとゆっくりと歩を進め庭師であるジェードに近づいてく
「ああ、今日も綺麗に咲いているなぁ・・・」
「はぁ、相変わらず暢気なものねジェード」
本当は驚かそうと思っていたのに薔薇に向かって独り言を呟くジェードに思わず私は溜息まじりに声を上げてしまっていた
「え、あっアザレアさん!どうされたんですか」
少し驚いた様子で目を泳がせながらこちらを振り向くジェードに彼がなにを考えているのか私にはお見通しだった、だから私は見せ付けるようにわざと胸元のボタンを二つ外してみせる
「ジェード・・・今、お話しする時間あるかしら?」
「時間ならありますけど」
「良かった、貴方に頼みたいことがあるのよ」
「お、俺にできることだったらなんでもしますよ」
思ったとおりに少し顔を赤らめ頷くジェードをみると本当男って単純だと再認識する。
けど変に勘繰られるよりこのほうがずっといいわ
私はジェードが望むように身体を近づけ彼の首に腕を回し抱きついてみせる
「あ、あのアザレアさんいきなりなにを」
「なにをってこうして欲しかったんでしょ?私の言うことを聞いてくれればこの間みたいなことしてあげてもいいわよ」
「この間みたいなこと・・・」
生唾を飲むとは実にこうゆうことをいうらしい、この間の情事がよほど興奮を覚えたのかジェードは凄く早口になって応える
「や、やります!な、何をすればいいんですか?」
「簡単なことよちょっと庭に穴を掘ってほしいのよ、人一人が入るくらいのね」
「わかりました・・・それでそれをやったら本当に」
恐る恐る尋ねてくるジェードに笑いを堪えそうになりながら私は答える
「どうせウィステリアは貴方の気持ちに応えてくれないんでしょう?私だったら貴方を愛してあげられるわ」
正直こんな初心な男だからウィステリアみたいな女を好きになるんだろうと私は思う・・・けどそれを考えるとアッシュ御主人様だって同じか
「はぁはぁ、掘れましたよアザレアさん。けどなんのためにこんな穴を?」
「貴方が気にすることではないわよ」
服を土まみれにしながらスコップ片手に穴から這い上がるジェードに対して私は冷静に呟く、数時間過ぎ庭にはジェード一人にしてはそれなりの深さの穴が出来ていた
「・・・死体の臭いが犬に発見されないためには約7mは掘らないといけないと文献で読んだことあるけど、まぁここにいるのは猫のヴァンダイクくらいだから大丈夫か」
「なにか言いましたかアザレアさん?」
「なんでもないわよ」
私はぶっきらぼうに言い放つと考えこむように腕を組む
後はこの場にいるジェードをどうにかしなければいけないんだけどどうしたものか・・・
なんだったらこいつも殺してしまおうか、ウィステリアだって殺してしまったんだ今更人の一人や二人殺すのなんて私にはわけないことだ
殺してしまおう───その結論に至った矢先だった
「アザレアさんっ!!!」
「ちょ、ちょっとなによ!」
発情した犬のようにジェードが私の腰当たりに抱きついてきたのだ
「や、約束ですよね!!俺、言うこと聞きましたから!!」
「わ、わかってるわよ!!けどなによいきなりこんなところで盛ってるんじゃないわよ!」
必死にしがみ付くジェードを引き離そうとするが私以上の力で抱きつき声をあげる
「もう俺ダメなんですよ、アザレアさんとあんなことした日からアザレアさんのことが忘れられなくてさっきもずっとアザレアさんのことばかり想って!!」
ちょっと前までウィステリアのことが好きだったって言ってたくせにちょっとからかうつもりで一度身体を許したらこの有様だ
「好きです、好きなんですアザレアさん!!」
「わ、わかったから離れなさいよ!!」
気持ち悪い、ジェードがただただ気持ち悪く嫌悪感を剥きだしに彼を突き飛ばそうとした瞬間───
「えっあ・・・きゃぁぁぁ!!」
私はジェードが掘った穴、ウィステリアを埋めようとした穴に足を踏み外しジェードごと穴に落ちた
そして運が悪いってのは本当こうゆうことを言うんだろうとまじまじと思い知らされた
「あがっ・・・・」
言葉にならない声が漏れる、頭の中に鈍い音がする、私の後頭部からナニカが流れているのが首筋を通り感じていく
なんで、なんでこんなことに・・・私はなんて運がないのだろう
この屋敷にウィステリアがいなければ今頃アッシュ御主人様は私を愛してくれていたに違いない、そしてあの女さえいなければ私が───こんな死に方することなかったのに
それ以上は考えることもできなかった、私の意識は私の意志に反して一気に断線した

 

「あ、アザレアさん?」
俺はハッとなりアザレアさんの頬を軽く叩く、けれども彼女は無反応だった
「嘘ですよね?」
抱きかかえるように彼女を身体を起そうとして俺は気が付いた、彼女の長くサラサラとしたはずの金髪にべっとりとしたナニカが付着していたことに
「しっかりしてくださいアザレアさん!!」
身体を揺すり声を張り上げるが俺の言葉は彼女には一向に届くことなく、ただただ力なくぐったりと頭を垂れる
死んでいる・・・言葉には出来なかった。彼女が倒れたであろう先に土から剥き出しになった石があり血で濡れている、彼女はこれに後頭部をぶつけ死んだんだ
俺はなんてことをしてしまったんだろう
時折辛辣な言葉を使う彼女だがあの晩、肌を重ね合わせて俺は彼女が本当は優しい女性なんだと気がついた
だからこそウィステリアのことを忘れ心から彼女のこと愛そうと思ったのに
今となっては遅い、行き過ぎた自分の感情が彼女を殺してしまうことになるなんて
「どうする・・・どうすればいいんだ!」
心臓が破裂してしまうんじゃないかというくらいに波打ち思考がまとまらない
最良の最良の選択はなんだ?
「これは事故だ、事故で・・・俺が殺したわけじゃない!!」
結局行き着いたのは自らの保身でしかなかった、愛すると決めた女性でも死んでしまったらどうすることもできない、俺にそんな力なんてない!
けどもし俺が殺したということがアッシュ御主人様にわかってしまったら俺はもうこの屋敷にいることができなくなる───
「とにかくこの場を離れなくては・・・」
俺はアザレアさんの身体を離すと穴から這い上がる、一刻も早くこの場から立ち去らなければ、その意識が強すぎて這い上がった先に人がいることに一瞬気が付かなかった
「ここでなにをしているジェード・・・」
「あっ、アッシュ様!!」
俺の目の前には白いシャツのところどころを赤く血で染めたアッシュ様が苦悶の表情で立っていた
その表情を見た時点でもう俺には逃げ場はないと確信した
そして・・・ああ、何故アザレアが俺に穴を掘るように言ったのかということも理解した、ウィステリアもう君は───
「ウィステリアを殺したのはお前だな、ジェード!!そして更にはアザレアまで・・・お前というやつは!!」
「ち、違います!」
「なにが違うというんだ!!」
俺は叫ぶが到底言い逃れなんてできそうになかった、なんせ証拠が揃い過ぎている・・・そりゃそうだ何も知らなかったはいえだって実際に片棒を担いでいたんだから
「そんなに僕にウィステリアを取られたことに怨恨を抱いていたのか、けどだからといって彼女を殺すなんて・・・お前のその罪は僕自ら裁かねば!!」
アッシュ様は腰に帯刀したサーベルを引き抜くと俺に突きつける
「さよならだジェード、あの世で罪を悔いるがいい!!」
サーベルが振り下ろされる、肉を絶つ鈍い音が庭中に響き渡った

 


日は落ちて屋敷を闇が覆う
僕はそんな中、自分の部屋で途方にくれるしかなかった
なぜ、なぜこんなことになってしまったのだろう
愛する者を失い、使用人を二人も失った・・・もうこの屋敷には僕しかいない
悲しみにくれる僕の目の前をどこから入ってきたのかヴァンダイクが横切る
「ああ、お前がいたかヴァンダイク・・・ごめんな」
僕の言葉を理解しているのかヴァンダイクは鳴き声をあげると太った見た目とは裏腹な華麗な動きでテーブルに飛び乗ると僕の腕に擦り寄ってくる
「慰めてくれるのか?優しいなお前は」
ヴァンダイクの白い毛を優しく撫でてやるとまさに猫撫で声というべき鳴き声を気持ち良さ気にあげる
「けどなもうどうしようもないんだよこの苦しみから逃れる術なんてないんだ、こうなったら僕も死んで・・・」
そこまで言いかけてヴァンダイクを撫でていた手が止まった、いつの間にかヴァンダイクが紫色の小瓶を抱きかかえていたのに気が付いたらからだ
「ヴァンダイクお前、これ・・・僕の鞄に入ってたはずなのにいやでもこの魔術師から貰った薬を使えば!」
僕は小瓶を手に取り確認する、間違いないこれは今日会った魔術師に貰った薬だ

───もし苦しみから逃れたいと思ったらこの小瓶を開けなさい

魔術師の言葉が蘇る、苦しみから逃れたい状況とはまさに今の状況じゃないか
僕が望んでいた薬は難癖をつけてくれなかったのに押し付けるようにこの薬を渡したのはあの魔術師はこの状況をもしかして予測していたのだろうか?それを確認する方法はないがもう頼れるものはこれしかない
「頼む、この苦しみから解放してくれ」
僕は意を決して紫色の小瓶の蓋を開ける、小瓶からは紫色の煙が湧きあがり部屋中に漂っていく
その煙には眠りを誘うなにかが含まれているのか急激な眠気が僕を襲う
「こ・・・これで元に・・・幸せなあの日に戻・・・・・」
遠くでヴァンダイクの鳴き声がするのが聞こえるとともに僕は意識を失った

 


                                                       D.C
 


『幻想少女』仮題

インタールード シフォン


私には、私には夢があった
それは自分のデザインした服を世界中で有名にすること
しかしそれは今の荒廃した世界には不釣合いで無意味なもの、けどそれでも構わない───
あの時・・・夢は壊れ失われたと思った、けど大丈夫

───私には新たな力が目覚めたのだ

その能力に気が付いたとき夢は───私の夢は私の世界で再生した、そう不死鳥のように

「なんで御姉様がエルグランデの仕事の後始末なんてしなくちゃいけないのぉ?しかもこんな辺境の土地にさ」
「仕方ないじゃない、私八豪傑じゃ一番下っ端なんだから。こうゆう雑用は当然なのよ、ちょっとそのエルグランデの片腕を吹き飛ばした氷のメイドと御主人様ってのもの気になるしね」
大きな紙袋にお菓子を一杯つめてフラフラと歩きながら不服を漏らすメイド服の彼女───茶髪のおさげをしたマロンに私はたしなめるように言葉を返す
私達は荒廃した街を歩いてく、もはやこの世界に綺麗な服なんて必要ないんだ
今日を生きる食料だっていつまでもつかそんな世界なんだから
「御姉様と私の能力の方がエルグランデなんかよりも上なのに」
「大丈夫、大丈夫。エルグランデは乙葉の光の能力を失ったわ、だからすぐにちゃんと認められるわよ私達の方が上だってことは」
私が八豪傑になった理由は───
「そんなことより食べないならシナモンドーナツ貰っちゃうわよー♪」
「あー御姉様、それ私が一番好きだから取っておいてるのにぃ!!」
「ダメダメ、一番美味しいものは先に食べないと誰かに取られちゃうわよ?」
マロンの持つ紙袋からシナモンドーナツをひょいと取り上げると軽いステップを踏みながら口に咥える
私が八豪傑になったのはそんな世界においても私の夢を継続するためだ、八豪傑であれば今日の食べ物に困るような苦しい生活をしなくていい・・・そして世界が荒廃したときよりも物が八豪傑には集まっていく
いずれ八豪傑が世界を支配したらそこからゆっくりと積み上げていけばいい、私の世界を私の服が世界の衣服の基本であり全てになるんだ
私の夢は加速する───
私は夢を追い続けてもいい、神様がそう言っている、そのためにあるのが私の力だ!!!!!!
「そこのお前、止まれ!!」
「お前達能力者だな、これより先はD都市地区現在進入は禁止されている!抵抗するなら容赦はしないぞ!!」
立ち塞がるものは消し去ればいい、奴等は持たざる者・・・私の力で吹けば消し飛ぶ他愛もない存在!
自動小銃のようなものを持った持たざる者達が叫ぶ、どうやらマロンのメイド服姿に能力者だってことがわかったらしい、まぁ当然か
そもそもD都市地区に警備が配置されているなんて話聞いてなかったわね、これも無駄にエルグランデが暴れまくってくれたおかげかしら?
「御姉様、どうしよう?」
「んー面倒だなぁ、殺しちゃおっか・・・どうせ生きていてもしょうがないし」
「・・・っ!!」
警戒して銃を構える彼等に対してシナモンドーナツを口に咥えたまま私は金髪のツインテールを揺らし前に立つ
「んぐぐぅっ・・・んぱぁっ!まぁやってみるだけやってみたら?どうせ無駄だろうけどっ♪」
口元からドーナツがポロリと落ちる、それが地面に落ちた瞬間戦闘は始まった
「これ以上街を好き勝手にさせてたまるか!!撃てぇ!!」
「キャー御姉様!!」
自動小銃が弾を吐き出す激しい音に合わせる様に私は能力を展開させる、御主人様として私が得た能力を
「な・・・なんだとっ!?」
「だから無駄だって言ったじゃない、そんな鉄砲玉で私は殺せない!」
彼等の銃から吐き出された弾丸が全て私の目の前でなにかに遮られるようにその動きを止めていた
「こ、こいつ何者だ?」
「聞かれたら答えてあげるのが私の優しいところよ、しかと聞きなさい私は───」
「あはっ、御姉様一気にやっちゃうの?」
マロンの栗色のおさげ髪がふわふわと浮き上がらせ一気に辺りに風が吹き上がる
「八豪傑が八番目、風のシフォン様よ!!」
瞬間私の周りに激しい風が巻き起こり全てを吹き飛ばした


ACT 5  玲人


エルグランデとの一戦から二日が過ぎた、“御主人様”という能力者になって初めて使った能力の負荷というものはかなり大きかった
体力というのとは違うらしい、能力を使うことで起きる身体への負荷というものは
「玲人さん、お食事・・・今日も作ったんですが」
「あ、ああ・・・」
紗雪の声に僕はベットからゆっくりと身体を起す、一応ここは僕の部屋だ・・・とは言っても今となっては屋根もなければ壁も吹き飛んで無くなっているけど
「すいません、大したものできなくて」
「いや、別にそんなことない」
紗雪から雑炊の入った茶碗を受け取ると一口、口へと運ぶ。その味ははっきりいって最近まともな食事をしていなかったこともあるのかもしれないがそれでも今まで食べたこと無いくらい美味かった
けどそれを素直に喜べない自分がいた
「なぁ紗雪、あんたいつまでここにいるつもりなんだ?」
僕は礼も言うことなく冷たい言葉を投げかける、紗雪はその言葉に小さく肩を振るわせたのがはっきりとわかった
「僕に色々してくれるのは感謝してるがはっきりと言っておく、僕は紗雪達の仲間にはならないぜ」
「玲人さん・・・」
わざわざ言葉にする必要なんかなかっただろうがはっきりとその言葉を告げた
紗雪だっていつかその言葉が返ってくるのは予測できていたんじゃないかと思う
「確かに僕には“御主人様”としての能力があるのかもしれない、けどだからって僕が戦う必要なんてないだろ・・・エルグランデと戦ったのだってあんただけじゃ頼りなかっただけだ!」
巻き込まれるのは勘弁だ、そう嫌悪感をむき出しにして突き放すように言い放つ、その僕の様子に紗雪は静かに言葉を選ぶように口を開く
「それは充分わかっています・・・そして私は玲人さん、貴方に戦いを強要することはできない、けど!!」
「けど・・・なんだよ!!」
茶碗を乱暴にテーブルに置くとベットから身体を起こし僕はがなるように叫んだ
「別に僕が戦わなくたって、あのスティールメイデン・・・凛とかいうやつがなんとかするだろっ!!」
「・・・けど貴方には力があります、それもあの八豪傑と渡り合えるほどの力が!!その力を持ってすればこの世界を救えるかもしれない・・・私にはかつてそれを約束した人がいました、一緒に平和な世界を作ろうとした人が!だから・・・無理を承知で言います、私と戦ってください!!」
紗雪の悲痛な叫びに胸が苦しくなるのがはっきりとわかった。紗雪の言う“約束した人”、それはおそらく僕がエルグランデの前に飛び込む前に見た幻影の男・・・一方的に紗雪のことを僕に託した男のことだろう
僕には能力がある、そしてあの幻影の男から紗雪を頼まれたそれはわかる、わかるけど!!
・・・けど!!!
「悪い、外の空気を浴びて来る」
「玲人さん!!」
僕は全てから逃げるように言い放つと外へと飛び出した
 

                                                 つづいちゃったよこれ


『幻想少女』(仮題)

ACT4 紗雪

静寂を打ち破るように拍手をした人物がゆっくりと姿を現す
その姿は長く伸びた黒髪に深紅のメイド服、彼女は悠然とスカートを翻し私達とエルグランデ達の丁度間に立った
「あ、あいつも八豪傑の一人なのか?」
「いえ・・・八豪傑でもなければ私達の仲間でもない、おそらく彼女は」
今にも倒れそうな状態の玲人さんの問いに私は首を横に振った、それとほぼ同じにエルグランデがその女性に向って叫び声を上げる
「あああん!?てめぇ邪魔するんじゃねぇよ!!ぶち殺されてぇのか!!」
「エルグランデ様、こいつ・・・人間です」
「なんだぁとぉ?」
乙葉の言葉にエルグランデが驚きの声を上げる。乙葉と同じ“メイド”である私も同じものを感じた、黒縁のメガネに深紅のメイド服を着ているが彼女は人間だ
「人間如き雑魚がでしゃばってくるんじゃねぇ殺すぞ!」
エルグランデが叫ぶが意に介さず彼女は拍手を続けながら口を開いた
「能力者対能力者の良いデータが取れたわ、ありがとう。ついでといってはなんだけど漁夫の利で───」
深紅のメイド服の彼女はゆっくりと右手で私と玲人さんを、左手でエルグランデと乙葉をそれぞれ指差す
「“氷”の能力か“光”の能力、どちらか頂きましょうか?」
彼女のその言葉に一瞬で場に緊張が走る
「・・・ただの人間になにができるっていうんだ」
そう独り言のように玲人さんが呟いた。ほんの先程まで彼は人間だった、その言葉は苦しみや恨み言のようにさえ聞こえてくる
けど事実、人間である彼女になにができると言うのだろうか?
「“御主人様”、そして“メイド”・・・それに対抗する力を人間は手に入れたのよ」
「はぁ?虫けらが偉そうにしやがって邪魔するならてめぇから地獄に行きやがれぇ!!」
エルグランデが光の槍を片手で振り上げ彼女に突撃を仕掛ける、それに合わせるように彼女は静かに息を吐くと向きを直しスカートのポケットから黒色の金属でできたコネクタの取り出し・・・
「八豪傑、スティールメイデンの初陣として不足はないわ!」
メガネを外すと、腰についたバックルへと挿入する
「スティールメイデン起動!」
───It transforms to the Steel Maiden
彼女の声と機械音声がほぼ同時に辺りに響き渡り身体が光り輝いてく、その異様な光景に攻撃を仕掛けようとしていたエルグランデもその動きを止めざるをえなかった
「なにが起こるっていうんだ・・・」
玲人さんの呟きに答える言葉も見つからずただ事の成り行きを見守るしかない
「気をつけてくださいエルグランデ様、妙なエネルギーを感知しています!」
警戒するように前に立った乙葉が叫ぶ中、光が収まったとき現れた彼女は先程とは少し様相が変わっていた。深紅のメイド服は変わっていないが腕や胴、ロングスカートに黒い装甲板が頭にはメタルブラックのバイザーがついておりいかにも戦闘用といった出で立ち
「へっ、ちょっとはやれるようだが・・・八豪傑をなめるなよ!!」
「貴女にも味あわせてあげますわ、痛みの快楽を!」
彼女の姿を見るや否やエルグランデが隻腕の腕を振るい乙葉が腕に巻かれた包帯を解き両腕を大きく広げ一気に飛び掛った
「捕らえさせていただきます!」
乙葉の腕から一気に包帯が伸び彼女───スティールメイデンの身体に巻きつくとその動きを封じ締め上げていく
「・・・・・・くっ」
無言で抵抗するスティールメイデンに更に乙葉は締め付けをきつくしながら叫ぶ
「今です、エルグランデ様!!お仕置きを!!」
「ヒャーハッハッハ!!!言われなくともまとめて仕置きしてやるぜぇぇ!!!」
エルグランデの周囲に一気に光弾が浮かび上がっていく、そこで初めてスティールメイデンとなった彼女が口を開いた
「残念ねエルグランデ、貴方の敗因はメイドを私に近づけすぎたことよ!」
その言葉と共に彼女は自らの腕に巻きついた包帯を掴むと強引にそれを自分のほうへと引き寄せ───体勢を崩した乙葉の口元を鷲掴みにする
「なっ───むぐぐっ!!」
「───さようなら」
ぽつりと呟いた彼女のその一言であっさりと勝負は決してしまった
なにが起こったか、それに真っ先に気が付いたのは乙葉の“御主人様”であるエルグランデ
「な、バカな乙葉の能力が・・・消えやがった!?」
エルグランデの周囲に浮かんでいた光弾が一気に消え去ったのだ、そのうろたえる様子に満足したのかスティールメイデンは乙葉から手を離す
「てめぇ・・・乙葉になにしやがったぁぁぁ!!!」
「え、エルグランデ様・・・な、ないんですよぉ~!」
「なにがねぇんだよ乙葉!!」
苛立ちをみせるエルグランデに乙葉が身体を震わせ頭を抑える
「わ、私の中に・・・私の中にある・・・能力が・・・き、き・・・!!」
「彼女の“光”の能力を奪わせてもらったわ、これで貴方達は戦えない」
動揺する乙葉の代わりにスティールメイデンが静かにそう、告げた
・・・“メイド”の能力を奪う能力、それを聞いた途端思わず寒気がよぎった
まさかそんな能力を持った人間がいるなんて、しかもその能力があのベルトに装着したコネクタによるものだとすれば考えは止まらない
あのコネクタは量産されているのだろうか?能力者と人間では今でも人間のほうが多い、彼らがこの装備を量産しているとすれば八豪傑、いや私達能力者だってただではすまないのではないだろうか

───そして現に、今八豪傑の一人を戦闘不能にいたらしめた

「乙葉の能力を奪っただと、ふざけるんじゃねぇ!!」
スティールメイデンは答えることなくゆっくりと腕を振り上げる
「エルグランデ・・・貴方は多くの人間の命を奪った、その罪は重い」
彼女の背後に先程までエルグランデが使っていた光弾が浮かび上がる、その様子にエルグランデの表情に明らかな焦りが見える
「自らの力を持って罪を償ってもらいましょう!!」
腕が振り下ろされ無数の光弾が一気にエルグランデへと襲い掛かる
「くっ、エルグランデ様ッ!」
その瞬間乙葉がエルグランデを庇う様に身を呈した、光弾が容赦なく乙葉の背中に当たり爆ぜていく
「あががががががっ!!」
「ちぃ、乙葉!!」
光弾を受けメイド服の背中が破れながらもふらつく乙葉をエルグランデが隻腕で抱きとめる
「エルグランデ様・・・ち、能力を失っ・・・ても、私お・・・・役に立ちます・・・・ので捨てないでくだ・・・さいっ」
「・・・くそ、こうなっちまっては撤退しかねぇか」
エルグランデは服にしがみ付く乙葉を目にして苦虫を潰した様子で言葉を吐く
「そう簡単に撤退できると思っているのですか?」
光の槍を構えいい放つスティールメイデン、戦況は明らかに彼女にあるのは間違いない
エルグランデは腕を失って手負いの上にボロボロになった乙葉を抱えている逃げるのは容易ではないはずだ
・・・だがそれでもエルグランデは不敵な笑みを浮かべスティールメイデンを挑発する
「腹立たしいが今の俺ではてめぇには勝てねぇようだ。てめぇどこの何者だぁ?」
「・・・それを知ってどうする気かしら?」
「はっ、いずれ貴様らの組織をぶっ潰しててめぇをバラバラに引き裂いてやるからよ!後悔させてやるぜぇ・・・八豪傑を敵に回したことをな!」
不気味に笑うエルグランデだがスティールメイデンは意に返さず失笑で返す
「やれやれスティールメイデンが完成し量産されればお前達など取るに足らない存在だということを理解できていないようですね、そんなに知りたければ教えて差し上げますよ。私は対能力者殲滅機関AMD所属 円月凛。ああ───貴方達の自己紹介は必要ないです、全て調べつくしてありますから八豪傑の七番目、光のエルグランデそして・・・」
そう言うと凛は一度だけこちらのほうに視線を動かしすぐにエルグランデへと向きなおす
バイザー越しだったが凛はこちらを見て笑みを見せた気がした
「氷のメイド、姫城紗雪。隣の御主人様は・・・ふむ流石にデータにないわね」
「・・・あってたまるかよ」
玲人さんが吐き捨てるように呟く、当然だこの人はこの戦いに私が無理に巻き込んでしまったようなものだ。
しかし対能力者殲滅機関AMD・・・そんなものの存在がこの世界にあるというのは思っていなかった、人間と共存を望んでいる私達の組織でも人間の存在は“守らなければいけない存在”と過小評価していた。それが独自の戦闘方法を編み出して能力者に対抗してくるとは
「ヒャハハハッ!対能力者殲滅機関たぁ大きく出たなぁ人間!!面白ぇ・・・!!必ず貴様の息の根を止めてやるからな、それまでせいぜい調子にのっていることだ!!」
「エルグランデ、貴様逃げられると思っているのか」
光の槍を構え叫ぶ凛に対してエルグランデが懐からなにかを取り出す
「クククッ、これ以上はてめぇの思い道理にはならねぇってことだ人間!!」
エルグランデが持っていたそれを力一杯に地面に叩きつける
それが閃光弾というのを理解したしたときには既に辺りは激しい閃光に包まれた後だった
「ヒャーハッハッハッ!!!さよならだスティールメイデン、そして氷のメイド!!」
「くぅっ!エルグランデ!!」
激しい閃光の中エルグランデの叫び声だけが響き渡った───

「大丈夫ですか玲人さん?」
「ああ・・・なんとか」
閃光が収まった頃にはどうやって逃げたのかわからないがエルグランデの姿はそこになかった
「やれやれね、こうもあっさり逃げられるとは思ってみなかったわ」
凛は静かに呟くとこちらのほうへ視線を動かす、戦いはまだ終わってはいないその緊張感だけは感じていた
「・・・やるしかないのか」
「そうとも限らないわ、貴方達は運が実に運が良い」
凛はそう言うと装着していた黒いコネクタを外した、一瞬の光の後に彼女の深紅のメイド服から装甲板が霧散していく
「変身を解いた・・・?」
「あいにくとスティールメイデンはまだ未完成でしてね、長時間の起動には耐えられない。だからこれ以上私は戦うつもりはないわ」
凛は懐からメガネを取り出しかけると私達に背を向ける
「貴方達はエルグランデとの戦いでは優位に立っていたように見えたけど実際はその逆、あのまま長期戦になれば明らかに負けていた」
「だから助けたとでも言いたいのか?」
玲人さんの言葉に凛は少し笑うようにつづける
「単純に厄介なほうから倒したというだけ、こうやって変身を解いたところで貴方達は私を攻撃することもできないほど弱っている、安心して帰還できますしね」
凛は背を向けたままゆっくりと歩き出す
「まぁ助けたと思ってもらっても構わないわ、けど勘違いしないことね・・・私達のAMDは人間と能力者との共存なんて望んでいない。いずれ貴方の能力も奪わせてもらうわ、それじゃまた逢いましょう」
私達はその場を離れていく彼女の後姿をただ見つめているしかなかった

風が辺りにざぁっと吹き荒れる、それはこれから始まる戦いを予感させるような冷たく物悲しいものだった

                                           

                                                     つづくのこれ?


『世界平和?』

僕の朝の日課は喫茶店でモーニングを楽しみながら新聞を読むことだ。
毎朝駅の近くでそれも回転早々、僕以外の客がいない時間に一人コーヒーを飲むが日課なんだ
「お待たせしました、ホットコーヒーでございますぅ」
「ああ、ありがとう」
変に語尾が上がったウェイトレスさんに礼を言ってカップにひとくち、口に含む。やはりここのコーヒーは美味い・・・コーヒーはこの一口目が大事だ、と偉い人がよく言ってた気がする
「しかしまぁ最近良いニュースはないよなぁ」
新聞を広げ世界の情勢に目を通すが正直この御時世の新聞に良いニュースなんてのは載ってはいない
いや実際はあるのかもしれないが記事を書いてるほうも見ているほうも悪いニュースのがほうが面白いのかもしれない、だから今日の新聞に良いニュースは載ってないそう思っておこう
「ん?また熊か・・・」
そんな中、とある記事が目に付いた。
最近よく見る記事だ、内容は単純に言えば『冬眠期間を迎えるために熊が餌を探しているんだけど今年は餌が少なくて街の方まで下りてきて危険だ』って言う話だ
なんでも今回は親子の熊がどうも街まで下りてきたらしく危険だということで猟友会がやってきて親子共々銃殺にしたらしい
「なにも殺さなくてもいいんじゃねぇかなぁ」
「あの、ここよろしいですか?」
「え・・・?」
思わず新聞から視線を上げるとそこには顔立ちの美しい白い髪の女性が立っていた。
染めているのか自髪なのかよくわからなかったが喫茶店に入る朝日が彼女の髪に当たり綺麗に輝いていて同じ色のワンピースはまるで天使のようで思わず息を飲む
「ねぇ・・・ここ、いいですか?」
「あ、ああ全然構わないよ」
僕は思わず新聞を折りたたみ意味もわからず一礼してしまう、動揺しすぎだ
だがそんな様子が受けたのか彼女は微笑を浮べると僕の目の前の席に座った
「ありがとう」
彼女の屈託のない笑顔にまた一瞬心を奪われそうになるがそれよりも一つ気になることが頭を過ぎる
───なんで僕の目の前に座っているんだ彼女は?
いやよく思い出してみよう、僕の日課は“僕以外の客が誰もいない喫茶店でコーヒーを飲む”ということだ、つまり今この喫茶店には僕以外の客はいない・・・席ならいくらでもあるというのに
これは新手のキャッチセールスか?それともこの僕の高尚な趣味に心打たれたのか?
「お客様、ご注文はいかがなさいましょうか?」
「ローズヒップティーのホットをお願いします」
「かしこまりました」
僕がそんな疑問に頭が巡っている間に彼女は注文を済ませ、「ふぅ」と小さく息を吐く
これはなんだろう声を掛けたほうがいいんだろうか?
まじまじ見るのもあれだけどなんか目を逸らすのもおかしい気がするし、どうすればいいんだか・・・
「お待たせしました、ローズヒップティーのホットになりますぅ」
「ありがとう」
相変わらず語尾が変に上がったウェイトレスからグラスに入ったローズヒップティーを彼女は受け取ると香りを楽しむように口元にそれを運ぶ
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
沈黙、そして思わず彼女と目があった───
「ふぅ・・・」
目をじっと合わせたまま彼女は一口ローズヒップティーを口にすると、深く息を吐きグラスをテーブルへと置く
「世界平和ってどうやれば訪れるかしら?」
「えっ・・・?」
不意に彼女がそう口を開いた、その・・・あまりに唐突なその質問に僕はあっけにとられるしかない
「世界、平和?」
「そう世界平和。どうすれば世界平和は訪れると思う?」
「どうすればって・・・」
なんの質問なんだこれ?あれかこの世界を平和にするためには私の宗教に入りなさいとかそうゆうやつか?
「ねぇ貴方の意見を聞かせて?」
「そうだなぁ・・・」
警戒しなくてはといいつつそれでも彼女と少し話をしたいと思ってしまい彼女の質問に答えてしまっている僕がそこにいた
とはいえ世界平和ってどうやればいいのかなんてさっぱり考えたことがない
「とりあえず武器を捨ててみんな仲良くするとか?」
幼稚かもしれないがそんな考えしか浮かばなかった、その答えに彼女は納得しているのか目を閉じ小さく頷いている
「そうね、確かにそう・・・そして人間の大半はそれを望んでいるのよね?」
「まぁそうじゃないかな、そりゃ死の商人とかは違うかもしれないけど」
「その通り、貴方の意見は正しいのだろうけどそれは人間の都合のいい世界平和だわ」
「え、都合のいいってどうゆう意味?」
彼女の言葉に思わず聞き返してしまった、なにかどこか間違っていたのだろうか?
「世界平和のためだったら熊を殺していいの?」
熊を殺す───すぐさまさっきまで見ていた新聞の記事を思い出す
「熊ってあの新聞の記事に載ってた?」
「世界平和の世界って綺麗事のように言っているけど所詮は『人間の世界の平和』でしかない、そのためには熊でもなんでも殺す」
「いやでもっ!」
仕方ないじゃないか、だって人里に下りてきた熊は危険な存在だ、人里には森にはない食料が沢山ある、一度味をしめればそれを狙って何度も何度もやってきて人に危害を加える
「全部人間の都合」
「うっ・・・」
言葉にしていないというのに彼女の一言が見え透かしたように心に突き刺さる
「だから世界平和って言葉人間の都合ばっかりだから私は嫌い、親子の熊殺すことなかったと思わない?」
「それは少し僕も思ったけど」
僕の言葉に彼女の表情がパッと明るくなる
「そっか、貴方と同じ意見で良かった」
「え、あ・・・どうも」
彼女の笑顔にまた心が奪われそうになる、いや多分奪われてるんだろう
「貴方と話せて良かった、それじゃ」
グラスに残ったローズヒップティーを全て飲むと彼女は立ち上がり会釈をしてその場から立ち去っていく、折角なら電話番号とか交換したかったかが声を掛けるタイミングを見失っていた
「世界平和か・・・今一度考え直さないといけないな」
僕の心を奪っていった彼女の後ろ姿を見ながら呆然と僕は呟くしかなかった
肝心なことに気がついたのは「朝からいい出会いしたなぁっと」浮かれながら仕事に行こうと会計を頼んだとき
「えっとぉ、ホットコーヒーとローズヒップティーのホットで合計1200円になりますぅ」

                                                    

                                                    おわり
プロフィール
HN:
氷桜夕雅
性別:
非公開
職業:
昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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