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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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けみかるりあくしょん


がちり、と音を立て錠は開いた。自分でもこんなことしていいのか今になってもわからないけどここまで来て後には引けなかった。
「はい、それじゃ開いたよ」
「ごめんなさい、無理を言って」
申し訳なさそうに頭を下げる彼女にちょっと感じが悪かったかなとも思うがこの状況にしたのも彼女なんだし別にいいかと判断する。
僕、葛西一希は生徒会長の東條綾音を理科準備室へと案内している。それだけなら別段問題ないように聞こえるがそこに“午前二時半に”という言葉が付け加えられるだけで状況が一変するのがわかるだろう。だから僕の行動は案内しているというか真夜中の学校へ忍び込んでいるといったほうが正しい。
「とりあえずそんなに長居はできないんで速やかにお願いしますよ」
理科実験室の中に入り、懐中電灯で月明かりのみの薄暗い部屋を照らしながら僕はそう呟く。こんなところ用務員さんにでも見つかったら僕も生徒会長もただでは済まないだろう、女の子と真夜中に二人っきりということよりも僕はそっちの方が気になって仕方なかった。
・・・・別にそれは彼女が魅力的でない、ということではない。
どちらかと言えば生徒会長、東條綾音は魅力的な女性だ。高校二年生にしてはどこか幼い顔立ちだが大きくパッチリと開いた瞳にどこか気品を漂わせる薄く朱に染まる唇、もし彼女が生徒会長でなくてもその美しさは全生徒に知れ渡っているだろう。
そしてなにより東條は声が綺麗だった。実際僕が東條のことを初めて知ったのは一年前、生徒会役員選出の演説を聞いたときのことだ。演説自体はたどたどしかったが東條の心を射抜くような透明感のある声はその場にいる全員を魅了したと言っても過言ではない。結果として東條は他の立候補者を圧倒的な票数で抑えて当選したのだからな。
「ごめんなさい。できるだけ早くやりますから」
・・・・だからその声音で東條に謝られるとなんかこっちが悪いことしたみたいに感じてしまうのはそのせいだ。
「それじゃ終わったら呼んでください」
僕はそれだけ言うと窓際の普段教員が授業の準備をする机にどっしりと腰を下ろす。廊下をうろちょろしているときは誰かに会うんじゃないかと不安だったが準備室の中に入ってしまえば窓は外側にしかないし、よほど光が漏れたりしなければ気がつかれることはないはずだ。
しかし、一体東條はここでなにをするつもりなんだろう?
高校二年間、一切の接点がなかった僕に昨日の昼休み東條が話しかけてきたときは心底ビックリした。そりゃそうだろうクラスだって一度も一緒になったことない話したこともない美少女に突然真夜中の学校に一緒に行ってほしいとか言われたら誰だって驚く。
まぁしかし結局僕が選ばれた理由ってのは僕が科学部の部長でこの理科準備室の鍵を持っているからってだけだ、それ以上もそれ以外もない。それなら副部長の日向みなみでも良かったんだろうがあいつもあれで一応女の子という性別に位置するからな流石に深夜に女の子二人ってのも危険ということで僕が着いていくことになったんだ。どっちかといえば貧弱眼鏡な僕よりも日向の方が東條を守れる気がするのだけどな。
そんなことを窓から覗く真ん丸な月を見ながら考えている間に
東條は鞄から取り出した分厚い本と睨めっこしながら色々と実験器具をテーブルに広げている。
ビーカー、三角フラスコ、乳鉢、アルコールランプ・・・・おいおいどんだけ大掛かりな実験だよ。
「東條、その本って黒魔術でも載ってるの?」
「ふぇ!な、なんでわかるんですか!?」
驚いた様子でなぜか本を閉じる東條に僕はため息混じりに言葉を返す。
「いやだって実験するのにわざわざ丑三つ時を選んでるからさ、その類いなんじゃないかなと勘で言ってみただけ」
「か、勘ですか・・・・。でも確かにこの本は黒魔術の本です、凄いですね葛西君は」
いやいやちょっと考えたらわかるだろ、と思ったがあえて突っ込まないでおく・・・・また謝られそうだしな。
「でもそんな古くさい黒魔術の本なんてどこで見つけてきたの?」
「これはあの、えっと葛西君は『猫の目書房』って古本屋さん知ってますか?」
「ああ、あそこってまだ営業しているんだ」
猫の目書房ってのは学校の帰り道にある小さな古本屋だ。建物自体が傾いていていつ崩壊してもおかしくないようなオンボロ古本屋で、中はどっから拾ってきたかわからない猫がうじゃうじゃいる猫屋敷だ。あまりのボロさに営業してないのかと思ってたんだがまだやってたんだな。
「年中無休ですよあそこのお店。あ、それで店内に猫がいっぱいいて皆可愛いんです」
「へぇ、そいつは凄いね」
「そうなんですよ?それで猫ちゃんの中に一匹がですね・・・・って、あ・・・・えっとごめんなさい、実験に集中します」
自分がはしゃぎ過ぎていることに気がついたのか東條は慌てた様子で実験を始める。なんというかまた謝られたな、東條は典型的な日本人のようだ。
「え、ええっとまずは干からびたイモリをすりつぶして・・・・」
黒魔術の本を片手に実験をしている東條を横目に僕は再び窓の外の月を見上げる。
まぁなんだっていい。そりゃどんな黒魔術の実験をやるのかだとか信憑性はあるのかだとか気になることは多々あるが僕にはあまり関係ないんだから。
「それでそれを焦がしたナツメグとピーマンの種と一緒に水に入れて煮込む・・・・」
そう呟きながら東條がアルコールランプに火をつけると部屋の中にはマッチの焦げる臭いとアルコールの臭いが混じり広がっていく。
・・・・なんだろう、やっぱり黙っているのは変なのか?
黒魔術の本を音読しながら実験をしている東條の様子はどこか
声をかけてくれるのを待っている、そんな風に感じられる。
「おいおい干からびたイモリとかよく手に入れたな!」とか「ピーマンの種入れるのかよ!」みたいなツッコミをすればいいのだろうか、いや・・・・そうゆうのは僕のイメージではない。
ただこの真夜中の理科準備室で二人っきり、黙っているというのはすごく居心地が悪かった。
ただなにを話せばいいんだ?僕は東條のことを知らないし「調子はどう」とかか?・・・・はぁ、まるで話が広がる気がしない。
僕もそうだが東條もそこまでお喋りという感じではないのだろう、お喋りが得意な奴だったら喋りすぎたことに謝ったりなんかしないし。
「あ、あの~葛西君、一つ聞いてもいいですか?」
結局、話しかける言葉をグダグダと考えていたら東條に先に話しかけられていた。
「僕に答えれる範囲のことならどうぞ」
なぜかはわからないけど東條の前だとつい棘のあるというかぶっきらぼうな言い方をしてしまうな。
「えっと、その・・・・ですね。葛西君はその好きな・・・・」
慎重に言葉を選ぼうとする東條の姿はなぜか愛の告白でもするかのように緊張しきっている。
その姿は長い髪が窓からの月明かりで淡く光り、幻想的で普段から美しい彼女をより美しく際立たせていて一瞬ドキッとした。
「か、葛西君はその好きな元素記号とかありますか!?」
「は・・・・?え、元素記号?」
あまりに意味不明の質問になんのことかわからなかった。なに元素記号ってあの水平リーベの元素記号?
「元素記号に特に好きなのとかないけどあえて言うならキセノンとか?言葉の響きが良いってだけだけど」
「そうなんだ、葛西君キセノンが好きなんだ」
なんか僕の言葉を噛み締めるように東條は聞き入っている。そんな別に好きって言うほどのことでもないんだけどな。
「そうゆう東條はなにが好きなんだ?」
「えっ、好きってなにがですか」
「なにって元素記号だよ」
「ああ、元素記号!元素記号ですね、ええっとそうですね・・・・酸素です!酸素がないと生きていけませんし!」
「そりゃそうだな」
一体なんなんだこの会話、もしかして僕が科学部の部長だからそんな元素記号の話をなんて持ちだしてきたのか?にしてはまぁ言っちゃ悪いけど話の広がらない話題だ。
「それじゃ私、実験続けますね」
「ああ、そうしてくれ」
結局それ以上話は広がることなく東條は実験を再開し、二人の間にはまた沈黙の時間が流れはじめる。
そんな沈黙の時間が破られたのはそれから二十分ほど経った頃だった。
「で、できました!」
ビーカーに入った真っ黒な液体を持って東條は嬉しそうに声をあげる。一体そのただゴミを煮詰めただけのようなものになんの効力があるかは知らないがそれでも完成したのなら僕はそれで良い。
「それで完成?」
「あ、そのできたっていうのはまだ第一段階が完成という意味で。それでこれから月の光を浴びせてそれからまた実験しないといけないんです」
そっけなく僕が聞くと東條は少し慌てた様子でそう訂正する。そして深々と頭を下げると
「あの、それで・・・・申し訳ないんですけど葛西君。明日も付き合ってもらえますか」
そんなことを言ってきた。
うん、まぁ実験が今日一日で終わるものと勝手に思っていたのは僕だ。とはいえここで投げ出すってのも最初の約束を破ることになるし断るのは失礼だと思う。
「・・・・わかった、明日も付き合うよ」
「ありがとう葛西君。それとこの事は他言無用でお願いします」
「ああ、わかってるよ。こっちも殺されたくないしな」
頼まれたって言うつもりはない。学校で人気の生徒会長が夜中に男と密会みたいな感じで噂が広まれば誰だって悪く取るし、なによりその男が僕だなんてのがわかったら彼女のファンになにされるかわかったもんじゃないしな。
しかしそう考えると僕は役得なのか?とも思うが残念ながら僕は東條に恋愛感情を持っていない、なかなか運命ってのは上手くいかないものだなぁとしみじみ思うのだった。




「ふあぁ、眠い」
翌日の昼休み。周りの生徒が楽しそうに雑談しながら昼食をとっている中、僕は一人今日何度目かと言う欠伸をする。
窓際の一番奥の席、そこが教室での僕の座席。昼休みはもっぱらそこでメロンパンをかじりながら無表情で官能小説を読むのが常なのだが昨日のこともあって食欲と性欲より睡眠欲の方が勝っている。
「にしても眠い、夜のこともあるしちょっと仮眠したほうがいいか」
そう呟くと共に僕は両手にメロンパンと官能小説を持ったまま頭だけ机に乗せる。太陽の光でほどよく暖まった木製の机は良い感じに眠りに誘ってくれる、このまま寝たら仮眠どころか放課後まで寝てしまいそうだけど今日はもうそれでもいいか、そう思って目を閉じた矢先だった。
「やっほ~一希、起きてる?」
明るい声と共に頭を引っ叩かれた、その勢いはたぶん本人は軽くのつもりなんだろうけどつい先程まで安眠を誘ってくれた机に思いっきり頬骨を押し付けられ激痛となって僕の眠気を吹き飛ばす。
「つぅ~~~っ、なにするんだよ!」
僕は視線を上げ叩いた張本人を睨み付ける。僕にこんな残虐非道なことをする人物は一人しかいない、僕と同じ科学部で副部長をやっている日向みなみだ。
「ったくなんだよ人が寝ようとしているところに」
「そかそか寝る前で良かった良かった」
「いや全然良くないし」
こっちが恨み節で答えてもあっけらかんとした様子の日向にこれ以上言っても無駄だなと思う。
日向みなみ、長い髪をポニーテールしているのが特徴的な女の子で明るく活発的というお前入る部活間違っているぞ系女子である。しかも科学部に入った動機が「なんか爆発させたい」とかいう危険な思想の持ち主で今までこいつによって破壊された試験管は数えきれないというとにかく危ない奴だ。とはいえぱっと見は可愛いし、面倒見がいいらしいので学校内では人気者らしい。こいつが副部長なのは二年生になってから入部したからであって一年生から入部してたら僕と日向のポジションは逆になっていたと思う。
まぁ東條の美しさをおだやかで気品のある月とすれば日向は明るく輝く太陽と言ったところか。
「それにしても相変わらずメロンパンに官能小説なのね、たまには違うものにしたらどっちも」
日向は僕から小説を取り上げるとペラペラとページをめくりながら呟く。
「ほっといてくれ、というか用がないなら自分の教室に帰れよ」
日向本人は気がついていないのだろうが日向が僕の所に来ると教室の恋人いない男子連中から向けられる嫉妬という名の負のオーラが非常に重苦しいのだ。
「用ならあるよ、生徒会長との真夜中の実験どうだったのかなぁって思って」
「あーあーあれね、ってなんでお前が知ってるんだよ!」
まさかの言葉に思わず大声を上げてしまい、教室にいるみんなの視線がこちらに集中する。
「なんでってそりゃ私が薦めたんだもの知っているに決まってるじゃん。それでどうだったの真夜中の実験」
日向の答えは随分とあっさりしていた、というか諸悪の根元はこいつか!なにを僕の了承もなしに薦めてくれるんだ。
「とりあえずその、真夜中の実験って言い方変に聞こえるから止めろ」
「えー事実じゃん」
「事実でもやめろって」
僕は周りを気にするように声を潜めてそう一言告げ
「どうって言われても実験のことは聞かれてもわかんないよ、僕は見てないし」
と更に先手を打っておいた。だが日向はそれ予想していたのか「でしょうね~」と言うとにやつきながら口元を手で押さえ
「や~っぱりそんなんじゃないかと思ってたんだよね。化学反応は起こらないかぁ~」
と勝手に納得してやがってた。というかなんだよ化学反応って
「てか実験について聞きたかったら東條本人に聞けよ、確か同じクラスだろ」
「残念だけど綾音は今度の文化祭の準備でそんな話しかけれる雰囲気じゃなぁいの。だから暇そうにメロンパンかじりながら官能小説読んでいる一希の方に来たんじゃない」
ふむ、言い方はあれだが確かに今生徒会を中心に文化祭の準備が日々忙しそうに行われている。当然生徒会長の東條はその中心人物でいつも夜遅くまで学校に残って準備をしているみたいだしそれに比べたら僕は暇と言っても良いだろう。しかしそんな忙しい時期なのに夜中に黒魔術の実験までするってのはもしかしたらあの実験って文化祭の出し物に関係していたりするのだろうか?
「実験内容は知らないけど今日も実験の続きやるみたいだからその時に聞いてみるよ、まぁ教えてくれるかはわからないけど」
僕の知っている知識と言えばそれくらいだ、だがその言葉に日向の表情はぱっと明るくなる。
「えっ、なに今日もやるの?」
「いやなんでも月の光を浴びせないとかいけないとかでな、昨日は第一段階とやらで終わったんだよ」
「へぇ~そうなんだじゃ今日もやるのね~」
僕の言葉になにやら意味ありげに日向は含み笑いをする。なんでもすぐにちょっかいをだす日向のことだ、なにかまた企んでいるんだろう。
「そうゆうわけだからもういいだろ、寝かせてくれ」
「あーそうそうもう一つ聞いとくことがあったんだ」
「まだあるのかよ・・・・」
正直さっさと切り上げて安眠を貪りたいところなんだがこと女子は話が長いから面倒だ。
「んで、聞きたいことってなに?」
「あ~んとね、一希って今好きな人いるの?」
「は?好きな人?」
日向から出た意外な言葉に少々困惑した。というかこれはなんだちょっとした嫌がらせか?
「そんなのいないよ、というか前にも言っただろ」
「あ~うん、知ってる知ってる。『学生の本分は勉強だ』でしょ、なにちょっとした定期検診みたいなものよ」
「なんだよ、それ」
「まぁ万が一、一希に好きな人ができたら私に相談しなさいよね。同じ部活のよしみで相談料五千円のところを三千円にしてあげるから」
腕に腰を当て胸を張り自信満々に日向は言うが万が一があっても相談することはないだろう・・・・と、いうか金をとるのかよ。
「そうゆうわけでそろそろ私は自分のクラスに戻るね~それじゃ深夜の実験お楽しみに~」
「だからその言い方止めろって」
僕がそう言うよりも早く日向は教室を出ていく。
まぁとりあえずこれで邪魔者はいなくなった、落ち着いて寝れる。そう思った瞬間、昼休みの終了を告げるチャイムが残酷にも鳴り響いたのだった。



「ちょっとウインドブレーカーじゃ寒いかな」
深夜二時、ちょっと早くマンションを出てまずそう思った。ちょっと前まで残暑だ残暑だ言ってたがそれも十月の半ばになってくると夜の冷え込みは結構くるものがある。
「まぁでもこれくらいの方が目が覚めるか」
結局あれから学校でも家でも僕が眠れることはなく、あまりの睡魔に寝てしまうと多分朝まで起きれないような気がして必死に目を見開いていたらこんな時間だった。
東條とは学校の近くのコンビニで待ち合わせということになっている。ここからおよそ10分ほどの距離だ、少し待ち合わせの時間に早いが家で眠りこけすっぽかしになるよりかはましだろうと僕は歩き出す。
しかし我ながらよくわからない事に付き合っているな、と思う。だいたい黒魔術なんてあるわけないじゃないか、そんな非現実的なもの。丑三つ時に実験だの月の光を浴びせるだのそれっぽくは言っているがそれになにか効果なんてないと僕はわかっている。だが世の女子は、と言うと語弊があるかもしれないが大抵オカルトじみたそんな話が好きだ。普段現実主義のように振る舞っていても朝の星座占いで一喜一憂している女子の姿をクラスでもよく見る。
僕はそうゆうオカルトが嫌いだ。科学とは違ってオカルトは支離滅裂、酸素と水素の化合物で水じゃなくて金がでてくるようなふざけた話ばかりで釈然としないのだ。
僕が東條につい口悪く話してしまうのはこれが原因なんじゃないかと思えてきた。優秀な生徒会長が訳のわからないオカルトにはまっている、その状況がうまく言葉にできないがなにか嫌なんだ。
そんなことを考えている間に目の前に待ち合わせのコンビニが見えてくる。
「あれ東條もう来てたのか」
コンビニの外灯の下に東條の姿が見えた。東條は長袖の白いワイシャツに紺のフレアスカート、そしてボルドー色のストールを羽織りメロンパンを丁寧に指先でつまみながら食べている。
「ずいぶん早くからいるんだな東條」
「あっ、えっ葛西君!?」
僕が声をかけると東條はライオンに気づいたシマウマのような俊敏さで慌ててパンを鞄にしまいこむとこちらに駆け寄ってくる。
「あれまだ待ち合わせの時間じゃないです・・・・よね」
「家にずっといたら寝ちゃいそうだったんでね。そうゆう東條はなんでこんな早くに?」
「私も同じです。家にいたらついうとうとしちゃってきたんで早めに家を出てきました」
まぁそうだよな、午後の授業もうろ覚えな僕なんかよりも東條は生徒会長として授業も文化祭の準備もきっちりやってきたんだ、疲れ具合なら僕なんかよりもずっと疲れているだろう。
「それじゃちょっと早いけど行こうか。流石に今日で実験は終わりだろ?」
「あっ、はい順調に行けば今日で終わります。ごめんなさい
今日も付きあわせてしまって」
「それはいいよ、僕だって約束した以上最後まで付き合うさ」
さっそくまた東條の「ごめんなさい」が出たなぁと思いつつ歩き出す。なんだったら東條が何回「ごめんなさい」って言うか数えてやろうか。
「あーそういえばさ、東條」
ここから学校までは十分ほどだがこんな夜中に二人で歩いているのに黙ったままってのも変だと思い今度は僕から話しかけた。
「あっはい、なんですか葛西君?」
「東條ってメロンパン好きなの?」
「えっあっあれは・・・・文化祭の準備でお昼食べれなかったからってだけでえっと、その・・・・」
他愛のない話題、さっきコンビニ前で東條が食べていたのを見たからってだけで深い意味は無いつもりだったんだけど何故か
東條は異常なまでの挙動不審な様子で答える。
「め、メロンパンは最初はそこまで好きじゃなかったんですけど気がついたら好きになってました。ごめんなさいなんか変な答えで」
「ふぅん、そうなんだ」
気がついたら好きになる、とはまた確かによくわからない答えだと思う。そしてごめんなさいが二回目っと。
「葛西君は何のパンが好きですか?」
「なにゆえパン限定・・・・ってはいいとしてそうだなぁ、パンで言えば焼きそばパンかな」
「えっそうなんですか?」
僕の言葉に東條は何故か意外そうな顔で驚く。その様子はなにか予想と違うというかそんな風に見える。
購買部の焼きそばパンと言えば学校でも大人気のパンだ、ただ美味いかといえば実のところそこまで美味い物ではない。
実際一度日向に一口もらったことがあるがパンはパサパサで肝心の焼きそばは冷たくソースもまばらだった、けれども学生に人気なのは入手が困難なことが理由で『購買部の焼きそばパンはかなり美味しいらしい』という噂だけが一人歩きしているのだ。
正直焼きそばパンは好きだけど購買部で買うくらいなら僕は駅前のパン屋の方が美味いと思う。
「ああ、でも学校の購買では買わないな。焼きそばパンは人気だからさ購買で取り合いになるだろ?」
「そうですね、確かに生徒会の意見箱にも『焼きそばパンの量を増やしてくれ』ってのはよくきます」
「そう考えると日向は凄いな、見るときはいつも焼きそばパンだからな」
「みなみちゃんは確かに凄いです!どんな時でも必ず焼きそばパンを手に入れてきますから」
東條が楽しそうに語る。なんていうか初めて東條と会話していて話が広がった気がする・・・・焼きそばパンというよくわからない話でだけど。
「そういえば日向と仲良いんだっけ?」
「はい、みなみちゃんとは最近よくお話ししますよ。みなみちゃんっていつも明るくてお話も上手で私、すごく憧れます」
「まぁ明るいのは結構だけどあいつはちょっと落ち着いた方がいいかもな」

そんな取り留めのない会話をしているうちに視界に我らが学舎が見えてくる。薄暗い月の光にぼんやりと照らされた無機質なコンクリートの校舎が冷たくこちらを見下ろしていた。
夜の学校が怖いのは当然暗いからってのもあるが昼間あれだけ沢山いる人間がまるっきりいなくなっているそこに恐怖を感じるんじゃないかと思う。
「東條、足元気を付けて」
「は、はい」
東條に注意を促して僕はウインドブレーカーのポケットから懐中電灯を取り出す。
実のところ校舎への侵入は用務員のおじさんに見つかりさえしなければそんなに難しいことではない。金網のフェンスにはかなり前から破れてあるところがあって簡単に校庭に入ることができるし、理科準備室がある別棟は僕が入学したときから鍵が壊れていて直す気配もない。杜撰な管理だと学校運営者に文句も言いたいところだが今この時ばかりは助かったというべきか。
僕一人でならフェンスをよじ登るくらいはできるが東條も一緒となると難しいし、不法侵入している身で言うのもおかしな話だが鍵を壊したりする行為はどうも気が引ける。
「よし、誰もいないな」
周りと東條の動きに気を払いながらフェンスを潜り別棟へ歩を進めていく。手に持った懐中電灯はまだつけない、つけなくても月明かりである程度進むことはできるしつけたらそれはこちらの存在を目立たせてしまうからだ。実際使うのは校舎の中に入ってから、鍵を開けるときと中で東條が実験するときくらいになるだろう。
「ここが鍵は壊れたままなのは本当幸運としかいいようがないな」
金属製の扉は至るところが錆び付いていて手で押すとギィと鈍い音が辺りに響く。校舎の中は外よりずっと冷え込んでいて思わず僕は身震いをする。
「しかし今回もすんなりいけたな」
「そうですね」
僕は懐中電灯の電源を入れ理科準備室の鍵穴を照らすと鍵を開ける、ここまでくれば僕の仕事はひとまず終わりだ。
「お互い眠いしさ、さっさと終わらせよう」
「は、はい。できるだけ早く終われるよう頑張ります」
東條は少し上ずった声で答えると鞄から例の黒魔術の本を取りだし実験の続きを言葉にする。
「次は、『月の光を一晩浴びせた溶液に胡桃の殻を砕いていれる』と書いてあります」
「これだな」
僕は昨日窓際に東條が置いたビーカーを手にとる。昨日見たときは真っ黒な液体だったが今は黒い炭のようなものが沈下して
いる。なんていうか到底これが月の光でどうにかなっているような気はしない。
「ほら東條」
「ありがとうございます葛西君」
東條にビーカーを渡すと僕は前と同じようにテーブルの上に腰かける。けど今日は月は見上げずに東條の実験を見守ろうと思う、見てないとなんていうかまた日向に何を言われるかわかったものじゃないからな。
「えっとそれで胡桃の殻を入れたら次は茄子のヘタを入れて・・・・」
予習をしてきたのか僕が「早く終わらせよう」なんて言ったせいかはわからないけど昨日とは打って変わり東條の手際は良い感じだ。実験の行程が後どれくらいあるかは知らないけどこれなら実験もすぐに終わるだろう、そう思っていた。
「これがアーモンドの匂いがした、ら・・・・・・・・うっ!」
東條がビーカーに顔を近づけ、身体がぐらりと傾くのを見るまでは。
「東條!?」
僕は駆け寄り東條の身体を右腕で支え左手で地面に落ちそうになったビーカーをなんとかキャッチする。
「危なかった・・・・」
我ながら見事な動きだったと思う。しかし東條がビーカーの匂いを直接嗅ぐなんて行動に出るなんて予想外だ。理科の実験で習ってないのか匂いを嗅ぐときは手で扇いでってさ。
「しかもアーモンド臭って大丈夫なのかこれ」
青酸カリなんかが胃酸と混じるとアーモンド臭がするとかしないとかそんな話を推理小説で読んだことがある。初日の実験をちゃんと見てなかったのでこのビーカーに何が入っているかはわからないが本当なにを作ろうとしているんだ東條は。
「いや、今はそんなこと考えている場合ではないか」
僕は手に持ったビーカーをテーブルの上に置いて体勢を立て直そうと一歩踏み込む。
・・・・けどそれがいけなかった。いや最もいけないのはこの僕が華奢な東條の身体を片手で支えれない貧弱さにあるのだが
「えっ?」
踏み込んだ足の感覚は固い床ではなかった。なにかグチャという湿った土を踏みしめたそんな感じ。そこに思いっきり力をかけたせいでズルりと足が滑りあっという間に僕の視界は真っ暗な天井へと大回転した。
「いってぇ・・・・誰だよあんなところに雑巾なんて置いたのは」
思わずボヤいた。鈍い音が部屋に響き、鈍い痛みが全身を駆け巡る。
それだけならまだ良かった、だけど悪い事ってのはどうやら連鎖反応で起こるものらしい。
「ん?なにか今、音がしたような」
廊下の方から僕でも東條でもない別の人間の声がしたのだ。
恐らく用務員のおじさんだろう、廊下を歩く音がこちらに近づいている音が聞こえる。
「まずいな・・・・東條、起きろって」
「うっ、うんん・・・・」
こんなところに東條と二人でいるなんてのがバレたらまずい。
そんなことは最初からわかっていたことなのだがいざ直面してみると言われもない不安感が込み上げてくる。
「とりあえずここにいるのはまずい」
僕はすぐさま懐中電灯を消すと意識が朦朧としている東條を抱いたまま引きずるようにして机の下へと潜り込む。
「はぁ一体僕はなにやってんだろう」
今更ながらにそう思う。なぜに深夜の理科準備室の机の下で東條を抱いて用務員のおじさんの様子を伺うなんてことになっているのか。
「んっ・・・・んぁ、あ、あれ?葛西君、えっとあれ?」
「東條気がついたか。身体、大丈夫?」
「あっ、はい・・・・身体は大丈夫ですけど、そのごめんなさい」
「ごめんなさいって・・・・あっ!」
東條が恥ずかしそうに顔を背けて初めて僕は自分の愚行に気がつかされた。
「いや、これはあの今用務員さんがここを通って、だから」
「はい、えっと・・・・わ、わかってます。私は大丈夫ですから」
か細い声で東條は言うがどうみても大丈夫ではなかった。咄嗟のことで気がつかなかったが僕と東條の身体は密着状態でさっきから東條の柔らかい胸や太股が思いっきり当たっている。
隠れたときは全然気にならなかったのに一度意識してしまうと
その感触に動揺は隠せない。
「もう行ったか・・・・?」
正直用務員のおじさんの足音なんてわからなくなっていた。もう行ってしまったのか、まだ来てないのかそれとも立ち止まっているかもしれない。
「もう少しだけ、待った方がいいと思います」
「そうかもな、戻ってくるかもしれないし」
ぎこちなく会話を交わしお互い顔を背ける。
暗闇の中を時計が秒針を刻む音と蛇口から時折落ちる水滴の音だけが支配してした。


それからどれくらい経っただろうか、僕と東條はどっちからというわけでもなく自然と身体を離した。
五分、いや三分・・・・もしかしたらもっと短いかもしれない、けど僕にとってはすごく長い時間経った気分だった。
「葛西君、ごめんなさい」
「見つからなかったんだからいいさ、というかこっちこそごめん」
机の下で二人謝りあう。もう東條の身体は離れてお互い端と端に座っていると言うのにまだ彼女の匂いと温もりが残っていてまともに顔を見ることができなかった。
「私、また葛西君に助けられちゃいましたね」
「助けたとかあんまり気にしないで・・・・」
そこまで言いかけて東條の言葉に違和感を覚えた。聞き間違えじゃなければ「また葛西君に助けられた」そう言ったはず。
「あの時のこと私今でも覚えてます。理科の実験で私が今日みたいなことして倒れちゃったときに葛西君に助けら・・・・」
「いや、ちょっと待って東條」
思わず東條の語りを遮ってしまった。感慨深く話す東條には悪いけど僕にはそんな記憶がないのだ。
「どうかしました?」
不思議そうにこちらを見る東條の姿を横目で見てみるもその顔を見てもやはり僕にはなにも思い浮かばない。東條とは高校に入って昨日までなんの接点もなかったはずだ。
「ごめん、東條が言っていることの記憶がないんだけど」
東條が勘違いしているのか、それとも僕がド忘れしているのか
いやでもそこら辺に転がっているような石みたいな人間ならともかく光輝く宝石のような美貌の東條と会っていてなんにも覚えてないのもおかしな話だ。
「あっ、ごめんなさい。こんなこと覚えているの私だけですよね、中学校の時の話ですから」
「中学の時?」
高校ではなく中学の時と言われたところでますますわからなくなった。協調性はない僕だけど何度も言うが東條みたいな子がいれば多少は覚えているはずなのにさっぱりなにも思い浮かばない。
「もしかしたらこうすればわかるかもしれないです」
僕の表情から察したのか東條は肩からずり落ちたストールを直すとグッと身体を近づける。
「東條?」
「葛西君ちょっと眼鏡、借りますね」
「お、おい!」
僕の制止を無視して東條は眼鏡を取り上げると再び距離を離す。
「これでわかると、思うんですけど」
東條は僕の眼鏡を掛け長い髪を両手で分けておさげのようにして見せる。
「あっ・・・・もしかして」
東條のその姿を見て一気に記憶が引き戻された。昔見た姿とは少し違うがそれでも僕の記憶を引っ張り出すにはその姿は充分なほど似ていたのだ。
「東條ドジ音か!」
「ううっ、久しぶりにそのあだ名で呼ばれた気がします」
正解なんだろうが東條はガックリと肩を下ろした。むしろ今までなんで思い出せなかったんだろうと思ったが今の東條と中学時代の東條じゃ見た目が変わりすぎていたのだ。よく夏休み前までは黒髪ロングの清純派で通ってた子が夏休み明けに茶髪の髪飾りごちゃごちゃとしたギャルに変わってしまうという話はあるがそんなものの非じゃないくらいに東條は変わっていた。
中学時代の東條は黒縁眼鏡に髪を二つ結びにしてボソボソと小さな声で喋るそんな女の子だった。見た目からして頭の良さそうな文学少女の基本型をしているくせに勉強ダメ、運動ダメでなにかをやらせるとまずドジを踏むのでクラスでは東條綾音じゃなくて『東條ドジ音』なんてあだ名をつけられていた。
「あっ眼鏡、返します」
「ああ、しかし随分と変わったな東條」
東條から眼鏡を返してもらい改めて東條の姿を見るがやっぱり昔とは全然違う人に見える。
「変わってなんていませんよ。この前の部活の予算編成のときも0を三つもつけ間違って文芸部の予算を五億円にしちゃいましたし」
「三つって・・・・なるほどドジなところは変わってないのな」
僕は呆れたように言葉を吐く。
おもえば中学時代僕と東條は三年間同じクラスで更にずっと席が隣同士だった。そのせいで僕はなにかとドジを踏む東條の面倒を見せられていたんだが多分先生もクラスのみんなも「葛西に面倒見させればいい」なんて感覚でクラスを一緒にしたり席を隣同士にしてたんだと邪推するほどだ。
「それで今やってる実験ってなにやってるのさ」
「えっ、あのそれは・・・・」
「手伝うよ、東條一人でやらせたらなにやるかわからないからな」
僕は机の下から這い出るとそう提案を持ちかける。
黒魔術の実験なんて最初から興味なかったがやっているのがドジ音なら話は別だ。あの東條に一人で実験をさせてたなんて今おもえばさっきのことぐらいで済んだのが奇跡的といっても言い。
東條がさっき言いかけていたけど理科の実験で薬品の匂いを直接嗅いでぶっ倒れるなんてのは日常茶飯事でその度に僕が保健室まで連れていっていた。それだけじゃないアルコールランプを触らせたら思いっきり倒して机の上を大炎上にし、触るなって言われたのに化学反応して熱くなった硫化鉄を触って火傷する、ぶっちゃけ日向なんかよりも遥かに危険な人物なのだ。
「ええっと懐中電灯は・・・・あった」
「いやあのちょっと葛西君、待って」
なにやら挙動不審な様子の東條を放っておいて懐中電灯のスイッチを入れ机に開きっぱなしの黒魔術の本を照らす。
「なになに・・・・・・・・ぷっ、はははっ」
黒魔術の一文を見て思わず僕は吹き出して笑ってしまった。そこには黒魔術の本には似つかわないPOP体で『これで意中の人とラブラブに♪惚れ薬の作り方だよ♪』なんて書かれている。荘厳そうな装丁からは想像できないその軽いノリのギャップに笑いを押さえることができなかったのだ。
「わ、笑わないでくださいよ・・・・これでも本気なんですから」
少し不貞腐れるように言う東條に少し悪かったかなと反省する。まぁこんな実験でもわざわざ夜中の学校に忍び込んでまでやるってことから東條が本気なのはよくわかる。
「いや悪い、でも東條ならこんな惚れ薬なんて必要ないだろ」
「そんなことないです、私なんて全然可愛くないしドジだし」
おいおいドジなのはともかく今の東條が可愛くなかったら他の女子はどうなるんだよと、なまじ東條が言うと嫌みにしか聞こえないぞそれ。
「まぁでも東條が作りたいって言うんだから手伝うよ、そっちの方が早いだろうし」
「ありがとうございます。それで葛西君はこの惚れ薬、効果あると思いますか?」
「えっ、ああ・・・・そうだなぁ」
真っ直ぐとこちらを見つめて言う東條から視線を外し僕は考える振りをする。効果があるかないかで言えばまぁ十中八九効果なんてないだろう。この本の感じからしてもオカルト好きの女子が好きそうなおまじない集といった感じで信用に足るものはない、そもそもそんな惚れ薬なんてのが存在するとも思ってない、だけどそう言うわけにもいかない。
「東條が一気持ちをこめて生懸命作れば効果もちゃんとでるさ」
「本当ですか!?私、頑張ります!」
そう言って笑う東條の顔を見るとどうにも言葉では言えないなんとも微妙な気持ちになる。あえて近い感情で言うなれば『年頃の娘が彼氏のことを楽しそうに話しているのを見ている父親の感情』みたいな感じだろうか。
「・・・・それで東條の好きな人ってどんなやつ?」
そんな感情が災いしたのかつい、変なことを口走っていた。
「う~ん、そうですねぇ」
『誰』と聞かなかったせいもあるが東條もスルーしてくれればいいのに変なところ真面目なのか一生懸命言葉を捻り出そうとしている。
「ちょっと変わった人、かな。でもドジばっかりする私をいつも助けてくれるんです」
「ふぅん、変わった奴もいるんだな」
「最初は恋だなんて思ってなかったんですけど、ふと気がつくと私その人の事ばっかり考えているんです。ドジとかしちゃってももしかしたらその人が助けてくれるかもなんてこと考えちゃってえっと、その・・・・」
「ああ、うん。わかった充分わかったよ東條」
頬を赤く染め喋る東條。これ以上聞いてたらなにかこっちまで恥ずかしい気持ちになってきて思わず僕は話を止めた。
「東條はよっぽどそいつの事が好きなんだな」
「は、はい・・・・好き、うん大好き、です」
あの大人しい東條がこうもはっきりと気持ちを言葉にするのを見て僕は確信する。恋をしているってのはこうゆうことなんだろう、些細なことで一喜一憂し些細な可能性にも縋りたくなる。
そんな東條を見たらさっきまで僕が抱えていた感情はあまりにも馬鹿げていてどうでもよくなっていた。
「まぁそれじゃ始めるか、ドジ音」
「ううっ、だからその呼び方はやめてください」
口を尖らせる東條をあしらいながら僕は思う。
恋する乙女のためなら効果がない惚れ薬でも、作ってやろうじゃないか。
彼女にはそれが切っ掛けであり小さな希望なのだから。



「んでんでどうだったの生徒会長と深夜の・・・・アレは」
次の日の昼休み、二日続けての徹夜に今度こそ安眠を貪ろうとした僕をなんというか案の定日向みなみが襲撃した。
「あのなぁ、その意味深に後半端折ると余計変に聞こえるから止めろって」
「いいじゃん、いいじゃん。それでどうだったの?」
日向は僕の前の席に陣取るとグイグイと顔を近づけてくる。
「どうって僕が手伝ったんだ、無事に完成するに決まってるだろ」
実験は滞りなく成功し、惚れ薬はできあがった。だが作ったアレを飲む奴にはご愁傷さまと言いたい。なにせまともに人間が口にするようなものではない物が出来上がったからだ。シヤープペンシルの芯やら消ゴムのカスやら入れ出したときには「飲んだ人を腹痛にさせてそれを介護することで惚れさせるってことなのか」と勘違いするくらいのがね。
「んぁ~そっちのことじゃないんだけど良い感じに化学反応したみたいで良かった良かった」
「また意味のわからないこと言うな」
日向の言う化学反応ってのは比喩的表現なんだろうがいまいち良くわからない。
「まぁ一希はこれからきっと私に頼ることになるからね、今の内にポイント稼いだ方がいいよ~」
そんな僕の様子を楽しんでいるかのように日向は小首を傾げて微笑んでいる。
「なぁんで僕が日向に頼ることになるんだよ」
「ほら私みたいなのが他の女の子の好感度とか誰に爆弾がついているかとかわかるポジションでしょ?そうゆうところ把握してないと『一緒に帰って、友達に噂されると恥ずかしいし』とか言われちゃうよ」
「寝ぼけて頭が回ってないせいかもしれないけど日向が何言っているか僕にはさっぱりわからないな。というかもういいだろ寝かせてくれよ」
僕は日向のよくわからない話を早々に切り上げ突っ伏すように
して目を閉じる。
「あれれ?いいのかな寝ちゃって綾音から渡しといてって言われたものあるんだけどなぁ~」
「ああもう、なんだよ」
うっすらと目を開けると日向は一つの小さな鍵を見せる。
「鍵?」
「駅前にコインロッカーあるでしょ、なんでもそこに二日間付き合ってくれたお礼が入ってるんだって。綾音文化祭の準備で忙しくて直接渡せないから私が直々に持ってきてあげたの」
「ふぅん・・・・」
僕は日向から鍵を受けとる。まぁ別にお礼なんて期待してなかったんだが貰えると言うのなら貰っておいて損はないだろう。
「あっ今、一希嬉しそうな顔したでしょ~」
「別にしてないし、というかもう寝たいんで話はいいだろ」
「うんまぁ話はいいよ。でも寝れないと思うけど」
「は?なんで・・・・」
そこまで言いかけたところで残酷にも昼休み終了のチャイムが教室に鳴り響いた。それと同時に日向は席を立つとポンと僕の肩を叩くとニッコリと微笑み
「それじゃ授業頑張ってね~」
と短いスカートを翻し教室を軽いステップで出ていく。
「く、今日もかよ・・・・」
僕はその後ろ姿を見ながらガックリと項垂れるしかなかった。




駅前は夕日に照らされ一面橙色に染まっていた。
各々の家路へと急ぐ会社員や学生の姿を僕はぼんやり眺めながら一人歩いていく。
「しかしなんでついてきてるんだろう?」
眠い目を擦りながらポツリと呟く。よくわからないが学校を出てから僕は二人の女子高生に尾行されている。なんというか、ずいぶんと見覚えのある二人だ。
一人は日向みなみ、もう一人は東條綾音だ。なんのつもりかは知らないが僕の後ろ数メートルの位置をコソコソとついて来ているのだが、あれで本人達は気づかれてないとでも思っているんだろうか?ちょっと後ろを振り向くと慌てて物陰に隠れるので逆にその姿は目立っていた。
「東條も文化祭の準備で忙しいんじゃなかったのか?」
昼休みに日向に渡された鍵を指に掛け回しながら考えるがなんであの二人が僕を尾行しているのかさっぱり理解できない。
東條だってそんなことしているくらいなら駅前のコインロッカーまでお礼を置いとかなくても直接渡せば良いと思うし日向も普段は遠慮なしに話しかけてくるくせにああも距離をとられると正直こっちからも話しかけにくい。
結局そんなこんなでタイミングを逃したまま気がついたら僕は駅前のコインロッカーにたどり着いていた。
「さてはて一体に何が入っているんだか」
二人して遠くから様子を見ていることからもきっとロッカーの中身を見た僕の反応を確かめようとでもしているんだろう、ご苦労なことだ。なにが出てこようがそんな東條や日向が期待するような展開にはならないと思う・・・・とそのときは思っていた。
「あ、あの!葛西君!」
「うわっ!」
いきなり背後から声をかけられる、それはロッカーに鍵を差し回そうとする瞬間の事だ。
「な、なんだ東條かおどかすなよ」
差した鍵はそのまま首だけで振り向くといつのまにかすぐ後ろに東條の姿があった。
だが様子がおかしい、夕日に照らされた東條の頬だけがより赤みを増しているように見える。
そして少し離れた所から日向が「頑張れ~」なんて叫んでいる。
日向の応援を受けて東條は小さく頷くとなにかを決意したようにじっと僕を見つめている。
これは、なにが、起ころうとしているのですか?
「あの、私・・・・その葛西君の事が───」
「えっ!?」
東條の声ははっきりと聞こえた、聞こえたけど一瞬理解ができずに固まってしまった。ただ鍵を持っていた手だけがゆっくりと回転し・・・・がちり、と音を立て錠は開いた
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(´・ω・`)ノやっ

はい、それじゃ今から反省会しまーす

鴛鴦の戯れ ◯
羽のもがれた蝶の行方
深淵の人魚姫 ◯
冬の陽 ◯
・・・・・
ろーぷれ
盲信サマエル


なんていうかまだこんだけしか書いてないんだなと、改めて思う。というかそれ意外じゃほとんど書かないじゃん?
そりゃ成長しないわ-(;´Д`)
タイトルの右の◯はあれです、あえていいません自慢に見えるから
個人的に一番まともなのが深淵の人魚姫かな、好きなのはろーぷれかな、見返したくないのが冬の陽かな
恥ずかしいから(;´Д`)

ついでにろーぷれと冬の陽の間に実は


「妄想メイドと守銭奴執事」


という作品があるんだけどボツにしました

あーボツにしたって言うかね


締め切りに間に合わなかったんだよ!!!!


(´;ω;`)

ついでにいうと今日コレを取り上げたからUPするの?ねぇねぇUPするの?と思うじゃん?


まだ完成してないから!!!


(´・ω・`)

ついでに完成する予定もないぜ!はーはっはっは!!

・・・・というのもあれなんでプロットのような箇条書きだけ掲載しておいてやるわ!!

いつかさらっと載せるかもしれないけどね

メイドさんいままでお伽話だとおもってたわwwここで一旦切りませう(・.・;)

お嬢様、(´・ω・`)→夫とお腹の子を事故でなくしたから絵を描く気も起きんわ

メイド「お嬢様を元気づけたいお・・・でもどうすればいいんだお・・・・」

そういえば猫の建築家の話好きじゃね(メイドさんとお嬢様は11年前からの付き合い)

執事さん言う所によると「それおとぎ話じゃねぇーしwwww」 メイドさん「まじかwww」執事「落ち着けwww」

メイドと執事が猫ちゃん探すよーてか執事さんの兄が実は猫ちゃんの主人wwww

猫ちゃん発見、狭いから丘に来いよ!的な話(挿入文をぶっこめ!)

猫ちゃん、主人がいなくなって(´・ω・`)。自分も死にそう、これ以上悲しみを誰かに与えたくないお

メイドと猫の会話。猫がメイドの説得で猫が納得。悲しみだけじゃなくて生きる希望を与えられるよなんて偽善

お嬢様と猫の会話、ここはあえてメイドは聴かない。猫ちゃん死亡確認

猫ちゃん死んだけどお嬢様は生きる希望を取り戻しました(ちょっとだけ猫ちゃんのデッサンがしてある)



やっぱボツで正解だったかもなー(;´Д`)


《 鴛鴦の戯れ 》

 信頼する証に、自分の一番大事な本を預ける。次に店内から一冊の本を選ぶことがこのゲームの最初の手順。
それからお互いに持った本から三つ問題を相手に投げかけ、多く答えられたほうが勝ち───ただし問題の答えは必ずその本の中に文字として記載されていること。
私───浅宮紗希はそこまで手帳に書いて隣の出来の悪い幼馴染、この暑苦しい真夏に黒スーツと黒のソフト帽をかぶる黒澤翔を横目に見る。翔はさも全てを把握しているかのように腕を組み「なるほどな」なんて呟いている。
でも結局聞いているようで全く聞いてないから私がこうやってメモを取ることになる、もうそんな関係にも慣れてしまった。
今回の依頼者のことを語る前にこの出来の悪いバカな幼馴染、黒澤翔について面倒だし知った所で記憶容量の無駄だけど語っておこう思う。
黒澤翔、私の幼馴染でちょっと前まで同じ大学に通っていた出来の悪いバカで間抜けで鈍感で変態で・・・・語り出したらキリがない男。そして自分がやりたいと思ったならなにがなんでもやらないと気が済まない男。
小さい頃からそんな黒澤翔に振り回されてきた私だけど、今回の彼の行動には正直今までの中でも閉口せざる出来事だった。
どこでまた影響されたのか知らないが急に「探偵王に俺はなる!」なんて意味不明な供述とともに折角受かった大学を途中で退学して気がついたらちゃっかり探偵事務所なんてのを構えている本当に出来の悪いバカで間抜けで鈍感で変態で・・・・
まぁ一番のバカはこんな男に付き合って“助手一号”なんてやっている私なんだけどね。
そしてこのバカ幼馴染がやり始めた探偵ごっこに初めて依頼してきた奇特な人が、六爪寺佳奈さんだ。
「あの、えっとーそのー」
華奢な白い肩をのぞかせた白いワンピースに麦わら帽子、おどおどとした様子で語る姿はまるで避暑地のお嬢様、もっと言えばこう言っていいものかわからないけど可愛い小動物のようだ。
「しかし古本屋でそんなギャンブルをして借金一千万とはいやはや信じがたい話だ」
「で、でも本当の話なんです」
翔の問いに涙目で答える佳奈さんではあるが、今回の彼女の依頼それは確かに普通のところじゃまともに取り合ってくれそうにもない話だ。
「お母さんの手術代が足りなくて金融会社に行ったんですけど私未成年でお金貸してもらえなかったんです。でもそうしたら金融会社のおじさんが『金は貸せないけど金を稼ぐ場所を紹介する』ってその古本屋を紹介してくれたんです」
金融会社の紹介する仕事って水商売だとかそんな類いだと想像するまでもないと思ったのだがまぁ古本屋で良かった、と思うところか。まぁでもお金がない人をギャンブルに走らせるなんてのは到底容認できるものじゃないけど。
「お母さんの手術代を集めないといけないのに逆に借金をしちゃうなんて私もうどうしたらいいかわからなくて・・・・」
「大丈夫ですお嬢さん、この名探偵黒澤翔にお任せていただければ円滑に解決して見せましょう!」
佳奈さんの手をぎゅっと握り熱く語る翔。けどこいつのことだ
口先だけでなんにも解決策考えてないんだろう、どうせ大方ただ佳奈さんの手を握りたかった、それだけだ。
「ちょっと翔、そんな安請け合いして大丈夫なの?」
肘で小突きながら訊ねてみるが当の翔は怪訝そうな表情でこっちを見る。
「なんだよ紗希、幼馴染みのお前が俺のこと信用してないのか?」
「幼馴染みだから信用してないんだけど?」
私が最もらしい言葉を返すと翔はしばらく沈黙し佳奈さんのほうを振り向く。
「なにか心配性の助手一号がいますがご安心を、佳奈さんは豪華客船タイタニック号に乗ったつもりでいてくだされば結構ですので」
「は、はぁ」
再び佳奈さんの手を強く握りしめ熱く語ってるけど、その船じゃ沈むでしょうが。
「でも一体どうやってお金取り返すつもりなの?」、
「そんなの簡単だ、そのギャンブルで勝てばいいんだろ」
翔は本当に簡単に言ってくれる。でもそれができたら誰も苦労しないし佳奈さんだって依頼してこないでしょうが。
そもそもギャンブルで失った金をギャンブルで取り返すなんて探偵の仕事じゃないし、そもそもそのギャンブルだって裏があるかもしれないじゃない。万が一負けて借金が増えたらどうするつもりなのよ。
「よっし!それじゃ本を選んでさっさと金を取り返しにいきましょう、任せてください」
私のそんな考えを言う前に翔は立ち上がり本棚を漁り出す。本当に思い立ったら後先考えずにすぐに行動するんだからフォローしなくちゃいけない私の苦労も少しは考えてほしい。
今だって本を探すことに夢中で依頼金や成功報酬のこととかまるで話していない。本当そんなことでやっていけるのか常々不安に思いながらため息混じりに私は手帳を閉じた。



「あの、えっとそこを右に曲がったらすぐです」
佳奈さんの案内のもと私達は例の「古本屋」へと向かっていた。
「へぇ・・・・意外と近くにあるんだな」
翔の言うようにその「古本屋」の場所は翔の事務所から目と鼻の先、歩いて五分ほどの近場にあった。まさかこんな近くに美少女をギャンブルで借金背負わせるような怪しい店があるとは思わなかった。
「こ、ここです。ここが古本屋「猫の目書房」です」
佳奈さんが立ち止まった店の前、その建物を見て思わずその崩壊具合に唖然としてしまった。木製の建物はいたるところが腐ってしまっているのか穴が空き、根幹自体が崩壊しかけ建物自体が斜めに傾いてしまっている。震度1くらいの地震でもあったら今にも崩れ落ちてしまいそうなくらいのオンボロ具合だった。
「へっ、上等じゃねぇか。腕がなるぜ」
なにが上等なのかよくわからないが翔は自信満々な様子で店の扉に手を掛ける。
「たのも・・・・・・・・って開かねぇ!!」
曇りガラスの引き戸を翔が必死に引っ張るがガタガタと激しい音がなるだけで一向に開く気配がない。むしろ戸が開く前に建物自体が崩壊しそうなくらいだ。
「ちょっと翔、あんまりやると壊れるわよ」
「だってしょうがないだろうが開かねぇんだから!」
なにやら足まで使い始めた翔に佳奈さんが恐る恐る近づくと消え入りそうな声で呟く。
「あ、えっとその・・・・翔さん私に任せてください」
「それは構いませんけど男の俺でも開かないんですよ」
「あ、これちょっとしたコツがあるんです」
そう言うがままに佳奈さんは引き戸に手を掛けながら戸の縁をそのか細い足で戸に蹴りを入れると───
「はい開きましたよ」
男の翔がいくらやっても開かなかった戸があっさりと横へとスライドした。それと同時に店の中から数匹の猫が飛び出してくると翔の周りを取り囲む。
「うわっ、ちょっと待てよなんだよこいつら!」
「なにって可愛い猫ちゃん達じゃない、いいわね猫には大人気で」
「よくねぇよ!と、とにかく俺が猫嫌いなの知っているんだろなんとかしてくれよ」
そう言いながら翔は擦り寄ってくる猫達に「あっちいけ」だの「しっし」だのやっている。まぁなんていうか翔が大の猫嫌いなのは小さい頃に猫にちょっかい出して顔面を掻き毟られたからなんだけど、正直ここは放っておいてもいいかなって思っている。
「あの助手一号さん、黒澤さんって猫が嫌いなんですか?」
「そうなんですよ、こんなに可愛いのに変なやつでしょ」
「それは困りましたね・・・・」
「困ったってどうしてですか?」
「はぁ、それは店の中を見てもらえばわかりますけど」
ちょっと心配そうに言う佳奈さんに言われるがまま店内を覗きこんでなぜ彼女が心配そうなのかはすぐにわかった。
「翔、良かったわね。店内に可愛い子が沢山いるよ」
「なにぃ!?それを早く言え!!」
猫に怯えていた翔は私の甘言に乗って足にまとわりつく猫ちゃんを払いのけ店の中に突っ込んでいく。
バカだ、本当にバカ。なんでこんな簡単な嘘も見抜けないんでよく探偵なんて自称しているんだか・・・・“可愛い子”をすぐに人間の女の子だなんて勘違いするバカにはちょっとお仕置きが必要かもしれない。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!やめろ、俺に近づくなぁ!!」
ほどなくして翔は店内の可愛い猫ちゃん達に囲まれて叫び声あげていた。普通に考えてこんなところに可愛い女の子が沢山いるわけないじゃない、そんなこともわからないなんて本当この先大丈夫なのかだろうか。
「おやおや、随分と元気なお客さんだね」
私がそんな不安を抱いていると店の奥からそんな声が聞こえた。
「あ、あの人が店長の清次郎さんです」
「あれが店長さん?」
佳奈さんに言われるまま奥のカウンターに座る店長さんを見るがなんていうんだろう想像してたのとは全く違っていた。
短く切り揃えられた髪に青い甚平に小さな丸眼鏡、柔和に微笑むその姿はなんだろうギャンブルでお金を巻き上げる、そんなことをするようには見えない爽やかそうな好青年。
「佳奈さん、そこのお二人は?」
「あのえっと探偵さんと助手一号さんです」
「探偵・・・・」
佳奈さんの言葉に一瞬、清次郎さんの目付きが鋭くなる。
「そうゆうことですか。佳奈さんは僕ともう一度戦いたいと」
「お願いします!」
深々と佳奈さんは頭を下げる。けど止めておいた方がいいんじゃないかなぁなんて今更ながらに思う。なにせ「俺がギャンブルで金を取り返してやる!」なんて息巻いてた張本人が猫に囲まれて瀕死状態なんだから。
「や、やい!極悪人め!この俺、黒澤翔様がギャフンと言わせてやるからな!」
翔はそう息巻くが、正直へっぴり腰で言われてもまるで様になっていないし、そしてなにより今時ギャフンなんて言葉を使う幼馴染みに呆れてものも言えなかった。


「さて、これで少しは落ち着いて話せるかな」
清次郎さんがそう言いながら急須から四つ湯飲みにお茶を注ぐ。番茶だろうか出だしの香ばしい匂いが鼻に入ってくる。
「へっ、俺にその手は効かないぜどうせ大方毒か薬でも・・・・」
「頂きます」
なにやらゴチャゴチャと言っている翔を無視してお茶を啜る。
とりあえず翔がいつもの調子に戻ったのはじゃれていた猫ちゃん達を佳奈さんが抱き抱えているからだ。まぁ抱いているのが三匹、頭の上に器用に乗っているのが一匹で後は足元に集まっているという感じ、そんな佳奈さんが私の右側に私の左側に翔がアホ顔でふんぞり返っている。猫が怖くて私を盾にしているなのに随分と偉そうだ。
「大体細目の奴ってのは悪者なんだよなー」
「あはは、そう言われましても生まれつきなもので」
そして正面、木製のカウンターを挟んだ向こう側にいる清次郎さんが翔の言いがかり的な暴言にも笑顔で答えている。
「ではもう佳奈さんに聞いて知っているでしょうが改めてルールを説明しておきましょう」
お茶を一口飲むと清次郎さんは淡々とした口調で続ける。
「まず信頼の証として一番大切な本を私に預けてもらいます。お金のやり取りをする以上お互い信頼が必要ですからね」
「信頼とかどうでもいい。別に勝つためなら一番大切な本じゃなくてもいいよな」
「まぁ構いませんよ。ですが問題は多岐にわたるため一番読んでいる馴染みの深い本の方がいざというときに役に立つと僕は思います。」
翔の荒々しい口調にも清次郎さんは丁寧且つ慎重に答える。ギャンブルでお金を巻き上げる人には見えないとはさっき思ったがこと勝負事には強そうなタイプに見える。
「次に黒澤さん達にはこの古本屋の店内にある本を一冊選んでもらいます」
「それって売り物じゃないとダメなのか?例えばそこにある電話帳とか」
翔がちょうど清次郎さんのとなりに積んである地域電話帳を指差す。
「店内にある本の体をなしたものなら売り物である必要はありません・・・・ですがそこの電話帳は止めておいた方がいいでしょう」
「なんだよ、自信ないのか?」
「あのえっと、逆です。私が勝負したときにそこの電話帳使ったんですけど清次郎さん電話帳の中身すべて覚えていて完敗しちゃったんですよ」
佳奈さんの言葉はにわかには信じがたい話だった。電話帳の中身をすべて覚えるなんてできるのだろうか。いやそれだけじゃなくてこの古本屋にある本の内容をすべて記憶しているとしたら、なまじ適当な問題で清次郎さんに勝つなんて無理じゃないのか?
考えれば考えるほどこの勝負の先行きは不安になってくる。とはいえ私が言ったところで翔が止めてくれるわけないから困る。
「まぁ黒澤さんがこの電話帳で対決を望むのであれば私は別に構いませんけどね」
「・・・・それはまぁ考えておくぜ」
「それではルールの続きを。お互い本を選んだらそこから三問問題を作り相手が答えられなければポイントとなります。ただし問題の答えは必ず本に文字として記載されていること、記載されていることから連想しなければ答えが導き出されないものはダメです、あくまで答えは本の中になければならない」
「じゃ『このときの作者の気持ちを考えろ』ってのはないわけだな」
「そうですね」
「ふっ、なら問題ないぜ」
なにが問題ないのかわからないけど翔は意味ありげに笑みを浮かべている。
「ルールは以上です。あとはレートですが、どうでしょう本来なら一勝五百万としているんですが今回は特別に三戦して私に一勝でも勝てたら佳奈さんの借金をゼロにして一千万差し上げ、逆に私に一勝もできなければ佳奈さんの借金を一千万上乗せというのはどうでしょう」
清次郎さんのその提案は随分とこちらに譲歩した提案だった。単純に二回勝っただけでは佳奈さんの負け分がチャラになるだけのところをたった一回勝っただけで借金をチャラにしてさらに一千万を貰えるという話なんだから。けど逆を言えばそれだけ清次郎さんはこの勝負に自信があるということになる。
「へっ、あとで『やっぱりなかったことに』ってには受け付けないからな」
翔はおそらく状況を全く把握してないのだろう勢いだけで話を進め、今も自信満々なご様子で椅子にふんぞり返っている。
多分数分後には泣きを見ている気がするけど。
「大丈夫ですよ、約束は守ります。ではさっそくですが勝負と───」
「いや、ちょっと待ってくれ。最初の勝負は俺以外の奴にやってもらう」
清次郎さんの声を遮って翔が声を張り上げる。えっ、というか翔以外がやるって私か佳奈さんにやらせるっていうの?事前にそんな話してないし、なにより
「私の一番大切な本なんてもってきてないわよ」
「ん、ああ大丈夫だ。最初に勝負するのは助手二号だからな」
「じょ、助手二号!?」
翔の思わぬ言葉に私はつい大きな声をあげてしまった。
なんというかいつの間に助手二号なんてできたの?というより
翔の戯れ事に付き合うようなおバカさんが私以外にいたなんてという方が驚きだった。
「ちょっと一体誰なのよ、助手二号って」
「紗希もよく知ってる奴だよ、ここに来る前にメールしておいたからもうすぐ来るぜ」
私が知っている人って大学の友達か?翔のことだ、男の助手ってのはないだろうしあるとすれば同じサークルだった麻佑ちゃんか由紀ちゃんかだけど・・・・ダメだダメだ、あの二人に私が助手一号やっているってのがバレるのも恥ずかしいし、あの二人が貴重な青春をこんなバカ男のために使うのも許せない。
そんなことを考えていると背後の戸がガタガタと音をたてて揺れる。
一瞬風で戸が揺れただけとも思ったがそれは違う、曇りガラス
越しに人の姿が見えたからだ。
「あ、開かないのか。私開けてきます!」
すぐさま私は立ち上がり戸に向かう。私が真っ先に開けてあの二人のどちらかならお引き取りしてもらおう。
「今開けますね」
私は戸の向こう側に声をかけると佳奈さんがやっていたように
戸に手をかけ、縁を足で蹴る。
「これで開くはず、なんだけどおかしいな」
何度か戸を引きながら縁を足で蹴るが全く戸は開こうとしない。なんて立て付けの悪い建物なんだ、そう思っていると全然開かないのを心配してか佳奈さんが声をあげる。
「あのえっと紗希さん、内側から開けるときはもうちょっと左側を蹴ってみてください」
「わかりました、もうちょっとひだ・・・・きゃっ!」
佳奈さんに言われるままほんの少し左の縁を蹴るとさっきまでびくともしていなかった戸が勢いよく開く。その勢いに思わず私はつんのめって倒れてしまった。
「いたた」
「大丈夫ですか?さぁお手をどうぞ」
凛とした声とともに戸の向こう側にいた女性が手を差し伸べる。その手を取り顔をあげると随分と見知った顔がそこにはあった。
「あれ・・・・明音ちゃん?」
「えっ、もしかして紗希さんですか」
私の目の前にいる明音ちゃんもびっくりしたように声をあげる。腰ほどまで伸びる黒髪に透き通るような色白の肌、この辺でも有名な御嬢様学校の白い制服を着た彼女は黒澤明音ちゃんはまぁ苗字からもわかるけどあのバカ翔の三つ下の妹さんだ。
とはいえ明音ちゃんの方は翔とは本当に兄妹なのか疑いたくなるほど優秀で頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能とありきたりな誉め言葉を全部並べても足りないくらいの良い子なんだけど
まぁ問題があるとすればあのバカ翔のやるアウトローなことにちょっと惹かれているってところかな、例えるなら中学生の時クラスで一番可愛い子が高校でヤンキーと付き合ってた、みたいな?自分の持ってないところに惹かれているんだろうけど、正直そんなところ明音ちゃんには真似してほしくないと思う。
「あれ、じゃあもしかして助手二号って明音ちゃんなの?」
「はい!兄様にお願いしたら助手にしてくれました」
屈託のない笑顔で答える明音ちゃんに私は呆れてものも言えなかった、ていうか自分からあんなのの助手になりたいとかやっぱり変わってる。
「おい二人ともなにやってるんだよ、早く来いよ」
「わかってるわよ」
翔の催促に振り返ることなく答えると立ち上がり明音ちゃんに耳打ちするように近づく。
「ねぇ明音ちゃん、助手やりたいのはわかるけどさ今回のお仕事は危ないから止めた方がいいよ」
「いえ、私は兄様のお役に立ちたいんです。それに危険なお仕事でも兄様と紗希さんがいれば安心ですから」
ん?それって落ちるときは一緒だから大丈夫って意味なのか?
一瞬そんなことを思ったがともかく明音ちゃんの決意は固い。
私との話もそうそうに翔の元へといってしまう。なんていうか一度決めたら一直線なところは兄妹一緒みたいだ。

「えっと私、黒澤明音と言います。今日はよろしくお願いします」
「僕はこの『猫の目書房』の店長をしている清次郎と言います、よろしくお願いしますね」
明音ちゃんと清次郎さんの丁寧な挨拶とともに最初の勝負は始まった。けどなんで翔は明音ちゃんに勝負させているのかが全然わからない、なにより翔が私や佳奈さんにどうやって戦うかとか作戦とかそういう話を一切していないのでこっちは不安で一杯だ。
と思いきや、そんな不安を抱えているのは私だけのようで依頼主である佳奈さんは猫に囲まれて楽しそうにお茶を飲んでのほほんとしている始末。古本屋で一千万円かけての勝負も違和感があるがこのほのぼのとした空気もかなりの違和感だ。
「それでは明音さん、貴女の大切な本を」
「はい、えっとこれですね」
明音ちゃんは学校の鞄から一冊の本を取り出すと清次郎さんに差し出す。B5サイズの青い本には大きく白文字で『これで数学がわからなかったら脳の異常です!』と書かれていた。
「って明音ちゃんこれ数学の参考書じゃない」
「はい、私高校に入ってから全然数学わからなかったんですけどこの本のお陰で今ではすっかり数学ガールになれました!」
数学ガールって、森ガールみたいに言ってるけど私が言いたいとことはそこじゃない。普通一番大切な本って言ったらなんか小さい頃に親から貰ったとか大切な人に貰ったとかそうゆうのを言うんじゃないの?
「ちょっと翔、参考書で大丈夫なの?」
「まぁそれが明音の一番大切な本なら参考書もありだろ。ええっと、んで次はこの店内の本から一冊選ぶだったな」
翔は私の訴えも話し半分で辺りを見渡すと椅子に座ったまま本棚に手を伸ばし一冊の本を取る。
「よし、まぁこれでいいか」
「いやいやいや!翔、もうちょっと考えようよ!」
あまりにあっさり勝負する本を選ぶものだから思わず大声をあげてツッコミを入れてしまっていた。
「いいんだよとりあえず最初は『見』って決めてるんだから」
「様子見ってこと?でもいくらなんでもそんな決め方はないでしょ」
「やれやれ心配性だな、そんなに俺が信用出来ないのか」
「うん、全く信用出来ないから言っているの」
決め台詞のように言った翔に冷静に言葉を返す。なんで自分にそんな信頼があると思うのか、この店にある辞書で信頼って言葉一度引き直して見てもらいたいくらいだ。
「またも心配性の助手一号がなにか言っているが名探偵の黒澤翔はそのまま手にとった本を妹に渡すのであった、っと」
そんな私の想いも翔は意味の分からない語り口調で無視するともに明音ちゃんに本を渡していた。まぁなんにしても私の意見なんてのはいつもこうやって無視されるから慣れっこだけど、今日という今日は天罰が下ると思う。
「それではそちらの『とりあえず最後はオリーブオイル』で勝負といきましょうか」
「構わないぜ、しかし聞いていなかったが先攻後攻はどうやって決めるんだ?」
「ああ、言い忘れていましたね。黒澤さんが自由に選んでもらって構いませんよ。先攻めにしてプレッシャーをかけるのもいいですし後攻めにして様子をうかがってもらっても構いません」
「ふーん、なるほどね」
自分から聞いたくせに翔は適当な返事を返すだけで明音ちゃんの持つ『とりあえず最後はオリーブオイル』に集中している。
私も後ろから『とりあえず最後はオリーブオイル』を覗き見る。どうやら料理の本のようで和洋中様々な料理が載っているが本の題名通りどの料理も最後にオリーブオイルでベットベトになるという酷いことになっている。洋風の食べ物ならともかくちらし寿司やざる蕎麦、茶碗蒸しに至るまでオリーブオイルをかけるその徹底振りに正直胸焼けしそうになる。
いやだが大事なのはこの本から問題を作って清次郎さんに勝つこと、こんな見てて気持ち悪くなるような本のことまで清次郎さんは把握しているんだろうか?例えば今ちょうどページが開いている『麻婆豆腐のオリーブオイルかけ』に表記されている塩の分量だとか。
「よし、こっちの問題は出来たぜ」
そんなことを考えているほんのわずかな間に翔は問題を作っていた。本当なら『もうちょっと考えなさいよ!』とか言いたくなる所だけどそれももういいかなっと思い始めている。翔は様子見と言ってたしまぁ普通にやって清次郎さんに勝てることはないだろう、なら次の勝負に向けて清次郎さんを観察してた方がよっぽどましだ。
「そうですか。私もちょうどすべて読み終えたところですよ」
パラパラとページを流していただけに見えた清次郎さんが本を閉じそう言う。あれってもしかして速読術というやつなんじゃないだろうか、「最近の学生さんは難しい勉強しているね」なんて笑っているけど速読術が覚える方がよほど難しそうに見える。
「それでは最初の勝負と参りましょうか、先攻後攻はどうしますか?」
「こ、後攻さんでお願いします」
清次郎さんの問いに明音ちゃんが緊張した声色で答える。さっきから翔が本を選んだり問題考えたりしてでしゃばっているけど最初の勝負をするのは明音ちゃんだ。様子見とはいえ緊張するのは仕方ない。
「明音ちゃん、あまり勝敗のことは気にしないで落ち着いてやってね」
「はい、紗希さんありがとうございます」
気休めにもならない言葉をかけるがそれでも少しは緊張がとれたのか明音ちゃんは軽く息を吐くと清次郎さんの方を向きなおす。それを清次郎さんは確認するとゆっくりと手元の本を捲りながら第一問目を出した。
「では第一問、この参考書『これで数学がわからなかったら脳の異常です!』の総ページ数はいくつでしょう?」
「えっ?」
その問題はあまりに意表ついた問題だった。てっきり一番大切な本なんて言ってたから本の内容、あの参考書なら公式だとかそんなのが問題になると思っていただけにこんな総ページ数なんてのが問題として出てくるなんて思いもしない。
「兄様、私どうすれば」
「んぁそこはまぁあの本の厚さから勘で言うしかないな」
言葉を詰まらす明音ちゃんに翔は意外にも冷静に言葉を返していた。まぁいくら大切な本とはいえ総ページ数なんて覚えている人なんていないだろうから推測で答えるしかないだろう。
「本の厚さから・・・・そうですね、それじゃ158ページ!」
「惜しいですね、正解は152ページです」
「あうぅ・・・・」
明音ちゃんが落胆のため息とともにがっくりと肩を落とす。だが清次郎さんは気にすることなく続ける。
「では続いて第二問。この本は第何版でしょうか?」
「え、えええっ?」
笑みを崩さずに問題を出す清次郎さんに「この人ドSじゃないか」思ってしまった。重版されているのかどうかなんてよっぽどのことがない限り気にするものじゃない、よほど初版にこだわりでもなければわかるものじゃないだろう。
「確か結構後に買ったものなので、第三版?」
悩みに悩んだ末、明音ちゃんは答える。
「これも惜しい、正解は第四版でした。では第三問、この本を印刷した印刷所の名前は?」
「え、印刷所?・・・・わ、わかりません」
そんなこんなであっという間に明音ちゃんは三連敗。けれども彼女を責めることなんてできないだろう。確かに第何版だとか印刷所の名前は本の一番最後に書いてあるものだけどそれを問題にするなんて理不尽すぎる。
「正解は成瀬印刷所ですね。さてこれで次、私が問題に答えたら私の一勝となりますが問題を変更する時間必要ですか?」
「いやその必要はねぇ。明音、わかってるな?」
翔の問いかけに明音ちゃんは「大丈夫です、兄様」と答えると
「では清次郎さんに私、黒澤明音から問題です。この本『とりあえず最後はオリーブオイル』の総ページ数はいくつでしょう?」
最初に清次郎さんが出したのと全く同じ問題を出したのだ。
「なるほどなるほど、いやはや流石に先ほどの問題は我ながら理不尽かと思いましたがそうくるとは思いませんでした」
まさか同じ問題を出すとは思って見なかったのだろう清次郎さんは笑いを堪えるように口元を抑えるともう片方の手で湯呑みにお茶を注ぐ。
「しかし僕には簡単すぎますね、『とりあえず最後はオリーブオイル』の総ページ数は182ページですよ」
さらりと言ってのけるとお茶を啜る清次郎さん、その様子は完全に勝利を確信していた。
「えっとあの、それで正解は?」
佳奈さんに言われて慌てて明音ちゃんの持つ本を覗き見る、『とりあえず最後はオリーブオイル』の最後ページ数は───
「182ページ・・・・正解です」
「これでまずは僕の一勝ですね。ちなみにその本は初版で印刷所は西村印刷所だったかな」
「全てあってますね、はぅぅやっぱり清次郎さんの記憶力は凄いです」
佳奈さんが感嘆の声を上げるが意味わかっているんだろうか、初戦を落としたことも痛いけどなにより清次郎さんの記憶力というのが本物であるのがこれで証明されてしまったわけでこちらとしてはあまりいいスタートは言えないんだけど。
私は改めて店内を見渡してみる。店内は狭いとはいえそこにある本はゆうに千は超えているだろう、その本全部を記憶するなんてことができる人間との勝負なんてやはり無謀なんじゃないのか?
「さて第二回戦といきたいところですがその前に一旦休憩をいれましょう。明音さんにお茶も出したいですし」
「あ、えっとその清次郎さん、私がお茶を出してきます!」
「そうですか、ではお願いします」
佳奈さんは清次郎さんから急須を受けとると猫ちゃん達を引き連れカウンターの奥へと消えていく。なんだろう、というかなんでだろう?佳奈さんは清次郎さんに一千万円ギャンブルで巻き上げられた被害者、のはずなのにどうにも清次郎さんと仲が良さそうに見える。それだけじゃない、清次郎さんの勝利を喜んだり自分からお茶を淹れに行ったりこの店の戸の開けかたに詳しかったり“わざと”やっているみたいで
『六爪寺佳奈は清次郎さんとグル』
その結論に至るのは日を見るよりも明らかだ。ただ確証はないしなんでわざわざグルだってわかるように演技しているかもわからない。もしかしたらこの勝負とは別のところでなにかあるのだろうか?
「まぁ最初は様子見だからな。とりあえず二戦目の本を選んでくるぜ」
黒いソフト帽を被り直すと翔は立ち上がりフラフラとした足取りで本を物色しはじめる。翔は気がついているんだろうか?それを確認するためにも私も席を立ち翔のあとについていくことにする。
「んーなんかどれも埃被ってやがるな。これが800円?高けぇ」
「ねぇちょっと翔」
本当に物色しているだけといった感じの翔に声をかける。店の奥、ちょうどカウンターからは視角になっている場所なんで小さな声で話せば清次郎さん達には聞こえないだろう。
「なんだよ紗希、あれかまた『ちょっと大丈夫なの翔!』とか言うつもりか」
なんか指で両目をつり上げさせて私の真似?をする翔に「私そんな顔してないし」と思いながら問いかける。
「そうじゃなくて、翔は気がついているの?」
あえて何が?という部分は言わない。気がついていれば良いけどもし気がついていないのを私が教えたら確証もないまま清次郎さんに詰め寄りかねないからだ。
「気がついているかだって?ああ、大丈夫だ今の一戦で大体の戦法はつかめたぜ!」
「ん?戦法?」
「この勝負に勝つには自分は簡単な本を用意して相手には難しい本で問題を出す、これがこのゲームの定石!」
「はぁ・・・・何を今さら」
翔は自信満々にそう言うがそんなこと私は事務所で佳奈さんにルールを聞いたとき既に気がついていたんだけどまさかここまで馬鹿だとは思わなかった。
「ん、違うのか?じゃあいったいなんのことだ?」
私の反応を見て訝しい顔で首を捻らしている。ああ、この様子じゃ全く気がついていない、一ミリたりとも佳奈さんのことを疑っていない感じだ。それならそうでこっちにもやりかたがある。
「ああ、うん。その戦法のこと・・・・わかってるならいいんだけど」
「あのなぁこの俺を誰だと思ってるんだ?名探偵黒澤翔様だぞ、それくらいのことあの一戦ですぐにわかったぜ」
「あー凄い凄い、流石は迷探偵ね」
ニュアンスを微妙に変えて言うと翔は「当たり前だぜ!」とテンション高く答える。本当単純でわかりやすいやつだと思う、とりあえず気づいてないのならそのままにしておいて確証を得てから教えればいいだけだ。
「それでどの本で勝負するの?清次郎さん恐らくここにある本の全て記憶していると思っても間違いじゃないわよ」
「だぁから今それを考えているところ!本当は一戦目を様子見で二戦目、三戦目連勝する予定だったがああも難しい問題を出されるとは思わなかったからな、できれば次の一戦俺の一番大切な本で勝負を決めときたいぜ」
「ふぅん、というか翔って本読むんだ」
私の記憶だと事務所じゃテレビ見ているか寝ているかかしてないのでどんな本を読むのか少し気になる。
「俺だって本の一つや二つ読むっての。まぁ持ってきたのは特に俺が自信を持っているやつだからな、問題を答える方は万全なんだが・・・・っと、これなんてどうだ?」
翔は話ながら本棚の一つに手を伸ばすと一冊のやたらぶ厚い辞書のような本を掴む。
「『星海天体図鑑』、どうやら星のことがやたらめったら書いてある本みたいだな。つーかこれ文字ばっかりで絵がねぇ!」
「しかも随分と字が小さいわね、翔なら読みきるのに十年はかかりそう」
「なぁ紗希、まさかこれの内容も全部清次郎は覚えていると思うか?」
「さぁ、それはどうかしら?」
翔の前ではそう言ってみたが多分清次郎さんは覚えていると思う。いやむしろこの勝負に勝ち目はないというか本当に探さなきゃいけないのは勝負する本ではないような気がする。
「まぁこれでいいか、この本が一番分厚そうだしな」
「またそんな適当に決めて負けたら一千万円なのよ」
「大丈夫だって、それになにかあったら紗希がサポートしてくれるだろ」
サポートってなによ、まさか私にまでお金の請求するってわけじゃないわよね。なんにしてもこのまま黙って負けるわけにもいかないし、私は私でできることをしたほうがいいのは間違いない。
「それじゃ二戦目、翔が負けたら最後は私に全て任せてくれる?」
「んぁ?別にいいぜ、多分出番はないだろうけどな」
どこにそんな自信があるかはわからないけど自信満々な翔の後ろ姿を見ながら私は溜息をつきながらその後をついていくのだった。




私達が戻るとカウンターでは清次郎さん、佳奈さん、明音ちゃんが楽しそうにお茶会を開いていた。
その様子、これを誰が一千万円を賭けたギャンブルしている場所だと思うだろうか?
「兄様、この煎餅美味しいですよ」
「そうなのか?・・・・っていかん!毒が入ってたらどうする!」
明音ちゃんから受け取った煎餅を放り投げようとする翔の手から私は即座に煎餅を取り上げると口の中に放り込む。
「全く毒なんて入ってるわけないじゃない、そんなことよりも勝負でしょ」
「そ、そうだな!今度は負けないぜ!」
翔は手に持った『星海天体図鑑』を自信満々に見せつけると高らかに笑い声を上げる。
「いくらなんでもこんな難しい本全て覚えているわけねぇぜ」
「なるほど、これはまた面白そうな本を持ってきてくれましたね」
分厚い本を前にしても清次郎さんは煎餅を齧り番茶を啜りながら柔和な笑みを崩さない。
「では第二戦に参りましょうか。では黒澤さん、貴方の一番大切な本をこちらに」
「ふっ・・・・この俺の本を見て震え上がれ!!」
翔は“その本”を鞄から取り出し勢い良く叩きつける。そして出された“その本”を見て翔を除く全員が唖然とした。
「あのえっと、これは・・・・?」
「兄様、卑猥です」
「なるほど、そうきましたか」
各々の反応は様々としていた。佳奈さんはよくわかってないのか不思議そうな顔をしているし明音ちゃんは恥ずかしそうに顔を背け清次郎さんは今までこんな本で勝負してきたのは初めてなんだろう感心して頷いている。
そこにあったのは布地の薄い真っ赤な水着を更にはだけさせて見えそうで見えないキワドイポーズで砂浜に寝転がる美少女が表紙に載っている・・・・なんていうかどっからどうみてもグラビアアイドルの写真集だった。
「はぁ、翔が愛読書なんて言うからなにかと思ったらグラビアアイドルの写真集とはね、そもそもそれ本って言っていいの?」
呆れた口調で私が言うと翔は口をとがらせ子供っぽく反論する。
「ちゃんと本の形を成しているんだから『王道アイドル真城鈴音ちゃんと二人っきりのらぶらぶビーチリゾート』だって問題ないだろ」
「なんていうか別の意味で問題なんですけど。というか女の子の前でよく恥ずかしげもなくそんなタイトル言えるわよね」
「まぁ愛読書だからな!とにかく俺はこれで勝負するぜ、あんたも問題ないだろ」
翔はそのなんか恥ずかしいタイトルの写真集を清次郎さんに押し付けるように渡す。もらった清次郎さんも一瞬困った様子ではあったが最後には「わかりました、これで勝負しましょう」と渋々了承をしてくれた。
「しかしこれはなかなか問題を作るのが大変そうですね」
翔から受け取った『王道アイドル真城鈴音ちゃんと二人っきりのらぶらぶビーチリゾート』のページを一枚一枚めくりながらボヤく。それもそうだ写真集なんだから文字を探すほうが大変、しかもこの勝負のルールに“答えは本の中に文字として記載されていなければならない”というのがあるからかなり問題を作るのは大変なはず。翔がこれを狙ってか、いや絶対狙っているわけないんだろうけどそれでも今迄完全に余裕の様子だった清次郎さんを少し焦らせているのは難攻不落の城に楔を打ち込めたそんな気がする。
結局清次郎さんが問題を作り終えたのはそれから十分ほど過ぎた後だった。
「ふむ、なんとかできましたよ。それでは二戦目の先攻後攻はどういたしましょうか」
「俺達の後攻でいく、けど今回は様子見じゃねぇぜ」
先攻後攻を決め、相変わらずどこからそんな自信がわいてくるのかわからない翔と少し焦りを見せた清次郎さんとの第二戦目が始まる。
「では問題です。この本に記載されている真城鈴音さんのスリーサイズはいくつでしょう?」
「ふっ、やれやれ。鈴音ちゃんは上から89-56-80。その本には記載されてないが身長は157cm、体重は39kg、BMIは15.8だな」
「うわぁ・・・・」
「あ、兄様凄いです!」
即答する翔に思わず明音ちゃんが拍手をして喜ぶがその表情はどこか引きっている。そりゃそうだ幼馴染みの私から見ても女の子のスリーサイズどころかBMIまで覚えている男なんてはっきり言って気持ち悪い。きっとこれで明音ちゃんのアウトロー好きも目を覚ましてくれたら良いんだけど。
「ちなみに鈴音ちゃんは驚異のGカップだが助手一号は驚異のトリプルAかっ・・・・がはっ!」
「人をアメリカ自動車協会みたいに言うな!」
反射的に私の拳は翔の後頭部を殴っていた。ていうかなに人が気にしていることをさらっと言ってくれるんだが。
「一問答えれたくらいで調子に乗らないでよね!」
「はいはい、ったく。貧乳は気が短いから困るぜ」
「ん、なにか言った翔?」
「いや、なんでもない。さて次の問題頼むぜ」
なにか翔が余計な一言を言った気がするけど勝負時にごちゃごちゃと言うのは清次郎さんにも迷惑がかかるので一旦引き下がっておくことにする。
「いいですかね。では第二問、この本に記載されているフォトグラファーの方の名前を答えてください。」
「フォトグラファーってカメラマンの事だよな、それなら水埜康だろ」
「正解ですね」
意外にも二問目、翔はあっさりと解答し正解。てっきりグラビアアイドルのことは覚えていても他のことはさっぱりだと思っていたからちょっと驚きだ。
「鈴音ちゃんの写真集はいつもこいつが撮っているからな。あ、でも最近鈴音ちゃんと付き合っている疑惑が出ててだな、俺は元々こいつのことが怪しいと・・・・」
「翔、もうその解説いらないから。あと一問頑張って」
長くなりそうな解説に途中で割り込み翔の背中を押す。あまり期待してなかったけどもしかしたらこのまま翔が全問正解するって展開もありえるのかも。そうすれば私が余計なことをしなくて済むんだけど・・・・そうは上手くいかないのだろうなぁ。
「なかなか詳しいですね黒澤さん、ですが次の問題は難しいですよ」
清次郎さんは一口お茶を啜り咳払いをすると
「では最後の問題です。この本に記載されている音響監督は誰でしょう?」
とんでもなく意味不明な問題を繰り出してきた。
「音響・・・・監督だと?」
流石の翔もこればかりは知らなかったらしい。いやそもそも写真集に音響監督がいる意味が私にはよくわからないのだが
「これはあれか来週発売のDVDにこの写真集のメイキングが特典映像として入るから音響監督なんてのがいたのか!」
翔曰く、まぁそうゆうことのようだ。
「くそっ、音響監督・・・・そこまでは流石に覚えてねぇな」
「ではこの問題、答えれないと見なしてよろしいですか?」
「仕方ないねぇ・・・・この問題、俺はわからん!」
翔が最後の一問を答えれなかったため結果は三問中二問正解、一戦目からすれば上出来な結果、まだ上手くやれば勝てるかも、とその時は思った。翔の持つあの分厚い『星海天体図鑑』、流石にあそこからの問題なら一問、上手くやれば二問間違えさせることができるのでは?
そう思っていた私の考え、それはすぐに甘い話だと思い知らされる。



「んぐぐ・・・・それじゃあ、縦軸を絶対等級、横軸をスペクトル型をとった恒星の分布図のことをなんというか?」
「ああ、それはヘルツシュプルング・ラッセル図のことですね」
「あ・・・・ぐっ、正解だよ!」
悔しそうな表情と共に翔は拳を叩きつける
あっという間、本当にあっという間に清次郎さんは三問連続してしまっていた。翔の作った問題だってそんな簡単に答えられるような問題ではなかったというのに清次郎さんはいとも簡単に即答をする。その様子を見るからにやはりまともに問題を出しあっただけじゃこの人には勝てないと確信した。
「あの清次郎さん、一つ質問いいですか?」
「なんでしょう紗希さん?」
「第三戦を前に今更こんなことを聞くのは遅いかもしれないですけど、この私達が本を選ぶ時間あるじゃないですか」
私の作戦を実行するにはそれなりに時間が必要だ。そのためにはここで一つ清次郎さんの言質を取るのが第一関門だ。
「本を選ぶのに制限時間ってあるんですか?」
「制限時間?いや、そうゆうのはないけど」
「そうですか、ありがとうございます」
清次郎さんのその言葉に私は深々とお辞儀すると同時に心の中でガッツポーズをする。時間をかけていいのなら私には一つ作戦がある。
「それじゃ第三戦の勝負に使う本を選ぶわ、翔、明音ちゃんも手伝って」
「ああ、まぁ約束は約束だからな」
「わかりました」
私は立ち上がり店内の本をぐるっと見渡す。正直どれくらいの時間がかかるか想像できないけどこの勝負に勝つにはやるしかない。
「さぁて、やるわよ」
私は長く伸びた髪の毛をゴムで束ねシャツの袖を捲り上げると気合いを入れるように自分の頬を数回叩く。
「んで、紗希・・・・一体なにを始めるつもりなんだ?」
その様子になにかを察したのか、面倒なことが大嫌いな翔が恐る恐る話しかけてきた。
「まぁ簡単な話、この店内にあるすべての本を一度検めさせてもらうわ」
「はぁぁぁぁぁ!?まじで言ってるのかよ!」
「本気と書いてマジなんだから」
大声を上げる翔にそう言いながら私は奥へと歩いていき本棚の本を一つ取りだす。本来ならこんな作業、勝負が始まる前にやっておくべきことだと私は思う。
「全部探せばなんとかなるんでしょうか?」
「そう思うしかないわ、今のところは」
不安そうな明音ちゃんに本を渡しつつ答える。
そりゃ私だって不安はある。なんの本を探せばいいかなんて実のところわからないし、そもそもこのいくら店内の本を探しても清次郎さんに勝てる本はないかもしれない。清次郎さんと佳奈さんがグルだとしても『私達をここに連れてくること』までが目的だったらその後ここで私達がこの勝負でどう足掻こうともう遅いし、そもそもグルだってのも私の推測でしかない、いくら声高々に訴えたところで現状を変えれるほどの効果は望めないだろう。
だけどなにかあるはず、わざわざ清次郎と佳奈さんがわかりやすくグルであることを演じていることには。
その不安を払拭するためにも今はともかく本を一冊一冊読み込んでいくしかないのだ。




「ちょこれーとくろすえっじ・あなざー」



今から二千年前、大きな戦争がありそこで使われた化学兵器により遺伝子異常が発生・・・・多くの文明が失われるとともに
人間以外の生物が遺伝子異常を起こしこの世から食べ物が失われた。
人類の98%が死滅した世界において人間が生きていくためには『遺伝子管理局』の提供するサプリメントを摂る以外に
方法はなくなった・・・・。



───というのは、嘘だ。



遺伝子管理局本部の上層、天に聳え立つ『塔』には管理局の限られた人間だけが住むことができる移住区がある。
「いやぁー今日も疲れたぜ」
二千年前と変わらぬスーツ姿で俺は額に流れる汗を拭いながら綺羅びやかな街並みにを歩く。
「まぁここでいいか」
そして入る一軒の店、『龍眼亭』、この辺ではどこにでもある居酒屋だ。
「いらっしゃいませー」
中は結構盛況のようで大勢の人間が各々の席で“食事”を楽しんでいる。
「ご注文はいかがしましょう?」
「それじゃとりあえずビールで」
ウェイトレスに注文を頼むと目の前にあるモニターを注視する。モニターにはすぐさま“ビール中”と書かれた文字とともに
ダウンロード表示がされパーセンテージの数字が進んでいく。
『ダウンロード完了いたしました。ごゆっくりどうぞ』
機械音とともに俺は首からケーブルを取り出すとテーブルにあるジャックに差し込む。しばらくすると口の中にビールの“味”が広がっていく。
この世の中からは確かに食べ物はなくなった。遺伝子異常をした生物を食べれば人間はカテゴリーエラーという異形に変化してしまう。だが選ばれた人間は管理局が保存した正常な遺伝子を持った生物から得られた遺伝子データを取り込むことで“食事”をすることができる。データからは人間が生きていくために必要な栄養だけではなく、食感、匂い、喉越しまでも再現される。無論そのためには人間側にも“それなりの改造”が必要ではあるが、そんなことは些細なことだろう。俺達の遥か下の世界で
這いつくばっている奴等は味もろくにしないサプリメントで生活しているんだからな。
「でもあいつら知らねーんだろうなぁ、サプリメントの材料のこと。おっと焼き鳥も頼んじゃうか」
俺は目の前のモニターを操作し、焼き鳥モモタレを頼もうとしたその時だった。
「うがあああああああああああ!!!」
店内に響き渡る叫び声、振り返ると一人の男性が苦しそうに首を押さえ地面に倒れ込む。
「おぇぇ・・・・おぇぇぇええええええ!!」
倒れこんだ男性が口から人とは思えない青緑の液体を吐き出し、それっきり動かなくなってしまった。
「な、なんだよ!・・・・うぐっ!」
叫び声を上げて俺は立ち上がるもすぐさまに喉元にやってきた気持ち悪さに膝から崩れ落ちる。
「がはっ、なん・・・・だよ、これ」
力が入らない、口からは先に倒れた男と同じ青緑の液体を吐き出し地面に水溜りを作る。それは俺だけではない、この店の中にいる客の全てが同じ様な症状を引き起こし苦しんでいる。
「これは・・・・ウィルス、か」
この症状、間違いない。この店のデータにウィルスが仕掛けられているのは間違いない、間違いなのだが・・・・
「俺は・・・・もう、ダメ・・・・だ」
ウィルスに抵抗する力などなかった。俺は助けを求めるように天に手を伸ばし、息絶えた。










私は、「塔」の中でも一番高いビルの屋上で佇んでいた。
「・・・・えてる?聞こえてますか翠歌さん!」
先程からオペレーターの由梨佳が悲痛な声で叫んでいる。私はその叫びに静かに耳元のスイッチを入れる。
「そんなに騒がなくても聞こえている由梨佳」
「翠歌さん!今街が大変なことになっているんです!」
「それについては確認している」
「だったらすぐに管理局に戻ってください!今、ウィルス対策本部で管理局員が集まっているんです!」
「その必要はない」
私はそれだけ言って耳元のスイッチを切るとイヤホンを外し放り投げる。強い風が吹き、私の銀色の髪をたなびかせた。
「・・・・決着が来たのね」
小さく呟くと両目の真っ赤な瞳で街を見つめる。綺羅びやかで夜のない光に彩られた世界、そこは地上にはない楽園だった。
「遺伝子管理員“翠歌”、独自任務を開始する」
私は、彼との決着をつけに形だけの平和な世界に飛び込んだ───




「うめぇぇえええええ!!!!ヤハリデータの食事!ヨリモ!ナマニクうめぇぇぇっ!!!」
「きゃぁああああああ!!!」
街は完全に混乱していた。逃げ惑う人とウィルスによって苦しむ人、そしてウィルスによってカテゴリーエラーと化したヒト。
平和ボケした人間は逃げ惑うしかなくカテゴリーエラー化したヒトによって捕食されていく。
「お、お父さん・・・・な、なんでお母さん食べて・・・・るの?」
「ウメェーーーーカラダヨォォォォォォ!!!!」
平和な街に血しぶきが飛び交い私の管理局の服を汚していく、私は静かに外装布から剣を取り出すと構える。
───これが、お前の望んだことか?
「オマオマオマオマ!カンリ局のスイスイスイスイス歌じゃじゃじゃじゃねねねねねかかかか」
カテゴリーエラーの一体がフラフラとした足取りでこちらに近づいてくる。髪は抜け落ち身体は肥大化し誰かはわからないが
肩に引っかかった管理局の制服から管理局の人間だったということはわかる。
「ウィゥィゥルスだ、クルシイ・・・・助けてくれスイスシイ歌ァア・・・・助けてクレ!!!!」
「残念だけどそれは無理、貴方はカテゴリーエラーに適合しなかった。死ぬより他、道はない」
私は二本の剣を一気にカテゴリーエラーに投げつける、が───
「イヤダシニタクナイ!!!シニタクナイダァァァァァァ!!!」
カテゴリーエラーが腕を駄々っ子のように振り回し剣を弾き飛ばすと一気に距離を詰めこちらに腕を振り上げる。
「たす助けて助けてクレエエエエエエエエエ!!!」
「無理だと言った。絶対必中武装“ソードビッカー”!!」
カテゴリーエラーを自らの赤い双眸で捉えると弾き飛ばされた剣が宙で向きを変えカテゴリーエラーの身体を貫く。
「ガハァアアアアアア!!!タスケ、タスケテ!!」
「悪いが話している暇はない、さようならだ依古」
かつての同僚の名を呟くと私は走りだす。答えは返ってこなかった、宙を舞う剣がカテゴリーエラーの腕を吹き飛ばし、足を吹き飛ばし首を吹き飛ばしていたからだ。




血塗られた街を抜け、私が辿り着いたのは一つの研究所だった。管理局が遺伝子研究のために使っていた研究所の一つであるが今は研究機材を別の場所に移動し廃墟と化している。
本来なら人一人近づくことない場所であるが私には彼がここにいるという確信があった。
「ここに残っている端末からウィルスをこの『塔』に放った、そうだろうドニー・・・・いえ、ドニチエコ!」
研究所の奥まった部屋、今は何もないはずのその場所に向かって私は叫ぶ。
「そのとおり、やはり君が一番乗りだね翠歌ちゃん」
私の叫びに落ち着いた声が返ってくる。それとともに部屋の明かりが一斉につきそこにいた声の主を照らしだす
かつての小汚い布切れを纏い無精髭を生やした男ではなく白い戦闘服に髪をオールバックにしたドニチエコは手元のPCを操作しながら私を見つめる。
「他の管理局の人間はどうしたんだい?」
「まだウィルスの発生源の特定に時間をかけている所。話しならできるわ」
「話だって?もう僕達は言葉で話しても無駄だと、地上で別れた時に言ったはずだけどね」
「そうだったな、ならば私は遺伝子管理官として遺伝子情報を汚すお前を打ち倒すだけだ!」
外装布から剣を取り出し構える。かつての仲間とはいえもうそこに迷いはなかった。
「翠歌ちゃんなら・・・・地上で苦しんでいる人達を見てきた君ならわかってくれると思ってたよ。でも君があくまで管理局に味方するなら僕はカテゴリークイーンを救い出しこの世界の人間全てをカテゴリーエラー化させる!」
「ふざけるな・・・・!そんなことをすれば人は人でなくなってしまう!」
「なぜわからない、なぜ認めない?カテゴリーエラー化こそ人間の正当な進化、そしてその最初のカテゴリーエラーとなったカテゴリークイーンはカテゴリーエラーの希望となる存在なんだ」
「黙れ!!!」
私は叫び剣を投げる。神速で投げられた剣は防御姿勢をとる前のドニチエコの両肩を貫き体ごと壁に叩きつけた。
「いくらそれが正当な進化だとしても、選ばれた人間のみ生き残れるそんな世界間違っている!!お前はこの街の状況を知っているのか!?」
「がはっ、知っているよもちろんね。けど君も知っているだろう?地上の人間がその姿を保つために摂取しているサプリメントの材料は同じ人間だ!同族を食らわなければ生きながらえない、そんなことを背負わせてきたここにいる人間は業を背負わなければならない!!」
「それで無関係の人間まで巻き込むのか!」
「そうだよ、その先に未来があるのなら!機械化された人間なんて間違った進化、僕は許さない!!」
ドニチエコは両肩に刺さった剣を腕をクロスさせ引き抜くとゆっくりとこちらに近づいてくる。普通の人間ならさっきの一撃でほぼ身体を動かすことなんてできないはずなのに。
「まさか、ドニチエコ・・・・お前は!!」
ドニチエコはその言葉に静かに言葉を返す。
「そうだ僕はもうカテゴリーエラーだ!」
「くっ・・・・!」
両腕を振り上げ斬りかかるドニチエコの攻撃をかわし眼の力を解放する。
「絶対必中武装“ソードビッカー”!!」
だが・・・・ドニチエコの持つ剣は反応こそすれど動く様子はない。
「な・・・・にぃ」
「無駄だよ、カテゴリーエラーになった僕の腕力からは逃れられない。今度はこちらから行くよ!」
そう言った瞬間ドニチエコの姿が目の前から消える。超高速での移動に目が追い付けない、ソードビッカーを押さえ込む力といい今まで戦ってきたカテゴリーエラーとは比べ物にならないほど強い!
「もらった!」
左後方にドニチエコが突如として現れると剣を降り下ろす。私はそれに合わせるように体を回転させると外装布ごと剣で受け止め ・・・・
「遅い!」
受け止めたと思った次の瞬間、右前方からのドニチエコの蹴りが私の腹を抉り吹き飛ばす。
「がはっ!」
コンクリートの壁に叩きつけられ口から血が吹き出す。どうやら肋骨の数本と内蔵がやられたようだ、ほとんど全身に力が入らなかった。
「終わりだよ翠歌ちゃん」
ドニチエコが剣を振り上げる。今の彼ならば迷いなく私に止めをさせるだろう。本当なら受け入れても良かった受け入れてあげたかった・・・・でも、それは叶わぬ願い。
「・・・・管理局の人間を甘く見るなって言ったでしょ」
顔を上げ赤い双眸でドニチエコの姿を捉える。これが最後だ、忘れないように目に焼き付けるように力を込め私は叫ぶ!
「絶対必中武装・・・・“ソードビッカー・バースト”!!!」
「なにっ!?」
ドニチエコの持つ剣の紅の宝玉が私の叫びと共に割れ、それと同時に大きな爆発が巻き起こる。
「くっ、ソードビッカー!」
私は残りの剣を掴み引きずられるようにして爆発から逃れ立ち上がる。
「あはは、やっぱりすごいな翠歌ちゃんはソードビッカーを思念の力で爆発させるなんて」
爆発の煙の向こう側でドニチエコは笑っていた。だが剣を握っていた左腕は肘から先が吹き飛びなくなっている、ダメージがないわけではない。
「くっ、これは奥の手だ・・・・だがあと五本ある、五本あればお前を倒すことくらいはできる!」
今にも倒れそうになる体を必死に堪えて剣を展開させる。
「だけどこっちにはまだ右手が残っている」
ドニチエコは右腕の剣を平に構える。一瞬の静寂ののち、二人の声は重なった!
「終わりだ、ドニチエコ!!!」
「うおおおおおおおおおっ!!!!!」
ありったけの思念を込めたソードビッカーが飛び、駆けるドニチエコの体とぶつかる。研究所の中に激しい爆音が響き渡った。




「はは、やっぱ・・・・強いや」
煙が晴れ最後に立っていたのは私だった。ドニチエコは体のほとんどが原型をとどめることなく半分無くなった顔でそう言うと前のめりに倒れる。
「勝った・・・・勝ったけど、まさか自分の剣に止めを刺されるなんてね」
私の腹にはソードビッカーがドニチエコの右腕ごと突き刺さっていた。結局二人とも信念を曲げることはなかった、けどそれで私が最後立っていたからといって、そこに何が残っていたのだろう。
「虚しい・・・・だけだな」
ずるりと体から力が抜け倒れこむ。私の目は真っ赤に染まった世界を見つめ、そこから逃れるように瞳をゆっくりと閉じる。
『警報、警報。訓練ではありません!管理局の決定によりウィルスに侵された該当地区を「塔」より切り離し地上へと落下させます。速やかに避難地区へと逃げてください。繰り返します・・・・』
警報音だけがそこにむなしく響き渡った。

「妄想桜陵学園」



妄想は変わった・・・・。
今まで影咲狼牙として世界の闇と戦ってきた俺が高校に入ってからというものいつのまにやら妄想にエロが加わり出してきていた。
今までは強敵に連れ去られたヒロインを救いだすのに強敵とのバトルを優先して妄想してきた、だが今は強敵とのバトルなんてお座なりにヒロインを救いだした後のイチャイチャや捕らわれているヒロインが色々されちゃうそんな妄想ばかり。
もはやそこに強敵など居らず俺がちょっと本気を出せば消し飛んでしまう敵ばかり、強敵とのバトルなんてのは全く無くなってしまった。
これが遅れてきた思春期ってやつなのだろうか?

そんな俺、影咲狼牙・・・・(おっと現実世界では北川真樹と呼んでくれ)は今日、妄想ではなく現実でとんでもないものを見てしまった。
「んっ・・・・もう先輩がっつきすぎです・・・・赤ちゃんじゃないんですか・・・・ら、んっ」
「その気にさせたのは・・・・青葉だろ」
一般学生の俺が普通に生徒会室の前を歩いていてふと目に入った光景、それは足を止めざるを得ないとんでもない状況だった。
「こ、これが義務教育の外の世界か」
思わずそんな言葉が漏れてしまった。生徒会室の窓はカーテンで仕切られているが完全に外からの視界を遮っているわけではなく一番端のカーテンの隙間から中の様子が見えてしまっている。
生徒会室の中では桜陵学園の制服を着た男女が激しくお互いを求めあっている。男が女のはだけた制服から覗く柔肌の乳房を舌全体を使い舐りながら下腹部の秘部に指を滑らせ中をかき混ぜるように激しく動かしている。
その光景は今の俺にはあまりにも刺激的すぎる。そりゃ俺だってそうゆう本だとか動画をネットで見たことはあるが今見ているのはリアルタイムであり、ましてその行為に及んでいるのが
「あ・・・・んっ、先輩の指・・・・きもひいい・・・・」
「細鮎さんだよな、あれ」
男の方は知らないが女の方は見覚えのある同じクラスの細鮎青葉(さいねん あおば)であったことが本当は見ちゃいけないとわかっている俺の足を縛り付けていた。
同じクラス、もっと言えば細鮎青葉さんは俺の隣の席の子だ。いつも落ち着いていて育ちの良さを現すような物腰やらかな口調はクラスでも人気者で、それでいてどこかミステリアスな雰囲気を持っているところにクラスの男子半数は惹かれている。そんな彼女が俺の目の前で男に抱かれ普段見せない表情をして喘いでいる、そのアブノーマルな状況が俺の全身を刺激していた。
「いや、これはなにかの間違い、間違いだろ」
正直まじまじと行為を見ていていうのもおかしいけど信じられない。中学時代編を終えて俺の元から光の巫女も共に妄想する仲間もいなくなった、その心を埋める高校時代編のヒロインに抜擢しようとしてたってのにその彼女が、まさか



・・・・処女じゃないだなんてありえねぇ!!



「いやもうわかる!あの感じている様子、あれは処女じゃない、処女があんな声だしたりはしない!この糞ビッチが!」
恨み言のように小声で呟くと俺は腕を組みじっと考え込む。
ヒロインが処女じゃないということは致命的だ、そうなると高校時代編ヒロインである彼女にはなにか設定を加えなければならない。中学時代の俺なら即ヒロイン交代をしているところだが最近エロ知識を取り込んだ俺の妄想力によって一条の光がそこに差し込む。
「あれだ、あの行為は魔力の補給なんだそうに違いない!」
なんかの本で読んだことがあった、なにか魔力を受け渡しているんだよこれは不純な行為ではなくて体液の交換、肉体が興奮することでより魔力の受け渡しの効率があがるからしーかーたーなーくーやっているんだ!
その設定を決めると脳裏に次々と設定が浮かんでくる。
「実は細鮎さんは人間じゃなくてホムンクルスなんだ。んでだ体を維持するために魔力が必要で男子生徒にチャームの魔法をかけて仕方なくあんな行為をしているんだ!」
我ながら完璧な妄想に惚れ惚れする、つまりはこうゆうことだ


・・・・・・・・・・

夕日に照らされた屋上にて戦いを終え、佇む影咲狼牙こと俺
「今日も激しい戦いだった・・・・」
そこにフラフラとした足取りでやってくる細鮎さん
「うっ・・・・もうだめ」
「大丈夫か!?」
颯爽と駆け寄り倒れる細鮎さんの体を抱き止める。
「なんて酷い傷なんだ、早く病院に」
「ま、待って」
俺の制服の袖を引っ張る細鮎さん
「傷ならすぐに良くなるから大丈夫・・・・でもそのためには魔力が必要なの~~~魔力が~~~」
「魔力だって!?俺になにかできることはあるか!?」
俺の言葉に細鮎さんは頬を赤く染め顔を背けながら小さく呟く
「あの、私を抱いて・・・・ください」


・・・・・・・・・・・・

我ながら完璧なシナリオ構築能力。そんでもって初体験の俺を
うまいことリードしてくれるんだよ、んでそのとき「初めてがこんな慣れた女の子でごめんなさい」とか言われちゃうの。けどゆくゆくは「もう影咲さん以外には抱かれたくない!」とかなっちゃうんですよ、そうして公私ともにいいコンビとして成長していくというだな・・・・。
「なにを独り言言っているの?」
「ほわちゃぁ!!!!」
突然声を掛けられて思わず意識が現実世界に引き戻される。しかしちゃっかりと生徒会室の中が見えないように背中でガードしていた。
「君、一年生だよね生徒会室になにか用なの?」
「あ、えーっとあの、ですね」
しどろもどろになりながらなんとか言葉を捻り出そうとするが一向に言葉にならない。高校に入ってから女子に話しかけられるなんてこと数えるほどしかなかったので緊張しまくりだ。
(しかしよく見るとすっげー胸だな)
頭がパニックになっているというのにそうゆうところを見る目だけは冷静沈着だ。腰ほどまで伸びる長い黒髪にどこぞのグラビアアイドルかと思わせるような肢体、なにより本当に高校生かってくらいに熟れた二つの果実に目が引き付けられる。
「生徒会は今日やってないわよ。あ、でも私副会長やっているから話なら聞くわ」
そう言って彼女はスカートのポケットから生徒手帳を取り出し開いて見せる。そこには確かに 生徒会副会長 西条院加絵奈と書かれていた。
「西条院さん・・・・あれ、その名前どっかで聞いたことが」
あまり人の名前を覚えない俺だがその名前には聞き覚えがあった。
「もしかしてあのいつも屋上から登校するお金持ちの人のメイドさん?」
「あーうん、まぁ合ってるけど。はぁ一年生にまで伝わってるのね」
そう答えるとがっくりと肩を落とす西条院さん。よくわからないがあまり聞いてはいけないことだったのだろうか?
といってもあんな校舎の屋上にヘリで着陸して登校するような人知らない方が無理って話で・・・・そのおかげで高校入ってから俺の楽しみの一つである放課後、屋上で佇むってのができないんだよなぁ。
けどこんな美人な西条院さんがメイドさんだなんて実に羨ましく思う。
今やセカンドヒロインの存在は重要だ、すぐにでも西条院さんを昇格させてもいい。
だってあれだろ、やっぱりメイドさんってことは夜な夜な・・・・
「はぁ、どうせなんか今変な想像してるでしょ」
「えっ、あ・・・・いやそんなことないです!はい!」
まさかの言葉に俺の動揺は激しくなる。もしかして西条院さんは心が読めたりするのだろうか?なまじ生徒会といえば絶対的権力を持っているもの、ある種能力者を集めた集団なのかも!細鮎さんも生徒会の書記だしとなると後、Sっぽい会長とロリっ子の会計がいるのは間違いないな。それでだ、能力者を集めた生徒会は日々やってくる脅威と戦っているんだ。
なにその生徒会、凄くね?んで生徒会が戦っている敵と俺が今戦っている暗黒儀礼団と実は裏で手を結んでいたことが判明!
俺と生徒会も一緒に戦うことになるわけですよ、んでもだ生徒会は女ばっかりだし初めは俺の事を毛嫌いして「私たちだけで戦えるわ!」みたいに言ってたんだけど俺の活躍に段々心を開いていってだなロリ会計なんかにはその内「お兄ちゃんて読んでいいですか?」とか言われ細鮎さんには前途の魔力補給、西条院さんとはあれだ、「御主人様よりも貴方のことが好きになってしまいましたご奉仕させてください」となりSな会長は
最終決戦前に気丈に振る舞うんだけど実は不安で俺にそれを打ち解け愛し合うという、完璧じゃねぇーか!なんていい生徒会!
「おーい、ちょっと聞いてるの?」
「西条院さん、俺も生徒会の一員としてこの学校いやこの世界を守るために戦いましょう!」
俺は気がついたら現実と妄想をごっちゃにして西条院の手をぎゅっと握っていた。
「んー戦うとか守るとかよくわからないけど。それってなに?生徒会で働きたいってこと?」
「え、ああーそ、そうなるのかな」
自分でも何言っているのかわからなかった。西条院さんは一人「んー」と天井を見上げ声あげながら考えると
「まぁ男手が必要なこともあるし、役職ないけど雑用ってのならいいかもね。今度会長に話しておくよ、ところで君クラスと名前は?」
「あ、影咲・・・・じゃなくて北川真樹です。クラスはC組です」
「ふぅん、C組なら細鮎ちゃんと同じクラスよね」
「は、はいそうです」
そして今俺の背後、生徒会室で魔力補給中ですよ。
「わかったわ。会長からオッケーがでたら細鮎さんを通じて連絡するから」
「わ、わ、わかりました」
「それじゃね」
そう言って去っていく西条院さんの背中を見て思わず肩の荷が下りたように息を吐く。
「しかしやれやれ面倒なことになったぜ」
そんなライトノベルの主人公みたいな台詞を呟きながらも内心心臓の高鳴りが止まらなかった。
その時はまだ知るよしもない、この俺の選択がとんでもない話の始まりだったことに。
それに気がつくのはもう少し後の話である。
プロフィール
HN:
氷桜夕雅
性別:
非公開
職業:
昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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