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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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夜風 楓
 
カーレアが眠った、そのときがわたしが目覚める時間
またカーレアは次元を跳躍したみたい
再び繰り返されるというのね血塗られた流転の戦いが
それでもわたしにはこの世界が全て、冷たい大理石の上で目隠しをし鎖につながれて時が
くるのを待つだけの世界
わたしは天井を見上げる、吹き抜けになっている天井から太陽の光がアイマスクを通じて
瞳の奥に吸い込まれていく…
わたしはここに来てからずっと目隠しをされたままでいる
何故ならわたしが次に見るのは『新たなる世界』だからとあの人が言っていた、だからわ
たしはそれに従っている、あの人のために
じっと太陽の光を見ているとガラガラと扉が音を立て開いた、ああそうか食事の時間だ
最近食事の当番が小さな女の子に変わった、歩く歩幅や彼女が入ってきた時に広がる甘いマー
ガレットのシャンプーの香りからわかる
彼女は全く喋らない、前の食事当番も無口だったがそれでも「口をあけてください」だと
か「気分はどうですか?」だとかは言っていた
気分はどう?目隠しをされて鎖で手足を拘束されてそれが気持ちいいと感じるならそれは
マゾというものね、確かそのときはそんな風に思ったっけ
彼女は御粥をすくって口元に運んでくれる、いつもの美味しくない食事だ。冷たくもなけ
れば熱くもない、ぬるくてそして味がない…そもそも御粥であるのかも怪しいくらい
にドロドロとした液体をわたしは毎日二回口にしている
食事というよりもこれもあの人のいう儀式の前準備だと思うようにしている、でなければ
こんなのは食事とはいえるような代物ではないから
食事が終わると前の食事係はそそくさとでていくのだが、彼女はいつも決まってわたしから
少し距離をとって絵を描き始める
上質の紙の上を走る石炭の音がする、おそらく彼女は相当絵を描くのが上手いんだろう
描画する音がまるで一つの旋律を奏でているように聞こえるからだ
だが彼女に与えられた時間は少ない、多分すぐ戻ってくるように言われているのか
四、五分もしたら彼女に迎えがやってくる
「紗希たーん、あんまり長いこと絵描いてるとまたブラックフォンのおじじに怒られるよ
ん」
迎えに来るのはいつも同じ男、微かに血の匂いと薬莢の匂いが混じった男だ。
明るい感じの声だけどきっと危ない人間に違いない
そして彼女が出て行ってしまうと後はわたし一人の退屈な時間に引き戻される
ああ、カーレアが羨ましいなどんなに苦しい状況でもカーレアには変化というものがある
わたしにはそれはない
はやく来てくれないかな、わたしの夢の救世主カーレア…
 
 
 
「う…夢?」
妙にリアルな夢に目が覚めた、時計はすでにお昼を回っているようでまた暑い日ざしが差
し込んできている
なんだろう変な感じ…
さっきみた夢はなんだったのかよくわからないけどただ色んな音やそこに漂う匂い、自分
が素足で冷たい大理石の上に触れている感覚だけがはっきりと残っている
夢なのに感覚があるなんて不思議な事もあるんだなぁ
自分の足に触れてみたら確かにそこだけなんだかひんやりと冷たかった
んーよくわからないけど多分あれじゃないかな、赤い物を皮膚に近づけると暖かくなって
青い物を皮膚に近づけると冷たく感じるとかそういった類の現象?深く考えてもしょうが
ないからそうゆうことにしておこう
んぅ…まだ昨日の疲れが取れてない感じだ、もう一度寝なおしてみようかな
疲れた体には暖かい布団で寝るのが一番だもんね
そう思って布団を被り直したみたがそれはすぐに剥ぎ取られてしまった
「貴女、この期に及んで二度寝するつもりですか」
なんか嫌な予感
顔を見上げるとみると既に怒りの限界を突破している感じの瑞穂さんが見えた
「お、おはようございまぁす」
とりあえず一番の笑顔で元気よく挨拶をしてみる…けどまぁ瑞穂さんには全く
の無意味っぽいのはわかってた
「早急に仕度をしてくれませんかね?私達かれこれ三時間も待ってるんですけど」
思い出した!そういえば昨日寝る前に明日は暑くならないうちに買物をしようとかいって
たっけ…って!そもそもその提案したの私じゃない
「ご、ごめんなさいっ!すぐ準備しますから」
ベットから転げるように降りると一気に洗面台まで走る
顔を洗って髪を梳く。かなりの癖毛に思わず「女の身支度は時間がかかるのよっ!」って
叫ぼうとおもったんだけど鏡の奥に映った瑞穂さんの顔を見たら言う気もなくなった
まぁそれでもさすがにロングのままってわけにもいかず仕方なくリボンで髪をまとめ
てポニーテールって形にしておいた
「お、おまたせしましたぁ~」
「あ、楓ちゃんおはようでする」
宿の前に出てみたら姫奈さんが正面の日陰に座り込んでいた、結構待ってたみたい
「ごめんね、寝坊しちゃって」
「いいでするよぉー疲れているとおもって起こさないようにって思ってんでするけどー
なんだかその様子だと瑞穂っちが無理矢理起こしちゃったみたいでするね」
な、なんていい人なんだろう…それに比べてぇ~
私はちらりと瑞穂さんの方を見るが我介せずといった感じに空を眺めている
んむぅ、まぁ寝坊しちゃった私が一番いけないんだけどね
「それじゃ出発でするね♪」
そういって私の手を引っ張って走り出す姫奈さん、よっぽど楽しみにしてたんだなぁ
「えーと、あれもいいでするねー、これもいいでするー」
姫奈さんと二人ハームステインの露天街を歩く、ちなみに瑞穂さんは私達とは少し離れた
後ろを歩いている…亭主関白?ちがうな多分一緒に歩きたくないんだ
それにしても砂漠も暑かったけど街中はもっと暑い、人の発する熱と何故かいたるところ
に立っているかがり火で多分砂漠の中よりも気温が上がっている
ああ、だから朝の涼しいうちに買物行こうって誰かが言ったんだっけ…私だけど
後悔の溜息をつく、まぁしょうがないよ疲れてたんだから
「んーここら辺は武器ばっかりでするね~食料が欲しいんでするけど楓ちゃん昨日のパン
フレットもってまする?」
「あ、ちょっとまってください」
パンフレット、昨日宿で姫奈さんが見せてくれた物のことだろう。それには街の大まかな
地図も載っていたはずだ
「えっとこれですね」
私が広げた地図を二人で覗き込む、中央に巨大な王城ハームステイン城があってその周り
を放射線状に街が広がっている。今私達がいるところが南側の武器街だとすれば食料関係
はここから反対側の北側に位置するようだった
「それじゃ時計回りに回っていけばいいでするね~」
姫奈さんは私にパンフレットを預けて楽しそうに巫女姿で駆けて行く、元気だなぁ
それにしてもこの世界は変わっている、いやこのファンタジーっぽい世界に和風な巫女っ
てのはどう考えてもおかしいよ
現在記憶喪失中な私でもこの世界が私の住んでいた世界とは逸脱していることはわかる
もう一度パンフレットに目を落とす、裏は大会優勝者ばっかりの羅列だったから表の方だ
東の大陸ウイングガルドにおける三大国家はクインハルド、フランク、ハームステインで
ありハームステインはこの中でも最後にできた国家である…
元は南方の砂漠地帯にすむ民族の集団でとても好戦的であり、この街自体も闘技場が最初
に造られてそこにくる戦士達が休めるように宿ができ、武器を売るために商人が店を建て
る、そんな風に発展してきた
うーん、どうもしっくりこない。記憶がないんだけど少なくとも私がいた世界って感じで
は無い気がする、どちらかといえば姫奈さんや瑞穂さんみたいな感じの服装の人達がいる
世界だったような…
とりあえずこの露天で売っているような魔導アイテムとか魔術の秘薬だと見たことない
でもそうするとなんで私はこの世界の文字を読めるんだろう?
「楓ちゃん~みてーレアカードでたでするー」
気がついたら姫奈ちゃんは綺麗な装飾が施されているカードを手に喜んでた
「レアカードってなんですかそれ?」
「コンフリティック=タロットっていういま人気沸騰のカードゲームでする」
「カードゲームですか」
カードには炎の剣を持った巨人が描かれている、炎の世界ムスペルヘイムに存在する巨人
スルト。神々はここから飛んでくる火花のうち、大きいものを太陽と月に。小さいものは夜空にばらまき、星にした。炎の魔剣レーヴァテインを持っている…
ちょっとまって、これって北欧神話ってやつじゃなかったっけ?
それ以前に私記憶喪失のはずなのにそんなどうでもいいことは覚えてるんだ
…でもそれよりも
「それで姫奈さんこれってなにか旅に役に立つんですか?」
それは言ってはいけない言葉だったみたい、姫奈さんの表情が一瞬固まる
「ほらあれでする、長旅だとメンタル面的に疲労するでするからそれの解消でするよ」
「でもそんなに買っちゃったら食糧とか買えるんですか?」
私の言葉に更に姫奈さんの表情がさらに固まる。姫奈さんが持っているレアカードは一枚
だけど袴に隠れるように大量のカードが入った紙袋が顔を覗かせているのだ
なるほどね、姫奈さんレアカードのために大量購入したってわけか
「だ、大丈夫でする。食料とかは現地調達で食べれる薬草とか知ってるでするし」
「私は道端に生えた草など口にしたくはありませんが?」
いつのまにか私の隣にまで来ていた瑞穂さんが冷静に答える、神出鬼没だなぁこの人も
「瑞穂っちー突然現れないでくださいでする」
「貴女達は買物一つとてろくにできないのですか?」
「い、いつのまにか私まで一緒にされてるし」
「だってしょうがないでするよぉーコンフリの新しいバージョンがでたでするよ、これは
買わないと他の皆に乗り遅れるでする!」
拳をぎゅっとして意気答える姫奈さん、んー相当カードゲームに夢中らしいけどなにか目
的が違わない?
「いくら貴女がレアカードを出そうと実力が無ければ無価値ですけど」
「むー!それじゃ今夜また勝負でする!」
ん…もしかして瑞穂さんもコンフリティック=タロットだっけかをやるのかな?
瑞穂さんなら「こんな下等生物の玩具等に興味ありませんねぷんすかぷん」とかいいそう
なのに少し意外だ
「そうだぁ!楓ちゃんもやるといいでする、いらないカードなら私があげるでするよ」
そういって姫奈さんは私にずっしりと重い手提げ袋を手渡す、紙とはいえかなり大量に入
っているため結構な重さだ
本当買い過ぎだよ…
「それはいいとして、すみやかに買い物を済ませましょう。買物はまだなんでしょう?」
なんだかんだ言って瑞穂さんは仕切りたがりだ、いつのまにか中心になって事を進めてく
れる
「正直野営などはしたくはないのですが仕方ないです、テントと固形燃料くらいは欲し
いですし後は食料ですか。まぁ私に任せれば問題はありませんよ」
瑞穂さんが獲物を狙うかのように露天を物色始める、ああ…あんなきつい目で見られ
たらそれだけで販売価格が三割は引かれるだろうなぁ
私は後ろを歩きながらくだらない事を妄想していた。
 
「まぁこんな感じですかね」
そういって瑞穂さんは息をつく、日はもう落ちかけていて夕日に照らし出される瑞穂さん
の姿はなにかを成し遂げた達成感で光り輝いて見えました、まる
んー買物一つでここまでいうのはちょっと無理かな
でもまぁ瑞穂さんの買物術とでもいうのかは確かに凄いものだった、なんたってほとんど
の物を脅して安く…じゃなかった値切って安くしちゃうんだもの
まぁそのおかげで少しはそこらへんに生えている草とかを食べなくてすむから感謝しないと
「あうあうー前が見えないでするよぉ」
横で姫奈ちゃんが缶詰の入った袋を持ってフラフラしている、いつ袴の裾を踏んで転んで
もおかしくないくらいだ。かくゆう私も似たような状況、しかも姫奈ちゃんにもらったカ
―ドの大量に入った手提げ袋付きだ
「瑞穂っちも持ってくださいでするよ」
「なんで私がそんな重い物を持たなければならないのかしら?そうゆう仕事は貴女達の方
がお似合いですよ」
まぁそうゆう返答がくることは容易に想像できた、わかりやすいなぁ
「でもまぁ少しは休憩くらいさしあげてもいいかもしれないわね、とりあえずあの店にで
も入りますか」
そういって瑞穂さんが指差したのは町の外れにある建物、珍しく静かな感じの喫茶店のよ
うだった
手ぶらの瑞穂さんは軽い足取りですたすたと歩いていく、私と姫奈ちゃんは慌てて後を追
った
からん───
ドアのカウベルが涼しげな音を奏でる、どうやら地元の店ではない感じだ。他の店は大抵
かがり火をつけて汗臭さと熱気あふれる状態だったのだがこの店は一転、風通しの良い店内に真っ白なテーブル、真っ白な椅子が並び爽やかな感じだ。
「うわぁ、いい香りでするね」
「本当、なんか急におなか減ってきたよ」
外からでも漂ってきた紅茶とパンケーキの甘い匂いがより強くなる。
「ん、あ…もしかしてお客さんですか?」
カウベルに気がついたのか奥の調理場から細身の男性が現れる。でもウェイターにしては
変だ、なぜか男の人は片手に立派なヴァイオリンをもっているのだから
「ええ、そうよ。この店は客が来たというのに水も出さないんですか」
「僕はこの店の演奏家でして、ちょっとまってくださいね。おーいカシス君」
「なにージオラルド君―」
男性の声に調理場の奥から髪の長い女の子が顔を出す、服はあれだウェイトレスとかが着
る、えーと…
「アンミラメイドでするね~」
そう、それ!姫奈ちゃんが代弁してくれたアンミラ服だ。正式名称はアンナミラーズ、胸
当てのないサロン・エプロンの一種でそのため胸が大きく意識された服である
ん…?一瞬なにかと繋がった気がするがそんなことはどうでもいいや
「え、あれ?もしかして…お客さん?」
ひょっこり顔を出したカシスさんもジオラルドさんと同じ反応をする、なんだろうこの店
お客が来るとなにかあるんだろうか?ジオラルドさんが軽く頷くとカシスさんは慌てた感
じで奥から水の入ったグラスを持ってきた
「お客様はあれですか?旅の途中とか?」
「そうですが何か。それより貴女この店はメニューもないようですが一体どうゆうつもり
なのかしら」
グラスの水を軽く飲むと瑞穂さんがカシスさんに問い詰める、確かにこの店の雰囲気はい
い感じなんだけどお客が来る事を珍しがったり、メニューがなかったり色々と変わってる
なによりなんだろう私達以外お客が誰もいないのが気になる…
「メニューは店長がお客様の顔を見て決めるようになってるんですよ、あはは。では私は
店長を呼んできますね」
カシスさんはなぜか申し訳なさそうに言うと調理場のほうへ消えていく、ジオラルドさん
はというと普段の定位置なのだろうか少し高い台座の上に立ちヴァイオリンの演奏を始め
ていた。
「変わったお店でするね~なにが出てくるか楽しみでする」
「そ、そうだね口に合えばいいけど」
「口に合わなければお金を払う必要はありません」
瑞穂さんなら本当にやりそうで怖い、そう思った瞬間だった
ドンッっという音とともに店全体に衝撃が走る、あまりの衝撃に思わず私と姫奈ちゃんは
席から立ち上がる
「あわわ爆発でするよ」
「な、なにこの衝撃!?」
「あー日常茶飯事なんで気にしないでください」
慌てる私達にニッコリと微笑んでジオラルドさんが言う、けどこれが日常茶飯事って一体
全体どうゆう店なの?
「…随分と賑やかな喫茶店だこと」
瑞穂さんだけは席から立たずに冷静に事の展開を見つめていた。
衝撃からしばらくした後白い煙を後ろに纏い緑髪の女性が姿を現す、といっても白い煙
──おそらく小麦粉なんだろう──を頭からかぶっていて殆ど白い人だ
やっぱり変な店だと店長も変な感じだ
「けほっ、けほっ!あーいらっしゃいませーラナ=インロードの喫茶店『組曲』へ」
「あなたが店長さん?」
「そうです、私が天才パン職人予定のラナ=インロードですっ!いやぁちょっと新作パン
を作ってたら爆発起こっちゃいまして、まぁ失敗は成功の元が私の信条ですから気にしま
せんけどね~」
ラナさんが小麦粉をばら撒きながら笑う。一体どうやったらパンを作っててあれだけの爆
発を起こせるのかわからないけどこれもある種の才能ってやつなんだろうなぁ
「けほっ、だからこのバイト嫌っていったのよぉ!」
調理場から這いずるようにでてくるとカシスさんが叫ぶ、ああ…なるほどどうして客がいない
のかこれだけでわかった気がするよ
「それで貴方達のくだらない漫才はもう結構です。それで店長さん、早い所私に出すメニ
ューを決めてもらえるかしら」
瑞穂さんが肩肘をついて溜息一つついて言う、この状況でこの人は食べるつもりなの?
どう考えても不味いに決まってるじゃない!
「わっかりましたぁ~それじゃカシスちゃん、元気一杯袴娘の彼女にはナンバー67をこ
ちらのクールビューティな陰陽師の彼女はナンバー79を、それでこっちの謎の少女風の
子にはナンバー99試作型を御願い」
ラナさんの指示に小言で「こんなバイトやめりゅ…」といいながらカシスさんが調理
場の奥へと消えていく
それよりなんでラナさん瑞穂さんが陰陽師ってわかったんだろう、姫奈ちゃんは袴姿だか
らいいとして瑞穂さんなんて傍から見れば嫌味の多い女学生にしか見えないけどなぁ
そして私は謎の少女って、まぁ確かに私の存在なんて私自身でさえ謎だからいいんだけど
「二人ともそろそろ座ったらどうですか」
「あ、うんそうでするね。爆発と味はあまり関係ないでする」
「はぁ…ここまできたら腹をくくるしかなさそう」
私と姫奈ちゃんが座ったとほぼ同時くらいに調理場のほうからカシスさんが出てくる
そして三つのパンが私達の前に並ぶ、見た目三つのパンは差異がないようだがラナさんの
口ぶりからして中身になにかがあるんだろう
思えば私のだけ試作型っていわれてた気がする、うぅなんか嫌な予感
「それじゃ私からいただくでする」
姫奈ちゃんがまず最初にパンにかぶりつく、いくら朝からなにも食べてないとはいえあん
な爆発を見せられた後にこの行動はすごいと思う
「ど、どう姫奈ちゃん?」
恐る恐るたずねてみる
「そうでするね、美味しいとは思うでする。ただなんていうか味がないというか」
そう言いながら姫奈ちゃんは首を傾げながら何口か口にしている。
「違う違う、そうやってたべるんじゃないですよっ!」
味はともかくまだ食べれる範囲の物らしい、とりあえずは一安心だ。そう思ったときいき
なりラナさんが小麦粉をばら撒きつつ大声を上げる
「このパンは専用のソースをかけて召し上がってくださいっ!」
ラナさんはポケットのなかから一本のボトルを取り出しテーブルに勢いよく置く
ボトルの中は専用といいつつどこにでもあるような普通のサラダドレッシングのようだ
「これをかけると味がするでするか?」
「はいっ!皆さんもパンに野菜を挟んで食べた事はあるとおもいます。けど噛み切れずに
ボトボトっと落としちゃう事ありません?それを無くすためにパン自体に野菜を練りこん
でみたわけです、小麦も野菜も同じ植物相性ばっちり!名づけてヘルシー野菜パン!」
なんか説得力のあるようなないような解説を述べながらラナさんはボトボトと姫奈ちゃん
のパンにドレッシングをかけていく、ボトルの中身ほとんどをかけ終わった辺りでラナさ
んは親指を突き立て
「さぁめしあがれっ!」
と叫ぶ
姫奈ちゃんの前にはサラダドレッシングでべとべとになったパン、らしきものがあった
「それじゃ食べてみるでする」
「えっ、姫奈ちゃん食べるの…それ」
「何事もチャレンジでする、もしかしたらとんでもなく美味しいかもしれないでする。調
理学校の生徒でもある師匠も言ってたでする」
どこまでも前向きな姫奈ちゃんは凄いと思う、でもあれだよ勇敢と無謀は違うって言うか
「うりゅ…これはっ」
案の定姫奈ちゃんは口を押えて苦しそうな顔をしてる、ラナさんの「お味はどうですか?」
といった質問に「独特な味でする」と一言言うと黙り込んでしまう
「それじゃ今度はあなたの番ね、楓さん」
姫奈ちゃんの状況を見てみぬ振りか事も無げに瑞穂さんが告げる、どうやら覚悟を決めなきゃ
駄目みたい
「そ、それじゃいただきます」
死ななければ何とかなるって感覚で私はパンを手に取りかぶりつく
一口目、確かにパン自体の味は悪くはないみたいだ
二口目、ガリっとなにかが口の中で砕けて一気に苦味が広がっていく
三口目…を口にするのは止めた
「ううっ…ラナさん、これなんなんですかぁこれ」
「パンだけじゃ栄養のバランスは偏ってしまうので色々な栄養薬を混ぜてみました、名付
けてサプリメントパンっ!」
「え、栄養薬…」
よくみるとパンからはカプセルが砕けて粉状の薬が飛び出している、本当もうありえないよ
 
ラナさんの珍妙なパンを食べてから半時間、結局私と姫奈ちゃんは珍妙なパンの味について
いけず仕方なくカシスさんの淹れた紅茶を飲みながら雑談をしていた
ちなみに瑞穂さんの食べたパンは『羊羹パン』という意外と?食べれるパンだった、どうせ
なら物凄く美味しくないパンを食べてほしかったと心なしか思ってしまう
「それで明日からはシェイクランド方面に向かおうと思うでする、そこから船に乗って一旦
西の大陸グラディアルステーションに渡ってですね…」
露店で買った大陸地図を指でなぞりながら解説をする姫奈ちゃん
「ここ、タートの街に行くでする。ここには私の知り合いの記憶を操る能力者さんがいるので
記憶喪失の楓ちゃんの記憶も呼び起こしてもらうでするよ」
「記憶を操る能力者?」
「そうでする、ジーク=ダットリーさんって言うんでするけどジークさんは手で触れたものの記憶を操れる魔法使いみたいな人でする」
確かにそのジーク=ダットリーって人に会うことができれば私の記憶も甦るかもしれない
でもジーク=ダットリーって言う名前、どこかで聞いたことがあるような
私はいつもの癖で頭を小突き思い出そうとするが結局何も思い出せなかった
「あ、でもハームステインからのほうがタートの街へいくのに近いんじゃないんですか?」
ジークさんのことはとりあえず置いといて私は大陸地図のシェイクランドの位置を指差す
地図によると今いるハームステインよりもシェイクランドのほうが東に位置している、西の大
陸にあるタートの街へ行くには遠回りのような気がしたのだ
「それはでするね、ハームステインから出ている船は大会関係で乗るなら安いんでするが一般
の旅行客にはちょっと乗船券は高いんでするよ、だから一旦シェイクランドにでてから船に乗
るんでする、シェイクランドからの船なら魔動力の船でも結構安いんでするよ」
姫奈ちゃんが得意そうに鼻を鳴らす、異世界から来たというのに姫奈ちゃんはこういうことに
とても詳しいみたいだ
「あ、瑞穂っちもこのルートでいいでする?」
「ご自由に、私はただ付いていくだけですから」
私達の相談に参加していない瑞穂さんがつまらなそうに言葉を吐く、興味がないようで先程か
らティーカップに移る自分の姿をじっと見つめていた
「でもやっぱり美人三姉妹の旅なんですから皆で決めるのがいいでするよ」
「私と貴女達下等生物を同列に論じないでもらいたいですね」
はき捨てるように言うと瑞穂さんは見つめていたティーカップの紅茶を啜る
「下等生物同士の相談事など時間の無駄、と言いたいんですよ私は」
「その下等生物に助けられたんでするよね~瑞穂っちは~」
「な……誰が助けろといいましたか!」
またはじまった…
もはや夫婦漫才のような瑞穂さんと姫奈ちゃんのやりとりをよそに私は窓の外に見える夕日を漠然と視線を移す。なぜかはよくわからないけど夕日を見ていると何かを思い出しそうになる、
思えば昨日もそうだった…私が記憶をなくす前になにか夕日と私を結びつけるものがあ
ったのかもしれない
夕日、真っ赤な夕日、赤い靴の話、血の赤、血塗られた流転の戦い
…チヌラレタルテンノタタカイ?
────そうゆう設定よ、忘れなさい
「うっ…!」
私が何か記憶の破片を掴みかけた瞬間それを振り払おうとするかの如く胸に痛みが走る
「楓ちゃんどうかしましたでする?」
ふと顔を上げると姫奈ちゃんが心配そうな顔でこちらをみている
「あ、うんん。大丈夫ちょっとむせただけだから」
「でも顔色悪いでするよ?さっきのパンのせいでする?」
「いや、本当大丈夫だよ」
私は大きく息を吸い込みなんとか気持ちを落ち着かせる、やはりなにかを思い出そうとすると
それを拒絶するかのように体がおかしくなる
夕日、赤色、おそらくこれが私の記憶をたどるのに大事な要因であることは間違いないみたい
もう一度夕日を見つめる
夕日の赤が歩く人達を染めている、それはただ流れていく人波だったがその中で一人突然だが
目が合う、頭からすっぽりローブを被った女性だ
でも多分それは目が合ったんじゃない、ずっと向こうがこちらを見ていたんだとなんとなく思
「ティアさん…?」
自分で呟いた言葉に驚いた、だいたい私は記憶喪失だというのになんで目が合った女性の名前
を知っているのか?でもあれは確かにティアさんだと私の記憶が言っている、思考と記憶がご
ちゃまぜになって気持ちが悪い
「全く貴女は少し落ち着いたらどうなんですか」
挙動不審な私の行動に瑞穂さんが怪訝そうな顔をしているのだろう、けど私はそれを見ること
はできない。少しでも目を離したらあの人波のなか目が合ったティアさんを見失いそうだから
そして気がついたら私は走り出していた、走り出した瞬間姫奈ちゃんや瑞穂さんの声が聞こえ
たような気もしたがそんなものに構ってはいられない
 
ティアさんなら多分私のことを知っているはず───
それだけが私を突き動かす、ティアさんは私を一瞥するとまるで誘うように路地へと入ってい
く。人一人がやっと通れるほどの細い路地で道はなんだか正体不明な粘着質の液体で覆われて
いているし溝臭い異臭が立ち込めていて正直足が止まってしまう。けどティアさんはそんなこ
とおかまいなしに進んでいく
「い、行くしかないわね」
私は息を止め一気に走り抜けた…そして路地を出た瞬間地面のぬめりに足を取られておも
いっきり転がる、なんかお約束みたいな事してる私
「そんなに焦らなくても私は逃げないわ」
見上げると淡い紫色をした髪のポニーテールが目に入る、どうやらティアさんが気がついてくれたらしい
「あ、あのティアさんですよね」
「そう私はティア=マローネよ」
やっぱり私の記憶は間違ってなかった、ようやく見つかった手がかりに私の鼓動は一気に早く
なる。
「あ、私夜風楓ってあの、覚えてますか?」
「楓、覚えてるわ」
うまく言葉が出てこない私とは違ってティアさんの声色、表情は全く変わらない
「私記憶喪失で砂漠で倒れてて…えっと、その!」
「……。」
ティアさんは口元を押さえる、真紅の指輪が夕日にあたり一瞬光る
「記憶喪失か。なるほどねどうりで不確定行動がでてきたってわけ。それじゃ本来の目的も気
にせず旅していたのかもしれないわね、偵察に来ててよかったわ」
え…不確定?偵察?よくわからない事を呟くティアさんの表情はさっきと違って別人のよ
うに歪んでいた
なにか嫌な予感、思わず私は一歩後ずさる
「思い出させてあげるわ貴女のやるべきことをね!!」
そう叫ぶと指輪から物凄い勢いでなにかが飛び出し私の頬をかすめる、首筋に流れる血の感覚
に恐怖感が一気に増した。さらにそれを煽るかのようにティアさんが腕をかざすと指輪から今
度はゆっくりと数本のナイフが召喚される、おそらく私の頬をかすめたのもこれだろう
「ティアさん、一体なにを…」
「目を覚ましなさい夜風の民」
ナイフを手の中で回転させながら少しづつ距離を近づけてくる。もしかして私は記憶を失う前
命を狙われるような人間だったのだろうか、そうなると私の行動は相当愚かだったかも
でもまだどこかでティアさんが悪い人じゃないようなへんなひっかかりもある
───戦えない!
体が震えていた、どうすればいいのかわからないままただ死の恐怖から逃れようと後ずさるこ
としか今の私にはできない
しかしそんなふらついた足取りで後ずさったところですぐに壁にぶつかることなんて目に見え
ていた
「し、しまっ…」
言葉を紡ぐよりも速く顔のすぐ横の壁にナイフが突き刺さり、思わず息をのむ
「戦いなさい私と、でなければ覚醒の針はいつまでも進まないままよ」
「覚醒ってなんのことですか!」
「目覚めるのよ」
それだけ言ってティアさんはナイフを構える
「今度は外さないわ、少し痛めつければ否が応でも戦わなければならないことに気付くでしょ
うし…ねッ!!」
サイドスローで思いっきりナイフが投げられる。なんとかしようにも私にできるたのは結局身
を強張らせて耐えることでしかなかった
…しかし痛みは感じない、ただナイフがなにかにあたってはじかれる音だけが聞こえる
「え、なに?」
思わず顔を上げてティアさんのほうを見るがティアさんの視線は私よりも少し上を見つめてい
「誰、私の邪魔をするのは」
「さぁたかだが人形ごときに名乗る名前なんてありませんけど」
この人を見下して冷淡に喋る人物にはとっても心当たりがある、私はおもわず壁を見上げ叫ぶ
「み、瑞穂さぁん!」
自分でいうのもなんだけどかなり情けない声、瑞穂さんは私のほうを一瞥するとすぐにティア
さんの方へと視線を戻す
「無銭飲食して飛び出したと思えば今度はこんなところで油を売ってるとは、それでこの方は貴女の知り合いか何かかしら」
「え、ええっとですね。多分知り合いだとは思うんですけど……なにか違うんですよね」
まだはっきりとしない
確かにティアさんも私の事を知っているって言っていた。失う前の私の記憶にも微かにティア
さん、そうティア=マローネさんとあった記憶がある
でもティアさんとは敵同士ではなかった気がするんだよね、だとすれば考えられることって
「瑞穂さん、もしかしたらティアさんは誰かに操られているのかもしれません」
「それは違うわね。これはただの人形よ」
「に、人形って?」
私の質問に答えることなく壁から飛び降りる瑞穂さん、その手には既に符術が握られていた
「色々邪魔だから壊させてましょうか、まともな情報も持ってないみたいですし」
「記憶情報体にあなたの情報はないわ、夜風楓を庇うのならあなたもただではすまないわよ」
指輪からナイフを取り出し構えるティアさん、いつのまにか攻撃対象が私から瑞穂さんへ変わ
ったみたい
「え、あのぉ…だから人形って」
私を置いてきぼりで二人の戦いは始まってしまう、先にしかけたのはティアさんのほうだった
「邪魔者は排除する!」
一気に駆け出しナイフを投げつける、それに合わせるように瑞穂さんは符術の印を切る
「佐倉流符術二織「白壁」、散開!」
瑞穂さんの投げた符術は五つに分裂し青い光をともなって五芒星を描くように配置される。さ
らには五芒星から青白い障壁が瑞穂さんの目の前に現れる
飛んできたナイフはその障壁の前にあっけなくはじかれる、おそらく先程私を守ってくれたの
もこの符術によるものだろう
「まさに蟷螂の鎌ですね、その程度の攻撃で私を倒そうなんて甘いですよ」
瑞穂さんの挑発を無視してティアさんはナイフを投げながら近づいていく
「その障壁を貫こうなんて初めから思っていない!」
一気に地面を蹴って跳躍するティアさん、そのままきりもみ回転し一気にナイフを投げつける。
けどそれは瑞穂さんのほうではなくまったく見当違いの方向だった、壁の隙間であったり木陰
だったり。流石に瑞穂さんもこの行動に周り警戒しているみたい
「所詮その障壁が守れる範囲は正面だけ、全方位からの攻撃なら!」
空中で反転しながら指を鳴らす、するとまるで音につられて魚が集まるように先程見当違いに
投げたナイフが戻ってくる、目標は完全に瑞穂さんだ
「ちょ、跳弾!?瑞穂さん避けて!」
「無駄よ…そしてこれもおまけにとっておきなさい!」
とどめと言わんばかりにティアさんが両手一杯のナイフをまとめて投げつける。跳弾で戻って
きたナイフと合わせて瑞穂さんを取り囲むように降り注ぐ
「くっ、小賢しい!!」
初弾こそ避けた瑞穂さんだったけどだんだん避けきれなくなりナイフの一本が肩に突き刺さる
「───っ!」
苦悶の表情を浮かべ片膝をつく瑞穂さん。動きが止まったことを更に容赦なくナイフが襲う
「瑞穂さん!」
私は震える足を押して立ち上がり瑞穂さんに近づこうとしたがすぐにティアさんよって制され
足元を穿つナイフ、それは近づくなという無言の意志に他ならない
「さぁ人の心配をしている場合ではないわよ夜風楓」
「くぅ…」
背中の刀に手を掛ける、瑞穂さんが倒れてしまった今の状況やはり自分で何とかするしかない
しかし瑞穂さんですら勝てない相手に私でどうにかなるのだろうか?
確かに一度は瑞穂さんに私は勝った。けどそのときの私はなにか別の私だった気がする、そう
刀を握った瞬間から私の中でなにかが浸食していく感覚……あのとき瑞穂さんに勝てたのはき
っと私ではない別の私だ
でも今刀を持っているのは夜風楓、別の誰でもない私だ…私が何とかしなくてはいけない!
刀の重さと目の前に迫る死の恐怖に震える手を無理矢理抑えて構える
「い、いきます!!」
私は刀を水平に構えると一気に踏み込み横なぎに払う、だがそれはいとも簡単にバックステッ
プでかわされる
「くっ!」
「そんな腰の抜けた剣では覚醒は望めないわよ、一度死の淵まで落ちるのね」
ナイフを振り上げるティアさんの顔が狂気にゆがむ、私はというと刀の重さに振り回されて無
防備な姿をさらしていた
「終わりよ!!チェックメイ…ッ!!」
突然ティアさんの振り下ろそうとした腕が宙を舞った、それはもう肩の付け根ばっさりと
あっけにとれている私をよそにティアさんの腕はそのまま放物線を描いて私の足もとにボトリ
と落ちる。
「え、えええっ?」
「な、なにまさか…」
飛ばされた右腕を押さえてティアさんが振り返った次の瞬間に私が見たのはくるくると回転して飛んでいくなにかだった
そして私の目の前に放物線を描いてそのなにかが落ちてくる、ゴロゴロと地面を転がり私の足にぶつかって止まった
なにかってそれはティアさんの頭部が
「はぅ、腕がー顔がー」
あまりの展開の速さにもうしどろみどろよ、結局私が一撃も加えることができなかったティア
さんは腕と頭を斬り飛ばされた身体をギクシャクとくねらせた後糸が切れた人形のように一気
に崩れ落ちた
砂煙の中から人影がゆっくりと立ち上がる。
「ふぅ、まぁこんなところですねぇ」
それはまぎれもない先程ティアさんの全方位からのナイフを受けて倒れたはずの瑞穂さんだっ
た、私は急いで瑞穂さんの元へと駆け寄る
「み、瑞穂さん!!大丈夫ですか!」
「はいはい、大丈夫ですよん♪」
妙に軽い口調の瑞穂さんがナイフが何本も貫かれている腕を思いっきり振り回している。
ナイフは深々と体に突き刺さっていてどうみたって大怪我のはずなのだがなぜか瑞穂さんの体
からは血が流れていない
「……にん、ぎょう?」
今気がついたけどさっきのティアさんも腕や首を斬られたというのに血が流れていない
すぐそばで倒れているティアさんの体の切断面から見えるのは木目のような模様とそこから抜
けるように浮かび上がる青白い硝煙だけだ
思わず倒れているティアさんとナイフが突き刺さっている瑞穂さんを何度も見比べる
瑞穂さんはティアさんを人形と言っていた、そしてそれは実際人形だった……人形は血を流さ
ない、えっとじゃあ今目の前にいる瑞穂さんって
「どうかしましたかぁ?楓さん」
うつむいて思考をめぐらせているところにいきなり瑞穂さんが顔を覗かせる、あまりに突然の
出来事に私は思いっきりのけぞってしまう
「な、な、な、なんですか瑞穂さん!」
「はぁ、俯いたままだったのでお腹でも痛いのかと思いました」
いやいやお腹にナイフが突き刺さっているあなたは大丈夫なのかと問いたい
「い、いえ私は全然平気です…」
変に上ずった声で答えると「そうですか、それはよかった」と笑顔で答える
そもそもなにか変だ、こういうとき瑞穂さんなら嫌味の一つくらいいいそうなのに
「あの瑞穂さんいつからそんな喋り方になってるんですか、いつもの瑞穂さんじゃないですよ
ね」
「はぁー?ちょっと疲れてまして符術の力を言葉使いにまわせないんですよぉ」
「符術の力…?それじゃやっぱり今目の前にいるのは人形…」
「まったく気がつくのが遅いんですよ貴女は」
「ひゃう!」
背後からの声にまた変な声を出してしまう、振り返った先にいたのはもう一人の瑞穂さんだっ
た。私の気も知らずに腕を組んで退屈そうに空を眺めている
「ティアさんもそうでしたけど助けてくれた瑞穂さんも人形だったんですね」
「そうだったんでーす」
ナイフが刺さった手を楽しそうに振る人形の方の瑞穂さん、見るからに痛々しいんだけど顔は
あの瑞穂さんなのでどちらかというと笑顔のほうが気になる
だがその珍しい瑞穂さんの笑顔もすぐに本物の瑞穂さんが指を鳴らすと共に煙に消えナイフだ
けがバラバラと落ちた
んー瑞穂さんもしかめっつらしてないであれくらい笑っていれば可愛いと思うんだけどなぁ
まぁそんなこと言ったって無駄だと思うから黙っていることにする
それよりも今はもっと気になることがある、それは誰が私の命を狙ってきたのかということ
崩れ落ちたティアさんの人形をもう一度見る
青白い硝煙──たぶん人形を操ってた魔力かなんだろう──が抜けた人形はもはや見る影もな
いほどに朽ち果ててきている。私が戦うことが人形のティアさんは覚醒と言っていたけれどそ
れが何を意味しているのかわからない、ただ私を利用しようとしている人がいるってことはわ
かる。
「瑞穂さん、このティアさんの人形についてなにかわかります?」
「さぁ貴女と共通の知り合いなんて姫奈以外にいるわけないでしょう」
「むぅ、そういうことじゃなくて人形の材質とかからで瑞穂さんならなにかわかるかなって、
ほら瑞穂さんも符術で人形を作り出していたじゃないですか」
私の言葉に瑞穂さんの視線が足元で踏みつけられていた人形の腕にいく
「私の符術のような簡単なものじゃないですね、この人形は相当腕の立つ人形師によって精巧
につくられた品よ。私とてこの世界の人形師のことまでは把握してませんのでこれがどこの誰
が作ったかなんて事までは判断できませんね」
「そうですか、困ったなぁなにかわかるとおもったんだけど」
「……そう悲観することでもないのではありませんか」
溜め息まじりに呟く私の肩に瑞穂さんが手を添える。
も、もしかして慰めてくれているの?瑞穂さんが!?
「ここで一体人形が倒されたのならまたいらっしゃるでしょう、貴女の命を狙いにね。良かっ
たですね」
「それってあんまり良くないですよぉ」
ああ、ちょっとでも瑞穂さんの慰めに期待した私が馬鹿だった、この人は私の状況を楽しんで
るだけだ…ううっ、外道~!
「ああそう、いい忘れましたが今回助けたのは砂漠で助けられた借りを返しただけですから、次は私は手伝いませんので」
「ええーっ!そ…そんなぁ」
「貴女の敵なんだからあなたが倒すのが本来の筋というものでしょう、何の理由で私があなた
の敵の相手までする必要があるんですか」
そう嘆息すると瑞穂さんはそのまま踵を返し私の身長ほどある壁を軽いステップで飛び移る
「もう戦いも終わったんですし、いつまでもそんなとろこにいると置いていきますよ」
「ちょ、ちょっと瑞穂さん置いていかないでくださいよ~」
壁を次々と飛越えて瑞穂さんが先に進んでいく、私は瑞穂さんみたいに壁の上を跳んではいけ
ないのでここに来るときに通った狭くてジメジメした通路から後を追いながら考える
確かに瑞穂さんの言うように追っ手を倒していけば、覚醒が何なのかしらないけど必ず人形を
使って私をその覚醒に導こうとしている張本人が現れてくるはず。
おそらくその人に会えば私の記憶の手がかりはつかめる!
「って、きゃっ!!あ、危ない…」
ぼおっと考え事をしながら走ってたのでまた地面のぬめりに足を取られそうになる
とにかくこんなところでめげてなんかいられない、目的ができたんだ…必ず取り戻してみせる
──私の記憶を!
 
 
 
 


私と瑞穂さんがラナさんのお店「組曲」に戻ってきた頃にはもう日も落ちて真っ白い満月が
空に浮かび上がっていた
「はぁ、はぁ……」
でも私はそんな綺麗な月を悠長に眺めてられるほど余裕がなかった、全速力で瑞穂さんを追っ
てたので息があがり体力も限界に近い。しかも知ってかしらずか私が道がわからないのをいい
ことにかなり遠回りをさせられていた
「ちょっとは、待って…くれても…い、いいじゃないですか瑞穂さん~」
「いちいち下等生物の歩くペースになんて合わせてられませんよ」
さらりというと店の中に入っていく。まだ瑞穂さんに会ってから二日もたってないとはずなん
だけどなんかもう下等生物にも馴れてしまった
「いらっしゃいませぇー!!年中無休二十四時間フル営業のラナ=インロードのお店「組曲」
へっ!」
すっかり小麦粉も落ちて緑色の髪が綺麗な店長のラナさんが迎えてくれる、最初見たときは小
麦粉まみれでわからなかったけどこうやってみると結構可愛い
だけどラナさんの彼氏になった人は大変だろうなぁなんてくだらないことを考える
「あららそういえばさっきのお客さんじゃないですかぁ~お連れの人がお待ちですよぉ」
「あ、瑞穂っちに楓ちゃん、おかえりなさいでする~」
テラスのほうにいた姫奈ちゃんが手を振っている、私はラナさんに紅茶を二つ頼むとテラスの
ほうへいく、二つテーブルが並んでいるテラスには姫奈ちゃんともう一人見知らぬ女性が座っ
ていた
隣にいる姫奈ちゃんよりも少し背は高いくらいで私のように髪をポニーテイルにしている。白
のTシャツにジーパンとかなりラフな格好だけどしっかりと腰には二振りの刀が添えられてい
る、おそらく剣士さんかなにかだとはおもうけど
「ただいま姫奈ちゃん、ところで隣の方は?」
「紹介してなかったでするね。えっへん何を隠そうこの人は…」
「あ、貴女は…水栗妖花!」
姫奈ちゃんが答えるよりも先に瑞穂さんが声を上げる、名前を呼ばれたのに気がついたのか振
り向いた女の人も瑞穂さんを見て驚いたように声を上げた
「うわぁ、本当にいた紫音の妹!」
もう何度目だろう私は二人の顔を見合わせる、なんかこう私だけ知らないんだよね…まぁ記憶
喪失だから当然といえば当然の話なんだけど
「世の中狭いわよねぇ、ってこんな世界があるんだから充分広いか。相変わらずその口で下等
生物~って言ってるのかな紫音の妹は~」
そう言うと妖花さんはつかつかと瑞穂さんに歩み寄りそのほっぺたをぐいっとつまむ
あわわ、瑞穂さんのほっぺたをつまむなんてこの人とてつもなく凄い人なのかもしれない
「よふぇいなわへ……いい加減にしてくださいっ!」
瑞穂さんが腕を振り上げた瞬間に妖花さんがスッっと腕を引いてオーバーに降伏する真似をす
る。
「だ、大体さっきから私を呼ぶのにいちいちお兄様の名前を出すの止めてくれませんか」
「やっぱり大好きなお兄様の名前を出したら動揺する?ま、あたいから見れば紫音みたいなオ
タクゲーマーなんかと付き合うよりかはまだこのかの兄貴のほうがまだましだけど」
「な、お兄様を愚弄するなら私が許しませんよ!」
「ふ~ん面白いじゃない、それじゃ久しぶりに一戦交えてみる?」
瑞穂さんが符術を取り出すと妖花さんも腰の刀に手を掛ける、いつのまにか一触即発の状態に
なっちゃってる
「まぁまぁ二人ともこんなところで戦ったらお店に被害出ますし、それにさっきから楓ちゃん
が話しについてこれてないでするよ」 
さすがに店の中で戦いだしたらまずいと思ったのか姫奈ちゃんが二人の間に入って制する
姫奈ちゃんのおかげでようやく二人の視線が私のほうに向いた、気がついてくれたみたい私の
存在に
「あ、えっと姫奈ちゃんそれでこの人は?」
「妖花さんは私の剣の師匠でする」
そういえば調理学校の生徒だとか姫奈ちゃんが言ってたのを覚えてる
若いのに剣の師匠をやってるなんて相当腕が立つ人なんだろう…
「えっと一応自己紹介しておこうか。あたいは水栗妖花、まぁ一応姫奈の師匠になるのかな。
ああでもそんな大それたモンじゃないしあたいは堅苦しいの嫌いだからさ呼び捨てでいいよあ
たいもそうするし」
「あ、はい…私は夜風楓です、えっと後は不明…です」
「姫奈から一応事情は聞いてるよ、記憶喪失なんだって?大変だったねぇ…それでなにか突然
飛び出したとか聞いたけどなにか見つかったわけ?」
妖花さんの言葉に思わず息が詰まる、そうだ…私もっとはやくに言うことがあったんだ
「私の記憶に会ったことのある人がいたんです、それで追いかけたんですけど結局のその人は私の命を狙う人形で…えっと瑞穂さんに助けてもらって…」
自分でも声が細くなっていくのがわかった。今思い出しても恐怖に足が震えそうになる
「人形から何かわかったこととかなかったんでする?」
「特には…ただ私の覚醒させるためということだけです」
「人形に覚醒か、なんか大変そうな話ね。」
「はい…それでその姫奈ちゃん、瑞穂さん勝手に飛び出したりしちゃってごめんなさい!」
私は二人の前で頭を下げて謝った。今回の事は全面的に私が悪い、私が飛び出したあのとき姫
奈ちゃんや瑞穂さんが止める声は確かに聞こえた…けどそれを無視して走ってしまった
二人に見捨てられてもおかしくないようなことを私はしてしまったんだ
本当はもっと早く、戻ってきてすぐ言うつもりだった言葉
──けど何事もなかったように出迎えてくれた姫奈ちゃんを見たときに謝ると言うことから逃
げた、そのまま何も言わないでおけば優しい姫奈ちゃんのことだ何も聞かずにいてくれたに違
いない
「ごめんなさい…ごめんなさい!!」
少しでもそう思った自分が急に情けなくなって私は何度も謝罪の言葉を繰り返す
自分はなんて卑怯で弱い存在なんだろう……酷い自己嫌悪が自分の心を締め付ける
「そんな謝らなくてもいいでするよ、元々楓ちゃんの記憶を探す旅みたいなものでするし…。
記憶喪失ってずっと不安だともうでするし少しの手がかりでもあったら飛びつきたくなる気持
ちはわかるでするから」
「うっ、ううぅあっ…姫奈ちゃぁぁぁぁん」
姫奈ちゃんの言葉におもわず涙が頬を伝う、気がついたときには私は姫奈ちゃんの胸に飛び込
んでいた
──限界だったなにもかも
今まで溜め込んできた不安に恐怖、それに姫奈ちゃんの優しさが一緒に涙となってあふれてく
こんな私を助けに来てくれた瑞穂さん
こんな私を優しく迎えてくれた姫奈ちゃん
こんな私のために…そう考えるだけで
「あんまり泣いてると可愛い顔が台無しでするよ~」
「ふぇ…えぐっ、ごめん…なさい…!!」
「泣かせてやりな姫奈、泣いた分強くなるんだからさ」
妖花さんの手が私の頭をなでる。それから私はしばらく姫奈ちゃんの胸の中ですべてを吐き出すように泣き続けた…
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氷桜夕雅
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非公開
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昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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