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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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リスティア=リースリング
 
ハームステイン都市部から少し離れた何もない砂漠、日もすっかり落ちてあたりは闇に包まれ
ていた
少女は一人小高い砂丘の上で佇んでいる、見たところその姿はかなり幼く頭からすっぽりと被
ったローブが地面をするほどだがそれに似合わず少女の顔は燐としたものだった
「……遅い」
砂漠の夜は昼間とはうって変わりひどく冷える、少女は小さく呟くと軽く身を震わせて片手に
もった杖で砂の地面に術式を描いていく
術式〈砂目録〉と呼ばれるその術式は砂を介して遠方にいる人間の状況を見ることができる大
陸では第二級術式と呼ばれるほどの高度な術である
「…もっと一杯抜いておいても良かったかも」
地面に幾何学模様を描きながら懐から綺麗に折りたたまれた紙包みを取り出し広げた、そこか
ら覗かせていたのは誰ともわからない数本の黒く長い髪の毛、少女はその魔方陣の中心に作っ
た窪みに落とすと杖でその髪の毛を砂にかき混ぜる
「これくらい……」
少女が息をつき集中すると盛り上がった砂の上に杖を突き立て両手を広げ念じる
「ジミモデ・エカクージアィ・テンゲ…」
呪文を詠唱すると共に砂に書いた魔方陣が蒼く光りだし辺りを照らす。突き立てた杖がゆっく
りと宙に浮いていき、魔方陣の内側にゆっくりと人影が写ってきているのがわかった
「おおっとそっこまでなんだよねぇ~」
突然少女の背後から声がした。
「──!?」
「『ジ・エンド」だぜぇ~」
少女が振り返ろうとした瞬間強烈な音と共に突風が彼女を襲う。少女の小柄な体はいとも簡単
に風によって吹き飛ばされ砂丘の上を転がった
「うっ……誰?」
なんとか受身を取って立ち上がる少女の目の前には一瞬黒い淵の広い帽子に黒いコートをはお
った長身の男と、突風の攻撃を受けたせいだろうか杖が折れたせいでその輝きを失っていく魔
方陣が見えたがそれらはすぐにまた闇の中に消える。
夜の闇のせいというだけではなくなんらかの魔導アイテムによって周りいつのまにか人工的な
闇を作り出しているような感じだ
「ふふぅ~ん、お嬢ちゃん俺の名前を知ったら死ななきゃならないぜぇ?」
再び闇に染まった砂漠で顔こそはっきりとは見えなかったが口から見える白い歯が不敵に笑う
「先に聞いておくけどぉ~お嬢ちゃんリスティア=リースリング、間違いないよねぇ~まぁこ
の俺が間違えるわけないんだけどねぇ~。もし間違って未来のある若者の命を摘み取っちゃぁ
可哀想だからねぇ~!!そう思うよねぇお嬢ちゃん?」
「…お嬢ちゃん、そういう言い方嫌い。私はリスティア=リースリング、あなたは一体誰?」
おそらく同年代の少女なら震えて声もでないだろうがその少女──リスティア=リースリング
──は毅然と答える
「やぁっぱりリスティアちゃんだぁねぇ~。ああ俺の名前?そんなに知りたいなら教えちゃお
っかなぁ」
暗闇に男の陽気な声が響く、だが静かになにかかが装填されていく音をリスティアは聞き逃さ
なかった
「俺の名前はホーク=シュワルツ=グレッグマン、若いお嬢ちゃんには悪いけどねぇ一応暗殺
依頼が来てるんで死んでも貰おうかなぁって」
「……誰の依頼?」
「んん~それは教えられないねぇ、でもお嬢ちゃんも本当はわかってるんじゃぁないかなぁ?
関係ないのに余計なことに首突っ込むもんだからこうやって狙われるんだぜぇ~これでお嬢ち
ゃんの命も『ジ・エンド』になっちゃうんだねぇ」
男の声のするほうから何かの鍵が外れるような音がする、それが大陸でも珍しい銃と言う武器
で今それがリスティアに向けられているのがわかった
だがリスティアはじっとグレッグマンがいるだろう暗闇を見つめたまま動かない
「まったくもって物分りのいい子だねぇ、そのままじっとしてくれてれば苦しまずに逝けるか
らねぇ~」
ゆっくりとグレッグマンが狙いを定める。だがリスティアはただじっと殺されるのを待ってい
たのではなかった……術式〈砂目録〉によって魔力を帯びた砂、それが先程の攻撃で宙に舞い
上がり、その砂を通じてグレッグマンの位置と動き把握していたのだ
リスティアが目をゆっくり閉じるとその脳裏にはリスティアから大体150カルト離れたとこ
ろにいる、そしてもう一人誰かがこの砂漠を走ってきているのを感じていた。
夜の砂漠とはいえ砂の上を走るのは相当体力を消耗するため普通ならそんなことはしないはず
けれどリスティアには一人その人物には覚えがあった
「体力馬鹿で遅刻魔………」
「そいじゃ『ジ・エンド』だぜぇ!!」
リスティアがぽつりと呟いたとほぼ同時にグレッグマンの銃の撃鉄から激しい音共に弾丸が打
ち出される、しかしリスティアは逃げることも身を守ることもしようとはしない
「リスティ、伏せろ!!」
叫び声と共にリスティアとグレッグマンの間を何者かが飛び込んでくる。次の瞬間、激しい金
属同士がぶつかる音とともに放たれた一瞬の光がもう一人の人物を照らし出した
「な、誰だぁ?あんたはぁ?」
突然の斬撃にグレッグマンが驚きの声を上げる、だが返ってきたのはあっけらかんとした声だ
った
「弾丸を斬るのは嫌いだねぇ、刃こぼれするから…ってあっちゃーこれ安物だから次やったら
折れちゃうな一度やってはみたかったんだけど」
「……妖花、遅すぎ一時間二十八分三十九秒の遅刻。なにしてたの?」
「いやぁ創作パンとかいうのがあってさそれが不味いのなんのって、調理学校の生徒やってた私からすればさほっとけなかったの、まぁ肝心なときに戻ってきたんだから許してよ」
まるでつまみぐいを謝るような軽い口調で言うと妖花は深呼吸をする
水栗妖花、リスティアがと一緒に旅をしている仲間である。
彼女はリスティアのいた世界とは別の世界からやってきた人間でなんでも自分の弟子の不確定
な能力のせいでこの世界に来たということくらいしかリスティアは知らない
リスティアと妖花の出会いには一悶着あったのだがそれはまた別の話である、だがパーティを
組むようになってからもそのチームワークは微妙で先程もとある計画のために妖花に動いても
らったのだが戻ってくる約束の時間にも戻らなかったため妖花から出発する前にもらっておい
た妖花の髪の毛を使い術式〈砂目録〉で居場所を特定しようとしていた所だったのだ
「俺の弾丸を切り裂いただと、この闇の中で……」
闇の中でグレッグマンが呟く、その声は明らかに苛立っているようだった。それもそのはずこ
の暗闇の中でただでさえ動きを捉えることの難しい銃弾を斬り抜くような人物が突然乱入して
きたのだから、少なくとも二対一の状況で戦うことをグレッグマンは予想していなかった
「あ、そういえばあいつ誰?」
「……敵、どうせ妖花にいってもわからないからとりあえず敵です」
「了解っと、まぁ夜も深まってまいりましたしさっさとけりをつけようじゃない」
妖花は銃弾を斬ったことで欠けた剣をしまいもう一振りの刀を抜くが当のグレッグマンのほう
は未だ妖花の登場についてこれていなかった
「んぁ?確かリスティア=リースリングはサイル=イージスと行動してるってのは資料にあっ
たけどよぉ~女剣士なんてのは聞いちゃいねぇぜぇ~!!サイルがいないうちを狙ったのによ
ぉ~~~!ええい聞けッ!そして答えるんだねぇ~剣士の姉ちゃんあんた何者だぁ!?」
「一応あたいも女の子なんだけどさ、それって女の子に名前を聞く態度?まぁいいけど、あた
いは水栗妖花、水栗流剣術の使い手さ」
「え、なんだって?荷造りぃ洋館?聞いたことないねぇ~」
「荷造りじゃないてっの!みーずーくーり!あったまくるなぁ、覚悟しなさいよあんた」
勢い立つ妖花だがリスティアはグレッグマンが少しずつ後退しているのに気付いていた
「水栗だが荷造りだか知らないんだけどねぇ、暗殺者は確実に殺せるときじゃないと戦わない
んだねぇ~まぁ今回は運が良かったねぇリスティアたん」
「……その言い方も嫌い」
「ま、待ちなさいよ!」
「待てないねぇ~待てるわけないねぇ~!!んじゃまぁそういうことでぇ~」
突如としてリスティアの砂のレーダーからグレッグマンが消える、おそらく空間転移系の魔導アイテムを使ったのだろう…妖花も目視で消えたところを確認したのか軽く舌打ちをして刀を収めた
「まったくなんなのよあいつはぁ~」
「…あれは今のところほっておいても大丈夫。それより妖花、彼女はどうだった?」
「ん?どうって言われても普通の女の子じゃない、まぁあんたの言うとおり姫奈と紫音の妹も
いたけどさぁ…。あの子がそんなに大事なわけ?」
リスティアは妖花に今回の事についてなにも話してはいない、理由は妖花に教えてもわからな
いだろうからということになっているが妖花に話したら猪突猛進に行動しそうだからと言うの
が本当の理由だ
「それで他に気がついたこと、ない?」
「気がついたことねぇ……あ、そういえばあの子記憶喪失とか言ってたけど」
「……記憶喪失、それなら」
──記憶喪失、その言葉のおかげでリスティアの心の中で一つの疑問が弾ける。
それだけでもこうして妖花を接触させた価値がある、そしてリスティアは次に自分達が取るべ
き行動を導き出す
「妖花、今からグバルディン闘技場に向かうから」
「ぐるばでぃん…?ってまさか今から西の大陸に戻るわけ!?ちょ、今真夜中よ?」
「…時間、ないから」
大声を上げる妖花を一言だけ呟くように言うとしてリスティアは歩き出す、あまりに妖花の反
応が予想通りで少しリスティアには物足らなかった
「あーあーまったく、あのロリコンサイルどうゆう教育してんのさ」
妖花は今はいないもう一人の仲間の事を愚痴りつつ、しぶしぶリスティアの後を追うのだった
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夜風 楓
 
カーレアが眠った、そのときがわたしが目覚める時間
またカーレアは次元を跳躍したみたい
再び繰り返されるというのね血塗られた流転の戦いが
それでもわたしにはこの世界が全て、冷たい大理石の上で目隠しをし鎖につながれて時が
くるのを待つだけの世界
わたしは天井を見上げる、吹き抜けになっている天井から太陽の光がアイマスクを通じて
瞳の奥に吸い込まれていく…
わたしはここに来てからずっと目隠しをされたままでいる
何故ならわたしが次に見るのは『新たなる世界』だからとあの人が言っていた、だからわ
たしはそれに従っている、あの人のために
じっと太陽の光を見ているとガラガラと扉が音を立て開いた、ああそうか食事の時間だ
最近食事の当番が小さな女の子に変わった、歩く歩幅や彼女が入ってきた時に広がる甘いマー
ガレットのシャンプーの香りからわかる
彼女は全く喋らない、前の食事当番も無口だったがそれでも「口をあけてください」だと
か「気分はどうですか?」だとかは言っていた
気分はどう?目隠しをされて鎖で手足を拘束されてそれが気持ちいいと感じるならそれは
マゾというものね、確かそのときはそんな風に思ったっけ
彼女は御粥をすくって口元に運んでくれる、いつもの美味しくない食事だ。冷たくもなけ
れば熱くもない、ぬるくてそして味がない…そもそも御粥であるのかも怪しいくらい
にドロドロとした液体をわたしは毎日二回口にしている
食事というよりもこれもあの人のいう儀式の前準備だと思うようにしている、でなければ
こんなのは食事とはいえるような代物ではないから
食事が終わると前の食事係はそそくさとでていくのだが、彼女はいつも決まってわたしから
少し距離をとって絵を描き始める
上質の紙の上を走る石炭の音がする、おそらく彼女は相当絵を描くのが上手いんだろう
描画する音がまるで一つの旋律を奏でているように聞こえるからだ
だが彼女に与えられた時間は少ない、多分すぐ戻ってくるように言われているのか
四、五分もしたら彼女に迎えがやってくる
「紗希たーん、あんまり長いこと絵描いてるとまたブラックフォンのおじじに怒られるよ
ん」
迎えに来るのはいつも同じ男、微かに血の匂いと薬莢の匂いが混じった男だ。
明るい感じの声だけどきっと危ない人間に違いない
そして彼女が出て行ってしまうと後はわたし一人の退屈な時間に引き戻される
ああ、カーレアが羨ましいなどんなに苦しい状況でもカーレアには変化というものがある
わたしにはそれはない
はやく来てくれないかな、わたしの夢の救世主カーレア…
 
 
 
「う…夢?」
妙にリアルな夢に目が覚めた、時計はすでにお昼を回っているようでまた暑い日ざしが差
し込んできている
なんだろう変な感じ…
さっきみた夢はなんだったのかよくわからないけどただ色んな音やそこに漂う匂い、自分
が素足で冷たい大理石の上に触れている感覚だけがはっきりと残っている
夢なのに感覚があるなんて不思議な事もあるんだなぁ
自分の足に触れてみたら確かにそこだけなんだかひんやりと冷たかった
んーよくわからないけど多分あれじゃないかな、赤い物を皮膚に近づけると暖かくなって
青い物を皮膚に近づけると冷たく感じるとかそういった類の現象?深く考えてもしょうが
ないからそうゆうことにしておこう
んぅ…まだ昨日の疲れが取れてない感じだ、もう一度寝なおしてみようかな
疲れた体には暖かい布団で寝るのが一番だもんね
そう思って布団を被り直したみたがそれはすぐに剥ぎ取られてしまった
「貴女、この期に及んで二度寝するつもりですか」
なんか嫌な予感
顔を見上げるとみると既に怒りの限界を突破している感じの瑞穂さんが見えた
「お、おはようございまぁす」
とりあえず一番の笑顔で元気よく挨拶をしてみる…けどまぁ瑞穂さんには全く
の無意味っぽいのはわかってた
「早急に仕度をしてくれませんかね?私達かれこれ三時間も待ってるんですけど」
思い出した!そういえば昨日寝る前に明日は暑くならないうちに買物をしようとかいって
たっけ…って!そもそもその提案したの私じゃない
「ご、ごめんなさいっ!すぐ準備しますから」
ベットから転げるように降りると一気に洗面台まで走る
顔を洗って髪を梳く。かなりの癖毛に思わず「女の身支度は時間がかかるのよっ!」って
叫ぼうとおもったんだけど鏡の奥に映った瑞穂さんの顔を見たら言う気もなくなった
まぁそれでもさすがにロングのままってわけにもいかず仕方なくリボンで髪をまとめ
てポニーテールって形にしておいた
「お、おまたせしましたぁ~」
「あ、楓ちゃんおはようでする」
宿の前に出てみたら姫奈さんが正面の日陰に座り込んでいた、結構待ってたみたい
「ごめんね、寝坊しちゃって」
「いいでするよぉー疲れているとおもって起こさないようにって思ってんでするけどー
なんだかその様子だと瑞穂っちが無理矢理起こしちゃったみたいでするね」
な、なんていい人なんだろう…それに比べてぇ~
私はちらりと瑞穂さんの方を見るが我介せずといった感じに空を眺めている
んむぅ、まぁ寝坊しちゃった私が一番いけないんだけどね
「それじゃ出発でするね♪」
そういって私の手を引っ張って走り出す姫奈さん、よっぽど楽しみにしてたんだなぁ
「えーと、あれもいいでするねー、これもいいでするー」
姫奈さんと二人ハームステインの露天街を歩く、ちなみに瑞穂さんは私達とは少し離れた
後ろを歩いている…亭主関白?ちがうな多分一緒に歩きたくないんだ
それにしても砂漠も暑かったけど街中はもっと暑い、人の発する熱と何故かいたるところ
に立っているかがり火で多分砂漠の中よりも気温が上がっている
ああ、だから朝の涼しいうちに買物行こうって誰かが言ったんだっけ…私だけど
後悔の溜息をつく、まぁしょうがないよ疲れてたんだから
「んーここら辺は武器ばっかりでするね~食料が欲しいんでするけど楓ちゃん昨日のパン
フレットもってまする?」
「あ、ちょっとまってください」
パンフレット、昨日宿で姫奈さんが見せてくれた物のことだろう。それには街の大まかな
地図も載っていたはずだ
「えっとこれですね」
私が広げた地図を二人で覗き込む、中央に巨大な王城ハームステイン城があってその周り
を放射線状に街が広がっている。今私達がいるところが南側の武器街だとすれば食料関係
はここから反対側の北側に位置するようだった
「それじゃ時計回りに回っていけばいいでするね~」
姫奈さんは私にパンフレットを預けて楽しそうに巫女姿で駆けて行く、元気だなぁ
それにしてもこの世界は変わっている、いやこのファンタジーっぽい世界に和風な巫女っ
てのはどう考えてもおかしいよ
現在記憶喪失中な私でもこの世界が私の住んでいた世界とは逸脱していることはわかる
もう一度パンフレットに目を落とす、裏は大会優勝者ばっかりの羅列だったから表の方だ
東の大陸ウイングガルドにおける三大国家はクインハルド、フランク、ハームステインで
ありハームステインはこの中でも最後にできた国家である…
元は南方の砂漠地帯にすむ民族の集団でとても好戦的であり、この街自体も闘技場が最初
に造られてそこにくる戦士達が休めるように宿ができ、武器を売るために商人が店を建て
る、そんな風に発展してきた
うーん、どうもしっくりこない。記憶がないんだけど少なくとも私がいた世界って感じで
は無い気がする、どちらかといえば姫奈さんや瑞穂さんみたいな感じの服装の人達がいる
世界だったような…
とりあえずこの露天で売っているような魔導アイテムとか魔術の秘薬だと見たことない
でもそうするとなんで私はこの世界の文字を読めるんだろう?
「楓ちゃん~みてーレアカードでたでするー」
気がついたら姫奈ちゃんは綺麗な装飾が施されているカードを手に喜んでた
「レアカードってなんですかそれ?」
「コンフリティック=タロットっていういま人気沸騰のカードゲームでする」
「カードゲームですか」
カードには炎の剣を持った巨人が描かれている、炎の世界ムスペルヘイムに存在する巨人
スルト。神々はここから飛んでくる火花のうち、大きいものを太陽と月に。小さいものは夜空にばらまき、星にした。炎の魔剣レーヴァテインを持っている…
ちょっとまって、これって北欧神話ってやつじゃなかったっけ?
それ以前に私記憶喪失のはずなのにそんなどうでもいいことは覚えてるんだ
…でもそれよりも
「それで姫奈さんこれってなにか旅に役に立つんですか?」
それは言ってはいけない言葉だったみたい、姫奈さんの表情が一瞬固まる
「ほらあれでする、長旅だとメンタル面的に疲労するでするからそれの解消でするよ」
「でもそんなに買っちゃったら食糧とか買えるんですか?」
私の言葉に更に姫奈さんの表情がさらに固まる。姫奈さんが持っているレアカードは一枚
だけど袴に隠れるように大量のカードが入った紙袋が顔を覗かせているのだ
なるほどね、姫奈さんレアカードのために大量購入したってわけか
「だ、大丈夫でする。食料とかは現地調達で食べれる薬草とか知ってるでするし」
「私は道端に生えた草など口にしたくはありませんが?」
いつのまにか私の隣にまで来ていた瑞穂さんが冷静に答える、神出鬼没だなぁこの人も
「瑞穂っちー突然現れないでくださいでする」
「貴女達は買物一つとてろくにできないのですか?」
「い、いつのまにか私まで一緒にされてるし」
「だってしょうがないでするよぉーコンフリの新しいバージョンがでたでするよ、これは
買わないと他の皆に乗り遅れるでする!」
拳をぎゅっとして意気答える姫奈さん、んー相当カードゲームに夢中らしいけどなにか目
的が違わない?
「いくら貴女がレアカードを出そうと実力が無ければ無価値ですけど」
「むー!それじゃ今夜また勝負でする!」
ん…もしかして瑞穂さんもコンフリティック=タロットだっけかをやるのかな?
瑞穂さんなら「こんな下等生物の玩具等に興味ありませんねぷんすかぷん」とかいいそう
なのに少し意外だ
「そうだぁ!楓ちゃんもやるといいでする、いらないカードなら私があげるでするよ」
そういって姫奈さんは私にずっしりと重い手提げ袋を手渡す、紙とはいえかなり大量に入
っているため結構な重さだ
本当買い過ぎだよ…
「それはいいとして、すみやかに買い物を済ませましょう。買物はまだなんでしょう?」
なんだかんだ言って瑞穂さんは仕切りたがりだ、いつのまにか中心になって事を進めてく
れる
「正直野営などはしたくはないのですが仕方ないです、テントと固形燃料くらいは欲し
いですし後は食料ですか。まぁ私に任せれば問題はありませんよ」
瑞穂さんが獲物を狙うかのように露天を物色始める、ああ…あんなきつい目で見られ
たらそれだけで販売価格が三割は引かれるだろうなぁ
私は後ろを歩きながらくだらない事を妄想していた。
 
「まぁこんな感じですかね」
そういって瑞穂さんは息をつく、日はもう落ちかけていて夕日に照らし出される瑞穂さん
の姿はなにかを成し遂げた達成感で光り輝いて見えました、まる
んー買物一つでここまでいうのはちょっと無理かな
でもまぁ瑞穂さんの買物術とでもいうのかは確かに凄いものだった、なんたってほとんど
の物を脅して安く…じゃなかった値切って安くしちゃうんだもの
まぁそのおかげで少しはそこらへんに生えている草とかを食べなくてすむから感謝しないと
「あうあうー前が見えないでするよぉ」
横で姫奈ちゃんが缶詰の入った袋を持ってフラフラしている、いつ袴の裾を踏んで転んで
もおかしくないくらいだ。かくゆう私も似たような状況、しかも姫奈ちゃんにもらったカ
―ドの大量に入った手提げ袋付きだ
「瑞穂っちも持ってくださいでするよ」
「なんで私がそんな重い物を持たなければならないのかしら?そうゆう仕事は貴女達の方
がお似合いですよ」
まぁそうゆう返答がくることは容易に想像できた、わかりやすいなぁ
「でもまぁ少しは休憩くらいさしあげてもいいかもしれないわね、とりあえずあの店にで
も入りますか」
そういって瑞穂さんが指差したのは町の外れにある建物、珍しく静かな感じの喫茶店のよ
うだった
手ぶらの瑞穂さんは軽い足取りですたすたと歩いていく、私と姫奈ちゃんは慌てて後を追
った
からん───
ドアのカウベルが涼しげな音を奏でる、どうやら地元の店ではない感じだ。他の店は大抵
かがり火をつけて汗臭さと熱気あふれる状態だったのだがこの店は一転、風通しの良い店内に真っ白なテーブル、真っ白な椅子が並び爽やかな感じだ。
「うわぁ、いい香りでするね」
「本当、なんか急におなか減ってきたよ」
外からでも漂ってきた紅茶とパンケーキの甘い匂いがより強くなる。
「ん、あ…もしかしてお客さんですか?」
カウベルに気がついたのか奥の調理場から細身の男性が現れる。でもウェイターにしては
変だ、なぜか男の人は片手に立派なヴァイオリンをもっているのだから
「ええ、そうよ。この店は客が来たというのに水も出さないんですか」
「僕はこの店の演奏家でして、ちょっとまってくださいね。おーいカシス君」
「なにージオラルド君―」
男性の声に調理場の奥から髪の長い女の子が顔を出す、服はあれだウェイトレスとかが着
る、えーと…
「アンミラメイドでするね~」
そう、それ!姫奈ちゃんが代弁してくれたアンミラ服だ。正式名称はアンナミラーズ、胸
当てのないサロン・エプロンの一種でそのため胸が大きく意識された服である
ん…?一瞬なにかと繋がった気がするがそんなことはどうでもいいや
「え、あれ?もしかして…お客さん?」
ひょっこり顔を出したカシスさんもジオラルドさんと同じ反応をする、なんだろうこの店
お客が来るとなにかあるんだろうか?ジオラルドさんが軽く頷くとカシスさんは慌てた感
じで奥から水の入ったグラスを持ってきた
「お客様はあれですか?旅の途中とか?」
「そうですが何か。それより貴女この店はメニューもないようですが一体どうゆうつもり
なのかしら」
グラスの水を軽く飲むと瑞穂さんがカシスさんに問い詰める、確かにこの店の雰囲気はい
い感じなんだけどお客が来る事を珍しがったり、メニューがなかったり色々と変わってる
なによりなんだろう私達以外お客が誰もいないのが気になる…
「メニューは店長がお客様の顔を見て決めるようになってるんですよ、あはは。では私は
店長を呼んできますね」
カシスさんはなぜか申し訳なさそうに言うと調理場のほうへ消えていく、ジオラルドさん
はというと普段の定位置なのだろうか少し高い台座の上に立ちヴァイオリンの演奏を始め
ていた。
「変わったお店でするね~なにが出てくるか楽しみでする」
「そ、そうだね口に合えばいいけど」
「口に合わなければお金を払う必要はありません」
瑞穂さんなら本当にやりそうで怖い、そう思った瞬間だった
ドンッっという音とともに店全体に衝撃が走る、あまりの衝撃に思わず私と姫奈ちゃんは
席から立ち上がる
「あわわ爆発でするよ」
「な、なにこの衝撃!?」
「あー日常茶飯事なんで気にしないでください」
慌てる私達にニッコリと微笑んでジオラルドさんが言う、けどこれが日常茶飯事って一体
全体どうゆう店なの?
「…随分と賑やかな喫茶店だこと」
瑞穂さんだけは席から立たずに冷静に事の展開を見つめていた。
衝撃からしばらくした後白い煙を後ろに纏い緑髪の女性が姿を現す、といっても白い煙
──おそらく小麦粉なんだろう──を頭からかぶっていて殆ど白い人だ
やっぱり変な店だと店長も変な感じだ
「けほっ、けほっ!あーいらっしゃいませーラナ=インロードの喫茶店『組曲』へ」
「あなたが店長さん?」
「そうです、私が天才パン職人予定のラナ=インロードですっ!いやぁちょっと新作パン
を作ってたら爆発起こっちゃいまして、まぁ失敗は成功の元が私の信条ですから気にしま
せんけどね~」
ラナさんが小麦粉をばら撒きながら笑う。一体どうやったらパンを作っててあれだけの爆
発を起こせるのかわからないけどこれもある種の才能ってやつなんだろうなぁ
「けほっ、だからこのバイト嫌っていったのよぉ!」
調理場から這いずるようにでてくるとカシスさんが叫ぶ、ああ…なるほどどうして客がいない
のかこれだけでわかった気がするよ
「それで貴方達のくだらない漫才はもう結構です。それで店長さん、早い所私に出すメニ
ューを決めてもらえるかしら」
瑞穂さんが肩肘をついて溜息一つついて言う、この状況でこの人は食べるつもりなの?
どう考えても不味いに決まってるじゃない!
「わっかりましたぁ~それじゃカシスちゃん、元気一杯袴娘の彼女にはナンバー67をこ
ちらのクールビューティな陰陽師の彼女はナンバー79を、それでこっちの謎の少女風の
子にはナンバー99試作型を御願い」
ラナさんの指示に小言で「こんなバイトやめりゅ…」といいながらカシスさんが調理
場の奥へと消えていく
それよりなんでラナさん瑞穂さんが陰陽師ってわかったんだろう、姫奈ちゃんは袴姿だか
らいいとして瑞穂さんなんて傍から見れば嫌味の多い女学生にしか見えないけどなぁ
そして私は謎の少女って、まぁ確かに私の存在なんて私自身でさえ謎だからいいんだけど
「二人ともそろそろ座ったらどうですか」
「あ、うんそうでするね。爆発と味はあまり関係ないでする」
「はぁ…ここまできたら腹をくくるしかなさそう」
私と姫奈ちゃんが座ったとほぼ同時くらいに調理場のほうからカシスさんが出てくる
そして三つのパンが私達の前に並ぶ、見た目三つのパンは差異がないようだがラナさんの
口ぶりからして中身になにかがあるんだろう
思えば私のだけ試作型っていわれてた気がする、うぅなんか嫌な予感
「それじゃ私からいただくでする」
姫奈ちゃんがまず最初にパンにかぶりつく、いくら朝からなにも食べてないとはいえあん
な爆発を見せられた後にこの行動はすごいと思う
「ど、どう姫奈ちゃん?」
恐る恐るたずねてみる
「そうでするね、美味しいとは思うでする。ただなんていうか味がないというか」
そう言いながら姫奈ちゃんは首を傾げながら何口か口にしている。
「違う違う、そうやってたべるんじゃないですよっ!」
味はともかくまだ食べれる範囲の物らしい、とりあえずは一安心だ。そう思ったときいき
なりラナさんが小麦粉をばら撒きつつ大声を上げる
「このパンは専用のソースをかけて召し上がってくださいっ!」
ラナさんはポケットのなかから一本のボトルを取り出しテーブルに勢いよく置く
ボトルの中は専用といいつつどこにでもあるような普通のサラダドレッシングのようだ
「これをかけると味がするでするか?」
「はいっ!皆さんもパンに野菜を挟んで食べた事はあるとおもいます。けど噛み切れずに
ボトボトっと落としちゃう事ありません?それを無くすためにパン自体に野菜を練りこん
でみたわけです、小麦も野菜も同じ植物相性ばっちり!名づけてヘルシー野菜パン!」
なんか説得力のあるようなないような解説を述べながらラナさんはボトボトと姫奈ちゃん
のパンにドレッシングをかけていく、ボトルの中身ほとんどをかけ終わった辺りでラナさ
んは親指を突き立て
「さぁめしあがれっ!」
と叫ぶ
姫奈ちゃんの前にはサラダドレッシングでべとべとになったパン、らしきものがあった
「それじゃ食べてみるでする」
「えっ、姫奈ちゃん食べるの…それ」
「何事もチャレンジでする、もしかしたらとんでもなく美味しいかもしれないでする。調
理学校の生徒でもある師匠も言ってたでする」
どこまでも前向きな姫奈ちゃんは凄いと思う、でもあれだよ勇敢と無謀は違うって言うか
「うりゅ…これはっ」
案の定姫奈ちゃんは口を押えて苦しそうな顔をしてる、ラナさんの「お味はどうですか?」
といった質問に「独特な味でする」と一言言うと黙り込んでしまう
「それじゃ今度はあなたの番ね、楓さん」
姫奈ちゃんの状況を見てみぬ振りか事も無げに瑞穂さんが告げる、どうやら覚悟を決めなきゃ
駄目みたい
「そ、それじゃいただきます」
死ななければ何とかなるって感覚で私はパンを手に取りかぶりつく
一口目、確かにパン自体の味は悪くはないみたいだ
二口目、ガリっとなにかが口の中で砕けて一気に苦味が広がっていく
三口目…を口にするのは止めた
「ううっ…ラナさん、これなんなんですかぁこれ」
「パンだけじゃ栄養のバランスは偏ってしまうので色々な栄養薬を混ぜてみました、名付
けてサプリメントパンっ!」
「え、栄養薬…」
よくみるとパンからはカプセルが砕けて粉状の薬が飛び出している、本当もうありえないよ
 
ラナさんの珍妙なパンを食べてから半時間、結局私と姫奈ちゃんは珍妙なパンの味について
いけず仕方なくカシスさんの淹れた紅茶を飲みながら雑談をしていた
ちなみに瑞穂さんの食べたパンは『羊羹パン』という意外と?食べれるパンだった、どうせ
なら物凄く美味しくないパンを食べてほしかったと心なしか思ってしまう
「それで明日からはシェイクランド方面に向かおうと思うでする、そこから船に乗って一旦
西の大陸グラディアルステーションに渡ってですね…」
露店で買った大陸地図を指でなぞりながら解説をする姫奈ちゃん
「ここ、タートの街に行くでする。ここには私の知り合いの記憶を操る能力者さんがいるので
記憶喪失の楓ちゃんの記憶も呼び起こしてもらうでするよ」
「記憶を操る能力者?」
「そうでする、ジーク=ダットリーさんって言うんでするけどジークさんは手で触れたものの記憶を操れる魔法使いみたいな人でする」
確かにそのジーク=ダットリーって人に会うことができれば私の記憶も甦るかもしれない
でもジーク=ダットリーって言う名前、どこかで聞いたことがあるような
私はいつもの癖で頭を小突き思い出そうとするが結局何も思い出せなかった
「あ、でもハームステインからのほうがタートの街へいくのに近いんじゃないんですか?」
ジークさんのことはとりあえず置いといて私は大陸地図のシェイクランドの位置を指差す
地図によると今いるハームステインよりもシェイクランドのほうが東に位置している、西の大
陸にあるタートの街へ行くには遠回りのような気がしたのだ
「それはでするね、ハームステインから出ている船は大会関係で乗るなら安いんでするが一般
の旅行客にはちょっと乗船券は高いんでするよ、だから一旦シェイクランドにでてから船に乗
るんでする、シェイクランドからの船なら魔動力の船でも結構安いんでするよ」
姫奈ちゃんが得意そうに鼻を鳴らす、異世界から来たというのに姫奈ちゃんはこういうことに
とても詳しいみたいだ
「あ、瑞穂っちもこのルートでいいでする?」
「ご自由に、私はただ付いていくだけですから」
私達の相談に参加していない瑞穂さんがつまらなそうに言葉を吐く、興味がないようで先程か
らティーカップに移る自分の姿をじっと見つめていた
「でもやっぱり美人三姉妹の旅なんですから皆で決めるのがいいでするよ」
「私と貴女達下等生物を同列に論じないでもらいたいですね」
はき捨てるように言うと瑞穂さんは見つめていたティーカップの紅茶を啜る
「下等生物同士の相談事など時間の無駄、と言いたいんですよ私は」
「その下等生物に助けられたんでするよね~瑞穂っちは~」
「な……誰が助けろといいましたか!」
またはじまった…
もはや夫婦漫才のような瑞穂さんと姫奈ちゃんのやりとりをよそに私は窓の外に見える夕日を漠然と視線を移す。なぜかはよくわからないけど夕日を見ていると何かを思い出しそうになる、
思えば昨日もそうだった…私が記憶をなくす前になにか夕日と私を結びつけるものがあ
ったのかもしれない
夕日、真っ赤な夕日、赤い靴の話、血の赤、血塗られた流転の戦い
…チヌラレタルテンノタタカイ?
────そうゆう設定よ、忘れなさい
「うっ…!」
私が何か記憶の破片を掴みかけた瞬間それを振り払おうとするかの如く胸に痛みが走る
「楓ちゃんどうかしましたでする?」
ふと顔を上げると姫奈ちゃんが心配そうな顔でこちらをみている
「あ、うんん。大丈夫ちょっとむせただけだから」
「でも顔色悪いでするよ?さっきのパンのせいでする?」
「いや、本当大丈夫だよ」
私は大きく息を吸い込みなんとか気持ちを落ち着かせる、やはりなにかを思い出そうとすると
それを拒絶するかのように体がおかしくなる
夕日、赤色、おそらくこれが私の記憶をたどるのに大事な要因であることは間違いないみたい
もう一度夕日を見つめる
夕日の赤が歩く人達を染めている、それはただ流れていく人波だったがその中で一人突然だが
目が合う、頭からすっぽりローブを被った女性だ
でも多分それは目が合ったんじゃない、ずっと向こうがこちらを見ていたんだとなんとなく思
「ティアさん…?」
自分で呟いた言葉に驚いた、だいたい私は記憶喪失だというのになんで目が合った女性の名前
を知っているのか?でもあれは確かにティアさんだと私の記憶が言っている、思考と記憶がご
ちゃまぜになって気持ちが悪い
「全く貴女は少し落ち着いたらどうなんですか」
挙動不審な私の行動に瑞穂さんが怪訝そうな顔をしているのだろう、けど私はそれを見ること
はできない。少しでも目を離したらあの人波のなか目が合ったティアさんを見失いそうだから
そして気がついたら私は走り出していた、走り出した瞬間姫奈ちゃんや瑞穂さんの声が聞こえ
たような気もしたがそんなものに構ってはいられない
 
ティアさんなら多分私のことを知っているはず───
それだけが私を突き動かす、ティアさんは私を一瞥するとまるで誘うように路地へと入ってい
く。人一人がやっと通れるほどの細い路地で道はなんだか正体不明な粘着質の液体で覆われて
いているし溝臭い異臭が立ち込めていて正直足が止まってしまう。けどティアさんはそんなこ
とおかまいなしに進んでいく
「い、行くしかないわね」
私は息を止め一気に走り抜けた…そして路地を出た瞬間地面のぬめりに足を取られておも
いっきり転がる、なんかお約束みたいな事してる私
「そんなに焦らなくても私は逃げないわ」
見上げると淡い紫色をした髪のポニーテールが目に入る、どうやらティアさんが気がついてくれたらしい
「あ、あのティアさんですよね」
「そう私はティア=マローネよ」
やっぱり私の記憶は間違ってなかった、ようやく見つかった手がかりに私の鼓動は一気に早く
なる。
「あ、私夜風楓ってあの、覚えてますか?」
「楓、覚えてるわ」
うまく言葉が出てこない私とは違ってティアさんの声色、表情は全く変わらない
「私記憶喪失で砂漠で倒れてて…えっと、その!」
「……。」
ティアさんは口元を押さえる、真紅の指輪が夕日にあたり一瞬光る
「記憶喪失か。なるほどねどうりで不確定行動がでてきたってわけ。それじゃ本来の目的も気
にせず旅していたのかもしれないわね、偵察に来ててよかったわ」
え…不確定?偵察?よくわからない事を呟くティアさんの表情はさっきと違って別人のよ
うに歪んでいた
なにか嫌な予感、思わず私は一歩後ずさる
「思い出させてあげるわ貴女のやるべきことをね!!」
そう叫ぶと指輪から物凄い勢いでなにかが飛び出し私の頬をかすめる、首筋に流れる血の感覚
に恐怖感が一気に増した。さらにそれを煽るかのようにティアさんが腕をかざすと指輪から今
度はゆっくりと数本のナイフが召喚される、おそらく私の頬をかすめたのもこれだろう
「ティアさん、一体なにを…」
「目を覚ましなさい夜風の民」
ナイフを手の中で回転させながら少しづつ距離を近づけてくる。もしかして私は記憶を失う前
命を狙われるような人間だったのだろうか、そうなると私の行動は相当愚かだったかも
でもまだどこかでティアさんが悪い人じゃないようなへんなひっかかりもある
───戦えない!
体が震えていた、どうすればいいのかわからないままただ死の恐怖から逃れようと後ずさるこ
としか今の私にはできない
しかしそんなふらついた足取りで後ずさったところですぐに壁にぶつかることなんて目に見え
ていた
「し、しまっ…」
言葉を紡ぐよりも速く顔のすぐ横の壁にナイフが突き刺さり、思わず息をのむ
「戦いなさい私と、でなければ覚醒の針はいつまでも進まないままよ」
「覚醒ってなんのことですか!」
「目覚めるのよ」
それだけ言ってティアさんはナイフを構える
「今度は外さないわ、少し痛めつければ否が応でも戦わなければならないことに気付くでしょ
うし…ねッ!!」
サイドスローで思いっきりナイフが投げられる。なんとかしようにも私にできるたのは結局身
を強張らせて耐えることでしかなかった
…しかし痛みは感じない、ただナイフがなにかにあたってはじかれる音だけが聞こえる
「え、なに?」
思わず顔を上げてティアさんのほうを見るがティアさんの視線は私よりも少し上を見つめてい
「誰、私の邪魔をするのは」
「さぁたかだが人形ごときに名乗る名前なんてありませんけど」
この人を見下して冷淡に喋る人物にはとっても心当たりがある、私はおもわず壁を見上げ叫ぶ
「み、瑞穂さぁん!」
自分でいうのもなんだけどかなり情けない声、瑞穂さんは私のほうを一瞥するとすぐにティア
さんの方へと視線を戻す
「無銭飲食して飛び出したと思えば今度はこんなところで油を売ってるとは、それでこの方は貴女の知り合いか何かかしら」
「え、ええっとですね。多分知り合いだとは思うんですけど……なにか違うんですよね」
まだはっきりとしない
確かにティアさんも私の事を知っているって言っていた。失う前の私の記憶にも微かにティア
さん、そうティア=マローネさんとあった記憶がある
でもティアさんとは敵同士ではなかった気がするんだよね、だとすれば考えられることって
「瑞穂さん、もしかしたらティアさんは誰かに操られているのかもしれません」
「それは違うわね。これはただの人形よ」
「に、人形って?」
私の質問に答えることなく壁から飛び降りる瑞穂さん、その手には既に符術が握られていた
「色々邪魔だから壊させてましょうか、まともな情報も持ってないみたいですし」
「記憶情報体にあなたの情報はないわ、夜風楓を庇うのならあなたもただではすまないわよ」
指輪からナイフを取り出し構えるティアさん、いつのまにか攻撃対象が私から瑞穂さんへ変わ
ったみたい
「え、あのぉ…だから人形って」
私を置いてきぼりで二人の戦いは始まってしまう、先にしかけたのはティアさんのほうだった
「邪魔者は排除する!」
一気に駆け出しナイフを投げつける、それに合わせるように瑞穂さんは符術の印を切る
「佐倉流符術二織「白壁」、散開!」
瑞穂さんの投げた符術は五つに分裂し青い光をともなって五芒星を描くように配置される。さ
らには五芒星から青白い障壁が瑞穂さんの目の前に現れる
飛んできたナイフはその障壁の前にあっけなくはじかれる、おそらく先程私を守ってくれたの
もこの符術によるものだろう
「まさに蟷螂の鎌ですね、その程度の攻撃で私を倒そうなんて甘いですよ」
瑞穂さんの挑発を無視してティアさんはナイフを投げながら近づいていく
「その障壁を貫こうなんて初めから思っていない!」
一気に地面を蹴って跳躍するティアさん、そのままきりもみ回転し一気にナイフを投げつける。
けどそれは瑞穂さんのほうではなくまったく見当違いの方向だった、壁の隙間であったり木陰
だったり。流石に瑞穂さんもこの行動に周り警戒しているみたい
「所詮その障壁が守れる範囲は正面だけ、全方位からの攻撃なら!」
空中で反転しながら指を鳴らす、するとまるで音につられて魚が集まるように先程見当違いに
投げたナイフが戻ってくる、目標は完全に瑞穂さんだ
「ちょ、跳弾!?瑞穂さん避けて!」
「無駄よ…そしてこれもおまけにとっておきなさい!」
とどめと言わんばかりにティアさんが両手一杯のナイフをまとめて投げつける。跳弾で戻って
きたナイフと合わせて瑞穂さんを取り囲むように降り注ぐ
「くっ、小賢しい!!」
初弾こそ避けた瑞穂さんだったけどだんだん避けきれなくなりナイフの一本が肩に突き刺さる
「───っ!」
苦悶の表情を浮かべ片膝をつく瑞穂さん。動きが止まったことを更に容赦なくナイフが襲う
「瑞穂さん!」
私は震える足を押して立ち上がり瑞穂さんに近づこうとしたがすぐにティアさんよって制され
足元を穿つナイフ、それは近づくなという無言の意志に他ならない
「さぁ人の心配をしている場合ではないわよ夜風楓」
「くぅ…」
背中の刀に手を掛ける、瑞穂さんが倒れてしまった今の状況やはり自分で何とかするしかない
しかし瑞穂さんですら勝てない相手に私でどうにかなるのだろうか?
確かに一度は瑞穂さんに私は勝った。けどそのときの私はなにか別の私だった気がする、そう
刀を握った瞬間から私の中でなにかが浸食していく感覚……あのとき瑞穂さんに勝てたのはき
っと私ではない別の私だ
でも今刀を持っているのは夜風楓、別の誰でもない私だ…私が何とかしなくてはいけない!
刀の重さと目の前に迫る死の恐怖に震える手を無理矢理抑えて構える
「い、いきます!!」
私は刀を水平に構えると一気に踏み込み横なぎに払う、だがそれはいとも簡単にバックステッ
プでかわされる
「くっ!」
「そんな腰の抜けた剣では覚醒は望めないわよ、一度死の淵まで落ちるのね」
ナイフを振り上げるティアさんの顔が狂気にゆがむ、私はというと刀の重さに振り回されて無
防備な姿をさらしていた
「終わりよ!!チェックメイ…ッ!!」
突然ティアさんの振り下ろそうとした腕が宙を舞った、それはもう肩の付け根ばっさりと
あっけにとれている私をよそにティアさんの腕はそのまま放物線を描いて私の足もとにボトリ
と落ちる。
「え、えええっ?」
「な、なにまさか…」
飛ばされた右腕を押さえてティアさんが振り返った次の瞬間に私が見たのはくるくると回転して飛んでいくなにかだった
そして私の目の前に放物線を描いてそのなにかが落ちてくる、ゴロゴロと地面を転がり私の足にぶつかって止まった
なにかってそれはティアさんの頭部が
「はぅ、腕がー顔がー」
あまりの展開の速さにもうしどろみどろよ、結局私が一撃も加えることができなかったティア
さんは腕と頭を斬り飛ばされた身体をギクシャクとくねらせた後糸が切れた人形のように一気
に崩れ落ちた
砂煙の中から人影がゆっくりと立ち上がる。
「ふぅ、まぁこんなところですねぇ」
それはまぎれもない先程ティアさんの全方位からのナイフを受けて倒れたはずの瑞穂さんだっ
た、私は急いで瑞穂さんの元へと駆け寄る
「み、瑞穂さん!!大丈夫ですか!」
「はいはい、大丈夫ですよん♪」
妙に軽い口調の瑞穂さんがナイフが何本も貫かれている腕を思いっきり振り回している。
ナイフは深々と体に突き刺さっていてどうみたって大怪我のはずなのだがなぜか瑞穂さんの体
からは血が流れていない
「……にん、ぎょう?」
今気がついたけどさっきのティアさんも腕や首を斬られたというのに血が流れていない
すぐそばで倒れているティアさんの体の切断面から見えるのは木目のような模様とそこから抜
けるように浮かび上がる青白い硝煙だけだ
思わず倒れているティアさんとナイフが突き刺さっている瑞穂さんを何度も見比べる
瑞穂さんはティアさんを人形と言っていた、そしてそれは実際人形だった……人形は血を流さ
ない、えっとじゃあ今目の前にいる瑞穂さんって
「どうかしましたかぁ?楓さん」
うつむいて思考をめぐらせているところにいきなり瑞穂さんが顔を覗かせる、あまりに突然の
出来事に私は思いっきりのけぞってしまう
「な、な、な、なんですか瑞穂さん!」
「はぁ、俯いたままだったのでお腹でも痛いのかと思いました」
いやいやお腹にナイフが突き刺さっているあなたは大丈夫なのかと問いたい
「い、いえ私は全然平気です…」
変に上ずった声で答えると「そうですか、それはよかった」と笑顔で答える
そもそもなにか変だ、こういうとき瑞穂さんなら嫌味の一つくらいいいそうなのに
「あの瑞穂さんいつからそんな喋り方になってるんですか、いつもの瑞穂さんじゃないですよ
ね」
「はぁー?ちょっと疲れてまして符術の力を言葉使いにまわせないんですよぉ」
「符術の力…?それじゃやっぱり今目の前にいるのは人形…」
「まったく気がつくのが遅いんですよ貴女は」
「ひゃう!」
背後からの声にまた変な声を出してしまう、振り返った先にいたのはもう一人の瑞穂さんだっ
た。私の気も知らずに腕を組んで退屈そうに空を眺めている
「ティアさんもそうでしたけど助けてくれた瑞穂さんも人形だったんですね」
「そうだったんでーす」
ナイフが刺さった手を楽しそうに振る人形の方の瑞穂さん、見るからに痛々しいんだけど顔は
あの瑞穂さんなのでどちらかというと笑顔のほうが気になる
だがその珍しい瑞穂さんの笑顔もすぐに本物の瑞穂さんが指を鳴らすと共に煙に消えナイフだ
けがバラバラと落ちた
んー瑞穂さんもしかめっつらしてないであれくらい笑っていれば可愛いと思うんだけどなぁ
まぁそんなこと言ったって無駄だと思うから黙っていることにする
それよりも今はもっと気になることがある、それは誰が私の命を狙ってきたのかということ
崩れ落ちたティアさんの人形をもう一度見る
青白い硝煙──たぶん人形を操ってた魔力かなんだろう──が抜けた人形はもはや見る影もな
いほどに朽ち果ててきている。私が戦うことが人形のティアさんは覚醒と言っていたけれどそ
れが何を意味しているのかわからない、ただ私を利用しようとしている人がいるってことはわ
かる。
「瑞穂さん、このティアさんの人形についてなにかわかります?」
「さぁ貴女と共通の知り合いなんて姫奈以外にいるわけないでしょう」
「むぅ、そういうことじゃなくて人形の材質とかからで瑞穂さんならなにかわかるかなって、
ほら瑞穂さんも符術で人形を作り出していたじゃないですか」
私の言葉に瑞穂さんの視線が足元で踏みつけられていた人形の腕にいく
「私の符術のような簡単なものじゃないですね、この人形は相当腕の立つ人形師によって精巧
につくられた品よ。私とてこの世界の人形師のことまでは把握してませんのでこれがどこの誰
が作ったかなんて事までは判断できませんね」
「そうですか、困ったなぁなにかわかるとおもったんだけど」
「……そう悲観することでもないのではありませんか」
溜め息まじりに呟く私の肩に瑞穂さんが手を添える。
も、もしかして慰めてくれているの?瑞穂さんが!?
「ここで一体人形が倒されたのならまたいらっしゃるでしょう、貴女の命を狙いにね。良かっ
たですね」
「それってあんまり良くないですよぉ」
ああ、ちょっとでも瑞穂さんの慰めに期待した私が馬鹿だった、この人は私の状況を楽しんで
るだけだ…ううっ、外道~!
「ああそう、いい忘れましたが今回助けたのは砂漠で助けられた借りを返しただけですから、次は私は手伝いませんので」
「ええーっ!そ…そんなぁ」
「貴女の敵なんだからあなたが倒すのが本来の筋というものでしょう、何の理由で私があなた
の敵の相手までする必要があるんですか」
そう嘆息すると瑞穂さんはそのまま踵を返し私の身長ほどある壁を軽いステップで飛び移る
「もう戦いも終わったんですし、いつまでもそんなとろこにいると置いていきますよ」
「ちょ、ちょっと瑞穂さん置いていかないでくださいよ~」
壁を次々と飛越えて瑞穂さんが先に進んでいく、私は瑞穂さんみたいに壁の上を跳んではいけ
ないのでここに来るときに通った狭くてジメジメした通路から後を追いながら考える
確かに瑞穂さんの言うように追っ手を倒していけば、覚醒が何なのかしらないけど必ず人形を
使って私をその覚醒に導こうとしている張本人が現れてくるはず。
おそらくその人に会えば私の記憶の手がかりはつかめる!
「って、きゃっ!!あ、危ない…」
ぼおっと考え事をしながら走ってたのでまた地面のぬめりに足を取られそうになる
とにかくこんなところでめげてなんかいられない、目的ができたんだ…必ず取り戻してみせる
──私の記憶を!
 
 
 
 
                       1

幻=クレイド
 
 
気だるい朝だ、いつのまにか寝る前カーテンを閉めた窓から日光が入ってきている。
その光がジャストの位置で俺の顔に当たっているし、ったく誰が開けたんだよ
嫌な目覚めだ、体の機能が回復しきらない寝起きというのはいつもこうだ
だがその日光はあの悪夢からの助けだと思えば感謝することのなのかもしれねぇな
またあの夢だ…
俺は髪を掻き揚げると部屋の奥の古時計を見る、六時…少し早く起きたか
「っ、やれやれだぜ」
ゆっくりと起き上がるが何故か体が妙に重い、案の定腕に金髪の女がくっ付いてや
がった、しかも気持ちよさそうに人の腕を抱き枕にしてる
ったく、こいつまた人のベッドに潜り込んでるのかよ!
いい歳して男の寝室に勝手に潜り込むなんてどうゆう神経してるんだか…
「おいシーラ!寝るなら自分の所へいけよ!」
体を揺すってみる、この程度で起きるほどの奴じゃないのはわかっているが一応な
まぁ当然の如く起きるわけないんだが…
それにしてもシーラの奴、俺を誘惑でもしてるのか?
いやってほど胸を腕に押し付けているわ、着衣は乱れて白い肩があらわになっているわで
んーこりゃクリスの奴ならくらっときてもおかしくないな
ま、俺に色仕掛けなんて無駄なんだけど
纏わりつく腕をほどいて端にかけてある黒皮のジャケットをはおる、後は符術を入れた対暴発用ポーチと愛剣のディレントセイバーを腰につけて俺の準備は完成だ
乱暴に髪を掻きながらギィギィと軋む階段を降りる、もう何十年も前に造られた教会はあちこ
ちガタがきている一階は一応解放されている大聖堂になっていて、そしてそこから上手側の二
階に俺達の部屋があり下手側の二階がキッチンや風呂になる。
そういえば雨漏りがどうとかシーラの奴が言ってたな
昔はこの教会、シーラの母親が戦争孤児を何人も養っていたらしい…
その名残か階段のあちこちにはクレヨンだったり鉛筆だったりで落書きがされている
実際俺の記憶にも孤児の奴等の記憶はある、仲の良かった奴の記憶もある。
だがそれはすべて造られた記憶だ、あいつがシーラの奴が俺を幼馴染だと思ってるのと一
緒でな
そしてもうそんな孤児たちも落書きに描かれた希望に満ちた未来を見ることなく姿を消し
「これはこれは、おはようございます。もしかしてここに住んでいるお方ですか?」
階段を降りた先、つまりは大聖堂には珍しく人がいた。大聖堂は二階である俺達の部屋と
違って開放したままなんで別に人が入ってきてもおかしくはないんだが教会といってもこ
んな辺境のボロ教会に人が来るのは珍しい、しかも服装からいってそれ系の偉い奴のよう
のようで豪華な装飾が施され小奇麗な格好、ご丁寧に胸元には十字架とセドナ教の紋章が
ぶら下がっている。
セドナ教ってのはこのウイングガルド大陸でもかなり普及している宗教の一つだ
「そうだがあんまり気にしないでお祈りでも続けてくれ」
「お祈りなら既に終わりました、すいません勝手に入ってしまって」
そう言うとお偉いさんは深々とお辞儀する
「別にここは完全解放してるから勝手に入ろうがかまわねぇよ」
「そうでしたか、それにしてもここはいい雰囲気の教会ですね」
いい雰囲気?こんなボロ教会が?これだから宗教家ってのはわかんねえ
「実に美しい造形物だとおもいませんか?」
「そ、そうか?」
「この壁から覗き込む光が斜線状に内部を照らしている、まるでセドナの女神が地上に舞
い降りられたときのような情景じゃないですか」
感極まったのかお偉い兄ちゃんは両手を高々と広げセドナの女神とやらを妄想してやがる
確かにさぁボロボロになった壁のあちらこちらから光は漏れているが…
ま、まずい…話についていけねぇな
こいつ明らかに自分の世界に入ってるぜ、こうゆう相手は適当にあしらって帰ってもらう
「んーあーそれじゃ俺はこれで失礼するぜ」
「あ、ちょっと待ってください!」
っ!ぼーっとしてるうちに横を素通りしようと思ったらあっさり気がつきやがった
「んだよ?」
面倒くさそうに振り返ったらなんか目をキラキラさせてやがる、なんかさっきと感じが違
うのはなんだ、さっきまで落ち着いた感じの妄想宗教家って感じだったのが今はまるでヒ
-ローを見るガキの眼差しだ
「今気がついたんですがもしかして幻=クレイドさんじゃないですか!?」
「ん、ああそうだが」
それを聞いたお偉い兄さんは喚起の声をあげる
なんでこのお偉い兄さんが俺の名前を知ってるんだ?バウンサーの仕事の依頼じゃこんな
顔見たことねぇし…
「やっぱりそうでしたかっ!!」
お偉い兄さんは突然俺の手を握る、思わず体が引いたぜ
「な、なんだよあんた!何で俺のことを知ってる?」
「そりゃもう異常事態の4563回大会といったらもー感動の嵐ですよ!」
4563回大会?なんだっけそれ…趣味でやってるカードゲームの大会だっけ?
いやいくらなんでも4563回もやってないしあれは身内だけの大会だからな
「なんの大会だったっけか」
「ハームステイン大闘技会4563回!!幻さんの活躍はもう予選大会から見てました
よ!まさに疾風の狩人ここにありってかんじで!」
つばを飛ばしながら熱く語るなって…
ああ、確かにあったなそんな大会。その観客だったわけか宗教家なんてこんなもの見ない
のかと思ったら案外そうでもないらしい
クリスとの対決の場であり、そして真実を知った忌まわしき場所だ
詳しい話?詳しい話はパスだ、気軽に話せるようなネタじゃねぇんだよ
「準々決勝での前回優勝者オルディ=ハウランドとのタッグ!!あれは最高でした!!」
こいつ苦手だ、もうなんか熱くなると人の事かまわず喋り捲ってくる
いいのかよセドナの女神はー!
「そうだ!幻さん、サインもらえますかサイン!」
答える前に豪華そうな鞄から色紙とペンを取り出し差し出してくる、断る権利なしか
しかしなんで宗教家がサイン色紙なんて常備してるんだ…
まぁ俺のファンって言うんだから悪い気はしないが、いやこいつとはあんまり関わりあい
になりたくねぇな、とりあえずサイン書けば帰ってくれるだろう
「ったく、しょうがねぇな」
とりあえず色紙とペンを受け取る。だがいざ真っ白い色紙を目の前にするとなにを書け
ばいいのか悩むな
「あ!ちゃんと『イグジットへ』って書いてくださいね」
受け取ったままぼーっとしていたせいか指示が飛んでくる
俺はそれを聞いてなんとなくでペンを走らせる、サインっていうと崩し字みたいもんだ
ろ?正直『幻=クレイド』なんて書いたつもりはない、ただサインを書いてる雰囲気を
演出しただけだ。
とりあえず自分でもよくわからない絵なのか文字なのか蛇が張ったような物を書き手渡す
気にしないだろ、俺の書いた文字なんかに。どっちかというと俺が書いたという行為自体
に意味があるはずだ、きっとそうだぜ
まぁどうやって書けばいいかわからなかった言い訳なんだがな
「ほらよ、これでいいか?」
「うわぁ!ありがとうございます!!」
まるで欲しかった玩具を買ってもらったガキみたいに喜んでやがる。こんなに喜んでるな
ら書いたほうとしても悪くはないな、まぁ適当に書いたんだがな
「んじゃまぁ、俺ちょっと散歩してくるわ」
「あ、はい!すいません時間を取らせてもらって。いやぁ今日は朝からいい日だなぁ」
こっちは朝から疲れたってんだよ
やれやれ、サインに見とれて全然帰りそうにないんでしばらく外で時間を潰すとするか
一つ大きく背伸びすると出口へ歩く、そしてちょうどドアノブを掴もうと思ったときだ
ゴンッ!!と激しい音が教会内に響いた
「ってぇーーーー!」
思わずのけぞりぶつかった頭を押さえる
ありえねぇ…まさか俺が開けるよりも先に扉が開くなんてよ!
おかげでおもいっきり頭をぶつけたじゃねぇか
「む、大丈夫…なんだ幻か」
反対側から扉を開けた人物がひょっこりと顔を出す、最初は心配そうな声だったが俺の姿
を見た途端態度を変える辺りあいつだ、クリス=リューガスだ
「なんだじゃねぇよ、いってぇな!!」
「そんなところでつっ立ってる貴様が悪いんだろう」
ぶつかった相手が俺だとわかった途端クリスの奴の態度が変わる、まぁあいつから見れば
俺は突然現れた者だったんだからな…正直あのハームステインでの一件があってなお
ここで俺が生活できるなんてほうが普通じゃおかしいくらいなんだ
シーラとクリス、そして俺はまぁ一応は幼馴染だ、クリスの奴も元は戦争孤児でこの教会
に引取られた人間の一人になる
だが俺は違う、クリスやシーラの記憶では俺も昔起こった属性戦争の戦争孤児ということ
らしいが実際はそんなもんじゃない
「ど、どうかしたんですか?」
俺の叫び声にイグジットの奴が心配そうに駆け寄ってくる、まずいなクリスの奴もハーム
ステインでの大会にはでているからな。「貴方は4563回大会準優勝者のクリス=リュー
ガスさん!」とかなんとか言ってまた熱く語りだしそうだ
「なんだあいつは…貴様の客人か?」
おもいっきり笑顔で走ってくるイグジットにクリスが怪訝そうな顔で聞いてくる
「ちげぇよ、旅の途中の妄想宗教家だ」
「そうか…ああ、そういえばお前に手紙が来てたぞ」
「手紙だぁ?誰からだよ」
「私の知った事か」
クリスが差し出した手紙を手に取る、ザラザラとした紙質の高そうな封筒だ
「あ、あなたはやっぱりっ!!!」
宛名すらない封筒をぼけっと眺めてしまっていた俺はイグジットの声で一気に我に返った
まずいまずい、そういえば俺はここで捕まるわけには行かないんだったぜ
「んじゃそうゆうことで出かけてくるわ」
そういって俺はクリスの脇を抜けるように走り出す、クリスの奴が「そうゆうことってど
うゆうことだ貴様」とか叫んでるがそんな相手をしてる暇はないぜ
案の定振り返ってみればクリスがイグジットの奴に絡まれている、やれやれさっさと逃げ
ておいて正解だったな
まぁしばらくそいつの相手でもしていてくれクリス!
 
 
 
清々しい朝ってやつか?流石高原とでもいうべきか空気が澄んでいて気持ちがいい
シーラの教会は町からだいぶ離れた小高い丘の上に建っている、そこから町を一望すると
まるでそれは一種の絵画のような美しさ…らしい、まぁクリスの受け売りなんだがな
「やれやれ無駄に走りすぎたぜ」
落ち着いて深呼吸する、空気が体に入ることで人間は一定のリズムを取り戻し精神的にも
身体的にも回復する、いわばクールダウンってやつだ
胸に手を当ててみる、ドクドクとした血の流れが聴こえる。こうゆう身体現象が自分が
人間であると実感させてくれる
人間として実感?なんか変ないい方だが、まぁ詳しい話はそのうちわかるぜ
「そういえば手紙誰からなんだ?」
先程クリスからもらった手紙を取り出し太陽にかざし見る、封筒の中には小さなカードら
しきものがあるのがわかる他には何も異常はない感じだ
たまにあるんだよな、バウンサーなんて仕事で飯を食ってる以上恨み辛みはよく受けるん
で嫌がらせかなんなのか罠っぽいのを送ってくる奴、宛名がない辺りからその類かとおも
ったがどうやら違うみたいだ
「さて何が出てくるんだか」
俺は封を切って中を覗き見る、なかにはやっぱり手の平サイズのカードしかはいってなか
った。
カードは特に変哲もない紙だ、なんだが手紙には警戒心ばっかり先立ってるな俺
裏返してみるとなにやら文字が書いてある、独特な癖の入った文字なんとなくこいつを書
いた奴の事が誰だかわかってきたぜ
───どうやら紅葉の奴が動き出したようだ、今すぐルラフィンまで来て
カードにはそれしか書いていなかった、んん…ティアの奴名前くらい書けよ
名前は書いてなかったが文字からティア=マローネっていうことはわかった、こうなんか
書き捨てられた文字まで無愛想な感じなんだよな
ティアってのはまぁいわゆる俺の仕事仲間っていったらいいんだろうか西の大陸で『アクロポリス』とかいう会社の仕事をしている奴だ、前に偶然仕事で一緒になってからちょくちょ
く頼みごとをされたりしたりする間柄だ。無愛想な感じの女だが腕は確かだ、パワーこそ俺には劣るがスピードと正確無比なナイフ投げの技術には目を見張るものがある
まぁソロでしか仕事を請けない俺がパートナーとして認めてやってもいい数少ない人物と
でもいっておくか、向こうはどう思ってるか知らねぇけど
「それにしても随分とまぁ突然なお誘いだな、それにしても紅葉って誰だ?」
紅葉?モミジ?もみじ?頭の中で復唱してみても一向にその紅葉とかいうやつのことはで
てこなかった、記憶喪失でもど忘れでもなくこれは最初から知らない初めて聞く言葉だ
しかし妙だな、ティアの奴はまるで共通の話題かのように書いている
まぁ深く考えたってわかることじゃないな、こうゆうのは直接聞いた方が早いだろう
宛先や名前すら書かないほど焦ってるのらしいからな向こうの勘違いって事もあるだろう
今日は仕事は入ってないからティアの奴に付き合ってもいいだろう
俺は手紙を後ろポケットに突っ込むとゆっくりと町の方角へ歩き出す、しかしなんとなく
不安だぜ、なにが不安ってティアと仕事をすると大抵他の事件にまきこまれるからな
そんな俺の気持ちを感じるかのように風がざあっと吹く、さっきまで感じていた日差しが
陰ると太陽が雲に隠れて日差しが届かなくなってきていた
…おいおい、いくら山の上だからって天気変わりすぎだ!
頭の上に落ちた雫に思わず空を見上げる、雨だ、さっきまで清々しいとかなんとかいって
たのに一転して暗い灰色の廃退的な雰囲気になる
「な、なんだこの感じ」
突然物質ではない精神的ななにかが俺の上に強く圧し掛かる、朝の空気とは真逆のいわば
人を不安にするような感じのプレッシャーのようなものだ
思わず誰かいるのかと辺りを見るがなにも変わりはなかった
そして突然の強い雨が降り出し俺を濡らしていく
だがなにかおかしいぜこれは…普段なら“突然の雨に服がびしょびしょになって“あん
にゅい”なんてことで済むんだろうがこの状況は明らかにそんなもんじゃない
俺の不安を煽るかのように一気に雨が強くなる、そして俺にかかる謎のプレッシャーも強
くなってきていた
「っ…誰かが近づいてるのか?」
思わず呟いた唇を噛む、誰かが?なんて不明なものじゃないのはわかっていた
こんな負の力を憎しみの力をぶつけてくる奴はあいつしかいない
だがそれを信じれない自分がいるのも事実だ、なんせあいつは三年前に俺が倒したはず
だから誰かと言った、別の誰かであって欲しいという願いも込めて
「これも夢のお告げってやつかよ…」
自嘲気味にいうと刺突剣ディレントセイバーを引き抜いた、どうやら今日はあの夢からはじまって厄日のようだぜ
あの夢、今朝見た夢は俺がハームステインでの大会の時にもみた夢だ
いわばあの夢は俺にとって奴が現れるという予知夢のようなものといっていいだろう
大きく開けた湖畔に純白のドレスを着た女が立っている、シーラの奴に似ているといえば
似ているが髪は短く大人しい感じだ。
そしてその女はじっと俺の方を見つめているだけの夢
女はなにも言わない
だが助けを求めているような目で俺を見つめている
近づこうとする、だけど近づけない
声をかけようとしても声がでない
そして夢の醒めそうになる直前になって女は一言こういうのだ
『あの人を救って…』
そうして女は消える、ハームステインで見たときは女が言う「あの人」が誰の事かわから
なかったが今ならわかる、俺を生み出したもう一人の自分、女はそいつを救ってほしいと
言っている
あの女の名前は咲夜=フランクだ、あいつの唯一心を許した女性…
「でてきやがれ!スリティ!!」
雨が激しくなる中俺は叫ぶ、一度殺したもう一人の自分の名前を
俺の叫びに呼応すかのようにいままでよりも強い風が吹く
おいおい、まじででてくるつもりか
風の強さにおもわず目を閉じる。こうやって目を閉じればいやな現実から逃れれるならど
んなにいいことか…
だが現実ってのはそんなにあまくないぜ、いくら神に願ったって嫌な事から逃れれるわけ
じゃないんだ
まぁ俺は神なんて抽象的なもんは存在しないと思ってるしな
俺はゆっくりと目を開く
「や、やれやれだぜ…」
失笑、なんだかこんな無茶苦茶な状況に笑いがこみ上げてくる
だって本当にいるんだからなあいつが
漆黒の鎧に漆黒のマント、そして漆黒の兜から覗かせる紫水晶の瞳…姿こそ違えど鏡
を見てるかと思うような顔のあいつが俺の前に立っていた
「久しいな、名もなき者」
「なにが久しいなだよてめぇ、てめぇはとっくに死んだはずだろ!!」
そうだ、奴は死んだはずなんだよ、三年前のハームステインで俺に殺されてな
俺は奴に生み出された同じ能力を持つ分身体だった…
そして生み出された俺の目的はシーラの教会の奥深くに眠る魔剣『ライオット』を奪う事
シーラやクリスの記憶を改竄し、幼馴染として教会へ侵入した俺だったが、スリティの
思惑はここで大きく狂った
ただの分身体であるはずの俺が魔剣『ライオット』に触れたことにより自我をもったんだ
あいつは自分と同じ力を持つ俺の存在を危惧し、クリスを操りハームステインで俺を消そ
うとした…そうこれが、ハームステインでの戦いの真相ってやつだ
「ああ、そうだあの時私の器は滅んだ。だが貴様では私の魂までは砕けなかったようだな
穢れし器もて私はこの世界に戻ってきた」
奴は自らの魔剣『スワルツアンド』を引き抜く、やれやれ魔剣も砕いたはずなんだが一緒
になって甦ってやがる
「名もなき者よ、私がどうしてここに来たのかわかるな」
「はっ、また俺にやられにきたんだろっ!!」
一気に走り出す、スリティの奴の存在を確認した時点で戦いが避けれないものはわかって
る、なら先手必勝だ
雨を切り裂くように奴との距離を縮め、空中で旋回一気に剣を振り下ろす
「その程度で私を倒すだと?戯言を!」
俺の一撃を軽く受け止めると一瞬だけ力が放出される、黒い瘴気が奴の周りに纏いそのま
ま近くにあるものを俺ごと吹き飛ばした
「脆い、その程度か名もなき者」
まずいぜ、奴にとっては軽く力を放出させただけなんだろうが軽くあばらにひびがはいっ
てやがる。思えば前に勝ったときはほとんどハンディキャップ戦のようなもんだったな
奴は魔剣を失い俺が奴から切り離された事によるダメージが回復しきらない状態だった、
それに俺はあのときは神器と言われるスターソードがあったし、なにより一度死んで人間
として復活する前だったからな分身体としての俺には限界なんてもんがなかった
奴と魔剣はまさに鬼に金棒って事かよ
ふっ、愚痴たってどうにもなるわけじゃねぇ…ここで俺がやられればあいつはシーラ
やクリスの前にも現れるはずだ、ここはなんとしてでも俺が倒さねぇと
立ち上がってゆっくりとディレントセイバーを平に返し弓を射抜くように構える
そのとき奴の口元がゆがんだ、そりゃそうだこの技は元はてめぇの技だからな
「ソリチュードストライク…か」
「ああ、流石にてめぇもこれを受けたらただごとじゃすまないぜ」
構えた右手に左手の甲を添える、珍妙な構えだがこれが桜花蒼龍剣でいう“龍墜の構え”
とかいうもんらしい、そしてそこから繰り出されるソリチュードストライクは俺の持って
いる技の中で最高の威力を誇る。
「いっくぜぇぇぇぇぇっ!」
叫びに反応し体から蒼き炎が吹き上がり俺を包み込む、体内に魔力を内包していない俺が
唯一放出できる力だ
だが奴は動じる様子を見せない、技を止めようともしない、ただ口元がかすかにゆがんだ
だけだ
なんだ余裕ってやつかよ…なら受けてもらおうじゃないか
蒼き炎を纏い一気に駆け出す俺にようやく奴はゆっくりと剣を弓を引くように構える
なるほどな、同じ“龍墜の構え”そして奇しくも同じ技でやろうってか
奴の体から俺と同じように炎が吹き上がる、だが色が違う奴の炎はどす黒い炎だった
「ソリチュードストライクッ!!!」
対峙する黒き炎と蒼き炎、同じ声色、同じタイミングで二匹の竜が咆哮した
ソリチュードとは太古の昔に生まれし魔力を喰らう龍の名、二つの龍の咆哮が激しくぶつ
かり合い辺りに存在するものの魔力をすべて消し去っていく
数々の色をした魔力がその器を離れていき天に昇っていくのが見えた
「…ちっ、相殺ってやつかよ」
「よもや名もなき者がここまでやるとはな」
スリティの奴は剣を突き出し動きが止まっていた、そして俺もまるで鏡に映るように同じ
構えで立っている
奴の剣が俺の首元に、俺の剣が奴の首元に…どちらかが先に動くかどうかの均衡状態
に陥っている
互角、どうやらソリチュードストライクだけは俺とスリティの差がないみたいだぜ
俺の方にダメージはないがそれはスリティの奴も同じようだ
「フッ…前言撤回か、貴様もやるようになったな」
「伊達に修羅場は越えてないんでな」
見上げてみると奴が笑っていた、こいつが笑うところなんてはじめて見た気がするぜ
なんていうかこいつと出会ってから奴は冷たい感情しか見せていなかったからな
「…咲夜はこんな事を望んではいないのだろうな」
静かに呟くと剣を引いていた、奴の表情に一瞬暗い影が映る
「てめぇ、どうゆうつもりだ?」
「私は誰の指図も受けない、それが例え穢れし器を与え私をこの世に戻した者の指図でも
な」
そういって奴が後ろを振り返り歩いていく、後ろから斬りかかろうと思えばできる距離だ
だが何故か剣が動かなかった
呼吸が乱れて心臓の鼓動が早くなっている、俺はもしかしたらここで奴が逃げていく状況
に助かったとでも思っているのかもしれない
「逃げるつもりかよスリティ!!」
「今日の所は所詮様子見だ、一時でも救われた命を無駄に散らす事もなかろう」
思わず剣に力がこもる、救われたという現実に反逆したいが結局奴の後姿をみつめること
しかできない
これが人間って奴だ、無意識に命を守ろうとする
「さらばだ、名もなき者よ…」
一陣の風が吹き奴の姿が消えていく、最後まで俺はその姿を見ることだけしかできなった
「くそっ…もしかしてもう巻き込まれてんのかよ」
思わず天を仰いだ、雨はいつのまにか止み奴が来る前の清々しい朝とやらに戻っている
何者なんだスリティの奴を甦らせて俺を殺そうとする人物は、そしてそんな力を持った奴
が何ゆえ俺を狙ってるんだよ
くっ、どっちにしろまたただ事じゃない仕事の始まりのようだぜ

 

                      1  
夜風 楓
 
「っう…」
物凄い不快感で目が覚める、喉が渇く…ものすごく水が欲しい
けだるく重い体、まるで全身に鉛の錘がついているような感覚
「私…なんでこんな砂漠で寝ちゃってるんだろう」
────そうゆ
なにか不快なノイズが頭の中を駆け巡る、よくわからない。
一度わかることを整理しないと…
ゆっくりと砂を払いながら立ち上がると集中するように頭を小突く
周りには無限の砂漠が広がっている物凄くそれはわかる
でもそれは見た感想であってどうでもいいこと
「他に何か…。」
何度も頭を小突いてみるもどうにもそれ以上の事がはっきりとしない。これはもしかしたら一種の記憶喪失というものなのかもしれない
私は何者…?どうしてこんなところに?
「ん、やっぱりどこか日陰に入ってから考えたほうが良いかも」
さっきから容赦なく降り注ぐ熱線に動いてもいないのに汗がでてくる。嫌な事に私の服は上下とも光を吸収する黒色、これはまさにいじめだ
仕方なく歩き出すことにする。どのみちあの場所にずっといてもどうにもならないだろう
少し小高い砂丘から周りを見たときは微か遠方に街らしきものが見えたし、ここはそれを頼りにいけるとこまでいくしかない
「どうか蜃気楼でありませんように…」
そう思いながら足を進めていく、砂漠を歩くなんてこといままで一度も無かったものだから私が見たあれが蜃気楼なのかそうじゃないのかなんて見分けも付かない、いやむしろ見分けがつく人なんているはずがない
それからどれくらい歩いただろうか、一時間?三十分?もしかしたら十分もまともに歩けていないのかもしれない
強烈に降り注ぐ光、吹くだけで体力を奪っていく風、これだけ心身が酷い状況じゃ幻覚の一つや二つみてもおかしくない。まして私は突然なんの装備も持たずにこんなところで寝ていたのだ、まともな判断なんて下せようが無い
「待ちなさい次元念者!!」
「あうあうー誰か助けてくださいでするー!」
私の目になにかよからぬ者が映った気がする。もしかしたら大分頭がオーバーヒートしてしまっているのかもしれない
ここは砂漠だ、どう考えても砂漠である。
「な、なんで巫女と学生がこんなところに…」
確かに見えたのだ逃げ回る巫女姿の女の子とそれを追いかけるブレザー服を着た女の子だ
幻覚と幻聴だと思いたい、どう考えてもこんな熱砂の砂漠にいていい人たちじゃないはず
だがしかし確実にこっちに向かって走ってきているような気がするのは何故?
「そこのあなた助けてくださいでするー」
巫女さんが私のことを呼んでいるような気がする、ついには熱にうなされて幻聴まで聴くようになったのか私はもはや重症だな
「そこの方、その巫女を捕まえてもらえませんか!!」
あー後ろのブレザー着た女の子にも話しかけられた、いや流石に自分の問題で精一杯なこの状況でこれ以上厄介事は困るんだけど
「わー助けてくださいでする」
そう言うと何がなんだか混乱している間に私の後ろに巫女姿の女の子は隠れてしまう。
あ、あれ?もしかしてこれって現実ですか?確かに私の後ろに隠れた巫女さんは蜃気楼でもなんでもない本物の人間、こげ茶色の肩ほどまでの髪で・・・・・・って、え?近頃の巫女さんは砂漠
にもいるものなの?
「次元念者を庇うのはやめなさい、そこの方」
「え、あれ?」
ブレザー姿の女の子もどうやら幻覚ではないみたい、腰まである黒髪を揺らしゆっくりとこち
らに近づいてくる、けど次元念者ってなに?
それにこの女の子私よりも暑そうな冬服のブレザーなんて着込んでいるのにどうしたらあんな涼しそうな顔ができるんだろう、すくなくとも思いっきりこんな砂漠を走ってたのに息一つとして乱れていないなんておかしい
「事情がよくわからないんだけど…」
わかるわけがない、自分が何故ここにいるかもわからないのにこんな砂漠に巫女と学生がうろついていることを説明できる人なんていないと思う
「下等生物に話す事などありません、すみやかにその後ろの女を引き渡しなさい」
初対面なのにいきなり下等生物はないんじゃないでしょうか?この人
「だ、だめでする!渡しちゃだめでする!追い返してください」
「えっあの追い返すって」
なんだかよくわからない、とりあえずわかる事といえば巫女さんは学生さんに追いかけられている、そしてこの学生さんは礼儀しらずってことかな?でも突然追い返してといわれてもね…私だってさっきからこの砂漠をずっと歩いててそんな体力ないんだけど
「次元念者に手を貸すなら一緒に片付けますよ、貴女」
符術のようなものをとりだしてこちらを睨む学生さん、やはりこの人只者ではない気がする。おそらく戦闘になれば私と互角、いやそれ以上に強いかもしれない…
(あれ?私って戦えるの?)
思えば私なんでこの只者でなさげな学生さんと戦って互角だとか考えれるんだろう、もしかして私は戦うことができる人間なのかもしれない、すこしづつだけど記憶が戻ってきているのだろうか
「さぁ、そこを退きなさい。でなければあなたもただでは済みませんよ」
じわりと学生さんは近づいてくる、どうやらあまり気が長い人じゃないみたい今にも攻撃してきそうな勢いだ
「どうゆう理由かは知りませんが仲良くできないんですか!?」
「…言いたい事はそれだけ?」
距離が更に近づく、だけどこれはさっきまでの近づきかたとは違う!
「佐倉流符術『鋼』!!」
「あぶないっ!!」
空が刀を振るったような音とともに切れる、咄嗟に私は巫女さんを抱いて砂の坂を転げ落ちる。予感的中といったところかしら、それにしてもなんなのかもうわからなくなってきてる。
「だ、大丈夫?」
「は、なんとか私は大丈夫でする」
袖口から大量の砂を流しながらこくりとうなずく巫女さん。なんでこんなところに巫女さんがいるのかとかの疑問はとりあえず後回しにしよう
「あ、あの私がなんとかしますからその帯刀ですか?貸してもらえます」
巫女さんの腰には二本立派な日本刀がある、それを使えば私でも何とか戦えるのかもしれない
「あ、でも…その背中の長い刀は使わないんでするか?」
「えっ、長い刀?」
言われて初めて気が付いた…私の背中にはかなりの得物を背負っていることに。
どうやら私は剣士かなにかなのだろうか、しかもかなり扱いにくそうな武器を背負っている。
「やっぱり刀貸してもらわなくて結構です、これでやってみます」
「私と戦うつもりですか貴女、どうやら自分の力過信しているようですね」
大きく一つ深呼吸をすると私は背負っている刀の柄を握る…。
剣を持ったとき、いままでの暑さがすっと抜けるように抜けていく…明鏡止水の心境とでもいうのだろうが頭のスイッチが一瞬に入れ替わったような瞬間だった
刀自体は異常に長い柄と刃、そして珍妙なのが刃の中ほどに更に持つ部分がつけられている。その長さゆえにずっしりと重量感があるのだが私に扱えないほどではない
───私に扱えないほどではない?
「貴女こそ、今のうちに引くのが賢明だと思われますが?」
「剣を持った瞬間目が変わりましたね、いいでしょう次元念者ともども死にますか貴女」
───警告はした。
風は南南西から微弱、彼女までの距離約5m…先程の武器は符術が硬質化したものみたい。符の印からみるに陰陽師、呼吸は乱れていないが心拍数はそれなりに上がってる模様、肌の色からB型…性格分析的に負けず嫌いか
気が付いたら口元が緩んでいるわたしがいた、もしかしてこの状況を楽しんでいるのだろうか
まったく自分というもののなかにこんなに戦いに積極的な部分があるなんて不思議だ
「佐倉流符術の力その身に味わわせて差し上げます!」
陰陽師はまるで手品のように一瞬で符を取り出すとそのまま一気に印を切る。思った以上
に早い動き、印を切らせる前に始末するつもりだったのに少し誤算だ
(とりあえず向こうの動きを見てみるしかないか)
私は刀の中ほどの取っ手を掴み、そのまま正面に構える。これなら大抵の攻撃は防げるはず─
「受けなさい、佐倉流符術『烈風』!!」
「危ないでする!!」
術の発動とともに一気に周りの砂が舞い上がる、巫女さんの声が聞こえるとほぼ同時だろうか
わたしの体は空へ打ち上げられそのまま地面に叩きつけられた
「…つぅー、いたた」
「だ、大丈夫でするか?」
「な、なんとか」
地面が砂だったからダメージはさほどでもないがこの陰陽師はおもったより戦闘慣れして
いるみたいだ、てっきり陰陽師なんて氏神まかせの攻撃だと思っていたわ
「今度はこっちの番です!!」
「さて…貴女などに時間をかけるわけにはいきません、消えてもらいます」
陰陽師は符術の印を切りゆっくりと近づいてきている、私は再び剣を持ち直すと大きく深
呼吸をする…が、なぜか気持ちがまったく落ち着かない
(ドクン、ドクン…)
今は戦いに、この陰陽師との戦いに集中しなければならないというのに異常なまでに精神
がおかしくなってきている。さっきまでは剣を持っていれば気持ちが落ち着いていたとい
うのにっ!!
おかしい、太陽の熱にいまになってやられたの?それともさっき地面に叩きつけられたと
き?
「くっ…!」
眩暈…吐き気、体はゆらぎまともに立っていることすらできない
(だめだよ…ここで倒れるわけには)
…ザザッ
「貴女の番、じゃなければ再びこちらから行かせてもらいますよ」
陰陽師が近づいてくる、迎え撃たなければやられるっ…
…ザザッ
「あ、あの大丈夫でするか?」
巫女さんが心配している、私がやられてしまったら彼女も殺されてしまう、次元念者とか
いう存在ゆえに…
…ザザザッ!
勝たなきゃ、なにもかも終わってしまう!
「これで終わりです佐倉流符術「絢爛舞踏」!!」
陰陽師の姿がぶれるように消える、本当に彼女が消えているのか私の眼が見えなくなって
いるのかどちらなのかさえも微妙だけど…
頭を振るい意識を保とうとするもまったく状況は回復しない
…ザザザッ!!
さっきから頭の中にノイズが走る…
不安定なノイズ、急に体がおかしくなったのはこれが原因?何も映らないテレビ、砂嵐
なにも設定されていない状態、設定されていない?
私が設定されていないというのか、私が私の設定されていない部分に触れようとしたから
頭にノイズが走ったと?
…ああ、貴女の名前は「やかぜかえで」というのよ、夜の風になびく楓という意味よ
「っ!?今の名前?私の…名前!?」
「何、独り言をつぶやいているのですっ!」
背後から陰陽師の声、其の声に振り返ったときわたしはすべてを理解した
攻撃の入射角――、風向き──、反撃のために必要な最低限の攻撃速度──、
肉体という器から純粋な魂が抜け出すにはどこをどのように攻撃すればいいか──
「大丈夫、確実に殺すことができる」
瞬間、わたしの中で何かがはじける音がした
 
                    2
ジーク=ダットリー
 
この世で感じにくい幸福は、何も変わらない生活だ
だが平穏は長くは続かない、何も変わらない生活なんてどこにもない。
何も変わらない様に見えて少しずつ、少しずつ変わっていく
それを取り戻そうと手を伸ばしてもそれは叶わぬ願い
「だぁぁぁ!なんで!お前は!こうも勝手に!依頼を受けるんだ!!」
閑散とした森の中に怒号が響く、とある執事は傭兵風の男の胸倉を掴んで叫ぶ
「いやまぁー困っている人はほっとけないじゃん、そこんとこわかってよキューちゃん!」
悪びれた感じもなく大げさに肩を叩く傭兵風の男にキューちゃんの怒りのリミッターが振
り切れる
「黙れ!黙れ!黙れ!依頼人の名前も覚えてないような奴が慈善事業などするな!!」
キューちゃんの怒涛の攻めに足蹴りも加わる、もはや八つ当たりだ
「忘れてないよぉ~ほらサイだとか猿だとかそんな感じの名前だよ」
「ジーク、貴様いい加減にしろよ」
流石に突っ込みをまっているような返答にキューちゃんは槍を構える
「いやまぁ、本当はサイル=イージスって人が依頼主だよん…多分」
「それで、何故こんなところに謎の建物が建っているから調査してくれなんて事になっ
た?」
「あー、そこらへんはプライバシーとかそんな感じで聞いてないや」
(ったく、だからこいつは)
キューちゃん―――ことセルバンティス=ディアマルク=シャールス=ロリエンキュール
はこのジーク=ダットリーという元傭兵が居候に着てから何度となくそんなことを思う
気が付いたら居候していた、そんな感じだった。
ことの始まりは今から二、三年前の話だ、ロリエンキュールの主人であるルカ=マローネ
の義妹に当たるティア=マローネが仕事途中で拾ってきたのがこいつジークである
拾ってきたというか勝手についてきたと言った方が正しいのだろう
しかもなんだかんだでそのまま居候してティアたちがやっている会社『アクロポリス』の仕事
を手伝い、もといロリエンキュールから見れば邪魔をしている
(全く、ルカ様のお人好しにも困ったものだ)
キュールは意中の主人を想いためいきをつく。
ルカ=マローネという人物、穏やかで気品がありそこが魅力なのだがお人よしが過ぎるのだ
「さっさとその建物とやらを見つけて帰るぞ」
「わかってるよぉ」
ジークが辺りをキョロキョロと見渡すが広がっているのは木々ばかりで建物らしきものは
見えない。キュールはやる気があるのかないのかわからないジークをほっといてポケット
から手のひらサイズの水晶玉をとりだす
「およよーなにそれー?」
「魔力を測定する魔導アイテムだ」
ふぅーんといった感じのジークを見向きもせずにキュールは水晶玉をかざし辺りを見渡す
この魔導アイテムは水晶球を通じて見ることでその場に魔力があるかを調べるものである
魔力の強さによって色が赤・橙・黄・緑・青・藍・紫と変化する、虹と同じだ
とはいっても大抵の物は魔力を内包しているので強い魔力でなければ判定しにくいのが欠
点である
「ふむ、<インビジブル>の魔法なんかを使って姿を消しているようではないな」
「多分この辺じゃないとおもうよキューちゃん」
「キューちゃんは止めろ、大体貴様さっきからやる気あるのか」
水晶玉を覗きながら調べているキュール対してジークは先程から樹に凭れ掛かって休んで
いる、どうみてもさぼりだ
「だーかーらー、この辺周囲50000カルトには建物はないって」
「なんでそんなことサボってた貴様にわかる!」
「樹調べたら一発だよん、キューちゃん無駄足~♪」
「あああん!?」
キュールの握る手に力がこもり水晶玉に軽くヒビが入った。
「なんで樹調べたらそんな50000カルト先まで建物がないってわかる!?」
「簡単だよ、樹の記憶を調べればいいのさぁ」
そう言いながら手を凭れ掛かっていた樹に当てる
「こんな密集して低いところに根が生えてるんだよ、建物を建てるんだったら樹は伐るな
りさどけるなりするじゃん。んでこの樹には伐ったりどけたりしたときの痛みの記憶がな
い訳、しかも地下で根っこが他の樹にも絡んでいるから他の樹がダメージを受けてる様子
がないってわかってそれが大体50000カルト先までってこと」
「む…」
ジークが得意げに鼻を鳴らす、一方キュールは殴ってでもやりたいくらいだったがこう完
璧に解説されたら殴るにも殴れず押し黙ってしまう
能力者───、この世界にはジークのような個が持つ特殊な力を持った人間のことを言う
外見などは人間と同じなのだが魔力とはまた違う力を持っているのだ。能力というのは魔
法のように変化するものではなく、大抵が決まった一つのことについてしかできない
ジークは<記憶>を操る事ができ、手で触れたものの記憶の糸を切ったり繋げたりするこ
とができる能力者なのだ。ちなみにキュールの主人でもあるルカも能力者であり、彼女の
能力は<扉>という空間と空間をつなげる能力である
「50000カルトって結構広い範囲だぞ、場所あってるんだろうなジーク!」
「あ、空中に浮いてるのかもーそれならわからないんじゃない?」
「結局は自分の足で確かめないといけないという事か」
キュールはやれやれといった感じに腕を上げると踵を返して歩き出す、その様子は明らか
にすぐに仕事を終わらしたいといった感じであった
「そうだジーク、貴様にもこの水晶球を…」
しかし振り返ったキュールの目にはジークの姿はなく、鬱蒼とした森がただ広がっていた
「ふん、ようやくやる気になったか」
気に留めることもなかった、いっつもだらけてる居候が真面目に働くのは願ってもない事
だ。ただキュールは気が付いていない、ジークの足跡はどこへも行かずその場で消えてし
まっていることを…
─────
「およよ…ここどこ?」
瞬きをしたらいきなり世界が変わった、先程まで森の中だったのに今度は一転石造りの部
屋の中だ。辺りを見渡すもキュールの姿はなく、石造りの壁があるだけだった
ジークはしばらく自分のおかれた状況を考え込む。
が、…そう長く考えていられる性格ではなかった
「あーそっか、もしかしたら調査依頼の場所ってここかも」
あながちその考えは間違っていないだろう、どうやって入ったかは不明だが森の中にこん
な部屋があるのはどう考えてもおかしい
ジークはおそるおそる扉に手をかける、ドアノブには埃はかかってない。なにも物は置い
てない部屋だったがおそらく人が住んでいるってことくらいはジークでも理解できる
「お邪魔してまするぅー」
そおーっと扉から顔を出す、開けた先は石造りの廊下でかなり薄暗くどれくらい奥まで続
いているのかわからない様子だった
「こんれは困ったねぇ~」
有事に備えて剣を止めるレザーを外す、できれば話し合いで解決したいところなんだが
勝手に入ってしまった以上用心にこしたことはない
「そんじゃ探索と行きますか」
…石造りの迷宮はかなりの広さだった。
あちこち部屋を覗いてみたら書物やら魔導アイテムが無造作に置かれていてほとんどの部
屋が足の踏み場もない状態
そして人の気配がない
初めはコソコソと警戒しながら探索していたジークも段々いい加減になってくる
「しっつれいしまーす」
豪快に扉を開けるジーク
「────うわっ!?」
一瞬身をこわばらせる、なんせジークにむかって無数の“目”がこちらを睨んでいたから
「はぁ…なんだ人形かぁ」
ゆっくりと部屋に足を踏み入れる
さっきまでの部屋のような乱雑な様子はなく、綺麗に整頓されている部屋
ただやはり怖いのは部屋の半分以上を占めている人形の数だ
ジークと同じくらいの背丈の人形がそれこそ兵隊のように並んでいて騒然としている
「ここに住んでいるのは人形作りが趣味の可愛い女の子なのかなぁ~」
辺りをぐるっと見渡す、黒塗りのテーブルには目玉やら手やらが木箱に分けいれられてい
「あっれーこれどこかしら部品が欠けてるな」
最初見たときはわからなかったが並んでいる人形はどこかしら部品が欠けていた
右足のない人形、左腕のない人形、顔が半分欠けている人形、目玉が入ってない人形
「あ、こいつだけは完成しているのかな?」
沢山ある人形の中で一体だけ部品が欠けてない人形があった、長い黒髪に黒い背中の開い
たドレスが着せられている
思えばこの人形だけ他の人形とは違って小さな台の上に乗っていることに気がつき
おもむろに人形に触れてみる
「うわぁ…これ本当の人間みたいだ」
驚く事に感触はほとんど人間の肌だった、髪も人間の髪質のような感じだしこれで目に活力が
あれば人間と言われてもわからないくらいの出来栄えである
「ほぇぇーこれが完成品か」
「違うわそれにはまだ心がないもの」
「えっ!?」
後ろからの声に思わず慌てて振り返る、人形の美しさに気を取られて背後に人がいることに気がつかなかった
立っていたのは黒髪の女性、今まで見てた人形とどこかしら似ているような気がしたが女
性のほうは人形と違って髪は肩ほどまでで短く切り揃えられていて服装も民族衣装のよう
な感じの青いドレスだ、ドレスは胸元がかなり強調されていて足元のスリットもかなり深
く入っている。
人形は少女という感じだが、こちらの女性は大人の女性といった雰囲気をもっていた
「あわ、あわわ!あ、怪しいものではないです!!」
とりあえず言ってみる、いや明らかにジークの挙動は怪しい人なのだが言わないわけには
いくまい
「…いらっしゃい」
女性は微笑を浮かべながらジークのほうを見つめていた、どうやら話せばわかりそうな感
じに少し緊張が取れる
「久しぶりねジーク=ダットリー君」
まるで昔の恋人と話すかのように遠くを見つめ寂しそうにいう女性
久しぶりという言葉にジークは一瞬固まる
「あ、そ…そうだっけ?」
罰が悪そうに後ろ首をかく、なんとなく話を合わすためにそれとなく答えてしまう
ジークの名前を知っているということはたぶん何処かで会った事があるのだろうがジークの記憶にこの女性の記憶は全くなかった
「私のこと覚えてる?」
不安と期待が混じったような顔でジークの顔を女性は見つめてる。だがその顔すらジーク
は見ることができずに視線をそらしている、彼女の期待に答えれそうにないから
よくある話ど忘れと言う奴だ。おそらく体験した事のある人間なら誰でもわかるだろうが
こうゆう状況では相手のことを忘れたなんていいにくいものだ、それが彼女のような美人
ならなおさらのこと
「え、あーうん、覚えてるよぉーほら、あのー」
思考が混濁する、傭兵時代の知り合い?『アクロポリス』の依頼人?タートの町の住民?
ジークの頭の中で色んな人が現れ消えていく、上手く重なり合わないロジックに焦りがで
てくる。
結局、最終手段で思わず手が伸びた。
「あーほらほら肩にゴミがくっついておりますよお嬢さ…」
「ダメ。手癖が悪いわよジーク君」
あっさりと触ろうとした手を掴まれる。そして嫌な空気が二人の間に流れる
覚えてないから能力で記憶を引き出そうなんてことをしようとすれば当然だろう
「…覚えてないのも無理ないか、貴方は違うジーク君だものね」
「違う?違うってなにが」
言葉の意味がわからないジークはあっけにとられたままだが彼女は答えることなく微笑を浮かべる。
「今度の貴方は私の願いをかなえてくれるかしら?」
彼女は小さな声で呟くと掴んでいた手を握る
「私の名前は夜風紅葉、はじめましてジーク君」
「え、あ…はじめまして」
思わず握られた手をぎゅっと握り返す。彼女の手はとても冷たかった
 
                   3
                  夜風 楓
 
差し出されたコップをもらうと私は一気にそれを飲み干す。
冷えた水が喉を通るたびに体から疲れが抜けていく、こんなに水が美味しいなんて
思ったのは多分生まれて初めてだとおもう
「もう一杯いるでする?」
物欲しそうにコップを眺めていたせいか姫奈ちゃんが水差しを持ってきてくれた
私はコップを渡すとその場でおもいっきり背伸びをする
…けどこれからどうしよう
日の落ちかけていた町をぼんやり眺める、外では店をたたむ人や友達と別れて
家に帰っていく子供達がいた…ごくごく普通の日常だ
でも今の私にはそんな日常の思い出すら記憶していない
「今日は大変だったでするね~」
姫奈ちゃんが水の入ったコップを差し出しながら言う
「あの姫奈ちゃんここまできてなんですけど逃げなくていいんですか?」
「大丈夫でするよー瑞穂っちは悪い人じゃないでする」
悪い人じゃないって姫奈ちゃん自分を殺そうとした人を良くそんな風に言える
砂漠で巫女服なんて異様としか思えない格好の氷上姫奈ちゃんとこれまた砂漠にブレザー
なんて着て追いかけていた陰陽師、佐倉瑞穂さんと出会ったのが事の始まり
なんだか次元念者?という者らしい姫奈さんを殺そうとしてる瑞穂さんから姫奈ちゃんを
かばって私、夜風楓は瑞穂さんと戦って…えーとここから記憶が曖昧だ
とりあえず急に頭がフラフラしてやられるっとおもったら逆に勝ってたんだよね
後で姫奈ちゃんに聞いたら見事な返し胴だったらしい
その見事な返し胴で気を失っちゃった瑞穂さんをほっとくわけにもいかず二人でおぶって
町までやってきたという…そんな経緯だ
「だけど記憶喪失なのに強いでするねぇ~体が覚えてるって感じでする」
「でも今度襲われたら私勝てませんよ、殺される前に逃げたほうがいいんじゃ」
ベッドでは瑞穂さんがいまだ目覚めず眠っている、怪我はたいしたことなかったんだけど
起きたらまたなに言われるかわからないから怖い。黙ってればとっても綺麗な人なんだけ
どね…
「瑞穂っちとは前の世界から知ってる人だから本当に殺したりはしませんでする」
自分のことなのに姫奈ちゃんは結構気楽そうだ
「あ、そういえば前の世界ってじゃいまここってどこなんですか?」
「ここはウイングガルド大陸、ハームステイン王国でするよ」
「はーむすていん?」
「戦と炎の国でするよー毎日が大会の血の気の多い国でする」
そう言うと部屋に置いてあったチラシを私に見せる、見慣れない字だったが何故かちゃん
と読む事ができる。確かに旅人のための観光案内のチラシには闘技大会のことしか書いて
ない
「4562回大会優勝者、オルディ=ハウランド…4563回大会優勝者、幻=クレ
イド…4564回大会優勝者リン=カーシャ…う、これ全部書いてある」
チラシの裏には第一回からの優勝者が見えないくらい細かい文字で書かれている
「ここでは大会優勝者はかなり名誉なことでするから」
「あ、確か姫奈ちゃんもこの大会にでるためにここに来てたんでしたっけ?」
確かそんな感じの話が瑞穂さんを運ぶ中していたのを思い出した
「その予定でしたでするけど、出場料は今日の宿代に使ってしまったでする」
あ…そうか今私達が泊まってる宿代を出してくれたのは他でもない姫奈ちゃんなんだ
折角大会にでるために来たのになんか悪い事したな
「でも私にはまだ早かったみたいでする、瑞穂さんにも勝てなかったでするし」
そう言って水を飲む姫奈ちゃんの表情は少し暗い
あ、私なんか言わなくっちゃ
でも考えてみても上手く言葉が見つからない、口下手な私…
「私も楓ちゃんみたいに強くなりたいでする」
「え、あ、私だってそんなに強くないですよ!!」
「瑞穂っちはものすごーく強い陰陽師さんでする、私突然会って力試しに戦ったでするけ
ど全然敵わなかったでする。それを楓ちゃんは一撃で倒しちゃうんだから強いでするよ」
一撃ねぇ、でも私も最後の返し胴のことは全然覚えてない
それにあの剣を持ったときの感覚、まるで別の私がでてきたような感じだった
私ってなんなんだろうか…
「でも姫奈ちゃんそんな強くなってどうするんですか?」
考え事をしていてつい変なことを聞いちゃった、でも姫奈ちゃんの返答は早い
「私はこの世界だけじゃ生きていけない存在だからでする、新たな世界へ行く者は、自分
の身は自分で守らないといけないでするから」
「え…この世界だけじゃ生きていけない?」
思わず聞き返してしまった、この世界だけじゃ生きていけないってどうゆうこと?
「私は次元念者でする、突然異次元に飛ばされちゃう能力者でする」
「それじゃ姫奈ちゃんは別の次元から来た人?」
私の言葉にコクリと頷く姫奈ちゃん。
「おぬしは次元を渡りし者。その先は光か闇か、天国か地獄か、今はわからぬ。だが、未
来はいつか今となる。未来のために今を無駄に生きることの無いように。」
突然後ろから声がする、瑞穂さんだ…うわぁしっかり起きてるし
「ど、どうしてその言葉を知ってるでする!?」
ふと見ると驚いた様子の姫奈ちゃんがいる、この二人にしかわからないことなのだろうか
「ふっ、その言葉を言ったのは誰だと思ってるんですか私の祖父ですよ」
「そ、そうなんでするか」
「嘘を言ってどうするんですか」
乱れた髪を直しながら事も無げに言う、結局私はなにもわからず瑞穂さんと姫奈ちゃんの
顔を見合わせるくらいしかできない
「それでこの状況は一体どうゆうことかしら?」
冷たい言葉とともにいつのまにか瑞穂さんはコップを手にしていた、あ…それ私のコップじゃない!
う、いつのまに取られてたんだろう…
「どうゆう状況って瑞穂さんが私の一撃で気絶しちゃったからここまで運んできただけで
すよ」
「そういえば貴女、名前は?」
もう完全に会話の主導権は瑞穂さんだ、私が親切に答えたのに全く返答違いだし!
こうなったら従うしかないかな…怖いから
「あ、そうか姫奈ちゃんから名前を聞いてたけど私の名前は教えてませんでしたね私が記憶喪
失ってことも言ってなかったですし」
「いいから名前よ」
「えっと夜風楓です、夜の風になびく楓って漢字で」
そこまで言って私はなにか違和感を覚えた
“夜の風になびく楓”
確かにそれは私の名前だ、でも記憶をなくした私はどこでそれを知ったんだろうか?
砂漠で目覚めたとき私は自分の名前すら覚えてなかったはず、もしかして記憶がもどった?
違う、その言葉はどこかで聞いたんだそれもとても懐かしい声で…
「楓ちゃん?楓ちゃん?」
「ちょっと貴女聞いてるの!?」
「ふ、ふわぁい!?」
怒鳴り声に思わず変な声をあげてしまった…どうやらまたぼけっとしてたらしい
瑞穂さんの冷たい眼差しがもう心にグサグサッってかんじに突き刺さる
「え、えっとなんでしたっけ?」
「楓ちゃんこれからどうするつもりでする?ってお話でする、楓ちゃん記憶喪失なんでするよ
ね?」
どうするって私は記憶もないし、こんな砂漠の町にほっとかれても正直困る
「あのお二人はこれからどうするんですか」
「私は大会に出れるようにまた武者修行しながら旅を続けるでするよー、瑞穂っちは?」
「貴女、私がなんでここにいるかわかってての発言ですか」
「えーっとなんでしたっけ」
じっと瑞穂さんが姫奈さんを睨み付ける、しかしそれも気にしない感じの姫奈ちゃんは随
分と大物だ、私じゃ無理だあんな目で睨めつけられたら動き止ちゃうよ
「私は今すぐにでも決着を付けてもいいのですけど」
手にはなにか難しそうな字が書いてある符術が…え、ちょっとまってここで始めちゃ
色々まずいと思うんだけど
「でもでもあのまま砂漠で瑞穂っち放置してたら今頃死んじゃってまするよ。それを助け
てもらっておいてまた戦うなんてどうかと思うでする」
事も無げにいう姫奈ちゃんに一瞬瑞穂さんの眉が引きつる
「制御できない力をいつまでも保有しているくらいならいっそ命を散らすべきです」
「そのうち制御できるようになるでする」
私が止めないとまたなにか危ない事が始まりそうだ
「あ、あの!姫奈さん!私もその武者修行ついていっていいでするか!?記憶喪失でいくとこ
ろありませんし…」
思わず言ってしまった、しかも語尾まで移ってしまっている
「いいでするよ~二人の方が楽しいでするし瑞穂っちも楓ちゃんには敵いませんでするか
らボディガードしてほしいでする」
「私が敵わない?」
冷たい視線の対象がそのままこちらに向く、なんか話を変えたつもりだったのにちょっと失敗
「いやまぁ勝負は時の運ですよ、ね?瑞穂さん」
「………。」
私の御世辞にも表情一つ変えずに睨みつけてくるのは本当止めて欲しいんですけど
瑞穂さんはそのままじっと腕を組んで考え込んでるし、やっぱりなにか苦手だ
そんな中でも姫奈ちゃんはマイペースだから羨ましい、慣れたらなんともないのだろうか
「それじゃ決定でするねーそれじゃ明日は旅の準備をしないといけないでするね」
「そうですね。あ、でもお金は」
「少しよろしいですか姫奈さん」
お金はないって言おうと思ったら瑞穂さんが鋭く話に入ってきた、わかった私はお金がな
いけれど瑞穂さんには協調性ってのがないんだ
「なんでするか?瑞穂っちも一緒に買物いくでする?」
「そうですね…どうせなら私もその武者修行とやらご一緒してもよろしいかしら」
「ええっ!?」
おもいっきり声を上げた私に二人の視線がこちらに向く、慌てて口を押さえても言葉が消
えるはずも無くもう何度目かという冷たい視線に突刺される
「なにか問題があって?夜風楓さん」
首を横に振る。なにか喋ったらまた小言を聞かされそうだもの
「それじゃ構いませんね姫奈」
「でもどうして急についてくることにしたんでする?」
「そんなの決まってるでしょう要注意人物が二人もここに揃ってる、放っておくほうがど
うかしてますわ」
要注意人物…?しかも二人?
一人は次元念者の姫奈ちゃんだとするともう一人は私?
じっと瑞穂さんのほうを見ても向こうは私を無視するつもりかこっちの方を見ない
「瑞穂さん!私が要注意人物ってどうゆうことですか?」
「言葉通りですよ夜風の民」
さらりと言うと瑞穂さんはコップの水を飲み干す
夜風の民?この人絶対何か私について知ってる!?
「あの瑞穂さん!夜風の民って…」
「それでご一緒してもよろしいのですか姫奈さん」
「構わないでするよ、けど殺しはだめでする」
私を無視して話を進める瑞穂さんにいい加減頭にきて思わず手に力がこもる
でも姫奈ちゃんがいるから私は仕方なく押し黙った、けど異世界だっていうのに私の事を知っ
ている人間がいることにはある意味喜ぶべきなのかもしれない
「それじゃ明日は三人で旅の準備ですね」
瑞穂さんは軽く微笑むと一瞬こちらを睨む、明らかに敵対している目だ
これから私、記憶を失った夜風楓はどうなってしまうんだろう
異次元を旅する次元念者、氷上姫奈
私について何か知ってる陰陽師、佐倉瑞穂
そして私…夜風楓
熱砂の砂漠で出会った三人
それが誰かに仕組まれたことなんてことはまだこのときの私達は知らなかった
すべては手の平に
あの人の手の平の上で私達は出会っただけであったのだ
そしてまた血塗られた流転の戦いは繰り返す
真っ赤、真っ赤、真っ赤
真っ赤な夕日にすべてが赤くなる
畳の上に敷かれた布団も…そこで寝ている私の顔も…
…隣で頭をなでている姉さんの顔も
「ねぇねぇ、お姉ちゃんご本読んで」
「なんの本がいい?」
「赤い靴のおはなし、お姉ちゃんがかいたほうの」
私は赤い靴の話が好きだった、けどそれはお姉ちゃんが書いた「赤い靴」の話
「あれは…んーおすすめじゃないわよ楓」
そう言いながら姉さんは鞄から古びたノートをとりだす
「やだー!お姉ちゃんが書いたのじゃないと可哀想だよぉ」
赤い靴の主人公は病気の祖母の看病をせずに舞踏会へ行く…
赤い靴は素敵な踊りを踊ってくれるけど止まらない
止まらない、止まらない、止まらない
止めて、止めて、止めて、止めて、止めて
少女の悲痛な叫びも空に消え、一人踊り続ける。どんなに止めようとしても止まらない
疲れ果てた先に少女が見たのは自分の祖母の葬式の様子…そして最後に少女は懇願するのです
────そこの木こりさん、どうか私の足を切ってください
「だってだってほんのちょっと舞踏会に行きたかっただけだよ、それなのにお祖母ちゃんは死んじゃうし、足は切り落としちゃうし」
それだけで泣きそうな私を姉さんは優しく諭すように頭をなでてくれる
「あれにはちゃんと続きがあるのよ楓」
「でもでもお姉ちゃんのがいいの、お姉ちゃんの赤い靴の話が私は好きなの」
いつもいつも私は我侭ばかりだった、それでも姉さんは嫌な顔一つせずにお話を聞かせてくれた
「しょうがないわね、それじゃ読んであげるね」
「うんー」
優しい姉さんの手大好きだった…あの手はひんやりとしていてそれでいて暖かくて
それで撫でられているとっても気持ちよくて…いつもお話の途中で寝ちゃうんだった
その度に姉さんに「もう、途中で寝ちゃうんだから」って怒られて、あれ…
姉さんのあの話どんな結末だったかな、大好きな話だったんだと思うけど
────そうゆう設定よ、忘れなさい
────そうゆう設定よ、忘れなさい
────そうゆう設定よ、忘れなさい
───────そんなこと大切にしないで早急に忘れなさい、あの話…あの話には
誰かの声がする、なんだろうこの声懐かしいけどどこか冷たい
───────あの話には終りなんて書いてないのよ
プロフィール
HN:
氷桜夕雅
性別:
非公開
職業:
昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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