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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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夜風楓
 
 
「それじゃそこの豚さん強行隊に火スペル『マジックアロー』を使用するよ」
巨大な炎の魔神と頭からすっぽりとローブを被ったオークの兵隊達を前に私の戦乙女がカード
から小さなホログラムのように浮かび上がり弓をひく
「むむ、えーとじゃそれにレスポンスしてスルトちゃんでレーヴァティンの能力を使用して、それに更にレスポンス、強行隊の能力を使用するでするよ~これでどうでする?」
同じようにカードの上にホログラムとして現れている炎の魔神がその手に持つ魔剣レーヴァテ
ィンを振り上げるとそれに呼応するようにオークの兵隊達が魔神の前に布陣をつくる。
きたよぉ、いつもこの連携に苦い思いをしてたんだよね・・・でも今回はちょっと違う!
私は手に持ったカードから一枚を引き抜くとテーブルの上に勢いよく置く。
「残念無念・・・・・・と、思いきや~ここで残ってる風のスペルで『エンジェルブレス』を使ってひめちゃんのスルトの能力を封じてっと」
戦乙女の背後からの強い追い風が魔神の持つレーヴァティンの炎を吹き消そうとする、瞬間ひめちゃんは大きく目を見開き自分の持っているカードとテーブルを何度か視線が往復させるが
しばらくしてうなだれるように肩を落とした。
「あう、ということは通っちゃうでするね・・・それで強行隊がやられて戦乙女さんパワーアップ
するから、うー陥落でするね」
テーブルの上ではホログラムの戦乙女が魔神の剣を軽々と避けそのまま袈裟斬りを繰り出して
いたが私もひめちゃんももうそれは見ていない、ホログラムの演出を待たなくても結果はもう
わかってしまってるからだ。
「ようやく五回に一回くらいは勝てるようになったなぁ」
「今の戦い振りなら大会でもいい所いけそうですよね瑞穂っち」
テーブルのカードを片付けながら楽しそうに話す私達をよそに瑞穂さんが相変わらずの仏頂面
で答える。
「私は下等生物同士の醜い争いなんかに興味は無いですね」
私達はハームステインを出発してちょうど一週間でシェイクランドに到着した、ここから出る
魔動力の船に乗って西の大陸タート村までいきそこで記憶を操る能力者のジ-ク=ダットリー
さんに会うのが今の目的。でも船の出港まではかなり時間があるので街の一角にある喫茶店の
オープンテラスでだらだらとカードゲーム『コンフリティックタロット』に興じていた。
喫茶店に関してはハームステインで失敗したから今回はちゃんとしたところ、おかしなパンが
でるような店じゃないから安心、安心っと。
「後七時間も先でするね・・・・・・・流石にずっとここにいるのも退屈でする。まさかお祭りのせい
で船の出向数が減ってるなんてタイミングが悪かったでする」
ひめちゃんが自分のカードを整理しながら呟く。お祭りというのはシェイクランドの第一皇女
であるフレア=シェイクランドさんの生誕十周年祭のことで祭りの内容にはフレア皇女のパレ
ードも含まれていているから安全面の対策として入国に関する事にはかなり厳しい警戒がされ
ているみたい、実際私達がこの街に入るときも物凄く厳しい入国審査があったくらいだ。
「それじゃせっかくのお祭りだしどこか行きます?」
「私は結構です、ただでさえ貴方達下等生物の争いで騒がしいのにこれ以上騒がしいところに
など行きたくありませんから」
私の提案を瑞穂さんは顔も合わせず無下に断る、まぁ瑞穂さんの返答は予想してたことだから気にしない。
「ひめちゃんはどう?」
「んーそうでするね、ちょっとデックの修正もしたいでするからもう少し後でよかったら一緒
に行けるでするけどかえちゃんシェイクランドの街は初めてでするよね?だったら先に観光してきたらどうでする?今の私が一緒に行くとずっとカード屋さんに篭っちゃいそうな勢いです
るよ。」
どうもひめちゃんは先程の勝負で私に負けたのが悔しかったのかテーブルに再びカードを並べ
難しそうな顔でそれを見つめている。冗談っぽくカード屋さんに篭っちゃうとか言ってるけど
この感じだとあながち冗談じゃない気もする
「じゃ私一人で行ってこようかなぁ、ちょっとお祭りの様子も見てみたいし」
私はどちらかというと瑞穂さんとは逆でお祭りみたいな騒がしい所が好きなほうだしじっとし
ているのが苦手なタイプだと思う、だから流石に喫茶店で後七時間も過ごすなんてことはでき
そうにもない。
「よし!やっぱり私一通り街をくるよ」
私は立ち上がると椅子に掛けてあった朱天月刃を背負う
「了解でする、お祭り楽しんでくるといいでするよ~」
「余計な厄介事は起こさないでくださいね下等生物さん」
「わ、わかってますよぉ!!」
まったくもう瑞穂さんは私をトラブルメーカーだとでも思ってるみたい、どっちがトラブルを
起こす性格してると思ってるんだか・・・でもそういうことは言わないでおこう。
「ふぅ~なんか変な感じだけど新鮮だな一人って」
ウェイトレスさんに外出の意を伝えると一人店の外に出る、よくよく考えてみれば記憶を失っ
てから今までまともに一人になることなんてそう多くなかったんだよね。
「さてっと、どこから見ようかな?」
軽く背伸びをしてとりあえず歩き出す、確かシェイクランドは水晶が名産だって言ってたから
クリスタルのアクセサリーとかからでも見て回ろうかな?
流石にフレア皇女の誕生祭ということもあって町の賑わいはハームステインのときよりも多い
感じ、ただ道は石畳で整備されているしあの暑苦しいかがり火もないのでそれほどの熱気は感
じさせない、どちらかと言えば大人の街って印象だ。
私はそれからしばらく出店を物色しながら歩き渡った。やっぱりどんな店でも面白そうなアイ
テムが並び私の興味を引く、虹色の煙をだす香炉とか変な猫の灰皿とかなんだろうこう絶対に
つかないでしょーって無駄な置物ほどなにか欲しくなるんだよね。
まぁでも今は見るだけで資金的にそんなものを買っている余裕は無い。私達の資金はそれぞれ
三等分してもっているんだけど西の大陸へ行く船代でそのほとんどが消える、ここで変な物買
って「船代、足らなくなっちゃった~てへっ♪」なんて瑞穂さんの前で言えるわけないじゃない!
けどまぁ手ぶらで帰るって言うのもなんだか忍びない、私は胸ポケットに直接入れている紙幣
の束を取り出しそこから船代を引く計算をしてみる。
「んーえっと、これが千の単位で、これがえっとなんだっけ十?」
異世界のここでは普通に文字を見ただけではただの幾何学的な模様にしか見えない、まぁそれ
は当然といえば当然なんだけど実はちょっと集中してみると何故かそれが読めるようになる。
読めるだけじゃない、集中して書こうと思えば別にこの世界の文字を勉強したわけでもないの
に頭にひらめいてくるから不思議だ。なんだろう?世界が自動翻訳してでもしてくれてるのか
な?
「えっとだから結局いく──ひゃぅ!!」
そんな事を考えながらぼけっとお金を数えていると突然なにかにぶつかった、よく見ると私の
腰ぐらいの高さで金髪のツーテイルに妙に高級そうなドレスを着た女の子が鼻を擦っている
「あ・・・ごめんなさい、大丈夫?」
とりあえずぼけっとしてた私が悪いのでとにかく謝罪をする・・・って、よく考えたら私が前見て
なかったのも悪いんだけど立ち止まってたんだから向こうがぶつかってきたような気もする
「いったぁ・・・・・・ちょっとどこ見てるの!ってそれどころじゃないわ、ちょっと背中借りる
よ!」
え・・・・・・あ、なにこの子?
私の返事を待つ前に女の子は少し涙目で言うとすぐに私の後ろに隠れてしまう。
なんだろう喫茶店を出る前に瑞穂さんに厄介事を起こすなって言われたのにこれはもう巻き込
まれモード?
「白い兵装の奴らが来たら適当にごまかして!大体ただの応援スタッフなのにしつこいのよ」
「え、あ・・・はい」
よくわからないまま生返事で答えてしまった、ううっ・・・・・・完全に変な事に巻き込まれてるな
女の子の言う白い兵装の人達はすぐに現れた。辺りを見渡すように来たのは左胸にシェイクラ
ンドの紋章をつけた女の子。ちょっとシェイクランドの兵士に追われてるってなにをやったの
よこの子は!
「きー全くっ!躾がなってないですわあの娘っ子は!見つけたら一から躾け直しっ!」
スレンダーな長身に緋色の長髪の子が甲高い声を上げて息巻くと後ろからもう一人の女の子が
かなりふらふらな足取りでやってくる。
「ちょっとシャオ・・・待ってよぉ、あ、歩くの早いよぉ」
だいぶ走ってきたのか肩で息をしながら藍色のショートボブの女の子が言う。
後ろで人の服を引っ張りながら隠れている女の子が言ったように確かにこの二人応援スタッフ
みたい、即席の物を着ているのだろうか服のサイズが合ってないようでシャオって呼ばれてた
子は胸がきついのか前のホックは閉じられておらずスカートもかなり短い、後からやってきた
もう一人の子に関して言えば服が大きすぎるのか袖から手がちゃんとでていなかった。
「いいポア?とりあえず我等ビックバードの基本理念、サーチアンドデストロイでいきますわ
よ!ここでばっしっと仕事をしてビックバードの名前を東の大陸に広めるのですわっ!」
「そ、そんな理念ないよ・・・・・・それにデストロイしちゃダメだって・・・」
デコボココンビといった感じの二人がそんな話をしている隙に私は女の子と気づかれないよう
ゆっくりと後ずさる、木を隠すなら森の中人を隠すなら人ごみの中って感じでこうまぎれてし
まえばそう簡単に見つかりはしないと思う。けど冷静に考えたらこの子を匿う理由も無いんだ
よね、なんか下手に匿ってこのシェイクランドの兵士さんたちに捕まったりしたらそれこそた
だじゃすまないような・・・・・・
「ねぇ、なにをやって追われているの?兵士に終われるなんてただ事じゃないんじゃ」
何か悪い事でもしたのなら説得して自首させるのが一番だとは思うので一応聞いてみる。
「それは当然自由のためよ、祭の主役が祭を楽しめないなんておかしいでしょ?」
女の子はそう頬を膨らませて言う、祭の主役?なにか今聞いちゃまずい言葉が出たような!
「あの主役ってことは──」
「わわ、ちょっとレガツィまできてるじゃない!!」
私の質問も途中でいきなり体を振り回される、あまりに突然の事に思わずバランスを崩して倒
れそうになった
「ちょ、ちょっとなにするのっ」
「黙って!あっちからも来てるの!」
女の子が目配せする方を見ると碧髪の若い兵士がこちらに向かって歩いてきている、正規の兵士なんだろうしっかりと制服を着こなしていて手には長い槍を持っている。碧髪の兵士さんは
シャオさんとポアさんの姿を確認すると周りを確認しながら二人に近づいていく。
「シャオさん、ポアさん見つかりました?」
「見つかってないから今こうしてサーチアンドデストロイしてるのですわ」
「あのっ、だからシャオ・・・・・・デストロイしちゃだめっ・・・・・・!」
うーむこれはまずいなぁ・・・・・・。
今ちょうど三人は私達の数メートル前で立ち止まっていて私は出店と出店のちょうど間にいる状態で後ろには下がれそうにないし出るには確実に三人の前を通らないといけない。
「流石にそろそろ本隊に出動してもらわないとパレードに間に合いませんよ」
「ほ、本隊なんかに連絡する必要はありませんわ!出ないと手柄が・・・じゃなかった騒ぎを大き
くするとそれを嗅ぎつけてくる奴らが必ず現れるものですわ、それを防ぐためにもここは少数
精鋭で早急にことをしゅらしゅしゅしゅーな感じで片付けるのよ」
三人の話を聞くにどうやら私の嫌な予感は当たってるみたい、パレードに祭りの主役・・・・・・こ
れはもう今後ろで私の服をぐいぐいと引っ張ってるこの女の子がシェイクランド皇国第一皇女
フレア=シェイクランドだということの確定を意味してるようなものだ。
これはもう素直にフレア皇女を引き渡した方が絶対にいいんだろうけど、それはフレア皇女が
絶対に許してくれそうにないしなぁ、ようはフレア皇女はこの祭りを楽しみたいがために城を
飛び出したって感じなんだろうね・・・・・・ってことはフレア皇女にある程度祭りを楽しませて自
主的に帰るように仕向けるしかないか
ああまったくなにやってるんだろう私
「ちょっとどうにかしないと見つかっちゃうじゃない!えーっと」
「私は夜風楓ですよフレア皇女様」
「え、あ・・・うー」
自分の正体がばれたことにいささか動揺している様子のフレア皇女を尻目に私は思考を巡らせ
る、かなりの至近距離とはいっても私自身はシャオさん達と面識はないんだからええっと・・・ 
「ちょっとお嬢さんお嬢さん!!」
思考を遮るようにすぐ隣で声がする。それは私達のいる横の売店の体格の良い割烹着を来たおばさんだった。店頭に出ている林檎飴と手に持った林檎をみるからにそれ専門で売っている人
みたい
「えっと・・・・・・」
「なんとなく状況はわかってるからね、ほら私の後ろを通っていきなよ」
そう言って手招きをするおばさん、見ると他のの露店の店主も状況をわかっているのか促すように後ろを通るよう指示する。それを後押しするようにセトラ皇女が急かすように言う
「なにぼけっとしてるの楓!さっさと進みなさい」
「え、あ・・・なんで私まで?フレア皇女様一人で行けば・・・」
「ついてきなさい、ボディガード役よ!ほらさっさといくー♪」
そのまま私は背中を押されるがまま路地の方へ歩く事になった、いやもうどうにでもなっちゃ
え!
 
「ふぅ・・・ご苦労、さすが私が見込んだ人ね」
大通りから一本離れた路地にでるとフレア皇女は小奇麗なスカートを払いながら言う、勝手に巻き込んでよく言うよ
「で、これからどうするつもりなんですかフレア皇女様」
「もちろんお祭りを楽しむのよ」
楽しむといっても大通りの方にはシャオさん達がいる、もしかしたら応援が来て大捜索な感じ
になっている可能性だって・・・・・・そう考えると今から大通りに戻ってもとても楽しめる状況な
んかじゃないと思う、かといって大通りから一本外れたこの通りは出店も出てなければ人通り
もほとんどない、あるとすれば通りに沿って流れている川くらいだ
「やっぱり戻った方がいいと思いますよ」
「やーだっ!」
私は何度目かとも思える台詞を言ったがそれを遮るようにフレア皇女は言葉を重ねすごすごと
歩き出す
「そんなことできないわ!どうせ怒られるなら楽しむだけ楽しんでからよ、だいたいあのまま
お城になんて篭っていたらパレードやらダンスパーティだけでお祭りが終わっちゃうじゃない、主役がつまんないってのが納得できないのっ」
パレードやダンスパーティ、それはもう物凄く豪華だというのは想像に耐えない。しかしなが
らそんな庶民には一度たりとも出る事が出来そうに無いイベントでもフレア皇女にとっては退屈でつまらないもののようだ、これだから世の中は難しい。
「だから私を説得して城に戻そうなんて無駄なんだからっ」
「はぁ・・・・・・」
やはり一国のお姫様ともなると我侭というかなんと言うか、とりあえず説得できそうにないってのはわかる。でもだからってこの現状どうすればいいんだろう
それからしばらく二人で歩く、静かに流れる川や遠くで聞こえる街のにぎやかな音とか人通り
の少ないこの路地を耳を澄ましながら歩くのもなんかいいなぁっとおもったんだけど
・・・・・・フレア皇女の不満は程なくして爆発した
「ちょっと楓!全然面白くないわ!なんにもないじゃない!!」
「面白くないって言われても困りますよぉ、お祭りは大通りだけなんですから」
「そこをなんとかするのが楓の役目でしょう?」
「い、いつからそんな役目になってるんですか私は」
「いいから何か面白そうな事ありませんの?」
なにがいいのかわからないけど仕方なく辺りを見渡してなにか面白そうなことをやっている所
がないかを探してみる
「あ、あそこ・・・・・・」
ちょうど向こう岸に渡るための大きな橋が掛けられているところの川原で若い男女が二人にか
なりの人数の子供達が集まっているのが見えた
「ほらなにかやっているみたいですよ」
「本当!何か面白そうなことやって・・・・・・ってちょっとまった!」
さっきまで人が居ない事をいい事に私の横を歩いていたフレア皇女があわてた様子で再び私の
背中に隠れる
「な、なんでこんなところにいるのぉ?」
皇女は思わず愕然と呟く
フレア皇女の行動を見るとなんとなく何が見えたか予想はついた。
「そりゃまぁこの国のお姫様なら知らない人のほうが珍しいんじゃ」
「そうじゃなくてこんな人通りの少ない川原になんの酔狂で貴族がいるのよってこと!!」
それはフレア皇女も同じなんじゃないかな?とも思ったがあえて言わないでおこう
「ともかくあいつに見つかったらお城に連れ戻されてしまうわ、素通りするわよ」
背中に隠れたままフレア皇女は言うがこの状態で歩くのは逆に目立ってるような気もするしか
なり滑稽な姿なんだけどどうやらわかってないみたい
「あー今度は五回も跳ねた!」
「もう少しで向こう岸だよー」
栗色の髪を短めに揃え同じ栗色のトレンチコートを着た爽やかそうな青年に子供達が集まる
「お上手ですね、御主人様」
そんな青年の様子を後ろから黒いメイド服に銀色の長髪、そして特張のある青い瞳をしたメイドさんが軽く微笑み拍手を送っている。
う~ん、まさにお金持ちの御曹司とそのメイドさんって感じだ
余計な事を考えながら私と皇女は滑稽なカニ歩きでその横を通り過ぎるのだが
「・・・・・・まさか気付いてないと思ってましたかフレア皇女」
後ちょっとという所で爽やかそうな青年が屈託ない笑顔で振り返って言う、まぁあんな歩き方して見つからない方がおかしいんだけど
「うむむむっ!やるわねデュラン=フェンバート!こうなったら仕方ないわ楓やっちゃいなさい!!」
私の背中からひょっこりと顔をだすと思いっきり指を突き出し命令するフレア皇女
「って、やりませんよ私は!!」
全く無茶を言うんだからここで私が戦ったりしたらそれこそまさに皇女誘拐犯みたいじゃない!
「楓のその背中の剣が大きすぎるから見つかったのよ!ほらその責任を取ってやっつけちゃって!」
「そ、そんな無茶を言わないでくださいよぉ」
「フレア皇女様、あまり人を困らせてはいけませんよ」
困惑顔の私に爽やかそうな青年───デュラン=フェンバートさんが助け舟を出してくれるがその様子を見てフレア皇女の機嫌は更に悪くなる
「絶対に戻らないわよデュラン、まだ全然祭りを楽しんでないんだからっ!」
そう言うとフレア皇女は離れまいとギュッと服を掴む
「困ったなぁ。エイミス、パレードまで後どれくらいだい?」
「二時間弱ですが衣装の準備の時間も含めると一時間半位ですね」
銀髪のメイドさん────エイミスさんが懐中時計を見ながら告げる。それを聞いたデュランさんは少し考えるような仕草をすると次に意外な答えを出す
「しょうがない、一時間ほど見逃がしてあげますよ。フレア皇女の気持ちもわからなくはないしね」
「えっ!本当に!?」
デュランさんの言葉に先程とうってかわってフレア皇女は笑顔を見せる、まぁ私にしてみればかなり困った答えなんですけど・・・・
「し、しかし御主人様」
「大丈夫だよ、見逃すといっても表通りには今も兵士達が探してるだろうから行けないし裏通りには出店はない、結局ここで遊ぶ他選択はないんだから」
心配そうにたずねるエイミスさんにデュランさんは表情穏やかに答える。その言葉の本当の意味にフレア皇女は気づかずにはしゃいでるが私にはなんとなくデュランさんの意図が読めた気がした
「それに僕達と一緒なら見つかってもお叱りも少ない、これはもう姫様ならおわかりですよね?」
「ん、それって遠まわしにここで 遊んでいけってことかしらデュラン」
「いえいえ“遊んでいけ”なんて命令はしていませんよ、ただ聡明なシェイクランドの皇女様ならいわずもがな最良の選択をしてくれると思い軽い助言をさせていただいたまでですよ」
デュランさんは微笑み軽く頭を下げるとそう告げる。なんていうんだろうかなデュランさんは
人心掌握が上手いというか言葉巧みに人を操る術を知っているというか・・・・・・渡世術?こうゆうのが上手だからお金持ちなんだろうなって思う。
「ま、まぁそれくらいの事言われなくてもわかってましたわ!」
・・・・・・フレア皇女ほど操られやすい人も珍しい、かな
「さて楽しませてもらうわよ貴方達」
軽い足取りでフレア皇女は川原へ降りると子供達輪に割って入る。子供達とフレア皇女は見た感じ歳は同じくらいだけどやっぱり一国のお姫様の相手ともなるとやはり先程デュランさんと遊んでいた時よりも表情固い。
「はは、ほら皆フレア皇女と遊べる機会なんてめったにないんだからこうゆうときは楽しまないと」
そう言いながらデュランさんもフレア皇女と子供達の輪に混じっていく、子供達の緊張をとるための行動なんだろうけどそれを見て私の緊張も解けた
「はぁ~っ、なんとかこれで皇女誘拐犯として捕まらなくてすみそう」
「おつかれさまです、今紅茶を淹れますので楓さんもよかったらどうぞ」
エイミスさんは妙に高そうなシートを広げると大きなバスケットからこれまた高級そうなティーセットを取り出し準備をする。
「う~ん、じゃお言葉に甘えて」
このまま帰っても良かったんだけどせっかくエイミスさんが淹れてくれるというのを無下に断る理由もないのでいただくことにした
「ちょっとまってくださいね、温度調節が難しいんですよこれ」
赤い宝玉のようなものがついたポットを眺めながらエイミスさんは言う。多分あの宝玉から熱が発生して中の水を温める仕組みなんだろう、かなり便利そうだ。
「そうだ、楓さんその間に茶葉を選びましょうか」
湯が沸くまで結構かかるのかエイミスさんはバスケットから茶葉の缶を取り出す。
「この茶葉もいいですし、あ・・・・これも結構オススメですね」
・・・・・・って、もの凄い数なんですけど
次々と並ぶ茶葉の缶の量に唖然となる。というか茶葉ってこんなにも種類があるんだ。
缶の一つを手に取ってみる、紺色の円柱状をした缶に金色のラベルが貼ってあり“ホワイトリーフ”と書かれている、これが茶葉の名前なんだろう。
ん~いつもならここいらで“接続”して変な知識が流れてくるんだけどな、こうゆう知りたい知識の時には“接続”が起きないから困る
「いつもこんなに茶葉を持っているんですか?」
「え、ええ・・・・・・御主人様はそのときの気分で紅茶をお選びになりますからできるだけそれに答えられるようにしているのですよ」
ティーカップの上にストレーナーを置きエイミスさんは答える。穏やかに輝く銀色の髪に宝石のように綺麗な青い瞳、こんな人に想われているなんてデュランさんはつくづく人格者だなぁって思う。
「茶葉の方決まりました?」
「あ、じゃこれでお願いします」
結局最初に手に取った茶葉の缶を渡した、いやだって茶葉の種類なんて知らないから選びようがないのだもの。
「ホワイトリーフですね、かしこまりました」
エイミスさんは私から缶を受け取るとバスケットから温度計や砂時計を取り出し紅茶を淹れる準備をしだした。まるでなにかの実験みたいだよ・・・・・・
「はい、それではこちらがホワイトリーフのストレートティーです」
ほどよくして目の前にティーカップが差し出される、お湯の量を測ったり気温を測定したりと素人の私にはよくわからない行動をしてから出された紅茶に以前のラナさんのときのような不安を覚えたが出されたとき香ったこう鼻がすぅっと通る感じのいい香りにその不安もすぐに取り除かれた。
「それではいただきます」
軽く香りを楽しんだ後、口をつける。口に含んだ瞬間さわやかな香りと控えめな甘味が広がる、紅茶というよりハーブティーに近い味だが結構私好みの味だ。
「凄く美味しいですこの紅茶」
「そう言ってもらえると嬉しいです、ホワイトリーフは低発酵の茶葉ですからお湯の温度の調整が難しいのですよ」
エイミスさんの難しい解説を聞きながらしばし談笑する。こんな美味しい紅茶でもまだエイミスさんの納得いったものではないみたい、それはなんとなく表情から見てとれた。
「なるほど、こう言ってしまってはあれですけど災難でしたね」
私は一通りフレア皇女につかまった経緯を大まかに話した、自分の身の潔白だけは証明しておかないとトラブルになるからね。
「そういえば楓さんは旅の途中なのですか?」
「えっ、あ・・・・・・はい西の大陸まで、でもよくわかりましたね」
ん~自分でいうのもあれだけど見なれない謎の少女風の格好のせいかな・・・・・・っと思った所でエイミスさんがティーカップをすっと上げた
「なんとなくそうかなとカマをかけてみたのです」
「ああ、なるほど」
「どちらからいらしたのですか?」
「あ、え~と・・・・・・」
本当にどこから来たのだろう私は
思わず答えに困ってしまい視線を川のほうへそらす
「ちょっとデュラン!あなたの言われたとおりにやっているのに全然跳ねないじゃない!」
「もっとこう叩きつけるんじゃなくて水平に滑らす感じで投げるんですよ」
川の方ではデュランさんとフレア皇女、そして子供達が楽しそうに石を投げ水切り遊びを楽しんでいる。そんな様子を一瞥して再び手元のティーカップに写った自分の姿を見つめなおした
「私、記憶がないんです。気がついた時にはハームステインの砂漠にいてそれ以前の記憶はまったく」
あまり人を巻き込みたくない、デュランさんやエイミスさんのような人なら助けを求めれば力を貸してくれるとおもうけど私の中にはもう一人のわたしがいる。一週間前姫奈と戦った時のような事がまた起こってしまう可能性だってないわけじゃないし、そう考えると本当は記憶の事言いたくはなかったのだけど
「あ、でも西の大陸に記憶を呼び戻せる人がいるみたいなので大丈夫みたいです」
・・・・・・だけど嘘もつきたくなかった、こんな嘘ついた所で大した事ではないけど別のわたしの意思がそうさせたのかも───
───別のわたし
「っう・・・・・・」
頭の中が揺れ強烈な嘔吐感に襲われる。私は思わず紅茶を喉へ一気に流し込む、ホワイトリーフの清涼感でかなり嫌な気分は拭われた。
「どうかなされましたか?」
「い、いえ別にちょっとむせただけです」
心配そうな顔をみせるエイミスさんに笑顔で答える。
考えてはいけない、そしてエイミスさん達を巻き込んじゃいけない!
「あ、私そろそろ行かないと」
船の出港まではまだ時間はある、名残惜しかったが至しがたない
「・・・・・・エイミスさん紅茶とっても美味しかったです。あと───」
横目にフレア皇女を見やる、どうもまだ水切り遊びに悪戦苦闘をしているみたいだ
「フレア皇女の事お願いします」
「はい、楓さんも大変でしょうがお気をつけて」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
フレア皇女に気付かれないように控えめに言うと踵を返しまるで逃るように走り出した。
 
 

それからどれくらい走っただろう?
息が切れ足がふらついてもなお無理矢理走っていた。
頭の中が混乱、錯乱して壊れかけていた。突如として現われるもう一人のわたし、あれが本当の私なの?それなら今の私はなんなのだろう・・・・・・?
二重人格?でも私はもうー人のわたしの事を知らない。
答えが欲しかった、納得のいく答えが・・・・・・
それを求め彷徨う、こんな森の中をいくら走った所で答えなんて見つからないのは頭で理解しているのにそれでも走らずにはいられなかった。
「はあ・・・はぁっ・・・・・・」
木々の間から差し込む光に思わず顔をあげる。
森を抜けた先、その出口を照らしている夕日の燈色は答えに導いてくれそうな気がして・・・・・・私は吸いこまれるように光に向かって足を進めた
「っ・・・・・・眩しい」
森を抜けた時の強い西光に一瞬視界がフラッシュバックし、ゆっくりと色を取り戻していく
「これは・・・・・・」
森をぬけた先に広がっていたのは真っ赤な落葉の絨毯だった、突き出した崖にそこだけ真っ赤に色づいた木々が並び雪のように葉を散らしている。その美しい光景を前に私の足はいつの間にか止まっていた、まぁ目の前が崖なので進もうとしても進めないというのもあったが
「これ、楓の葉?」
ひらひらと舞う葉を手に取ってみる、手の平のように五つに別れたその形は私の名前と同じ楓の葉によく似ている気がした
───楓は「蛙手」が語源、そして楓と紅葉に植物的区別はない……
頭の中でまた言葉が走った、ハームステインの時は特に深くは考えていなかったけど今はそれが不安で煩わしかった
私は何度か頭を小突き意識を保とうとする。
「・・・・・・そして楓の中でも特に艶やかなものを紅葉というのよ」
「えっ?」
頭の中からではない声が不意に辺りに響き風がざあっと吹いた。その風は木々を揺らし地面に積もった紅の葉を舞い上げる。
「お久しぶり、いえ初めまして・・・・・・かしら?」
振り返えった先にいたのは二人の男女、男の人の方はこれといってまとまりのない髪型に傭兵のような出で立ちで女の人は肩ほどまで伸びた黒髪に民族衣装のような刺繍の施された青いドレス、胸元が大きく開いていたり太股から踝まで深いスリットが入っている。大人の魅惑満載といえば誰もが納得できるような格好だ。
「貴女達は・・・・・・というかさっき『お久しぶり』って、もしかして私の事を知っているんですか?」
「楓は私の事覚えている?」
「私、あの記憶喪失で自分の名前くらいしかわからなくて・・・・・・」
「そう、それは大変だったわね。」
女の人がゆっくりと私に近づき優しく声をかける。
この声、どこか懐かしい・・・・・・
「全然帰ってこなかったから心配してたのよ。でももう大丈夫よ、紅葉お姉ちゃんが助けてあげるから」
「お姉・・・ちゃん?」
・・・・・・お姉ちゃん
女の人の言葉を理解するのに時間を要した。
確かに光の先は私にとって希望であり答えだったのだけれどもあまりの急展開の状況についていけなかった。
「あなたが私のお姉ちゃん・・・・・・」
ぽつりと呟く、記憶がないので全く実感がないが本当の事なんだろう。
「でもちょうどよかったわ、今記憶を操る能力を持っている人と一緒だったのよ。すぐに楓の記憶を呼び戻してあげるわ」
紅葉さ・・・お姉ちゃんは後ろを振り返ると傭兵風の男の人を手招きする。
もちろん男の人の顔に見覚えなんてない、だけど気になることが一つあった
能力者の能力というのは似ているものは多少あるみたいだけど全く同じというのは滅多にないって話を以前をひめちゃんに聞いたことがある。とするとだ、この〈記憶〉を操るって能力を
持っているというこの人のは!
「もしかしてジーク=ダットリーさんですか?」
「えっ、あー確かにそうだけど」
男の人───ジーク=ダットリーさん───は驚きの表情をみせる。
「私、記憶喪失の所をひめちゃん・・・・・・氷上姫奈さんに助けてもらったんです。それでジークさんなら記憶を呼び戻せるんじゃないかって事でこれから西の大陸に向かう所だったんです」
「なぁるほど、しっかしこんな偶然もあるんだねぇ。ま、とりあえず楓ちゃんの記憶を呼び戻そうか」
ジークさんがゆっくりと私の頭に触れる。
「んじゃさちょっとの間目を閉じて頭の中を空っぽにする感じでいてね」
言われるままに目を閉じじっと集中する。
・・・・・・まさかこんなあっけなく私の旅が終わるとは思わなかった、でも記憶は戻り肉親とも再会できたんだ何も悪い事はない。気がかりだった私の中に存在する“もう一人のわたし”の事だってこれで何か思い出すかもしれないしお姉ちゃんだったらなにか解決方法を導いてくれるかもしれない。
記憶が戻ったことを知ったらひめちゃんや瑞穂きっと驚くだろうなぁ・・・・・・あ、あとお礼もしなくちゃ偶然だったとはいえあの砂漠で二人に会ってなければ今頃のたれ死にしていたかもしれない───
 
 
えっとそれから───
 
 
あ───
 
 
嫌な事───
 
 
思いだした───
 
 
頭の中で蟠りが氷解していくのを感じる、それと同時に浮び上がってきたのは激しい憎悪と怒りだった。
ゆっくりと目を開く、まだ頭の中はぼんやりとするが視線の先にいるお姉ちゃん、いや夜風紅葉の姿を見て全てを理解した。
「敵に塩を送ったってわけ・・・・・・!!」
「え、あ…っ、紅葉ちゃん・・・・・・・・っ!これって!」
おもわずでた私の叫びにジークはたじろき触れていた手を離すが紅葉はその余裕の表情を崩さない。
「だからそうゆう設定、なのよ」
どこかで聞いた台詞に朦朧とした意識のなか思わず体が動いた
「どいてっ!!」
「くっ!」
朱天月刃の柄でジークさんを突き飛ばし姉さんとの距離をつめる、おもわず言葉が走った
「なにをっ、言ってぇっ!!」
姉さんとの相対距離、踏み込んだときの足にかかる圧力、色々な情報が電気信号となって体中しいては脳へ流れていくのを感じた、だがそれを全て無視するかのごとく私は朱天月刃をともない宙に舞う。
「なんで私の記憶を戻した!?なんでまた私の前に現れた!!」
散りゆく紅の葉の中を舞い、怒号が空に響く。全体重を朱天月刃にのせ迷いなく振りおろした。
「うふふっ、そんな貴女が見たかったのよ」
だが妖艶な笑みをうかべる紅葉の前に刃は見えない障壁によって阻まれる。その余裕たっぷりの表情、いつ見ても気にいらない!
朱天月刃の刃を返し横薙ぎに切り払う。
───チヌラレタタタカイニヨッテ
「血塗られた戦いによって!」
───マニミイラレシモノデアルアナタヲ
「魔に魅いられし者である貴女を!」
───コロスノガワタシノマヲウツモノノシメイ
「殺すのが私の・・・・・・魔を討つ者の使命!」
横薙ぎに払った時の遠心力を利用して回転、三速撃──連牙、連双牙、朱牙───を放つがそれさえも見えない障壁にあっさりと止められた。
「くっ、これは……糸!?」
止められた刃の先、私の攻撃を防いだものが夕日に照らされ一度その姿を現す
そこにあったのは宙に浮いた一本の糸……弱々しく簡単に斬れそうな糸だけど私の刀は全く前に進まない
「ちいっ!」
おもわず私は下唇を噛みその力の差に苦渋の表情を浮かべる。だが諦めない、諦めるわけにはいかない……夜風紅葉を止められるのは私だけなのだから
 
私の家、つまりは夜風家は代々強大な力を内包する一族。そしてその強大な力を受け継ぐのは一人でないといけない、つまり一子相伝の力なのだけどそれを私と紅葉のように姉妹で分けることになるとそこで異常が発生する。
魔に魅入られし者、そして魔を討つ者……夜風の民の力は二つに分かれたとしても強大すぎて受け継いだ二人のうちどちらかの精神を必ず狂わせるといわれている、それが夜風の民の力…
魔に魅入られた者ということ、そして残った方がその魔に魅入られた夜風の民を殺す使命を受ける、それが魔を討つ者という。
お姉ちゃん、いえ夜風紅葉は魔に魅入られそしてその力で次元を跳躍、私たちのいる次元を消滅させようとしてきた。そしてその次元の消滅を私に阻止されたときにはまるでゲームをリセットするかのように別次元への跳躍を繰り返す、私もそれを追って幾度も次元を跳躍して……きっと今まで記憶を失っていたのは次元の跳躍をした際の影響だと思う。
次元を何度も跳躍していると実の姉妹同士が殺し合いを続けることを悲しいという人もいた、だけど魔に魅入られた者を救う方法は殺害する他ない……だったら魔を討つ者だからとか関係なく実の妹である私の使命だとおもう、それこそ他の人間にまかせるなんてことはできない。
だからお姉ちゃんが魔に魅入られたときから既に夜風紅葉を殺す覚悟はできている
できているのだけど───
「さぁ・・・・・・どうしたのかしら?私を殺すのでしょう楓?」
糸が延びる右手をかざし不敵な笑みを紅葉
おもわず朱天月刃を握る手に力が入る。
私と紅葉には戦闘能力に圧倒的な差がある。昔から天才と呼ばれていた紅葉とその天オ少女の妹という事で過大な期待をかけられ必死に天才を演じていた私、その差は一朝一夕で埋めれるものではない。
この戦いが幾度も次元を跳躍し長い戦いになってしまったのは偏に私の弱さが原因であるのだ。
「こんな糸に手こずるわけには!」
朱天月刃を構え直し再び距離をつめる。そしてそのまま体を軸にしてフィギアの選手のように回転し着地と同時に最初の一撃を放つ
連牙、起点となる最初の一撃を裏拳を放つように出し、次に連双牙、連牙で発生した回転威力を更に増幅し打ち放つ。
───しかし
「何度やっても無駄よ、自分の力量もわからない今のあなたじゃ………」
紅葉が右手を掃うと指先から先程と同じ糸が展開、それとほぼ同時に私は更に朱天月刃を振る
三回転、そこで生まれた力量を全て朱天月刃にこめて打ち放つ
舞い落ちる葉を一振りにて千枚切り裂く斬撃『千葉斬破』
私の持つ技の中で最高の威力を秘めた技だ
「いけっ!千葉斬破ッ!!」
「全くもって話にならないわよ!」
刃と糸が激しくぶつかり合いその衝撃が私達の周りの赤い葉を舞上げる
だが力が均衡していたのはほんの一瞬、紅葉が軽く力を込めただけで呆気なく私の体を吹き飛ばす
おもわず下唇を噛んだ。
渾身を混めた一撃も赤子の手を捻るように軽くいなされる。何度目だろうこうやって次元を越え何度となく姉と戦い、実力の差を思い知らされるのは・・・
なんとか受け身をとって立ち上がるもののすぐさま糸の追撃が私を襲う
「遅いわよ楓!!」
とっさに朱天月刃を構えるがそんなものを異ともせずに薙ぎ払われる糸
荒れ狂う風に地面を削る傷跡、それはもはや見えざる魔獣の爪のよう
「………っぅ!」
振り降ろされる魔獣の爪を朱天月刃で受け止める……いやもう止まることなく繰り出される攻撃に腕も足も痺れてきてそういつまでも耐えれそうにない、そしてこんな状態じゃ一気に懐にはいるのも難しい
・・・・・・策があるとするなら姫奈ちゃんと戦ったときに表れたあのもう一人の“私”、記憶が戻った今でもあの存在のことは思い出せないけどあの“私”なら私以上に戦い方を知っている
だけどどうしたらあの私が接続するのかはわからないし、やはりどうすることもできないの!?
「そろそろ終わらせるわよ!」
紅葉は腕を振りあげると叩きつけるように振り下ろす。ただそれだけで糸はうねるように荒れ狂い全てを破壊する爪と化し私に襲いかかる。
「ぐぅっ、やっぱり・・・・・・負け、るの?」
強烈な一撃についに膝をついた。負けるわけにはいかないのに圧倒的な力を前に気持ちが負けていた。
口でいくら強がってもやっぱりどうすることもできない
今回も私は勝つことができなかった。朱天月刃が指から離れる・・・・・・
「さようなら楓」
紅葉はその隙を見逃すことなく腕を振る。
舞い上がる赤い葉
生み出された強風はあっさりと私の体を崖から吹き飛ばした
 
「がっ・・・・・・ああああっ!!」
岩肌に激しく体を打ちつけ更に転がり落ちる。
 止まらない、止まらない、止まらない!
そのたびに全身に激痛が走る
もういっそ死んでしまえば楽になれるのに、痛みは私を何かに駆り立てるように続いていく。
 止めて、止めて、止めて、止めて、止めて!!!
イタイ、クルシイ、カワイソウ・・・・・・
一瞬頭の中をなにかがよぎる。走馬灯とは死という現実から逃れようとする夢、しかし現実からは絶対に逃れることはできない
強烈な痛みと瞼を閉じていても見える幻覚が交差する
赤い・・・赤いのは夕日、赤いのは血
止まらない・・・止まらないのは赤い靴、止まらないのはこの身から流れ出す血
あの時みたのは誰の顔?最期に見たのは誰の顔?
最期?死んだ?誰が?いつ?
「だ、だから・・・・・・」
突然、自分の口から言葉が漏れる。
「そうゆう設定なのよ、ぜんぶ」
叩きつけられるのとは違う体の内側から激しい衝撃が走る。
「カーレア、逃げてはダメ・・・・・・あなたにはまだやってもらわないといけないことがある」
自分の声色で自分じゃない誰かの声が響く。そして意志を無視して体勢を変えると、見事に着地した。
ああ、これってそうゆうことか・・・
何が起こったか理解するのは早かった。気がついたら自分で自分の体を操ることができなくなっている、一週間前姫奈ちゃんと模擬戦をやったときと同じ別の誰かが私の体を支配しているんだ
「別の誰か?じゃなくてわたしは夜風楓よ、カーレア」
私の考えたことを読んだように別の誰かは独り言を呟く
前は全く通じなかったのに・・・・・・
「あのときは私の送信側しか“接続”していなかったからカーレアの声は届かないのよ」
結構血だらけになっている私が答えた
淡々と別のわたしは説明するが理解するのは難しい。そもそも私はカーレアじゃなくて夜風楓のはずだ
それともカーレアというのが本当の名前なんだろうか?
「いえ、わたしも夜風楓でありあなたも夜風楓よ。わたしはあなただったし、あなたはわたしになる・・・・・・カーレアというのは区別のようなもの。だから私がカーレアでもいいの」
やっぱりよくわからない。けど呼ばれるならカーレアよりも夜風楓のほうがいい
「そうね、じゃこれからは貴女が夜風楓、私がカーレアということで」
正直自分の中にいるこのよくわからないカーレアと話すのは不思議な感覚だ、自問自答しているような錯覚もあるしでも答えは別から生まれてくる。
二重人格っていうものなのかなぁ?
「違うわ。楓は設定・・・・・・いえ、記憶は戻ってるんでしょう?ならわかるはず、夜風楓は二重人格ではないということくらい」
言われるまでも無くそんなことわかってる、そんな二重人格とかであれば真っ先に嫌な事を押し付けてるし。
「でしょうね、わたしでもそうする」
腕を組んで私の体が頷く。
いや・・・同意されても困る。
でも二重人格じゃなければなんだっていうの?ときどき頭の中に知識がひらめいたり今みたいに体を支配したり、貴女はなにがしたいの?
「何がしたいか・・・そうね貴女は私に望む?それを叶えることがわたしのしたいことね」
私の望み・・・・・・それは
「あ、お姉ちゃんを倒すってのは駄目ね、なんであれ血を分けた姉妹同士で殺し合いはさせないわ」
・・・・・・言う前にあっさりと否定された。
でも魔に完全に魅入られる前に紅葉を殺さないとこの世界は滅んでしまいかねない
「血塗られた戦い、そうゆう設定ね。でも仮に今わたしがお姉ちゃんと戦っても勝てる自信はないわね。楓は体と接続してないから感じないだろうけどかなりの大怪我して、る・・・し」
膝ががくりと落ちた今の私には感じないが腕や足からはかなり出血があるし肩で大きく息をしている、本来私が受ける痛みをカーレアは肩代わりしてくれていたんだ。
「それにね楓、貴女が討つべき魔は別のところにあるの」
消え入りそうな声でカーレアは呟く。討つべき魔は別のところにって一体どうゆうことなの
「残念、時間切れみたいだわ・・・」
カーレアは質問に答えることなく地面に転がり込むように倒れこむ
「おやすみ楓、話の続きは次に目覚めたときにしましょう。」
瞼がゆっくりと落ちていく、私の意識は起きたまま視界だけがゆっくりと闇に溶ける
───
──────
─────────
カーレアが眠った後残ったのはなにもない闇の世界、体は動かせない、声は出せない、けど意識だけははっきりとある
それはまるで死後の世界を体験しているような感覚だった
けどこの感覚、どこかで前にも一度あったような・・・・・・?

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氷桜夕雅
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昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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