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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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けみかるりあくしょん


がちり、と音を立て錠は開いた。自分でもこんなことしていいのか今になってもわからないけどここまで来て後には引けなかった。
「はい、それじゃ開いたよ」
「ごめんなさい、無理を言って」
申し訳なさそうに頭を下げる彼女にちょっと感じが悪かったかなとも思うがこの状況にしたのも彼女なんだし別にいいかと判断する。
僕、葛西一希は生徒会長の東條綾音を理科準備室へと案内している。それだけなら別段問題ないように聞こえるがそこに“午前二時半に”という言葉が付け加えられるだけで状況が一変するのがわかるだろう。だから僕の行動は案内しているというか真夜中の学校へ忍び込んでいるといったほうが正しい。
「とりあえずそんなに長居はできないんで速やかにお願いしますよ」
理科実験室の中に入り、懐中電灯で月明かりのみの薄暗い部屋を照らしながら僕はそう呟く。こんなところ用務員さんにでも見つかったら僕も生徒会長もただでは済まないだろう、女の子と真夜中に二人っきりということよりも僕はそっちの方が気になって仕方なかった。
・・・・別にそれは彼女が魅力的でない、ということではない。
どちらかと言えば生徒会長、東條綾音は魅力的な女性だ。高校二年生にしてはどこか幼い顔立ちだが大きくパッチリと開いた瞳にどこか気品を漂わせる薄く朱に染まる唇、もし彼女が生徒会長でなくてもその美しさは全生徒に知れ渡っているだろう。
そしてなにより東條は声が綺麗だった。実際僕が東條のことを初めて知ったのは一年前、生徒会役員選出の演説を聞いたときのことだ。演説自体はたどたどしかったが東條の心を射抜くような透明感のある声はその場にいる全員を魅了したと言っても過言ではない。結果として東條は他の立候補者を圧倒的な票数で抑えて当選したのだからな。
「ごめんなさい。できるだけ早くやりますから」
・・・・だからその声音で東條に謝られるとなんかこっちが悪いことしたみたいに感じてしまうのはそのせいだ。
「それじゃ終わったら呼んでください」
僕はそれだけ言うと窓際の普段教員が授業の準備をする机にどっしりと腰を下ろす。廊下をうろちょろしているときは誰かに会うんじゃないかと不安だったが準備室の中に入ってしまえば窓は外側にしかないし、よほど光が漏れたりしなければ気がつかれることはないはずだ。
しかし、一体東條はここでなにをするつもりなんだろう?
高校二年間、一切の接点がなかった僕に昨日の昼休み東條が話しかけてきたときは心底ビックリした。そりゃそうだろうクラスだって一度も一緒になったことない話したこともない美少女に突然真夜中の学校に一緒に行ってほしいとか言われたら誰だって驚く。
まぁしかし結局僕が選ばれた理由ってのは僕が科学部の部長でこの理科準備室の鍵を持っているからってだけだ、それ以上もそれ以外もない。それなら副部長の日向みなみでも良かったんだろうがあいつもあれで一応女の子という性別に位置するからな流石に深夜に女の子二人ってのも危険ということで僕が着いていくことになったんだ。どっちかといえば貧弱眼鏡な僕よりも日向の方が東條を守れる気がするのだけどな。
そんなことを窓から覗く真ん丸な月を見ながら考えている間に
東條は鞄から取り出した分厚い本と睨めっこしながら色々と実験器具をテーブルに広げている。
ビーカー、三角フラスコ、乳鉢、アルコールランプ・・・・おいおいどんだけ大掛かりな実験だよ。
「東條、その本って黒魔術でも載ってるの?」
「ふぇ!な、なんでわかるんですか!?」
驚いた様子でなぜか本を閉じる東條に僕はため息混じりに言葉を返す。
「いやだって実験するのにわざわざ丑三つ時を選んでるからさ、その類いなんじゃないかなと勘で言ってみただけ」
「か、勘ですか・・・・。でも確かにこの本は黒魔術の本です、凄いですね葛西君は」
いやいやちょっと考えたらわかるだろ、と思ったがあえて突っ込まないでおく・・・・また謝られそうだしな。
「でもそんな古くさい黒魔術の本なんてどこで見つけてきたの?」
「これはあの、えっと葛西君は『猫の目書房』って古本屋さん知ってますか?」
「ああ、あそこってまだ営業しているんだ」
猫の目書房ってのは学校の帰り道にある小さな古本屋だ。建物自体が傾いていていつ崩壊してもおかしくないようなオンボロ古本屋で、中はどっから拾ってきたかわからない猫がうじゃうじゃいる猫屋敷だ。あまりのボロさに営業してないのかと思ってたんだがまだやってたんだな。
「年中無休ですよあそこのお店。あ、それで店内に猫がいっぱいいて皆可愛いんです」
「へぇ、そいつは凄いね」
「そうなんですよ?それで猫ちゃんの中に一匹がですね・・・・って、あ・・・・えっとごめんなさい、実験に集中します」
自分がはしゃぎ過ぎていることに気がついたのか東條は慌てた様子で実験を始める。なんというかまた謝られたな、東條は典型的な日本人のようだ。
「え、ええっとまずは干からびたイモリをすりつぶして・・・・」
黒魔術の本を片手に実験をしている東條を横目に僕は再び窓の外の月を見上げる。
まぁなんだっていい。そりゃどんな黒魔術の実験をやるのかだとか信憑性はあるのかだとか気になることは多々あるが僕にはあまり関係ないんだから。
「それでそれを焦がしたナツメグとピーマンの種と一緒に水に入れて煮込む・・・・」
そう呟きながら東條がアルコールランプに火をつけると部屋の中にはマッチの焦げる臭いとアルコールの臭いが混じり広がっていく。
・・・・なんだろう、やっぱり黙っているのは変なのか?
黒魔術の本を音読しながら実験をしている東條の様子はどこか
声をかけてくれるのを待っている、そんな風に感じられる。
「おいおい干からびたイモリとかよく手に入れたな!」とか「ピーマンの種入れるのかよ!」みたいなツッコミをすればいいのだろうか、いや・・・・そうゆうのは僕のイメージではない。
ただこの真夜中の理科準備室で二人っきり、黙っているというのはすごく居心地が悪かった。
ただなにを話せばいいんだ?僕は東條のことを知らないし「調子はどう」とかか?・・・・はぁ、まるで話が広がる気がしない。
僕もそうだが東條もそこまでお喋りという感じではないのだろう、お喋りが得意な奴だったら喋りすぎたことに謝ったりなんかしないし。
「あ、あの~葛西君、一つ聞いてもいいですか?」
結局、話しかける言葉をグダグダと考えていたら東條に先に話しかけられていた。
「僕に答えれる範囲のことならどうぞ」
なぜかはわからないけど東條の前だとつい棘のあるというかぶっきらぼうな言い方をしてしまうな。
「えっと、その・・・・ですね。葛西君はその好きな・・・・」
慎重に言葉を選ぼうとする東條の姿はなぜか愛の告白でもするかのように緊張しきっている。
その姿は長い髪が窓からの月明かりで淡く光り、幻想的で普段から美しい彼女をより美しく際立たせていて一瞬ドキッとした。
「か、葛西君はその好きな元素記号とかありますか!?」
「は・・・・?え、元素記号?」
あまりに意味不明の質問になんのことかわからなかった。なに元素記号ってあの水平リーベの元素記号?
「元素記号に特に好きなのとかないけどあえて言うならキセノンとか?言葉の響きが良いってだけだけど」
「そうなんだ、葛西君キセノンが好きなんだ」
なんか僕の言葉を噛み締めるように東條は聞き入っている。そんな別に好きって言うほどのことでもないんだけどな。
「そうゆう東條はなにが好きなんだ?」
「えっ、好きってなにがですか」
「なにって元素記号だよ」
「ああ、元素記号!元素記号ですね、ええっとそうですね・・・・酸素です!酸素がないと生きていけませんし!」
「そりゃそうだな」
一体なんなんだこの会話、もしかして僕が科学部の部長だからそんな元素記号の話をなんて持ちだしてきたのか?にしてはまぁ言っちゃ悪いけど話の広がらない話題だ。
「それじゃ私、実験続けますね」
「ああ、そうしてくれ」
結局それ以上話は広がることなく東條は実験を再開し、二人の間にはまた沈黙の時間が流れはじめる。
そんな沈黙の時間が破られたのはそれから二十分ほど経った頃だった。
「で、できました!」
ビーカーに入った真っ黒な液体を持って東條は嬉しそうに声をあげる。一体そのただゴミを煮詰めただけのようなものになんの効力があるかは知らないがそれでも完成したのなら僕はそれで良い。
「それで完成?」
「あ、そのできたっていうのはまだ第一段階が完成という意味で。それでこれから月の光を浴びせてそれからまた実験しないといけないんです」
そっけなく僕が聞くと東條は少し慌てた様子でそう訂正する。そして深々と頭を下げると
「あの、それで・・・・申し訳ないんですけど葛西君。明日も付き合ってもらえますか」
そんなことを言ってきた。
うん、まぁ実験が今日一日で終わるものと勝手に思っていたのは僕だ。とはいえここで投げ出すってのも最初の約束を破ることになるし断るのは失礼だと思う。
「・・・・わかった、明日も付き合うよ」
「ありがとう葛西君。それとこの事は他言無用でお願いします」
「ああ、わかってるよ。こっちも殺されたくないしな」
頼まれたって言うつもりはない。学校で人気の生徒会長が夜中に男と密会みたいな感じで噂が広まれば誰だって悪く取るし、なによりその男が僕だなんてのがわかったら彼女のファンになにされるかわかったもんじゃないしな。
しかしそう考えると僕は役得なのか?とも思うが残念ながら僕は東條に恋愛感情を持っていない、なかなか運命ってのは上手くいかないものだなぁとしみじみ思うのだった。




「ふあぁ、眠い」
翌日の昼休み。周りの生徒が楽しそうに雑談しながら昼食をとっている中、僕は一人今日何度目かと言う欠伸をする。
窓際の一番奥の席、そこが教室での僕の座席。昼休みはもっぱらそこでメロンパンをかじりながら無表情で官能小説を読むのが常なのだが昨日のこともあって食欲と性欲より睡眠欲の方が勝っている。
「にしても眠い、夜のこともあるしちょっと仮眠したほうがいいか」
そう呟くと共に僕は両手にメロンパンと官能小説を持ったまま頭だけ机に乗せる。太陽の光でほどよく暖まった木製の机は良い感じに眠りに誘ってくれる、このまま寝たら仮眠どころか放課後まで寝てしまいそうだけど今日はもうそれでもいいか、そう思って目を閉じた矢先だった。
「やっほ~一希、起きてる?」
明るい声と共に頭を引っ叩かれた、その勢いはたぶん本人は軽くのつもりなんだろうけどつい先程まで安眠を誘ってくれた机に思いっきり頬骨を押し付けられ激痛となって僕の眠気を吹き飛ばす。
「つぅ~~~っ、なにするんだよ!」
僕は視線を上げ叩いた張本人を睨み付ける。僕にこんな残虐非道なことをする人物は一人しかいない、僕と同じ科学部で副部長をやっている日向みなみだ。
「ったくなんだよ人が寝ようとしているところに」
「そかそか寝る前で良かった良かった」
「いや全然良くないし」
こっちが恨み節で答えてもあっけらかんとした様子の日向にこれ以上言っても無駄だなと思う。
日向みなみ、長い髪をポニーテールしているのが特徴的な女の子で明るく活発的というお前入る部活間違っているぞ系女子である。しかも科学部に入った動機が「なんか爆発させたい」とかいう危険な思想の持ち主で今までこいつによって破壊された試験管は数えきれないというとにかく危ない奴だ。とはいえぱっと見は可愛いし、面倒見がいいらしいので学校内では人気者らしい。こいつが副部長なのは二年生になってから入部したからであって一年生から入部してたら僕と日向のポジションは逆になっていたと思う。
まぁ東條の美しさをおだやかで気品のある月とすれば日向は明るく輝く太陽と言ったところか。
「それにしても相変わらずメロンパンに官能小説なのね、たまには違うものにしたらどっちも」
日向は僕から小説を取り上げるとペラペラとページをめくりながら呟く。
「ほっといてくれ、というか用がないなら自分の教室に帰れよ」
日向本人は気がついていないのだろうが日向が僕の所に来ると教室の恋人いない男子連中から向けられる嫉妬という名の負のオーラが非常に重苦しいのだ。
「用ならあるよ、生徒会長との真夜中の実験どうだったのかなぁって思って」
「あーあーあれね、ってなんでお前が知ってるんだよ!」
まさかの言葉に思わず大声を上げてしまい、教室にいるみんなの視線がこちらに集中する。
「なんでってそりゃ私が薦めたんだもの知っているに決まってるじゃん。それでどうだったの真夜中の実験」
日向の答えは随分とあっさりしていた、というか諸悪の根元はこいつか!なにを僕の了承もなしに薦めてくれるんだ。
「とりあえずその、真夜中の実験って言い方変に聞こえるから止めろ」
「えー事実じゃん」
「事実でもやめろって」
僕は周りを気にするように声を潜めてそう一言告げ
「どうって言われても実験のことは聞かれてもわかんないよ、僕は見てないし」
と更に先手を打っておいた。だが日向はそれ予想していたのか「でしょうね~」と言うとにやつきながら口元を手で押さえ
「や~っぱりそんなんじゃないかと思ってたんだよね。化学反応は起こらないかぁ~」
と勝手に納得してやがってた。というかなんだよ化学反応って
「てか実験について聞きたかったら東條本人に聞けよ、確か同じクラスだろ」
「残念だけど綾音は今度の文化祭の準備でそんな話しかけれる雰囲気じゃなぁいの。だから暇そうにメロンパンかじりながら官能小説読んでいる一希の方に来たんじゃない」
ふむ、言い方はあれだが確かに今生徒会を中心に文化祭の準備が日々忙しそうに行われている。当然生徒会長の東條はその中心人物でいつも夜遅くまで学校に残って準備をしているみたいだしそれに比べたら僕は暇と言っても良いだろう。しかしそんな忙しい時期なのに夜中に黒魔術の実験までするってのはもしかしたらあの実験って文化祭の出し物に関係していたりするのだろうか?
「実験内容は知らないけど今日も実験の続きやるみたいだからその時に聞いてみるよ、まぁ教えてくれるかはわからないけど」
僕の知っている知識と言えばそれくらいだ、だがその言葉に日向の表情はぱっと明るくなる。
「えっ、なに今日もやるの?」
「いやなんでも月の光を浴びせないとかいけないとかでな、昨日は第一段階とやらで終わったんだよ」
「へぇ~そうなんだじゃ今日もやるのね~」
僕の言葉になにやら意味ありげに日向は含み笑いをする。なんでもすぐにちょっかいをだす日向のことだ、なにかまた企んでいるんだろう。
「そうゆうわけだからもういいだろ、寝かせてくれ」
「あーそうそうもう一つ聞いとくことがあったんだ」
「まだあるのかよ・・・・」
正直さっさと切り上げて安眠を貪りたいところなんだがこと女子は話が長いから面倒だ。
「んで、聞きたいことってなに?」
「あ~んとね、一希って今好きな人いるの?」
「は?好きな人?」
日向から出た意外な言葉に少々困惑した。というかこれはなんだちょっとした嫌がらせか?
「そんなのいないよ、というか前にも言っただろ」
「あ~うん、知ってる知ってる。『学生の本分は勉強だ』でしょ、なにちょっとした定期検診みたいなものよ」
「なんだよ、それ」
「まぁ万が一、一希に好きな人ができたら私に相談しなさいよね。同じ部活のよしみで相談料五千円のところを三千円にしてあげるから」
腕に腰を当て胸を張り自信満々に日向は言うが万が一があっても相談することはないだろう・・・・と、いうか金をとるのかよ。
「そうゆうわけでそろそろ私は自分のクラスに戻るね~それじゃ深夜の実験お楽しみに~」
「だからその言い方止めろって」
僕がそう言うよりも早く日向は教室を出ていく。
まぁとりあえずこれで邪魔者はいなくなった、落ち着いて寝れる。そう思った瞬間、昼休みの終了を告げるチャイムが残酷にも鳴り響いたのだった。



「ちょっとウインドブレーカーじゃ寒いかな」
深夜二時、ちょっと早くマンションを出てまずそう思った。ちょっと前まで残暑だ残暑だ言ってたがそれも十月の半ばになってくると夜の冷え込みは結構くるものがある。
「まぁでもこれくらいの方が目が覚めるか」
結局あれから学校でも家でも僕が眠れることはなく、あまりの睡魔に寝てしまうと多分朝まで起きれないような気がして必死に目を見開いていたらこんな時間だった。
東條とは学校の近くのコンビニで待ち合わせということになっている。ここからおよそ10分ほどの距離だ、少し待ち合わせの時間に早いが家で眠りこけすっぽかしになるよりかはましだろうと僕は歩き出す。
しかし我ながらよくわからない事に付き合っているな、と思う。だいたい黒魔術なんてあるわけないじゃないか、そんな非現実的なもの。丑三つ時に実験だの月の光を浴びせるだのそれっぽくは言っているがそれになにか効果なんてないと僕はわかっている。だが世の女子は、と言うと語弊があるかもしれないが大抵オカルトじみたそんな話が好きだ。普段現実主義のように振る舞っていても朝の星座占いで一喜一憂している女子の姿をクラスでもよく見る。
僕はそうゆうオカルトが嫌いだ。科学とは違ってオカルトは支離滅裂、酸素と水素の化合物で水じゃなくて金がでてくるようなふざけた話ばかりで釈然としないのだ。
僕が東條につい口悪く話してしまうのはこれが原因なんじゃないかと思えてきた。優秀な生徒会長が訳のわからないオカルトにはまっている、その状況がうまく言葉にできないがなにか嫌なんだ。
そんなことを考えている間に目の前に待ち合わせのコンビニが見えてくる。
「あれ東條もう来てたのか」
コンビニの外灯の下に東條の姿が見えた。東條は長袖の白いワイシャツに紺のフレアスカート、そしてボルドー色のストールを羽織りメロンパンを丁寧に指先でつまみながら食べている。
「ずいぶん早くからいるんだな東條」
「あっ、えっ葛西君!?」
僕が声をかけると東條はライオンに気づいたシマウマのような俊敏さで慌ててパンを鞄にしまいこむとこちらに駆け寄ってくる。
「あれまだ待ち合わせの時間じゃないです・・・・よね」
「家にずっといたら寝ちゃいそうだったんでね。そうゆう東條はなんでこんな早くに?」
「私も同じです。家にいたらついうとうとしちゃってきたんで早めに家を出てきました」
まぁそうだよな、午後の授業もうろ覚えな僕なんかよりも東條は生徒会長として授業も文化祭の準備もきっちりやってきたんだ、疲れ具合なら僕なんかよりもずっと疲れているだろう。
「それじゃちょっと早いけど行こうか。流石に今日で実験は終わりだろ?」
「あっ、はい順調に行けば今日で終わります。ごめんなさい
今日も付きあわせてしまって」
「それはいいよ、僕だって約束した以上最後まで付き合うさ」
さっそくまた東條の「ごめんなさい」が出たなぁと思いつつ歩き出す。なんだったら東條が何回「ごめんなさい」って言うか数えてやろうか。
「あーそういえばさ、東條」
ここから学校までは十分ほどだがこんな夜中に二人で歩いているのに黙ったままってのも変だと思い今度は僕から話しかけた。
「あっはい、なんですか葛西君?」
「東條ってメロンパン好きなの?」
「えっあっあれは・・・・文化祭の準備でお昼食べれなかったからってだけでえっと、その・・・・」
他愛のない話題、さっきコンビニ前で東條が食べていたのを見たからってだけで深い意味は無いつもりだったんだけど何故か
東條は異常なまでの挙動不審な様子で答える。
「め、メロンパンは最初はそこまで好きじゃなかったんですけど気がついたら好きになってました。ごめんなさいなんか変な答えで」
「ふぅん、そうなんだ」
気がついたら好きになる、とはまた確かによくわからない答えだと思う。そしてごめんなさいが二回目っと。
「葛西君は何のパンが好きですか?」
「なにゆえパン限定・・・・ってはいいとしてそうだなぁ、パンで言えば焼きそばパンかな」
「えっそうなんですか?」
僕の言葉に東條は何故か意外そうな顔で驚く。その様子はなにか予想と違うというかそんな風に見える。
購買部の焼きそばパンと言えば学校でも大人気のパンだ、ただ美味いかといえば実のところそこまで美味い物ではない。
実際一度日向に一口もらったことがあるがパンはパサパサで肝心の焼きそばは冷たくソースもまばらだった、けれども学生に人気なのは入手が困難なことが理由で『購買部の焼きそばパンはかなり美味しいらしい』という噂だけが一人歩きしているのだ。
正直焼きそばパンは好きだけど購買部で買うくらいなら僕は駅前のパン屋の方が美味いと思う。
「ああ、でも学校の購買では買わないな。焼きそばパンは人気だからさ購買で取り合いになるだろ?」
「そうですね、確かに生徒会の意見箱にも『焼きそばパンの量を増やしてくれ』ってのはよくきます」
「そう考えると日向は凄いな、見るときはいつも焼きそばパンだからな」
「みなみちゃんは確かに凄いです!どんな時でも必ず焼きそばパンを手に入れてきますから」
東條が楽しそうに語る。なんていうか初めて東條と会話していて話が広がった気がする・・・・焼きそばパンというよくわからない話でだけど。
「そういえば日向と仲良いんだっけ?」
「はい、みなみちゃんとは最近よくお話ししますよ。みなみちゃんっていつも明るくてお話も上手で私、すごく憧れます」
「まぁ明るいのは結構だけどあいつはちょっと落ち着いた方がいいかもな」

そんな取り留めのない会話をしているうちに視界に我らが学舎が見えてくる。薄暗い月の光にぼんやりと照らされた無機質なコンクリートの校舎が冷たくこちらを見下ろしていた。
夜の学校が怖いのは当然暗いからってのもあるが昼間あれだけ沢山いる人間がまるっきりいなくなっているそこに恐怖を感じるんじゃないかと思う。
「東條、足元気を付けて」
「は、はい」
東條に注意を促して僕はウインドブレーカーのポケットから懐中電灯を取り出す。
実のところ校舎への侵入は用務員のおじさんに見つかりさえしなければそんなに難しいことではない。金網のフェンスにはかなり前から破れてあるところがあって簡単に校庭に入ることができるし、理科準備室がある別棟は僕が入学したときから鍵が壊れていて直す気配もない。杜撰な管理だと学校運営者に文句も言いたいところだが今この時ばかりは助かったというべきか。
僕一人でならフェンスをよじ登るくらいはできるが東條も一緒となると難しいし、不法侵入している身で言うのもおかしな話だが鍵を壊したりする行為はどうも気が引ける。
「よし、誰もいないな」
周りと東條の動きに気を払いながらフェンスを潜り別棟へ歩を進めていく。手に持った懐中電灯はまだつけない、つけなくても月明かりである程度進むことはできるしつけたらそれはこちらの存在を目立たせてしまうからだ。実際使うのは校舎の中に入ってから、鍵を開けるときと中で東條が実験するときくらいになるだろう。
「ここが鍵は壊れたままなのは本当幸運としかいいようがないな」
金属製の扉は至るところが錆び付いていて手で押すとギィと鈍い音が辺りに響く。校舎の中は外よりずっと冷え込んでいて思わず僕は身震いをする。
「しかし今回もすんなりいけたな」
「そうですね」
僕は懐中電灯の電源を入れ理科準備室の鍵穴を照らすと鍵を開ける、ここまでくれば僕の仕事はひとまず終わりだ。
「お互い眠いしさ、さっさと終わらせよう」
「は、はい。できるだけ早く終われるよう頑張ります」
東條は少し上ずった声で答えると鞄から例の黒魔術の本を取りだし実験の続きを言葉にする。
「次は、『月の光を一晩浴びせた溶液に胡桃の殻を砕いていれる』と書いてあります」
「これだな」
僕は昨日窓際に東條が置いたビーカーを手にとる。昨日見たときは真っ黒な液体だったが今は黒い炭のようなものが沈下して
いる。なんていうか到底これが月の光でどうにかなっているような気はしない。
「ほら東條」
「ありがとうございます葛西君」
東條にビーカーを渡すと僕は前と同じようにテーブルの上に腰かける。けど今日は月は見上げずに東條の実験を見守ろうと思う、見てないとなんていうかまた日向に何を言われるかわかったものじゃないからな。
「えっとそれで胡桃の殻を入れたら次は茄子のヘタを入れて・・・・」
予習をしてきたのか僕が「早く終わらせよう」なんて言ったせいかはわからないけど昨日とは打って変わり東條の手際は良い感じだ。実験の行程が後どれくらいあるかは知らないけどこれなら実験もすぐに終わるだろう、そう思っていた。
「これがアーモンドの匂いがした、ら・・・・・・・・うっ!」
東條がビーカーに顔を近づけ、身体がぐらりと傾くのを見るまでは。
「東條!?」
僕は駆け寄り東條の身体を右腕で支え左手で地面に落ちそうになったビーカーをなんとかキャッチする。
「危なかった・・・・」
我ながら見事な動きだったと思う。しかし東條がビーカーの匂いを直接嗅ぐなんて行動に出るなんて予想外だ。理科の実験で習ってないのか匂いを嗅ぐときは手で扇いでってさ。
「しかもアーモンド臭って大丈夫なのかこれ」
青酸カリなんかが胃酸と混じるとアーモンド臭がするとかしないとかそんな話を推理小説で読んだことがある。初日の実験をちゃんと見てなかったのでこのビーカーに何が入っているかはわからないが本当なにを作ろうとしているんだ東條は。
「いや、今はそんなこと考えている場合ではないか」
僕は手に持ったビーカーをテーブルの上に置いて体勢を立て直そうと一歩踏み込む。
・・・・けどそれがいけなかった。いや最もいけないのはこの僕が華奢な東條の身体を片手で支えれない貧弱さにあるのだが
「えっ?」
踏み込んだ足の感覚は固い床ではなかった。なにかグチャという湿った土を踏みしめたそんな感じ。そこに思いっきり力をかけたせいでズルりと足が滑りあっという間に僕の視界は真っ暗な天井へと大回転した。
「いってぇ・・・・誰だよあんなところに雑巾なんて置いたのは」
思わずボヤいた。鈍い音が部屋に響き、鈍い痛みが全身を駆け巡る。
それだけならまだ良かった、だけど悪い事ってのはどうやら連鎖反応で起こるものらしい。
「ん?なにか今、音がしたような」
廊下の方から僕でも東條でもない別の人間の声がしたのだ。
恐らく用務員のおじさんだろう、廊下を歩く音がこちらに近づいている音が聞こえる。
「まずいな・・・・東條、起きろって」
「うっ、うんん・・・・」
こんなところに東條と二人でいるなんてのがバレたらまずい。
そんなことは最初からわかっていたことなのだがいざ直面してみると言われもない不安感が込み上げてくる。
「とりあえずここにいるのはまずい」
僕はすぐさま懐中電灯を消すと意識が朦朧としている東條を抱いたまま引きずるようにして机の下へと潜り込む。
「はぁ一体僕はなにやってんだろう」
今更ながらにそう思う。なぜに深夜の理科準備室の机の下で東條を抱いて用務員のおじさんの様子を伺うなんてことになっているのか。
「んっ・・・・んぁ、あ、あれ?葛西君、えっとあれ?」
「東條気がついたか。身体、大丈夫?」
「あっ、はい・・・・身体は大丈夫ですけど、そのごめんなさい」
「ごめんなさいって・・・・あっ!」
東條が恥ずかしそうに顔を背けて初めて僕は自分の愚行に気がつかされた。
「いや、これはあの今用務員さんがここを通って、だから」
「はい、えっと・・・・わ、わかってます。私は大丈夫ですから」
か細い声で東條は言うがどうみても大丈夫ではなかった。咄嗟のことで気がつかなかったが僕と東條の身体は密着状態でさっきから東條の柔らかい胸や太股が思いっきり当たっている。
隠れたときは全然気にならなかったのに一度意識してしまうと
その感触に動揺は隠せない。
「もう行ったか・・・・?」
正直用務員のおじさんの足音なんてわからなくなっていた。もう行ってしまったのか、まだ来てないのかそれとも立ち止まっているかもしれない。
「もう少しだけ、待った方がいいと思います」
「そうかもな、戻ってくるかもしれないし」
ぎこちなく会話を交わしお互い顔を背ける。
暗闇の中を時計が秒針を刻む音と蛇口から時折落ちる水滴の音だけが支配してした。


それからどれくらい経っただろうか、僕と東條はどっちからというわけでもなく自然と身体を離した。
五分、いや三分・・・・もしかしたらもっと短いかもしれない、けど僕にとってはすごく長い時間経った気分だった。
「葛西君、ごめんなさい」
「見つからなかったんだからいいさ、というかこっちこそごめん」
机の下で二人謝りあう。もう東條の身体は離れてお互い端と端に座っていると言うのにまだ彼女の匂いと温もりが残っていてまともに顔を見ることができなかった。
「私、また葛西君に助けられちゃいましたね」
「助けたとかあんまり気にしないで・・・・」
そこまで言いかけて東條の言葉に違和感を覚えた。聞き間違えじゃなければ「また葛西君に助けられた」そう言ったはず。
「あの時のこと私今でも覚えてます。理科の実験で私が今日みたいなことして倒れちゃったときに葛西君に助けら・・・・」
「いや、ちょっと待って東條」
思わず東條の語りを遮ってしまった。感慨深く話す東條には悪いけど僕にはそんな記憶がないのだ。
「どうかしました?」
不思議そうにこちらを見る東條の姿を横目で見てみるもその顔を見てもやはり僕にはなにも思い浮かばない。東條とは高校に入って昨日までなんの接点もなかったはずだ。
「ごめん、東條が言っていることの記憶がないんだけど」
東條が勘違いしているのか、それとも僕がド忘れしているのか
いやでもそこら辺に転がっているような石みたいな人間ならともかく光輝く宝石のような美貌の東條と会っていてなんにも覚えてないのもおかしな話だ。
「あっ、ごめんなさい。こんなこと覚えているの私だけですよね、中学校の時の話ですから」
「中学の時?」
高校ではなく中学の時と言われたところでますますわからなくなった。協調性はない僕だけど何度も言うが東條みたいな子がいれば多少は覚えているはずなのにさっぱりなにも思い浮かばない。
「もしかしたらこうすればわかるかもしれないです」
僕の表情から察したのか東條は肩からずり落ちたストールを直すとグッと身体を近づける。
「東條?」
「葛西君ちょっと眼鏡、借りますね」
「お、おい!」
僕の制止を無視して東條は眼鏡を取り上げると再び距離を離す。
「これでわかると、思うんですけど」
東條は僕の眼鏡を掛け長い髪を両手で分けておさげのようにして見せる。
「あっ・・・・もしかして」
東條のその姿を見て一気に記憶が引き戻された。昔見た姿とは少し違うがそれでも僕の記憶を引っ張り出すにはその姿は充分なほど似ていたのだ。
「東條ドジ音か!」
「ううっ、久しぶりにそのあだ名で呼ばれた気がします」
正解なんだろうが東條はガックリと肩を下ろした。むしろ今までなんで思い出せなかったんだろうと思ったが今の東條と中学時代の東條じゃ見た目が変わりすぎていたのだ。よく夏休み前までは黒髪ロングの清純派で通ってた子が夏休み明けに茶髪の髪飾りごちゃごちゃとしたギャルに変わってしまうという話はあるがそんなものの非じゃないくらいに東條は変わっていた。
中学時代の東條は黒縁眼鏡に髪を二つ結びにしてボソボソと小さな声で喋るそんな女の子だった。見た目からして頭の良さそうな文学少女の基本型をしているくせに勉強ダメ、運動ダメでなにかをやらせるとまずドジを踏むのでクラスでは東條綾音じゃなくて『東條ドジ音』なんてあだ名をつけられていた。
「あっ眼鏡、返します」
「ああ、しかし随分と変わったな東條」
東條から眼鏡を返してもらい改めて東條の姿を見るがやっぱり昔とは全然違う人に見える。
「変わってなんていませんよ。この前の部活の予算編成のときも0を三つもつけ間違って文芸部の予算を五億円にしちゃいましたし」
「三つって・・・・なるほどドジなところは変わってないのな」
僕は呆れたように言葉を吐く。
おもえば中学時代僕と東條は三年間同じクラスで更にずっと席が隣同士だった。そのせいで僕はなにかとドジを踏む東條の面倒を見せられていたんだが多分先生もクラスのみんなも「葛西に面倒見させればいい」なんて感覚でクラスを一緒にしたり席を隣同士にしてたんだと邪推するほどだ。
「それで今やってる実験ってなにやってるのさ」
「えっ、あのそれは・・・・」
「手伝うよ、東條一人でやらせたらなにやるかわからないからな」
僕は机の下から這い出るとそう提案を持ちかける。
黒魔術の実験なんて最初から興味なかったがやっているのがドジ音なら話は別だ。あの東條に一人で実験をさせてたなんて今おもえばさっきのことぐらいで済んだのが奇跡的といっても言い。
東條がさっき言いかけていたけど理科の実験で薬品の匂いを直接嗅いでぶっ倒れるなんてのは日常茶飯事でその度に僕が保健室まで連れていっていた。それだけじゃないアルコールランプを触らせたら思いっきり倒して机の上を大炎上にし、触るなって言われたのに化学反応して熱くなった硫化鉄を触って火傷する、ぶっちゃけ日向なんかよりも遥かに危険な人物なのだ。
「ええっと懐中電灯は・・・・あった」
「いやあのちょっと葛西君、待って」
なにやら挙動不審な様子の東條を放っておいて懐中電灯のスイッチを入れ机に開きっぱなしの黒魔術の本を照らす。
「なになに・・・・・・・・ぷっ、はははっ」
黒魔術の一文を見て思わず僕は吹き出して笑ってしまった。そこには黒魔術の本には似つかわないPOP体で『これで意中の人とラブラブに♪惚れ薬の作り方だよ♪』なんて書かれている。荘厳そうな装丁からは想像できないその軽いノリのギャップに笑いを押さえることができなかったのだ。
「わ、笑わないでくださいよ・・・・これでも本気なんですから」
少し不貞腐れるように言う東條に少し悪かったかなと反省する。まぁこんな実験でもわざわざ夜中の学校に忍び込んでまでやるってことから東條が本気なのはよくわかる。
「いや悪い、でも東條ならこんな惚れ薬なんて必要ないだろ」
「そんなことないです、私なんて全然可愛くないしドジだし」
おいおいドジなのはともかく今の東條が可愛くなかったら他の女子はどうなるんだよと、なまじ東條が言うと嫌みにしか聞こえないぞそれ。
「まぁでも東條が作りたいって言うんだから手伝うよ、そっちの方が早いだろうし」
「ありがとうございます。それで葛西君はこの惚れ薬、効果あると思いますか?」
「えっ、ああ・・・・そうだなぁ」
真っ直ぐとこちらを見つめて言う東條から視線を外し僕は考える振りをする。効果があるかないかで言えばまぁ十中八九効果なんてないだろう。この本の感じからしてもオカルト好きの女子が好きそうなおまじない集といった感じで信用に足るものはない、そもそもそんな惚れ薬なんてのが存在するとも思ってない、だけどそう言うわけにもいかない。
「東條が一気持ちをこめて生懸命作れば効果もちゃんとでるさ」
「本当ですか!?私、頑張ります!」
そう言って笑う東條の顔を見るとどうにも言葉では言えないなんとも微妙な気持ちになる。あえて近い感情で言うなれば『年頃の娘が彼氏のことを楽しそうに話しているのを見ている父親の感情』みたいな感じだろうか。
「・・・・それで東條の好きな人ってどんなやつ?」
そんな感情が災いしたのかつい、変なことを口走っていた。
「う~ん、そうですねぇ」
『誰』と聞かなかったせいもあるが東條もスルーしてくれればいいのに変なところ真面目なのか一生懸命言葉を捻り出そうとしている。
「ちょっと変わった人、かな。でもドジばっかりする私をいつも助けてくれるんです」
「ふぅん、変わった奴もいるんだな」
「最初は恋だなんて思ってなかったんですけど、ふと気がつくと私その人の事ばっかり考えているんです。ドジとかしちゃってももしかしたらその人が助けてくれるかもなんてこと考えちゃってえっと、その・・・・」
「ああ、うん。わかった充分わかったよ東條」
頬を赤く染め喋る東條。これ以上聞いてたらなにかこっちまで恥ずかしい気持ちになってきて思わず僕は話を止めた。
「東條はよっぽどそいつの事が好きなんだな」
「は、はい・・・・好き、うん大好き、です」
あの大人しい東條がこうもはっきりと気持ちを言葉にするのを見て僕は確信する。恋をしているってのはこうゆうことなんだろう、些細なことで一喜一憂し些細な可能性にも縋りたくなる。
そんな東條を見たらさっきまで僕が抱えていた感情はあまりにも馬鹿げていてどうでもよくなっていた。
「まぁそれじゃ始めるか、ドジ音」
「ううっ、だからその呼び方はやめてください」
口を尖らせる東條をあしらいながら僕は思う。
恋する乙女のためなら効果がない惚れ薬でも、作ってやろうじゃないか。
彼女にはそれが切っ掛けであり小さな希望なのだから。



「んでんでどうだったの生徒会長と深夜の・・・・アレは」
次の日の昼休み、二日続けての徹夜に今度こそ安眠を貪ろうとした僕をなんというか案の定日向みなみが襲撃した。
「あのなぁ、その意味深に後半端折ると余計変に聞こえるから止めろって」
「いいじゃん、いいじゃん。それでどうだったの?」
日向は僕の前の席に陣取るとグイグイと顔を近づけてくる。
「どうって僕が手伝ったんだ、無事に完成するに決まってるだろ」
実験は滞りなく成功し、惚れ薬はできあがった。だが作ったアレを飲む奴にはご愁傷さまと言いたい。なにせまともに人間が口にするようなものではない物が出来上がったからだ。シヤープペンシルの芯やら消ゴムのカスやら入れ出したときには「飲んだ人を腹痛にさせてそれを介護することで惚れさせるってことなのか」と勘違いするくらいのがね。
「んぁ~そっちのことじゃないんだけど良い感じに化学反応したみたいで良かった良かった」
「また意味のわからないこと言うな」
日向の言う化学反応ってのは比喩的表現なんだろうがいまいち良くわからない。
「まぁ一希はこれからきっと私に頼ることになるからね、今の内にポイント稼いだ方がいいよ~」
そんな僕の様子を楽しんでいるかのように日向は小首を傾げて微笑んでいる。
「なぁんで僕が日向に頼ることになるんだよ」
「ほら私みたいなのが他の女の子の好感度とか誰に爆弾がついているかとかわかるポジションでしょ?そうゆうところ把握してないと『一緒に帰って、友達に噂されると恥ずかしいし』とか言われちゃうよ」
「寝ぼけて頭が回ってないせいかもしれないけど日向が何言っているか僕にはさっぱりわからないな。というかもういいだろ寝かせてくれよ」
僕は日向のよくわからない話を早々に切り上げ突っ伏すように
して目を閉じる。
「あれれ?いいのかな寝ちゃって綾音から渡しといてって言われたものあるんだけどなぁ~」
「ああもう、なんだよ」
うっすらと目を開けると日向は一つの小さな鍵を見せる。
「鍵?」
「駅前にコインロッカーあるでしょ、なんでもそこに二日間付き合ってくれたお礼が入ってるんだって。綾音文化祭の準備で忙しくて直接渡せないから私が直々に持ってきてあげたの」
「ふぅん・・・・」
僕は日向から鍵を受けとる。まぁ別にお礼なんて期待してなかったんだが貰えると言うのなら貰っておいて損はないだろう。
「あっ今、一希嬉しそうな顔したでしょ~」
「別にしてないし、というかもう寝たいんで話はいいだろ」
「うんまぁ話はいいよ。でも寝れないと思うけど」
「は?なんで・・・・」
そこまで言いかけたところで残酷にも昼休み終了のチャイムが教室に鳴り響いた。それと同時に日向は席を立つとポンと僕の肩を叩くとニッコリと微笑み
「それじゃ授業頑張ってね~」
と短いスカートを翻し教室を軽いステップで出ていく。
「く、今日もかよ・・・・」
僕はその後ろ姿を見ながらガックリと項垂れるしかなかった。




駅前は夕日に照らされ一面橙色に染まっていた。
各々の家路へと急ぐ会社員や学生の姿を僕はぼんやり眺めながら一人歩いていく。
「しかしなんでついてきてるんだろう?」
眠い目を擦りながらポツリと呟く。よくわからないが学校を出てから僕は二人の女子高生に尾行されている。なんというか、ずいぶんと見覚えのある二人だ。
一人は日向みなみ、もう一人は東條綾音だ。なんのつもりかは知らないが僕の後ろ数メートルの位置をコソコソとついて来ているのだが、あれで本人達は気づかれてないとでも思っているんだろうか?ちょっと後ろを振り向くと慌てて物陰に隠れるので逆にその姿は目立っていた。
「東條も文化祭の準備で忙しいんじゃなかったのか?」
昼休みに日向に渡された鍵を指に掛け回しながら考えるがなんであの二人が僕を尾行しているのかさっぱり理解できない。
東條だってそんなことしているくらいなら駅前のコインロッカーまでお礼を置いとかなくても直接渡せば良いと思うし日向も普段は遠慮なしに話しかけてくるくせにああも距離をとられると正直こっちからも話しかけにくい。
結局そんなこんなでタイミングを逃したまま気がついたら僕は駅前のコインロッカーにたどり着いていた。
「さてはて一体に何が入っているんだか」
二人して遠くから様子を見ていることからもきっとロッカーの中身を見た僕の反応を確かめようとでもしているんだろう、ご苦労なことだ。なにが出てこようがそんな東條や日向が期待するような展開にはならないと思う・・・・とそのときは思っていた。
「あ、あの!葛西君!」
「うわっ!」
いきなり背後から声をかけられる、それはロッカーに鍵を差し回そうとする瞬間の事だ。
「な、なんだ東條かおどかすなよ」
差した鍵はそのまま首だけで振り向くといつのまにかすぐ後ろに東條の姿があった。
だが様子がおかしい、夕日に照らされた東條の頬だけがより赤みを増しているように見える。
そして少し離れた所から日向が「頑張れ~」なんて叫んでいる。
日向の応援を受けて東條は小さく頷くとなにかを決意したようにじっと僕を見つめている。
これは、なにが、起ころうとしているのですか?
「あの、私・・・・その葛西君の事が───」
「えっ!?」
東條の声ははっきりと聞こえた、聞こえたけど一瞬理解ができずに固まってしまった。ただ鍵を持っていた手だけがゆっくりと回転し・・・・がちり、と音を立て錠は開いた

はい、MC投稿分でございます


えーーーっと今回はとくに悪いところはなし

前回からの改善点、よくやった点としては

・ヒロインがなぜ主人公が好きなのかを明確にした


ってところですね、というかそれしかないですね

んがしかし!!!!一つ問題があるとすれば!!!!




東條より日向のほうが好きなんじゃ私は!!!!



ちなみに今回は名前 東西南北縛りです、この縛り前にやったね
中二病の奴の時に、あははーでも北だけ結局でなかった・・・・でなかったというか元よりそんなやつはいないのだが

あ、あと東條は夜にしかでないし日向は昼間にしか出ません・・・・一緒に出るのは最後の夕方だけっていうのを入れたんだけど気が付かないわな
途中で気がついてこれいいじゃん!と思ったんだけどね~日向には昼っぽい文字入ってるんでいいけど東條は
もう綾音がしっくりきすぎて夜の文字入れれなかったよ・・・


オチは自分でも弱いと思いまーす!

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無題
> 「えっと、その・・・・ですね。葛西君はその好きな・・・・」
> 慎重に言葉を選ぼうとする東條の姿はなぜか愛の告白でもするかのように緊張しきっている。
「愛の告白でもするかのように」は無い方がいいと思いました……
セリフだけで伝わるんじゃないかな

全体的にすごいスッキリしてる
明快な筋をここまで広げるのは僕には無理だ
(書いてないから全方位死んでるが)

オチも悪くはないと思う。
序盤は「どうせ葛西君と東條さんが結ばれて終わりだろうな」と思いつつも、
魔法が、材料的にまさか飲み薬だと思わなかったから、
「願いをかける粘土人形でも作るのか??」とかショボイ予想してた……orz
「いや、これ絶対飲めないだろ! どうやって終わるんだ! 葛西君が逃げ出すエンドか?」
と思いながら読み、飲まされる寸前で終わったから、ラストは勝手に白熱してました。

あとMC見て思ったのが、あのお題から「がちり、と音を立て錠は開いた。」だけ選んで二回使うって発想が面白い
水曜日 2012/12/08(Sat)00:52:24 編集
無題
おーなるほど、そこは意外な盲点だったわ
キヲツケマス

実は東條とくっつくと思わせて日向が本命でしたー!なのもいいかとも思ったんだけどさすがにそれは止めました


そして・・・・さすがわかってるな!本当今回のお題は使おうとするとどうもバットエンドになりそうなのばっかりで悩んだ挙句「最初と最後同じお題使うのってどうよ?」って思ったのよね
最初はループ物でも書こうかと思ったんだけどね

惚れ薬ネタはセルリアンの一番最初の以来だね
どうも私の中で「クスリで人の心操ってどうするよ」ってのがあるんだけど今回はそんな深いことを考えずに済んだのが幸いです


てか書けよ!書かないでどうするよ!
氷桜夕雅 2012/12/08(Sat)01:03:33 編集
プロフィール
HN:
氷桜夕雅
性別:
非公開
職業:
昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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