日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。
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幻=クレイド
気だるい朝だ、いつのまにか寝る前カーテンを閉めた窓から日光が入ってきている。
その光がジャストの位置で俺の顔に当たっているし、ったく誰が開けたんだよ
嫌な目覚めだ、体の機能が回復しきらない寝起きというのはいつもこうだ
だがその日光はあの悪夢からの助けだと思えば感謝することのなのかもしれねぇな
またあの夢だ…
俺は髪を掻き揚げると部屋の奥の古時計を見る、六時…少し早く起きたか
「っ、やれやれだぜ」
ゆっくりと起き上がるが何故か体が妙に重い、案の定腕に金髪の女がくっ付いてや
がった、しかも気持ちよさそうに人の腕を抱き枕にしてる
ったく、こいつまた人のベッドに潜り込んでるのかよ!
いい歳して男の寝室に勝手に潜り込むなんてどうゆう神経してるんだか…
「おいシーラ!寝るなら自分の所へいけよ!」
体を揺すってみる、この程度で起きるほどの奴じゃないのはわかっているが一応な
まぁ当然の如く起きるわけないんだが…
それにしてもシーラの奴、俺を誘惑でもしてるのか?
いやってほど胸を腕に押し付けているわ、着衣は乱れて白い肩があらわになっているわで
んーこりゃクリスの奴ならくらっときてもおかしくないな
ま、俺に色仕掛けなんて無駄なんだけど
纏わりつく腕をほどいて端にかけてある黒皮のジャケットをはおる、後は符術を入れた対暴発用ポーチと愛剣のディレントセイバーを腰につけて俺の準備は完成だ
乱暴に髪を掻きながらギィギィと軋む階段を降りる、もう何十年も前に造られた教会はあちこ
ちガタがきている一階は一応解放されている大聖堂になっていて、そしてそこから上手側の二
階に俺達の部屋があり下手側の二階がキッチンや風呂になる。
そういえば雨漏りがどうとかシーラの奴が言ってたな
昔はこの教会、シーラの母親が戦争孤児を何人も養っていたらしい…
その名残か階段のあちこちにはクレヨンだったり鉛筆だったりで落書きがされている
実際俺の記憶にも孤児の奴等の記憶はある、仲の良かった奴の記憶もある。
だがそれはすべて造られた記憶だ、あいつがシーラの奴が俺を幼馴染だと思ってるのと一
緒でな
そしてもうそんな孤児たちも落書きに描かれた希望に満ちた未来を見ることなく姿を消し
た
「これはこれは、おはようございます。もしかしてここに住んでいるお方ですか?」
階段を降りた先、つまりは大聖堂には珍しく人がいた。大聖堂は二階である俺達の部屋と
違って開放したままなんで別に人が入ってきてもおかしくはないんだが教会といってもこ
んな辺境のボロ教会に人が来るのは珍しい、しかも服装からいってそれ系の偉い奴のよう
のようで豪華な装飾が施され小奇麗な格好、ご丁寧に胸元には十字架とセドナ教の紋章が
ぶら下がっている。
セドナ教ってのはこのウイングガルド大陸でもかなり普及している宗教の一つだ
「そうだがあんまり気にしないでお祈りでも続けてくれ」
「お祈りなら既に終わりました、すいません勝手に入ってしまって」
そう言うとお偉いさんは深々とお辞儀する
「別にここは完全解放してるから勝手に入ろうがかまわねぇよ」
「そうでしたか、それにしてもここはいい雰囲気の教会ですね」
いい雰囲気?こんなボロ教会が?これだから宗教家ってのはわかんねえ
「実に美しい造形物だとおもいませんか?」
「そ、そうか?」
「この壁から覗き込む光が斜線状に内部を照らしている、まるでセドナの女神が地上に舞
い降りられたときのような情景じゃないですか」
感極まったのかお偉い兄ちゃんは両手を高々と広げセドナの女神とやらを妄想してやがる
確かにさぁボロボロになった壁のあちらこちらから光は漏れているが…
ま、まずい…話についていけねぇな
こいつ明らかに自分の世界に入ってるぜ、こうゆう相手は適当にあしらって帰ってもらう
か
「んーあーそれじゃ俺はこれで失礼するぜ」
「あ、ちょっと待ってください!」
っ!ぼーっとしてるうちに横を素通りしようと思ったらあっさり気がつきやがった
「んだよ?」
面倒くさそうに振り返ったらなんか目をキラキラさせてやがる、なんかさっきと感じが違
うのはなんだ、さっきまで落ち着いた感じの妄想宗教家って感じだったのが今はまるでヒ
-ローを見るガキの眼差しだ
「今気がついたんですがもしかして幻=クレイドさんじゃないですか!?」
「ん、ああそうだが」
それを聞いたお偉い兄さんは喚起の声をあげる
なんでこのお偉い兄さんが俺の名前を知ってるんだ?バウンサーの仕事の依頼じゃこんな
顔見たことねぇし…
「やっぱりそうでしたかっ!!」
お偉い兄さんは突然俺の手を握る、思わず体が引いたぜ
「な、なんだよあんた!何で俺のことを知ってる?」
「そりゃもう異常事態の4563回大会といったらもー感動の嵐ですよ!」
4563回大会?なんだっけそれ…趣味でやってるカードゲームの大会だっけ?
いやいくらなんでも4563回もやってないしあれは身内だけの大会だからな
「なんの大会だったっけか」
「ハームステイン大闘技会4563回!!幻さんの活躍はもう予選大会から見てました
よ!まさに疾風の狩人ここにありってかんじで!」
つばを飛ばしながら熱く語るなって…
ああ、確かにあったなそんな大会。その観客だったわけか宗教家なんてこんなもの見ない
のかと思ったら案外そうでもないらしい
クリスとの対決の場であり、そして真実を知った忌まわしき場所だ
詳しい話?詳しい話はパスだ、気軽に話せるようなネタじゃねぇんだよ
「準々決勝での前回優勝者オルディ=ハウランドとのタッグ!!あれは最高でした!!」
こいつ苦手だ、もうなんか熱くなると人の事かまわず喋り捲ってくる
いいのかよセドナの女神はー!
「そうだ!幻さん、サインもらえますかサイン!」
答える前に豪華そうな鞄から色紙とペンを取り出し差し出してくる、断る権利なしか
しかしなんで宗教家がサイン色紙なんて常備してるんだ…
まぁ俺のファンって言うんだから悪い気はしないが、いやこいつとはあんまり関わりあい
になりたくねぇな、とりあえずサイン書けば帰ってくれるだろう
「ったく、しょうがねぇな」
とりあえず色紙とペンを受け取る。だがいざ真っ白い色紙を目の前にするとなにを書け
ばいいのか悩むな
「あ!ちゃんと『イグジットへ』って書いてくださいね」
受け取ったままぼーっとしていたせいか指示が飛んでくる
俺はそれを聞いてなんとなくでペンを走らせる、サインっていうと崩し字みたいもんだ
ろ?正直『幻=クレイド』なんて書いたつもりはない、ただサインを書いてる雰囲気を
演出しただけだ。
とりあえず自分でもよくわからない絵なのか文字なのか蛇が張ったような物を書き手渡す
気にしないだろ、俺の書いた文字なんかに。どっちかというと俺が書いたという行為自体
に意味があるはずだ、きっとそうだぜ
まぁどうやって書けばいいかわからなかった言い訳なんだがな
「ほらよ、これでいいか?」
「うわぁ!ありがとうございます!!」
まるで欲しかった玩具を買ってもらったガキみたいに喜んでやがる。こんなに喜んでるな
ら書いたほうとしても悪くはないな、まぁ適当に書いたんだがな
「んじゃまぁ、俺ちょっと散歩してくるわ」
「あ、はい!すいません時間を取らせてもらって。いやぁ今日は朝からいい日だなぁ」
こっちは朝から疲れたってんだよ
やれやれ、サインに見とれて全然帰りそうにないんでしばらく外で時間を潰すとするか
一つ大きく背伸びすると出口へ歩く、そしてちょうどドアノブを掴もうと思ったときだ
ゴンッ!!と激しい音が教会内に響いた
「ってぇーーーー!」
思わずのけぞりぶつかった頭を押さえる
ありえねぇ…まさか俺が開けるよりも先に扉が開くなんてよ!
おかげでおもいっきり頭をぶつけたじゃねぇか
「む、大丈夫…なんだ幻か」
反対側から扉を開けた人物がひょっこりと顔を出す、最初は心配そうな声だったが俺の姿
を見た途端態度を変える辺りあいつだ、クリス=リューガスだ
「なんだじゃねぇよ、いってぇな!!」
「そんなところでつっ立ってる貴様が悪いんだろう」
ぶつかった相手が俺だとわかった途端クリスの奴の態度が変わる、まぁあいつから見れば
俺は突然現れた者だったんだからな…正直あのハームステインでの一件があってなお
ここで俺が生活できるなんてほうが普通じゃおかしいくらいなんだ
シーラとクリス、そして俺はまぁ一応は幼馴染だ、クリスの奴も元は戦争孤児でこの教会
に引取られた人間の一人になる
だが俺は違う、クリスやシーラの記憶では俺も昔起こった属性戦争の戦争孤児ということ
らしいが実際はそんなもんじゃない
「ど、どうかしたんですか?」
俺の叫び声にイグジットの奴が心配そうに駆け寄ってくる、まずいなクリスの奴もハーム
ステインでの大会にはでているからな。「貴方は4563回大会準優勝者のクリス=リュー
ガスさん!」とかなんとか言ってまた熱く語りだしそうだ
「なんだあいつは…貴様の客人か?」
おもいっきり笑顔で走ってくるイグジットにクリスが怪訝そうな顔で聞いてくる
「ちげぇよ、旅の途中の妄想宗教家だ」
「そうか…ああ、そういえばお前に手紙が来てたぞ」
「手紙だぁ?誰からだよ」
「私の知った事か」
クリスが差し出した手紙を手に取る、ザラザラとした紙質の高そうな封筒だ
「あ、あなたはやっぱりっ!!!」
宛名すらない封筒をぼけっと眺めてしまっていた俺はイグジットの声で一気に我に返った
まずいまずい、そういえば俺はここで捕まるわけには行かないんだったぜ
「んじゃそうゆうことで出かけてくるわ」
そういって俺はクリスの脇を抜けるように走り出す、クリスの奴が「そうゆうことってど
うゆうことだ貴様」とか叫んでるがそんな相手をしてる暇はないぜ
案の定振り返ってみればクリスがイグジットの奴に絡まれている、やれやれさっさと逃げ
ておいて正解だったな
まぁしばらくそいつの相手でもしていてくれクリス!
清々しい朝ってやつか?流石高原とでもいうべきか空気が澄んでいて気持ちがいい
シーラの教会は町からだいぶ離れた小高い丘の上に建っている、そこから町を一望すると
まるでそれは一種の絵画のような美しさ…らしい、まぁクリスの受け売りなんだがな
「やれやれ無駄に走りすぎたぜ」
落ち着いて深呼吸する、空気が体に入ることで人間は一定のリズムを取り戻し精神的にも
身体的にも回復する、いわばクールダウンってやつだ
胸に手を当ててみる、ドクドクとした血の流れが聴こえる。こうゆう身体現象が自分が
人間であると実感させてくれる
人間として実感?なんか変ないい方だが、まぁ詳しい話はそのうちわかるぜ
「そういえば手紙誰からなんだ?」
先程クリスからもらった手紙を取り出し太陽にかざし見る、封筒の中には小さなカードら
しきものがあるのがわかる他には何も異常はない感じだ
たまにあるんだよな、バウンサーなんて仕事で飯を食ってる以上恨み辛みはよく受けるん
で嫌がらせかなんなのか罠っぽいのを送ってくる奴、宛名がない辺りからその類かとおも
ったがどうやら違うみたいだ
「さて何が出てくるんだか」
俺は封を切って中を覗き見る、なかにはやっぱり手の平サイズのカードしかはいってなか
った。
カードは特に変哲もない紙だ、なんだが手紙には警戒心ばっかり先立ってるな俺
裏返してみるとなにやら文字が書いてある、独特な癖の入った文字なんとなくこいつを書
いた奴の事が誰だかわかってきたぜ
───どうやら紅葉の奴が動き出したようだ、今すぐルラフィンまで来て
カードにはそれしか書いていなかった、んん…ティアの奴名前くらい書けよ
名前は書いてなかったが文字からティア=マローネっていうことはわかった、こうなんか
書き捨てられた文字まで無愛想な感じなんだよな
ティアってのはまぁいわゆる俺の仕事仲間っていったらいいんだろうか西の大陸で『アクロポリス』とかいう会社の仕事をしている奴だ、前に偶然仕事で一緒になってからちょくちょ
く頼みごとをされたりしたりする間柄だ。無愛想な感じの女だが腕は確かだ、パワーこそ俺には劣るがスピードと正確無比なナイフ投げの技術には目を見張るものがある
まぁソロでしか仕事を請けない俺がパートナーとして認めてやってもいい数少ない人物と
でもいっておくか、向こうはどう思ってるか知らねぇけど
「それにしても随分とまぁ突然なお誘いだな、それにしても紅葉って誰だ?」
紅葉?モミジ?もみじ?頭の中で復唱してみても一向にその紅葉とかいうやつのことはで
てこなかった、記憶喪失でもど忘れでもなくこれは最初から知らない初めて聞く言葉だ
しかし妙だな、ティアの奴はまるで共通の話題かのように書いている
まぁ深く考えたってわかることじゃないな、こうゆうのは直接聞いた方が早いだろう
宛先や名前すら書かないほど焦ってるのらしいからな向こうの勘違いって事もあるだろう
今日は仕事は入ってないからティアの奴に付き合ってもいいだろう
俺は手紙を後ろポケットに突っ込むとゆっくりと町の方角へ歩き出す、しかしなんとなく
不安だぜ、なにが不安ってティアと仕事をすると大抵他の事件にまきこまれるからな
そんな俺の気持ちを感じるかのように風がざあっと吹く、さっきまで感じていた日差しが
陰ると太陽が雲に隠れて日差しが届かなくなってきていた
…おいおい、いくら山の上だからって天気変わりすぎだ!
頭の上に落ちた雫に思わず空を見上げる、雨だ、さっきまで清々しいとかなんとかいって
たのに一転して暗い灰色の廃退的な雰囲気になる
「な、なんだこの感じ」
突然物質ではない精神的ななにかが俺の上に強く圧し掛かる、朝の空気とは真逆のいわば
人を不安にするような感じのプレッシャーのようなものだ
思わず誰かいるのかと辺りを見るがなにも変わりはなかった
そして突然の強い雨が降り出し俺を濡らしていく
だがなにかおかしいぜこれは…普段なら“突然の雨に服がびしょびしょになって“あん
にゅい”なんてことで済むんだろうがこの状況は明らかにそんなもんじゃない
俺の不安を煽るかのように一気に雨が強くなる、そして俺にかかる謎のプレッシャーも強
くなってきていた
「っ…誰かが近づいてるのか?」
思わず呟いた唇を噛む、誰かが?なんて不明なものじゃないのはわかっていた
こんな負の力を憎しみの力をぶつけてくる奴はあいつしかいない
だがそれを信じれない自分がいるのも事実だ、なんせあいつは三年前に俺が倒したはず
だから誰かと言った、別の誰かであって欲しいという願いも込めて
「これも夢のお告げってやつかよ…」
自嘲気味にいうと刺突剣ディレントセイバーを引き抜いた、どうやら今日はあの夢からはじまって厄日のようだぜ
あの夢、今朝見た夢は俺がハームステインでの大会の時にもみた夢だ
いわばあの夢は俺にとって奴が現れるという予知夢のようなものといっていいだろう
大きく開けた湖畔に純白のドレスを着た女が立っている、シーラの奴に似ているといえば
似ているが髪は短く大人しい感じだ。
そしてその女はじっと俺の方を見つめているだけの夢
女はなにも言わない
だが助けを求めているような目で俺を見つめている
近づこうとする、だけど近づけない
声をかけようとしても声がでない
そして夢の醒めそうになる直前になって女は一言こういうのだ
『あの人を救って…』
そうして女は消える、ハームステインで見たときは女が言う「あの人」が誰の事かわから
なかったが今ならわかる、俺を生み出したもう一人の自分、女はそいつを救ってほしいと
言っている
あの女の名前は咲夜=フランクだ、あいつの唯一心を許した女性…
「でてきやがれ!スリティ!!」
雨が激しくなる中俺は叫ぶ、一度殺したもう一人の自分の名前を
俺の叫びに呼応すかのようにいままでよりも強い風が吹く
おいおい、まじででてくるつもりか
風の強さにおもわず目を閉じる。こうやって目を閉じればいやな現実から逃れれるならど
んなにいいことか…
だが現実ってのはそんなにあまくないぜ、いくら神に願ったって嫌な事から逃れれるわけ
じゃないんだ
まぁ俺は神なんて抽象的なもんは存在しないと思ってるしな
俺はゆっくりと目を開く
「や、やれやれだぜ…」
失笑、なんだかこんな無茶苦茶な状況に笑いがこみ上げてくる
だって本当にいるんだからなあいつが
漆黒の鎧に漆黒のマント、そして漆黒の兜から覗かせる紫水晶の瞳…姿こそ違えど鏡
を見てるかと思うような顔のあいつが俺の前に立っていた
「久しいな、名もなき者」
「なにが久しいなだよてめぇ、てめぇはとっくに死んだはずだろ!!」
そうだ、奴は死んだはずなんだよ、三年前のハームステインで俺に殺されてな
俺は奴に生み出された同じ能力を持つ分身体だった…
そして生み出された俺の目的はシーラの教会の奥深くに眠る魔剣『ライオット』を奪う事
シーラやクリスの記憶を改竄し、幼馴染として教会へ侵入した俺だったが、スリティの
思惑はここで大きく狂った
ただの分身体であるはずの俺が魔剣『ライオット』に触れたことにより自我をもったんだ
あいつは自分と同じ力を持つ俺の存在を危惧し、クリスを操りハームステインで俺を消そ
うとした…そうこれが、ハームステインでの戦いの真相ってやつだ
「ああ、そうだあの時私の器は滅んだ。だが貴様では私の魂までは砕けなかったようだな
穢れし器もて私はこの世界に戻ってきた」
奴は自らの魔剣『スワルツアンド』を引き抜く、やれやれ魔剣も砕いたはずなんだが一緒
になって甦ってやがる
「名もなき者よ、私がどうしてここに来たのかわかるな」
「はっ、また俺にやられにきたんだろっ!!」
一気に走り出す、スリティの奴の存在を確認した時点で戦いが避けれないものはわかって
る、なら先手必勝だ
雨を切り裂くように奴との距離を縮め、空中で旋回一気に剣を振り下ろす
「その程度で私を倒すだと?戯言を!」
俺の一撃を軽く受け止めると一瞬だけ力が放出される、黒い瘴気が奴の周りに纏いそのま
ま近くにあるものを俺ごと吹き飛ばした
「脆い、その程度か名もなき者」
まずいぜ、奴にとっては軽く力を放出させただけなんだろうが軽くあばらにひびがはいっ
てやがる。思えば前に勝ったときはほとんどハンディキャップ戦のようなもんだったな
奴は魔剣を失い俺が奴から切り離された事によるダメージが回復しきらない状態だった、
それに俺はあのときは神器と言われるスターソードがあったし、なにより一度死んで人間
として復活する前だったからな分身体としての俺には限界なんてもんがなかった
奴と魔剣はまさに鬼に金棒って事かよ
ふっ、愚痴たってどうにもなるわけじゃねぇ…ここで俺がやられればあいつはシーラ
やクリスの前にも現れるはずだ、ここはなんとしてでも俺が倒さねぇと
立ち上がってゆっくりとディレントセイバーを平に返し弓を射抜くように構える
そのとき奴の口元がゆがんだ、そりゃそうだこの技は元はてめぇの技だからな
「ソリチュードストライク…か」
「ああ、流石にてめぇもこれを受けたらただごとじゃすまないぜ」
構えた右手に左手の甲を添える、珍妙な構えだがこれが桜花蒼龍剣でいう“龍墜の構え”
とかいうもんらしい、そしてそこから繰り出されるソリチュードストライクは俺の持って
いる技の中で最高の威力を誇る。
「いっくぜぇぇぇぇぇっ!」
叫びに反応し体から蒼き炎が吹き上がり俺を包み込む、体内に魔力を内包していない俺が
唯一放出できる力だ
だが奴は動じる様子を見せない、技を止めようともしない、ただ口元がかすかにゆがんだ
だけだ
なんだ余裕ってやつかよ…なら受けてもらおうじゃないか
蒼き炎を纏い一気に駆け出す俺にようやく奴はゆっくりと剣を弓を引くように構える
なるほどな、同じ“龍墜の構え”そして奇しくも同じ技でやろうってか
奴の体から俺と同じように炎が吹き上がる、だが色が違う奴の炎はどす黒い炎だった
「ソリチュードストライクッ!!!」
対峙する黒き炎と蒼き炎、同じ声色、同じタイミングで二匹の竜が咆哮した
ソリチュードとは太古の昔に生まれし魔力を喰らう龍の名、二つの龍の咆哮が激しくぶつ
かり合い辺りに存在するものの魔力をすべて消し去っていく
数々の色をした魔力がその器を離れていき天に昇っていくのが見えた
「…ちっ、相殺ってやつかよ」
「よもや名もなき者がここまでやるとはな」
スリティの奴は剣を突き出し動きが止まっていた、そして俺もまるで鏡に映るように同じ
構えで立っている
奴の剣が俺の首元に、俺の剣が奴の首元に…どちらかが先に動くかどうかの均衡状態
に陥っている
互角、どうやらソリチュードストライクだけは俺とスリティの差がないみたいだぜ
俺の方にダメージはないがそれはスリティの奴も同じようだ
「フッ…前言撤回か、貴様もやるようになったな」
「伊達に修羅場は越えてないんでな」
見上げてみると奴が笑っていた、こいつが笑うところなんてはじめて見た気がするぜ
なんていうかこいつと出会ってから奴は冷たい感情しか見せていなかったからな
「…咲夜はこんな事を望んではいないのだろうな」
静かに呟くと剣を引いていた、奴の表情に一瞬暗い影が映る
「てめぇ、どうゆうつもりだ?」
「私は誰の指図も受けない、それが例え穢れし器を与え私をこの世に戻した者の指図でも
な」
そういって奴が後ろを振り返り歩いていく、後ろから斬りかかろうと思えばできる距離だ
だが何故か剣が動かなかった
呼吸が乱れて心臓の鼓動が早くなっている、俺はもしかしたらここで奴が逃げていく状況
に助かったとでも思っているのかもしれない
「逃げるつもりかよスリティ!!」
「今日の所は所詮様子見だ、一時でも救われた命を無駄に散らす事もなかろう」
思わず剣に力がこもる、救われたという現実に反逆したいが結局奴の後姿をみつめること
しかできない
これが人間って奴だ、無意識に命を守ろうとする
「さらばだ、名もなき者よ…」
一陣の風が吹き奴の姿が消えていく、最後まで俺はその姿を見ることだけしかできなった
「くそっ…もしかしてもう巻き込まれてんのかよ」
思わず天を仰いだ、雨はいつのまにか止み奴が来る前の清々しい朝とやらに戻っている
何者なんだスリティの奴を甦らせて俺を殺そうとする人物は、そしてそんな力を持った奴
が何ゆえ俺を狙ってるんだよ
くっ、どっちにしろまたただ事じゃない仕事の始まりのようだぜ
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夜風 楓
夜風 楓
「っう…」
物凄い不快感で目が覚める、喉が渇く…ものすごく水が欲しい
けだるく重い体、まるで全身に鉛の錘がついているような感覚
「私…なんでこんな砂漠で寝ちゃってるんだろう」
────そうゆ
なにか不快なノイズが頭の中を駆け巡る、よくわからない。
一度わかることを整理しないと…
ゆっくりと砂を払いながら立ち上がると集中するように頭を小突く
周りには無限の砂漠が広がっている物凄くそれはわかる
でもそれは見た感想であってどうでもいいこと
「他に何か…。」
何度も頭を小突いてみるもどうにもそれ以上の事がはっきりとしない。これはもしかしたら一種の記憶喪失というものなのかもしれない
私は何者…?どうしてこんなところに?
「ん、やっぱりどこか日陰に入ってから考えたほうが良いかも」
さっきから容赦なく降り注ぐ熱線に動いてもいないのに汗がでてくる。嫌な事に私の服は上下とも光を吸収する黒色、これはまさにいじめだ
仕方なく歩き出すことにする。どのみちあの場所にずっといてもどうにもならないだろう
少し小高い砂丘から周りを見たときは微か遠方に街らしきものが見えたし、ここはそれを頼りにいけるとこまでいくしかない
「どうか蜃気楼でありませんように…」
そう思いながら足を進めていく、砂漠を歩くなんてこといままで一度も無かったものだから私が見たあれが蜃気楼なのかそうじゃないのかなんて見分けも付かない、いやむしろ見分けがつく人なんているはずがない
それからどれくらい歩いただろうか、一時間?三十分?もしかしたら十分もまともに歩けていないのかもしれない
強烈に降り注ぐ光、吹くだけで体力を奪っていく風、これだけ心身が酷い状況じゃ幻覚の一つや二つみてもおかしくない。まして私は突然なんの装備も持たずにこんなところで寝ていたのだ、まともな判断なんて下せようが無い
「待ちなさい次元念者!!」
「あうあうー誰か助けてくださいでするー!」
私の目になにかよからぬ者が映った気がする。もしかしたら大分頭がオーバーヒートしてしまっているのかもしれない
ここは砂漠だ、どう考えても砂漠である。
「な、なんで巫女と学生がこんなところに…」
確かに見えたのだ逃げ回る巫女姿の女の子とそれを追いかけるブレザー服を着た女の子だ
幻覚と幻聴だと思いたい、どう考えてもこんな熱砂の砂漠にいていい人たちじゃないはず
だがしかし確実にこっちに向かって走ってきているような気がするのは何故?
「そこのあなた助けてくださいでするー」
巫女さんが私のことを呼んでいるような気がする、ついには熱にうなされて幻聴まで聴くようになったのか私はもはや重症だな
「そこの方、その巫女を捕まえてもらえませんか!!」
あー後ろのブレザー着た女の子にも話しかけられた、いや流石に自分の問題で精一杯なこの状況でこれ以上厄介事は困るんだけど
「わー助けてくださいでする」
そう言うと何がなんだか混乱している間に私の後ろに巫女姿の女の子は隠れてしまう。
あ、あれ?もしかしてこれって現実ですか?確かに私の後ろに隠れた巫女さんは蜃気楼でもなんでもない本物の人間、こげ茶色の肩ほどまでの髪で・・・・・・って、え?近頃の巫女さんは砂漠
にもいるものなの?
「次元念者を庇うのはやめなさい、そこの方」
「え、あれ?」
ブレザー姿の女の子もどうやら幻覚ではないみたい、腰まである黒髪を揺らしゆっくりとこち
らに近づいてくる、けど次元念者ってなに?
それにこの女の子私よりも暑そうな冬服のブレザーなんて着込んでいるのにどうしたらあんな涼しそうな顔ができるんだろう、すくなくとも思いっきりこんな砂漠を走ってたのに息一つとして乱れていないなんておかしい
「事情がよくわからないんだけど…」
わかるわけがない、自分が何故ここにいるかもわからないのにこんな砂漠に巫女と学生がうろついていることを説明できる人なんていないと思う
「下等生物に話す事などありません、すみやかにその後ろの女を引き渡しなさい」
初対面なのにいきなり下等生物はないんじゃないでしょうか?この人
「だ、だめでする!渡しちゃだめでする!追い返してください」
「えっあの追い返すって」
なんだかよくわからない、とりあえずわかる事といえば巫女さんは学生さんに追いかけられている、そしてこの学生さんは礼儀しらずってことかな?でも突然追い返してといわれてもね…私だってさっきからこの砂漠をずっと歩いててそんな体力ないんだけど
「次元念者に手を貸すなら一緒に片付けますよ、貴女」
符術のようなものをとりだしてこちらを睨む学生さん、やはりこの人只者ではない気がする。おそらく戦闘になれば私と互角、いやそれ以上に強いかもしれない…
(あれ?私って戦えるの?)
思えば私なんでこの只者でなさげな学生さんと戦って互角だとか考えれるんだろう、もしかして私は戦うことができる人間なのかもしれない、すこしづつだけど記憶が戻ってきているのだろうか
「さぁ、そこを退きなさい。でなければあなたもただでは済みませんよ」
じわりと学生さんは近づいてくる、どうやらあまり気が長い人じゃないみたい今にも攻撃してきそうな勢いだ
「どうゆう理由かは知りませんが仲良くできないんですか!?」
「…言いたい事はそれだけ?」
距離が更に近づく、だけどこれはさっきまでの近づきかたとは違う!
「佐倉流符術『鋼』!!」
「あぶないっ!!」
空が刀を振るったような音とともに切れる、咄嗟に私は巫女さんを抱いて砂の坂を転げ落ちる。予感的中といったところかしら、それにしてもなんなのかもうわからなくなってきてる。
「だ、大丈夫?」
「は、なんとか私は大丈夫でする」
袖口から大量の砂を流しながらこくりとうなずく巫女さん。なんでこんなところに巫女さんがいるのかとかの疑問はとりあえず後回しにしよう
「あ、あの私がなんとかしますからその帯刀ですか?貸してもらえます」
巫女さんの腰には二本立派な日本刀がある、それを使えば私でも何とか戦えるのかもしれない
「あ、でも…その背中の長い刀は使わないんでするか?」
「えっ、長い刀?」
言われて初めて気が付いた…私の背中にはかなりの得物を背負っていることに。
どうやら私は剣士かなにかなのだろうか、しかもかなり扱いにくそうな武器を背負っている。
「やっぱり刀貸してもらわなくて結構です、これでやってみます」
「私と戦うつもりですか貴女、どうやら自分の力過信しているようですね」
大きく一つ深呼吸をすると私は背負っている刀の柄を握る…。
剣を持ったとき、いままでの暑さがすっと抜けるように抜けていく…明鏡止水の心境とでもいうのだろうが頭のスイッチが一瞬に入れ替わったような瞬間だった
刀自体は異常に長い柄と刃、そして珍妙なのが刃の中ほどに更に持つ部分がつけられている。その長さゆえにずっしりと重量感があるのだが私に扱えないほどではない
───私に扱えないほどではない?
「貴女こそ、今のうちに引くのが賢明だと思われますが?」
「剣を持った瞬間目が変わりましたね、いいでしょう次元念者ともども死にますか貴女」
───警告はした。
風は南南西から微弱、彼女までの距離約5m…先程の武器は符術が硬質化したものみたい。符の印からみるに陰陽師、呼吸は乱れていないが心拍数はそれなりに上がってる模様、肌の色からB型…性格分析的に負けず嫌いか
気が付いたら口元が緩んでいるわたしがいた、もしかしてこの状況を楽しんでいるのだろうか
まったく自分というもののなかにこんなに戦いに積極的な部分があるなんて不思議だ
「佐倉流符術の力その身に味わわせて差し上げます!」
陰陽師はまるで手品のように一瞬で符を取り出すとそのまま一気に印を切る。思った以上
に早い動き、印を切らせる前に始末するつもりだったのに少し誤算だ
(とりあえず向こうの動きを見てみるしかないか)
私は刀の中ほどの取っ手を掴み、そのまま正面に構える。これなら大抵の攻撃は防げるはず─
「受けなさい、佐倉流符術『烈風』!!」
「危ないでする!!」
術の発動とともに一気に周りの砂が舞い上がる、巫女さんの声が聞こえるとほぼ同時だろうか
わたしの体は空へ打ち上げられそのまま地面に叩きつけられた
「…つぅー、いたた」
「だ、大丈夫でするか?」
「な、なんとか」
地面が砂だったからダメージはさほどでもないがこの陰陽師はおもったより戦闘慣れして
いるみたいだ、てっきり陰陽師なんて氏神まかせの攻撃だと思っていたわ
「今度はこっちの番です!!」
「さて…貴女などに時間をかけるわけにはいきません、消えてもらいます」
陰陽師は符術の印を切りゆっくりと近づいてきている、私は再び剣を持ち直すと大きく深
呼吸をする…が、なぜか気持ちがまったく落ち着かない
(ドクン、ドクン…)
今は戦いに、この陰陽師との戦いに集中しなければならないというのに異常なまでに精神
がおかしくなってきている。さっきまでは剣を持っていれば気持ちが落ち着いていたとい
うのにっ!!
おかしい、太陽の熱にいまになってやられたの?それともさっき地面に叩きつけられたと
き?
「くっ…!」
眩暈…吐き気、体はゆらぎまともに立っていることすらできない
(だめだよ…ここで倒れるわけには)
…ザザッ
「貴女の番、じゃなければ再びこちらから行かせてもらいますよ」
陰陽師が近づいてくる、迎え撃たなければやられるっ…
…ザザッ
「あ、あの大丈夫でするか?」
巫女さんが心配している、私がやられてしまったら彼女も殺されてしまう、次元念者とか
いう存在ゆえに…
…ザザザッ!
勝たなきゃ、なにもかも終わってしまう!
「これで終わりです佐倉流符術「絢爛舞踏」!!」
陰陽師の姿がぶれるように消える、本当に彼女が消えているのか私の眼が見えなくなって
いるのかどちらなのかさえも微妙だけど…
頭を振るい意識を保とうとするもまったく状況は回復しない
…ザザザッ!!
さっきから頭の中にノイズが走る…
不安定なノイズ、急に体がおかしくなったのはこれが原因?何も映らないテレビ、砂嵐
なにも設定されていない状態、設定されていない?
私が設定されていないというのか、私が私の設定されていない部分に触れようとしたから
頭にノイズが走ったと?
…ああ、貴女の名前は「やかぜかえで」というのよ、夜の風になびく楓という意味よ
「っ!?今の名前?私の…名前!?」
「何、独り言をつぶやいているのですっ!」
背後から陰陽師の声、其の声に振り返ったときわたしはすべてを理解した
攻撃の入射角――、風向き──、反撃のために必要な最低限の攻撃速度──、
肉体という器から純粋な魂が抜け出すにはどこをどのように攻撃すればいいか──
「大丈夫、確実に殺すことができる」
瞬間、わたしの中で何かがはじける音がした
2
ジーク=ダットリー
この世で感じにくい幸福は、何も変わらない生活だ
だが平穏は長くは続かない、何も変わらない生活なんてどこにもない。
何も変わらない様に見えて少しずつ、少しずつ変わっていく
それを取り戻そうと手を伸ばしてもそれは叶わぬ願い
「だぁぁぁ!なんで!お前は!こうも勝手に!依頼を受けるんだ!!」
閑散とした森の中に怒号が響く、とある執事は傭兵風の男の胸倉を掴んで叫ぶ
「いやまぁー困っている人はほっとけないじゃん、そこんとこわかってよキューちゃん!」
悪びれた感じもなく大げさに肩を叩く傭兵風の男にキューちゃんの怒りのリミッターが振
り切れる
「黙れ!黙れ!黙れ!依頼人の名前も覚えてないような奴が慈善事業などするな!!」
キューちゃんの怒涛の攻めに足蹴りも加わる、もはや八つ当たりだ
「忘れてないよぉ~ほらサイだとか猿だとかそんな感じの名前だよ」
「ジーク、貴様いい加減にしろよ」
流石に突っ込みをまっているような返答にキューちゃんは槍を構える
「いやまぁ、本当はサイル=イージスって人が依頼主だよん…多分」
「それで、何故こんなところに謎の建物が建っているから調査してくれなんて事になっ
た?」
「あー、そこらへんはプライバシーとかそんな感じで聞いてないや」
(ったく、だからこいつは)
キューちゃん―――ことセルバンティス=ディアマルク=シャールス=ロリエンキュール
はこのジーク=ダットリーという元傭兵が居候に着てから何度となくそんなことを思う
気が付いたら居候していた、そんな感じだった。
ことの始まりは今から二、三年前の話だ、ロリエンキュールの主人であるルカ=マローネ
の義妹に当たるティア=マローネが仕事途中で拾ってきたのがこいつジークである
拾ってきたというか勝手についてきたと言った方が正しいのだろう
しかもなんだかんだでそのまま居候してティアたちがやっている会社『アクロポリス』の仕事
を手伝い、もといロリエンキュールから見れば邪魔をしている
(全く、ルカ様のお人好しにも困ったものだ)
キュールは意中の主人を想いためいきをつく。
ルカ=マローネという人物、穏やかで気品がありそこが魅力なのだがお人よしが過ぎるのだ
「さっさとその建物とやらを見つけて帰るぞ」
「わかってるよぉ」
ジークが辺りをキョロキョロと見渡すが広がっているのは木々ばかりで建物らしきものは
見えない。キュールはやる気があるのかないのかわからないジークをほっといてポケット
から手のひらサイズの水晶玉をとりだす
「およよーなにそれー?」
「魔力を測定する魔導アイテムだ」
ふぅーんといった感じのジークを見向きもせずにキュールは水晶玉をかざし辺りを見渡す
この魔導アイテムは水晶球を通じて見ることでその場に魔力があるかを調べるものである
魔力の強さによって色が赤・橙・黄・緑・青・藍・紫と変化する、虹と同じだ
とはいっても大抵の物は魔力を内包しているので強い魔力でなければ判定しにくいのが欠
点である
「ふむ、<インビジブル>の魔法なんかを使って姿を消しているようではないな」
「多分この辺じゃないとおもうよキューちゃん」
「キューちゃんは止めろ、大体貴様さっきからやる気あるのか」
水晶玉を覗きながら調べているキュール対してジークは先程から樹に凭れ掛かって休んで
いる、どうみてもさぼりだ
「だーかーらー、この辺周囲50000カルトには建物はないって」
「なんでそんなことサボってた貴様にわかる!」
「樹調べたら一発だよん、キューちゃん無駄足~♪」
「あああん!?」
キュールの握る手に力がこもり水晶玉に軽くヒビが入った。
「なんで樹調べたらそんな50000カルト先まで建物がないってわかる!?」
「簡単だよ、樹の記憶を調べればいいのさぁ」
そう言いながら手を凭れ掛かっていた樹に当てる
「こんな密集して低いところに根が生えてるんだよ、建物を建てるんだったら樹は伐るな
りさどけるなりするじゃん。んでこの樹には伐ったりどけたりしたときの痛みの記憶がな
い訳、しかも地下で根っこが他の樹にも絡んでいるから他の樹がダメージを受けてる様子
がないってわかってそれが大体50000カルト先までってこと」
「む…」
ジークが得意げに鼻を鳴らす、一方キュールは殴ってでもやりたいくらいだったがこう完
璧に解説されたら殴るにも殴れず押し黙ってしまう
能力者───、この世界にはジークのような個が持つ特殊な力を持った人間のことを言う
外見などは人間と同じなのだが魔力とはまた違う力を持っているのだ。能力というのは魔
法のように変化するものではなく、大抵が決まった一つのことについてしかできない
ジークは<記憶>を操る事ができ、手で触れたものの記憶の糸を切ったり繋げたりするこ
とができる能力者なのだ。ちなみにキュールの主人でもあるルカも能力者であり、彼女の
能力は<扉>という空間と空間をつなげる能力である
「50000カルトって結構広い範囲だぞ、場所あってるんだろうなジーク!」
「あ、空中に浮いてるのかもーそれならわからないんじゃない?」
「結局は自分の足で確かめないといけないという事か」
キュールはやれやれといった感じに腕を上げると踵を返して歩き出す、その様子は明らか
にすぐに仕事を終わらしたいといった感じであった
「そうだジーク、貴様にもこの水晶球を…」
しかし振り返ったキュールの目にはジークの姿はなく、鬱蒼とした森がただ広がっていた
「ふん、ようやくやる気になったか」
気に留めることもなかった、いっつもだらけてる居候が真面目に働くのは願ってもない事
だ。ただキュールは気が付いていない、ジークの足跡はどこへも行かずその場で消えてし
まっていることを…
─────
「およよ…ここどこ?」
瞬きをしたらいきなり世界が変わった、先程まで森の中だったのに今度は一転石造りの部
屋の中だ。辺りを見渡すもキュールの姿はなく、石造りの壁があるだけだった
ジークはしばらく自分のおかれた状況を考え込む。
が、…そう長く考えていられる性格ではなかった
「あーそっか、もしかしたら調査依頼の場所ってここかも」
あながちその考えは間違っていないだろう、どうやって入ったかは不明だが森の中にこん
な部屋があるのはどう考えてもおかしい
ジークはおそるおそる扉に手をかける、ドアノブには埃はかかってない。なにも物は置い
てない部屋だったがおそらく人が住んでいるってことくらいはジークでも理解できる
「お邪魔してまするぅー」
そおーっと扉から顔を出す、開けた先は石造りの廊下でかなり薄暗くどれくらい奥まで続
いているのかわからない様子だった
「こんれは困ったねぇ~」
有事に備えて剣を止めるレザーを外す、できれば話し合いで解決したいところなんだが
勝手に入ってしまった以上用心にこしたことはない
「そんじゃ探索と行きますか」
…石造りの迷宮はかなりの広さだった。
あちこち部屋を覗いてみたら書物やら魔導アイテムが無造作に置かれていてほとんどの部
屋が足の踏み場もない状態
そして人の気配がない
初めはコソコソと警戒しながら探索していたジークも段々いい加減になってくる
「しっつれいしまーす」
豪快に扉を開けるジーク
「────うわっ!?」
一瞬身をこわばらせる、なんせジークにむかって無数の“目”がこちらを睨んでいたから
だ
「はぁ…なんだ人形かぁ」
ゆっくりと部屋に足を踏み入れる
さっきまでの部屋のような乱雑な様子はなく、綺麗に整頓されている部屋
ただやはり怖いのは部屋の半分以上を占めている人形の数だ
ジークと同じくらいの背丈の人形がそれこそ兵隊のように並んでいて騒然としている
「ここに住んでいるのは人形作りが趣味の可愛い女の子なのかなぁ~」
辺りをぐるっと見渡す、黒塗りのテーブルには目玉やら手やらが木箱に分けいれられてい
る
「あっれーこれどこかしら部品が欠けてるな」
最初見たときはわからなかったが並んでいる人形はどこかしら部品が欠けていた
右足のない人形、左腕のない人形、顔が半分欠けている人形、目玉が入ってない人形
「あ、こいつだけは完成しているのかな?」
沢山ある人形の中で一体だけ部品が欠けてない人形があった、長い黒髪に黒い背中の開い
たドレスが着せられている
思えばこの人形だけ他の人形とは違って小さな台の上に乗っていることに気がつき
おもむろに人形に触れてみる
「うわぁ…これ本当の人間みたいだ」
驚く事に感触はほとんど人間の肌だった、髪も人間の髪質のような感じだしこれで目に活力が
あれば人間と言われてもわからないくらいの出来栄えである
「ほぇぇーこれが完成品か」
「違うわそれにはまだ心がないもの」
「えっ!?」
後ろからの声に思わず慌てて振り返る、人形の美しさに気を取られて背後に人がいることに気がつかなかった
立っていたのは黒髪の女性、今まで見てた人形とどこかしら似ているような気がしたが女
性のほうは人形と違って髪は肩ほどまでで短く切り揃えられていて服装も民族衣装のよう
な感じの青いドレスだ、ドレスは胸元がかなり強調されていて足元のスリットもかなり深
く入っている。
人形は少女という感じだが、こちらの女性は大人の女性といった雰囲気をもっていた
「あわ、あわわ!あ、怪しいものではないです!!」
とりあえず言ってみる、いや明らかにジークの挙動は怪しい人なのだが言わないわけには
いくまい
「…いらっしゃい」
女性は微笑を浮かべながらジークのほうを見つめていた、どうやら話せばわかりそうな感
じに少し緊張が取れる
「久しぶりねジーク=ダットリー君」
まるで昔の恋人と話すかのように遠くを見つめ寂しそうにいう女性
久しぶりという言葉にジークは一瞬固まる
「あ、そ…そうだっけ?」
罰が悪そうに後ろ首をかく、なんとなく話を合わすためにそれとなく答えてしまう
ジークの名前を知っているということはたぶん何処かで会った事があるのだろうがジークの記憶にこの女性の記憶は全くなかった
「私のこと覚えてる?」
不安と期待が混じったような顔でジークの顔を女性は見つめてる。だがその顔すらジーク
は見ることができずに視線をそらしている、彼女の期待に答えれそうにないから
よくある話ど忘れと言う奴だ。おそらく体験した事のある人間なら誰でもわかるだろうが
こうゆう状況では相手のことを忘れたなんていいにくいものだ、それが彼女のような美人
ならなおさらのこと
「え、あーうん、覚えてるよぉーほら、あのー」
思考が混濁する、傭兵時代の知り合い?『アクロポリス』の依頼人?タートの町の住民?
ジークの頭の中で色んな人が現れ消えていく、上手く重なり合わないロジックに焦りがで
てくる。
結局、最終手段で思わず手が伸びた。
「あーほらほら肩にゴミがくっついておりますよお嬢さ…」
「ダメ。手癖が悪いわよジーク君」
あっさりと触ろうとした手を掴まれる。そして嫌な空気が二人の間に流れる
覚えてないから能力で記憶を引き出そうなんてことをしようとすれば当然だろう
「…覚えてないのも無理ないか、貴方は違うジーク君だものね」
「違う?違うってなにが」
言葉の意味がわからないジークはあっけにとられたままだが彼女は答えることなく微笑を浮かべる。
「今度の貴方は私の願いをかなえてくれるかしら?」
彼女は小さな声で呟くと掴んでいた手を握る
「私の名前は夜風紅葉、はじめましてジーク君」
「え、あ…はじめまして」
思わず握られた手をぎゅっと握り返す。彼女の手はとても冷たかった
3
夜風 楓
差し出されたコップをもらうと私は一気にそれを飲み干す。
冷えた水が喉を通るたびに体から疲れが抜けていく、こんなに水が美味しいなんて
思ったのは多分生まれて初めてだとおもう
「もう一杯いるでする?」
物欲しそうにコップを眺めていたせいか姫奈ちゃんが水差しを持ってきてくれた
私はコップを渡すとその場でおもいっきり背伸びをする
…けどこれからどうしよう
日の落ちかけていた町をぼんやり眺める、外では店をたたむ人や友達と別れて
家に帰っていく子供達がいた…ごくごく普通の日常だ
でも今の私にはそんな日常の思い出すら記憶していない
「今日は大変だったでするね~」
姫奈ちゃんが水の入ったコップを差し出しながら言う
「あの姫奈ちゃんここまできてなんですけど逃げなくていいんですか?」
「大丈夫でするよー瑞穂っちは悪い人じゃないでする」
悪い人じゃないって姫奈ちゃん自分を殺そうとした人を良くそんな風に言える
砂漠で巫女服なんて異様としか思えない格好の氷上姫奈ちゃんとこれまた砂漠にブレザー
なんて着て追いかけていた陰陽師、佐倉瑞穂さんと出会ったのが事の始まり
なんだか次元念者?という者らしい姫奈さんを殺そうとしてる瑞穂さんから姫奈ちゃんを
かばって私、夜風楓は瑞穂さんと戦って…えーとここから記憶が曖昧だ
とりあえず急に頭がフラフラしてやられるっとおもったら逆に勝ってたんだよね
後で姫奈ちゃんに聞いたら見事な返し胴だったらしい
その見事な返し胴で気を失っちゃった瑞穂さんをほっとくわけにもいかず二人でおぶって
町までやってきたという…そんな経緯だ
「だけど記憶喪失なのに強いでするねぇ~体が覚えてるって感じでする」
「でも今度襲われたら私勝てませんよ、殺される前に逃げたほうがいいんじゃ」
ベッドでは瑞穂さんがいまだ目覚めず眠っている、怪我はたいしたことなかったんだけど
起きたらまたなに言われるかわからないから怖い。黙ってればとっても綺麗な人なんだけ
どね…
「瑞穂っちとは前の世界から知ってる人だから本当に殺したりはしませんでする」
自分のことなのに姫奈ちゃんは結構気楽そうだ
「あ、そういえば前の世界ってじゃいまここってどこなんですか?」
「ここはウイングガルド大陸、ハームステイン王国でするよ」
「はーむすていん?」
「戦と炎の国でするよー毎日が大会の血の気の多い国でする」
そう言うと部屋に置いてあったチラシを私に見せる、見慣れない字だったが何故かちゃん
と読む事ができる。確かに旅人のための観光案内のチラシには闘技大会のことしか書いて
ない
「4562回大会優勝者、オルディ=ハウランド…4563回大会優勝者、幻=クレ
イド…4564回大会優勝者リン=カーシャ…う、これ全部書いてある」
チラシの裏には第一回からの優勝者が見えないくらい細かい文字で書かれている
「ここでは大会優勝者はかなり名誉なことでするから」
「あ、確か姫奈ちゃんもこの大会にでるためにここに来てたんでしたっけ?」
確かそんな感じの話が瑞穂さんを運ぶ中していたのを思い出した
「その予定でしたでするけど、出場料は今日の宿代に使ってしまったでする」
あ…そうか今私達が泊まってる宿代を出してくれたのは他でもない姫奈ちゃんなんだ
折角大会にでるために来たのになんか悪い事したな
「でも私にはまだ早かったみたいでする、瑞穂さんにも勝てなかったでするし」
そう言って水を飲む姫奈ちゃんの表情は少し暗い
あ、私なんか言わなくっちゃ
でも考えてみても上手く言葉が見つからない、口下手な私…
「私も楓ちゃんみたいに強くなりたいでする」
「え、あ、私だってそんなに強くないですよ!!」
「瑞穂っちはものすごーく強い陰陽師さんでする、私突然会って力試しに戦ったでするけ
ど全然敵わなかったでする。それを楓ちゃんは一撃で倒しちゃうんだから強いでするよ」
一撃ねぇ、でも私も最後の返し胴のことは全然覚えてない
それにあの剣を持ったときの感覚、まるで別の私がでてきたような感じだった
私ってなんなんだろうか…
「でも姫奈ちゃんそんな強くなってどうするんですか?」
考え事をしていてつい変なことを聞いちゃった、でも姫奈ちゃんの返答は早い
「私はこの世界だけじゃ生きていけない存在だからでする、新たな世界へ行く者は、自分
の身は自分で守らないといけないでするから」
「え…この世界だけじゃ生きていけない?」
思わず聞き返してしまった、この世界だけじゃ生きていけないってどうゆうこと?
「私は次元念者でする、突然異次元に飛ばされちゃう能力者でする」
「それじゃ姫奈ちゃんは別の次元から来た人?」
私の言葉にコクリと頷く姫奈ちゃん。
「おぬしは次元を渡りし者。その先は光か闇か、天国か地獄か、今はわからぬ。だが、未
来はいつか今となる。未来のために今を無駄に生きることの無いように。」
突然後ろから声がする、瑞穂さんだ…うわぁしっかり起きてるし
「ど、どうしてその言葉を知ってるでする!?」
ふと見ると驚いた様子の姫奈ちゃんがいる、この二人にしかわからないことなのだろうか
「ふっ、その言葉を言ったのは誰だと思ってるんですか私の祖父ですよ」
「そ、そうなんでするか」
「嘘を言ってどうするんですか」
乱れた髪を直しながら事も無げに言う、結局私はなにもわからず瑞穂さんと姫奈ちゃんの
顔を見合わせるくらいしかできない
「それでこの状況は一体どうゆうことかしら?」
冷たい言葉とともにいつのまにか瑞穂さんはコップを手にしていた、あ…それ私のコップじゃない!
う、いつのまに取られてたんだろう…
「どうゆう状況って瑞穂さんが私の一撃で気絶しちゃったからここまで運んできただけで
すよ」
「そういえば貴女、名前は?」
もう完全に会話の主導権は瑞穂さんだ、私が親切に答えたのに全く返答違いだし!
こうなったら従うしかないかな…怖いから
「あ、そうか姫奈ちゃんから名前を聞いてたけど私の名前は教えてませんでしたね私が記憶喪
失ってことも言ってなかったですし」
「いいから名前よ」
「えっと夜風楓です、夜の風になびく楓って漢字で」
そこまで言って私はなにか違和感を覚えた
“夜の風になびく楓”
確かにそれは私の名前だ、でも記憶をなくした私はどこでそれを知ったんだろうか?
砂漠で目覚めたとき私は自分の名前すら覚えてなかったはず、もしかして記憶がもどった?
違う、その言葉はどこかで聞いたんだそれもとても懐かしい声で…
「楓ちゃん?楓ちゃん?」
「ちょっと貴女聞いてるの!?」
「ふ、ふわぁい!?」
怒鳴り声に思わず変な声をあげてしまった…どうやらまたぼけっとしてたらしい
瑞穂さんの冷たい眼差しがもう心にグサグサッってかんじに突き刺さる
「え、えっとなんでしたっけ?」
「楓ちゃんこれからどうするつもりでする?ってお話でする、楓ちゃん記憶喪失なんでするよ
ね?」
どうするって私は記憶もないし、こんな砂漠の町にほっとかれても正直困る
「あのお二人はこれからどうするんですか」
「私は大会に出れるようにまた武者修行しながら旅を続けるでするよー、瑞穂っちは?」
「貴女、私がなんでここにいるかわかってての発言ですか」
「えーっとなんでしたっけ」
じっと瑞穂さんが姫奈さんを睨み付ける、しかしそれも気にしない感じの姫奈ちゃんは随
分と大物だ、私じゃ無理だあんな目で睨めつけられたら動き止ちゃうよ
「私は今すぐにでも決着を付けてもいいのですけど」
手にはなにか難しそうな字が書いてある符術が…え、ちょっとまってここで始めちゃ
色々まずいと思うんだけど
「でもでもあのまま砂漠で瑞穂っち放置してたら今頃死んじゃってまするよ。それを助け
てもらっておいてまた戦うなんてどうかと思うでする」
事も無げにいう姫奈ちゃんに一瞬瑞穂さんの眉が引きつる
「制御できない力をいつまでも保有しているくらいならいっそ命を散らすべきです」
「そのうち制御できるようになるでする」
私が止めないとまたなにか危ない事が始まりそうだ
「あ、あの!姫奈さん!私もその武者修行ついていっていいでするか!?記憶喪失でいくとこ
ろありませんし…」
思わず言ってしまった、しかも語尾まで移ってしまっている
「いいでするよ~二人の方が楽しいでするし瑞穂っちも楓ちゃんには敵いませんでするか
らボディガードしてほしいでする」
「私が敵わない?」
冷たい視線の対象がそのままこちらに向く、なんか話を変えたつもりだったのにちょっと失敗
「いやまぁ勝負は時の運ですよ、ね?瑞穂さん」
「………。」
私の御世辞にも表情一つ変えずに睨みつけてくるのは本当止めて欲しいんですけど
瑞穂さんはそのままじっと腕を組んで考え込んでるし、やっぱりなにか苦手だ
そんな中でも姫奈ちゃんはマイペースだから羨ましい、慣れたらなんともないのだろうか
「それじゃ決定でするねーそれじゃ明日は旅の準備をしないといけないでするね」
「そうですね。あ、でもお金は」
「少しよろしいですか姫奈さん」
お金はないって言おうと思ったら瑞穂さんが鋭く話に入ってきた、わかった私はお金がな
いけれど瑞穂さんには協調性ってのがないんだ
「なんでするか?瑞穂っちも一緒に買物いくでする?」
「そうですね…どうせなら私もその武者修行とやらご一緒してもよろしいかしら」
「ええっ!?」
おもいっきり声を上げた私に二人の視線がこちらに向く、慌てて口を押さえても言葉が消
えるはずも無くもう何度目かという冷たい視線に突刺される
「なにか問題があって?夜風楓さん」
首を横に振る。なにか喋ったらまた小言を聞かされそうだもの
「それじゃ構いませんね姫奈」
「でもどうして急についてくることにしたんでする?」
「そんなの決まってるでしょう要注意人物が二人もここに揃ってる、放っておくほうがど
うかしてますわ」
要注意人物…?しかも二人?
一人は次元念者の姫奈ちゃんだとするともう一人は私?
じっと瑞穂さんのほうを見ても向こうは私を無視するつもりかこっちの方を見ない
「瑞穂さん!私が要注意人物ってどうゆうことですか?」
「言葉通りですよ夜風の民」
さらりと言うと瑞穂さんはコップの水を飲み干す
夜風の民?この人絶対何か私について知ってる!?
「あの瑞穂さん!夜風の民って…」
「それでご一緒してもよろしいのですか姫奈さん」
「構わないでするよ、けど殺しはだめでする」
私を無視して話を進める瑞穂さんにいい加減頭にきて思わず手に力がこもる
でも姫奈ちゃんがいるから私は仕方なく押し黙った、けど異世界だっていうのに私の事を知っ
ている人間がいることにはある意味喜ぶべきなのかもしれない
「それじゃ明日は三人で旅の準備ですね」
瑞穂さんは軽く微笑むと一瞬こちらを睨む、明らかに敵対している目だ
これから私、記憶を失った夜風楓はどうなってしまうんだろう
異次元を旅する次元念者、氷上姫奈
私について何か知ってる陰陽師、佐倉瑞穂
そして私…夜風楓
熱砂の砂漠で出会った三人
それが誰かに仕組まれたことなんてことはまだこのときの私達は知らなかった
すべては手の平に
あの人の手の平の上で私達は出会っただけであったのだ
そしてまた血塗られた流転の戦いは繰り返す
真っ赤、真っ赤、真っ赤
真っ赤な夕日にすべてが赤くなる
畳の上に敷かれた布団も…そこで寝ている私の顔も…
…隣で頭をなでている姉さんの顔も
「ねぇねぇ、お姉ちゃんご本読んで」
「なんの本がいい?」
「赤い靴のおはなし、お姉ちゃんがかいたほうの」
私は赤い靴の話が好きだった、けどそれはお姉ちゃんが書いた「赤い靴」の話
「あれは…んーおすすめじゃないわよ楓」
そう言いながら姉さんは鞄から古びたノートをとりだす
「やだー!お姉ちゃんが書いたのじゃないと可哀想だよぉ」
赤い靴の主人公は病気の祖母の看病をせずに舞踏会へ行く…
赤い靴は素敵な踊りを踊ってくれるけど止まらない
止まらない、止まらない、止まらない
止めて、止めて、止めて、止めて、止めて
少女の悲痛な叫びも空に消え、一人踊り続ける。どんなに止めようとしても止まらない
疲れ果てた先に少女が見たのは自分の祖母の葬式の様子…そして最後に少女は懇願するのです
────そこの木こりさん、どうか私の足を切ってください
「だってだってほんのちょっと舞踏会に行きたかっただけだよ、それなのにお祖母ちゃんは死んじゃうし、足は切り落としちゃうし」
それだけで泣きそうな私を姉さんは優しく諭すように頭をなでてくれる
「あれにはちゃんと続きがあるのよ楓」
「でもでもお姉ちゃんのがいいの、お姉ちゃんの赤い靴の話が私は好きなの」
いつもいつも私は我侭ばかりだった、それでも姉さんは嫌な顔一つせずにお話を聞かせてくれた
「しょうがないわね、それじゃ読んであげるね」
「うんー」
優しい姉さんの手大好きだった…あの手はひんやりとしていてそれでいて暖かくて
それで撫でられているとっても気持ちよくて…いつもお話の途中で寝ちゃうんだった
その度に姉さんに「もう、途中で寝ちゃうんだから」って怒られて、あれ…
姉さんのあの話どんな結末だったかな、大好きな話だったんだと思うけど
────そうゆう設定よ、忘れなさい
────そうゆう設定よ、忘れなさい
────そうゆう設定よ、忘れなさい
───────そんなこと大切にしないで早急に忘れなさい、あの話…あの話には
誰かの声がする、なんだろうこの声懐かしいけどどこか冷たい
───────あの話には終りなんて書いてないのよ
はじめに
この物語は氷桜夕雅のカクテルパーティとM氏ロストスキルのキャラを使ったパラレルワールド的なお話であり、この作品での出来事は各本編にはなんら影響を与えないことをここに提示します。
そして一部のキャラに性格の差異があることをここにお詫びします
登場人物
メインキャスト
・夜風楓(オリジナル)
本編主人公、今回は記憶喪失で砂漠を彷徨っていたところを姫奈と瑞穂に出会う。
自分が周りからどうゆう風に見られているかを気にして普段は猫かぶっているが実際はかなりズボラな性格。
・夜風紅葉(オリジナル)
楓の八歳上の姉であり、全ての分野において天才な女性。三度目となる今回はいままでの失敗点を含めて完璧な作戦を練るが・・・
実際の人物と見間違えるほどの人形を作り出すことができ、また人形操りの糸を武器とする
・氷上姫奈(ロストスキル)
次元間を移動する<次元念者>という能力を持つ少女。ただし能力の制御ができていないため一緒に飛ばされた瑞穂に危険視されている。極めて温厚な性格・・・なのはこの作品でだけ?で実際の氷上姫奈のキャラとこの物語の氷上姫奈のキャラにはかなり違いがあります
・ジーク=ダットリー(ロストスキル)
<記憶>を操る能力者で現在はルカ=マローネのアクロポリスで働いている青年。
飄々とした性格でデリカシーがなかったりもするが祖父の言葉を多用するなど一本芯の通った所もある?
・佐倉瑞穂(カクテルパーティ第五部)
佐倉流符術の継承者である陰陽師。自分以外を“下等生物”と見下しているがなんだかんだで見捨てたりはしない半端な甘さを持つ女性。
・幻=クレイド(カクテルパーティ第一部、第三部、第四部)
我流剣術(一部桜花蒼龍剣の流れを含む)と簡易起動式符術を武器にするバウンサー。ティアに協力する形でジーク捜索を請け負うがまたしても宿敵が彼の前に立ちはだかることになる
カクテルパーティ第一部主人公
・ティア=マローネ(ロストスキル)
ルカ=マローネの義妹でありナイフ投げを得意とする少女、出生には謎あり
別次元である前回、そして前々回の紅葉との戦いをなぜか記憶としてもっておりそのことから紅葉の計画阻止に乗り出すが・・・
・リスティア=リースリング
幼いながらも砂の魔女の異名を持つ少女。無口でほとんど用件だけしか口にせず「そうゆう言い方嫌い」が口癖?ティアと同じく別次元の紅葉の記憶を持ち行動するが真の目的は紅葉とは違うところにありそれを幻達に伝えるために接触を試みようとする
・水栗妖花
氷上姫奈の剣術の師匠であり姫奈の次元念者の能力によってグラディアルステーションに飛ばされリスティアに扱き使われる?子。相方がリスティアということもあってあまり事情を知らずに付いてきている感じである
・スリティ=クレイド(カクテルパーティ第一部、第二部)
漆黒の鎧に身を包む剣士。東の大陸で忌み嫌われる闇属性の人間でそれゆえ周りから迫害を受けており人間に対する態度は厳しい。咲夜=フランクと出会ったことで一時人間らしさを取り戻すがとある事件により咲夜を失ってからは完全に闇へと墜ちた
カクテルパーティ第二部主人公
・イグジット
現セドナ法王院のトップ。数年前にセドナ教に加入、スリティによって壊滅したセドナ法王院の指導者ということ以外その詳細は不明。
・ブラックフォン
イグジットの右腕であり空間に存在する構成物質を変換しエネルギー体フォトンを操る能力者。
セドナ法王院崩壊前からいた古参ではあるがその主導権をイグジットに任せている
・運命の女神セドナ
セドナ教の信仰する神でとある罪により神から人へとなった人物。
サブキャスト(名前だけの登場も含む)
・ルカ=マローネ(ロストスキル)
ティアの義姉であり、また西の大陸最強とも言われる<扉>の能力者。落ち着き払っているが抑えるところは確実に抑えるしたたかさを持っている
・セルバンティス=ディアマルクシャールス=ロリエンキュール(ロストスキル)
ルカの執事でアクロポリスの社員の一人。真面目な性格であるが怒りっぽくよくジークからおっさんだとかキューちゃんだとか言われてキレルこともしばしば
・サイル=イージス
自称リスティアの保護者で盾魔法を駆使する神官。妖花にはときおりロリコンサイルと呼ばれたりする。
・シーラ=シュクレール(カクテルパーティ第一部、第三部)
幻とクリスの幼馴染で二丁拳銃のバハムートティアと魔剣ライオットを使う少女。どんな人にでも分け隔てなく接することができる優しさをもっているがその反面孤独を極端に嫌う
カクテルパーティ第三部主人公
・クリス=リューガス(カクテルパーティ第一部、第三部)
シーラの兄的存在。しかしシーラへの想いをスリティの利用され第一部ではシーラを誘拐、幻と対峙する。
・咲夜=フランク(カクテルパーティ第二部)
フランク皇国の第二皇女。花を育てるのが趣味で特に自分の名前の由来でもある夕顔(夜に咲くから)がお気に入り。とあることをきっかけにスリティと恋仲になるが第二部終盤にて命を散らす
・リン=カーシャ(ロストスキル)
自分の中のギアを変化させて戦う格闘家。・・・ということ以外は不明
・オルディ=ハウランド(カクテルパーティ第一部、第二部、第三部、第四部)
桜花蒼龍剣の継承者で隻眼の剣士。戦闘時以外は眠ったような状態であるがその戦闘能力は東の大陸最強といわれるほどである
・カシス=ラスティム(カクテルパーティ第一部、第五部)
自称恋の伝道師。愛読書であるポルポレス作「愛の丘」シリーズのような恋愛をしたく各地をバイトしながら旅している
・ラナ=インロード(カクテルパーティ第一部)
大陸一のパン職人を目指す少女。普通の作れば美味なのだが奇抜さを求めるあまりろくな作品を作り出さない(大根おろしパン、お茶漬けパンなど)
・ジオラルド=オクロック(カクテルパーティ第一部)
貴族の家ではあるが束縛を嫌い流浪の旅をしながら弾き語りをしているバイオリニスト。何か考えているようで何も考えてない人
・セトラ=カートスル
中立都市ルラフィンにおいて未来視の能力を使い訪れる人に道を示す少女。ちなみに幻とティアが初めて出会ったときの仕事が彼女の護衛だった
・佐倉紫音
佐倉瑞穂の兄であり妖花とは旧友。実力は瑞穂より上ではあるが家を継がずイタリアにて芸術家の修行をしている。瑞穂とは違い温厚な性格である。
・松平このか
妖花のクラスメイトで極々普通の一般人。ちなみに作中でのこのかの兄というのはM氏をイメージしたキャラらしい・・・
・シズク(ロストスキル)
特殊工房インテレスの代表でありジークとは傭兵時代からの知り合い。<改造>の能力者でありマイペースで且つ大雑把な性格
・ホーク=シュワルツ=グレッグマン(カクテルパーティ第五部)
ストームオブデスという名の銃と相手の背後に立つことでその相手の動きを封じる影縄の足という能力を持つ暗殺者。正式な雇い主はおらず支払われる金の大きいほうへ簡単に裏切り行為をする男
・紗希=ローグウェル(カクテルパーティ第五部)
グレッグマンになついている絵描きの少女。無口で恥ずかしがり屋であるが絵の才能はかなりのものである
・フレア=シェイクランド(カクテルパーティ第五部)
シェイクランド城の皇女。まだ幼くわがままを言って周りを困らせることもあるが従者や民衆の名前を全員覚えていたり国民一人一人相談に乗るなど国民からの支持は高い
・レガツィ=ロック(カクテルパーティ第五部)
シェイクランド城の皇女専属衛兵。その重要な任務から伺えるようにどんな攻撃にもひるまない体力を持ちっている。ミーハーな性格であるが自分のことに関しては以外と鈍感
カクテルパーティ第五部主人公
・シャオ=カエン(ロストスキル)
ビックバードに所属する職員でルカを一方的にライバル視しているが全く相手にされていない。銃を武器に相棒であるポアとデコボココンビニを組んでいる
・ポア(ロストスキル)
シャオと同じくビックバードに所属する職員。少し引っ込み思案な性格
・デュラン=フェンバート(カクテルパーティ第三部、第四部)
十五代目フェンバート家領主でありまた元クインハルド城の王子。魔剣メルトグラシオを持っているが平和主義者で戦いを好まない。しかし一方であまりにも理想の高い平和主義者であるが故時折偽善者と思われることも
・エイミス=ブルーリバー(カクテルパーティ第三部、第四部)
デュランに仕えるメイドで銀色の髪と青い瞳が印象的な女性。デュランに恋心抱いているが身分の違いに悩んでいる。
カクテルパーティ第四部主人公
目次
プロローグ
第一章「熱砂の三人」
1 ─夜風楓
2 ─ジーク=ダットリー
3 ─夜風楓
第二章「the savior of a dream」
1 ─幻=クレイド
2 ─夜風楓
3 ─リスティア=リースリング
4 ─ジーク=ダットリー
第三章「楓と紅葉、そしてそれぞれの想い」
1 ─幻=クレイド
2 ─ティア=マローネ
3 ─夜風楓
4 ─夜風紅葉
第四章「カーレアの苦悩」
1 ─夜風楓
2 ─リスティア=リースリング
3 ─ティア=マローネ
4 ─氷上姫奈
第五章「織り成すものの戦い」
1 ─ジーク=ダットリー
1.5 ─カーレア
2 ─夜風楓
3 ─幻=クレイド
3.5 ─ブラックフォン
4 ─リスティア=リースリング
4.5 ─イグジット
5 ─氷上姫奈
エピローグ
・・・とかまぁ、新キャラのラセット=ブラウンさんは叫んじゃうわけ
でもねーこの歳になると
「必殺技名を叫ぶのが恥ずかしい!」
ついでに詠唱もまだましかなと思いつつやっぱり恥ずかしい、今だったら「高速で言術を呟く」とかでごまかすわぁ
デトノベのいくつかで中学生の頃書いてたスターナイトの話があったけど
こいつら毎回必殺技叫ぶから続きを書く気にならないんですよ
カクテルパーティーもそうだなソリチュードストライク!とか個人的に今でも好きだけど多分叫ばさないな
大体叫ぶ必要あるの?って感じ
吸血鬼エクルがさスレートさんを赤い光で胸を穿つシーンあるじゃない? イメージ的にはあれレミリアのグングニルだかゲイボルグなわけよ
でもそこでエクルが「さっきから邪魔なのよ犬風情が!死になさいジャベリン!」とか言われると急に陳腐に聞こえるの
叫ばな出ないのか?と
いやまぁ元々陳腐な小説ですけども
ましてや暗殺者が飛び掛かりながら「我が奥義天翔斬破を受けよ!」とかいいよ名前とか言わんでもとかなるし
酷いと「この技の名を聞いて生きて帰ったものはいない!」とかなんか勝手に価値あるみたいに言うの
この辺りを上手く書ければバトル物やれるんだけどね
かと言って叫ばなくても仲間が「あ、あれは!」「知っているのか?」
「噂に聞いてはいたがその使い手がいるとは」みたいになるのもダメよね
以下は今書いてるデトノベのちとネタバレ
でもねーこの歳になると
「必殺技名を叫ぶのが恥ずかしい!」
ついでに詠唱もまだましかなと思いつつやっぱり恥ずかしい、今だったら「高速で言術を呟く」とかでごまかすわぁ
デトノベのいくつかで中学生の頃書いてたスターナイトの話があったけど
こいつら毎回必殺技叫ぶから続きを書く気にならないんですよ
カクテルパーティーもそうだなソリチュードストライク!とか個人的に今でも好きだけど多分叫ばさないな
大体叫ぶ必要あるの?って感じ
吸血鬼エクルがさスレートさんを赤い光で胸を穿つシーンあるじゃない? イメージ的にはあれレミリアのグングニルだかゲイボルグなわけよ
でもそこでエクルが「さっきから邪魔なのよ犬風情が!死になさいジャベリン!」とか言われると急に陳腐に聞こえるの
叫ばな出ないのか?と
いやまぁ元々陳腐な小説ですけども
ましてや暗殺者が飛び掛かりながら「我が奥義天翔斬破を受けよ!」とかいいよ名前とか言わんでもとかなるし
酷いと「この技の名を聞いて生きて帰ったものはいない!」とかなんか勝手に価値あるみたいに言うの
この辺りを上手く書ければバトル物やれるんだけどね
かと言って叫ばなくても仲間が「あ、あれは!」「知っているのか?」
「噂に聞いてはいたがその使い手がいるとは」みたいになるのもダメよね
以下は今書いてるデトノベのちとネタバレ
プロフィール
HN:
氷桜夕雅
HP:
性別:
非公開
職業:
昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい
本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!
名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!
名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz
バージョン0.06
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