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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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幻=クレイド
 
 
「ふぁぁぁぁ~っ、あーねみぃ、眠すぎ、眠すぎて永眠しそうだぜ」
俺はこれで何度目かと言う欠伸をした。まったく今日は朝から面倒なことばかり起きるもんだ
からおちおち昼寝もできやしねぇ
「うみぃは広いなぁ~大きいふぁぁぁぁ」
外の物凄い速さで流れる景色を見ながら呟く。流石に西の大陸で造られた魔動力の船は速い
なんでもこの船一旦船内に水を取り込み水と魔力を分離、その取り出した魔力で水を吐き出し
進むらしい。ようは今までの帆船と違い風がなくても一定の速度で進むことができる画期的な
船ってことだな、まぁ最新鋭の豪華客船というだけあって乗船券だけでも相当な値打ちがする
とりあえずそこら辺でかかった費用は全部アクロポリスに請求しておくから気にしちゃいないだいたいフリーのバウンサーである俺を手紙一つで呼びつけるんだからこれくらいはしても問
題ないはずだぜ
「本日は当船ウンディーネブレス号へ乗船いただきありがとうございます、当船はまもなく中
立都市ルラフィンへ到着いたします。中立都市ルラフィンは東西大陸とは独立した都市であり
カートスル家と呼ばれる貴族がこの都市の管理をしています、カートスル家にはとても不思議
な未来予知をする巫女がおりまして……」
船内に女性の声が響く。船がゆっくり減速を始め窓の外にもルラフィンの街並みが見え始める
中立都市ルラフィン、東の大陸ウイングガルドと西の大陸グラディアルステーションのほぼ中
間に位置する小さな孤島にある都市だ
「中立都市ルラフィンに到着いたしました、当船は荷物の搬入のため約一時間ほど停泊するこ
とを何卒ご了承ください……それでは皆様良い旅を」
そういやティアと初めて会ったのもこのルラフィンだったな、あのときもまぁあいつのおかげ
でとんでもないことに巻き込まれたんだっけか
俺が変なことを考えている間に旅行客が慌しく出口のほうへ流れていく。俺も他の客に混じっ
て船外に出ると強烈な潮風が吹きぬけた
天候は俺の気分と全く逆のこれでもかってくらいの快晴だ
「ふぅ……やれやれ、相変わらずの難しい顔してんなぁあいつ」
タラップの上から街のほうを見ると俺をここまで呼びつけた張本人がちょうど俺の真下あたり
に立っているのが見えた、なにやらメモのようなものを取っているのかタラップのほうは見ず
に俯いている
なぁんかこれはもう脅かしてくれっていってるようなもんだよなぁ
「よっ!!」
俺はタラップを一番上から飛び降りる。船といっても二階建ての屋敷に相当する高さだ、飛び
降りた瞬間周りの客共が何事かと色めき立つのがわかった
まぁ俺からすればこれくらいの高さなんてなんでもないんだがな
「疾風の狩人、幻=クレイドただいま参上~!」
「ん、思ったより早かったな」
「つか、少しは驚けよ!」
やれやれ、こっちが華麗に飛び降りたってのにティアの奴は軽くこちらを見ただけですぐに手
元のメモ帳に視線を戻す
周りの客からは喝采があがったもののこっちとしては納得いかない結果だ
「とりあえず詳しい話は歩きながらする」
軽くこちらを一瞥するとメモ帳を懐にしまい足早に歩き出す
やれやれ、こいつは相変わらずの性格してやがる
「それでなんとなく来ちまったがこの『紅葉』って誰だよ?俺は知らないんだけど」
「やはり知らないか」
「やはりってなんだよ、やはりって」
慌ててティアの横に並ぶ。なんか馬鹿にされてないか俺?その言い方じゃまるで俺が忘れてて
当然みたいな言い方だよな
「夜風紅葉、少なくとも私の記憶だと二回ほど倒した人物だ。それもお前とな」
「な、まじかよ……」
まずい、どうやら俺は相当物忘れが激しくなっているのかもしれないぜ。流石に二回も倒した
人物を忘れているなんて……それに夜風紅葉という名前、それすらも覚えてないぞ
「それで今度はまたなんで復活したんだよ」
「復活したわけではない、私が戦うのは初めてだ」
は…?
あまりに変なことを言うティアに思わず足が止まる。それに気付いたティアも足を止めこちら
を振り返る
「ちょ、ちょっとまて今お前戦うのは初めてだとか言ったな」
「ああ、確かにそう言った」
「んじゃよ、もう一つ聞くが前に二度俺とお前で倒してるんだよな。その夜風紅葉って奴を」
「あ、ああ…」
俺の質問にティアは妙に煮え切らない態度で頷く、まぁ流石に自分でもわかっているんだろう
おかしなことを言ってることにな
明らかに矛盾してるんだよ、俺とティアで二回倒してるはずなのになんでティア自身が戦うの
が初めてなんだ
「一体どういうことだよ、しっかり話してもらわないとこっちだって仕事降りるぜ?」
「まぁ初めから理解してもらおうなんてこちらもおもってない」
ティアは吐き捨てるように言うと懐からメモ帳を取り出す、俺がルラフィンについたときあい
つが覗いていたメモだ。ティアはなにかが書かれているページを破ると新たなページに線を引
く、真っ白いページにかかれたのは平行に並んだ三本の線…なんだこれ
ティアはそのなかの一本をペンで指示した
「これが今いる私達の世界だとする、そしてこれが……」
そういうとティアはもう一本別の線を指示する
「また別の次元の私達の世界…」
「別の次元だぁ?」
「簡単に言うなら運命の違う私達の世界、つまり平行世界で二回私達は夜風紅葉を倒している
ということよ」
「む、ようは別の世界の俺達が倒したって事か」
俺の言葉にティアが静かに頷く
「し、しかしだな、なんでお前別次元の記憶を持っているんだ」
「何故別次元の記憶を私が持っているのかは私自身でもわからない、ただ言えることは夜風紅
葉は過去を変えようとしているということ…それもジークの能力を使って」
「ジーク?なんだよあいつが絡んでいるのかこの事件」
ジーク=ダットリーっていや、ティアのアクロポリスで契約社員してる<記憶>を操る能力者
だ。俺も何度か会ったことはあるがまぁその能力の凄さを感じさせないような軽いノリの男だったのを覚えている
「よくわからないが紅葉は必ずジークに接触して行動を起こす、その過去を変えるということ
に何らかの関係するんだと思うが」
「って、ことは今回も既にいねぇのか?」
「ああ、二日前ロリエンキュールと不審建造物の調査の途中で消息を絶っている。一応その付近をキュールとルミカで再調査しているが今のところあの馬鹿は見つかってないし、伝話によ
る応答にもでていない」
嘆息するように呟くとメモ帳をしまい再び歩き出す、俺は横に並ぶように足並みを揃えた
「過去を変える…ねぇ」
「過去を変えてしまえば今の私達の存在さえ簡単に消え去ってしまう。一個人の力でそ
んなこと許されるものではない……」
もしも過去を変えることができるのなら──
誰だって変えたい過去の一つや二つある、俺にだって…変えたい過去なんて幾らでもある
だがそれをいつまでも悔やんでたら前には進めねぇ、ましてや過去を変えるなんて今を一生懸
命生きる人間に対しての冒涜だ……
「なによりあの馬鹿をほっとくわけにはいかない」
まるで自分に言い聞かせるように言うティアの表情は険しい、普段からあまり表情を顔に出さ
ないタイプのティアをここまで険しい顔にするのとはジークのやつもよくやってくれるぜ
「まぁだいたいの話はわかったけどよ、まだ決まったわけじゃないじゃねぇか…、ジークの奴
だってどっかで油売っててそのうちひょっこり出てくるかもしれないだろ?」
ティアの奴が別次元の記憶を持っていようが夜風紅葉とかいうのが過去を変えようとしてようがあくまで今までの話では推測の域を出ていない……はずなんだが次にティアが言った言葉は
俺を完全にこの仕事に引き込む決定打となって返ってきた
「紅葉は人形を使う、それもジークによって記憶を与えられた人形だ…。あの馬鹿の能力で記
憶を与えられた人形は本物と同等の力を持つ、そして昨日現れたんだ暗黒騎士スリティがな」
「スリティ……!?」
思わず息が止まる
まさか俺のところだけじゃなくてティアのところにまで現れてやがったのか
「スリティの口から紅葉の存在の確証は得た、紅葉のほうは既にこちらの動向に気がついてい
るはず」
「ち、やれやれだぜ」
自嘲するように呟く。俺は結局最初っからこの厄介事に巻き込まれてるんじゃねぇかよ
しかしなんで、なんであいつはわざわざティアの前に現れるようなことをしたんだ?
ティアとスリティに接点なんてないはず、仮に紅葉の指示だとしてもスリティの奴が素直に従
うとは思えねぇ……。第一奴はなんで紅葉の存在をティアに明かしたんだ?
よくわからねぇがスリティの奴には夜風紅葉とは違う思惑があるに違いねぇな
「んで、ルラフィンに俺を呼びつけたって事はセトラのところで予知してもらうってわけか」
長い森を抜けるとどこぞの城並みに大きな屋敷が姿を現す
カートスル家、この中立都市ルラフィンを収めている貴族なんだがそのカートスル家の領主ダ
ーグ=カートスルの一人娘セトラ=カートスルって奴が未来予知ができる能力者なんだ
ティアの奴と初めて会ったときの仕事内容がこのセトラ=カートスルの護衛だったんだがこれ
がまたただの護衛で済むような話じゃなかったんだよなぁ
「とにかくセトラの予知能力で紅葉よりも先に行動を起こす、それしかこちらに勝機は無さそ
うだからな」
「ああ、そうだな」
なんだか今回の仕事もそれだけじゃ終わらないような気がするぜ
こういう嫌な予感だけは当たるから困るんだよなぁ
俺は今日の何度目かと言うため息をもらした


                            2
 
ティア=マローネ
 
セトラ=カートスルの性格からすれば今回の私達の突然の訪問を予知していると思ったがあい
にくとセトラは留守のようで私達はメイドの案内で応接間へと案内された
相変わらずと言うべきかカートスル家の装飾品はどれを取っても高そうなばかりが目に付く
応接間であるこの部屋にも辺りには有名画家による絵画や彫刻品が並び、更に見上げると私の
すぐ上には大きな水晶でできたシャンデリアが目に入る
否が応でも大人しくなる雰囲気を持った部屋だ
「少しの間お待ちください、セトラ様はもうすぐ帰ってらっしゃると思いますので」
メイドが軽く頭を下げ部屋を出て行く、メイドが部屋から出たのを確認するとすぐに幻は本皮製であろう高級そうなソファに寝転ぶように倒れこんだ
「あーねみぃ、まったく朝早くからいろいろありすぎて昼寝する暇もねぇ」
「だからって人の家のソファで寝転がるな、だいたいフェンバート家でも──」
そこまで言って私は思わず口を閉じる。幻は確かにフェンバート家でもソファに寝転んでいた
のだがそれは別の次元における私の記憶だ
「フェンバート?なにかあったのかデュランに?」
「い、いやなんでもない…」
不思議そうな顔でこちらをみる幻を横目に私はテーブルに置かれた紅茶に口をつける
──なにかがおかしい
今までこんなことはなかったのに昨日からか私の記憶の中に別の次元の私の記憶が混在してい
る。
最低でも別の次元の記憶は二つはある、その二つの記憶ともはっきりとわかるのは世界を変え
ようとする夜風紅葉ともう一人…その紅葉を止めようとする少女夜風楓のことだけだ
夜風楓……紅葉の妹である彼女もおそらくこの世界に来ているはず、別の記憶の中では私は楓
を救えなかった。だが今回は違う、別次元の記憶を持っているという私にできることを最速で行い必ず楓を救ってみせる
「しかしよぉ、スリティと戦ってよく無事でいられたな」
幻が独り言のように呟く、その顔は天井を見つめたままでだがいつもとはうって変わり神妙な
顔をしている
「姉さんがいたからな」
私は短く答えると再び紅茶に口をつける。
姉さんがいてくれなければおそらくあの場を切り抜けることは不可能だっただろう
いや、あのまま戦っていたら姉さんだってただでは済まない状況だったのかもしれない
だが今思えばあの男が私の所に来ていなければなにも始まらなかったの事実だ
 
 
 
スリティ=クレイドという名の悪夢が現れたのは昨日の今頃の昼下がり、私はちょうど姉さん
ルカ=マローネと仕事の報告書をまとめている最中だった
そのとき既にジークが行方不明になっていた事はロリエンキュールから聞いて知っていたが普
段のジークの行動からどうせまたくだらないことで油を売っているとあまり気にしていなかっ
た、どうせ空腹になったら平然とした顔で帰ってくるだろう…その程度に思っていたのだ
「姉さん、とりあえずこっちの報告書すべてまとめておいたから」
姉さんの机に報告書の束を差し出す、いつもより早く報告書をまとめ終わることができたのは
毎度報告書を書いている途中に邪魔をしてくるジークがいないせいだろう
「はいご苦労様。それにしても今日はいい天気……あら?」
窓から空を眺める視線が止まる
「なにかあったの?」
珍しく怪訝そうな表情を姉さんに私も慌てて視線を追うがそこにあるのはいつもと同じ空しか
ない
「姉さん、一体……」
「下がってもうすぐそこまで来ているわ」
来ている?誰が?疑問がいくつか浮かんだがそんなことを聞くよりも前に報告書が宙に舞う
「っ───!!」
窓が突然開き強烈な突風が部屋の中に吹き荒れる、まるで嵐のような突風だがそれでも依然と
して空は何事もなかったように青いままだ
「な、なんだこれは」
いつの間にか窓の外側に黒い渦のようなできあがりそこから風は吹いていた
しかもただの風ではない、全身の力を抜かれ精神を蝕むような瘴気の風
「……暗黒騎士スリティ、まさかこんなところに現れるとは思いませんでしたね」
「暗黒騎士スリティ…」
その名前はこの世界にいる人間ならほとんどが知っている、東の大陸ウイングガルドの当時最
大の規模を持った大国フランク皇国を一夜にして壊滅させたという漆黒の悪魔として
私の知っている限りその暗黒騎士スリティはフランク皇国を壊滅させた後何者かによって倒さ
れその姿を見ることは二度とないと言われていたのだが……
その暗黒の渦からゆっくりと姿を見せたのはまぎれもない漆黒の鎧に漆黒のマントの騎士
本の挿絵で見た暗黒騎士スリティのその姿と寸分違いがなかった。あえて違うところがあると
すれば挿絵で見た残忍な表情とは違いどこか哀を含んだような表情
そして誰かに似ているような……
「貴様がティア=マローネ、だな?」
暗黒の渦が消え風が収まったころスリティが静かに言葉を発する。どうやら向こうの目的は初
めから私のようだった
「遠路はるばるこんな西の大陸まで私の妹になんの御用でしょう?」
スリティの問いに答えようとした私を制して姉さんが毅然と答える、だが
「邪魔を……するな!」
瞬間スリティの左肩から黒い羽が飛び出し姉さんの体を意図も簡単に吹き飛ばす
「うっ……!」
「姉さん!」
部屋の本棚に激しく体を打ちつけ姉さんが苦悶の声を上げるが黒い羽は更に容赦なく襲い掛か
「……そこで大人しくしていろ」
黒い羽はそのまま姉さんの体を拘束するかのように覆い重なる
いつのまにかスリティの背後に白い仮面を被った片翼の天使が佇んでいた
「くっ………」
ここで感情に流されてしまってはいけない、私は下唇を噛みスリティのほうを向きなおす
敵は二人、スリティとあの仮面の天使。姉さんを拘束してるのはおそらくスリティの背後に浮
かぶ仮面の天使のほうだ、黒い羽の拘束から姉さんを助け出せれば私のナイフと姉さんの<扉
>の能力とでまだなんとかなるかもしれない
「貴様の力、見せてもらおう」
スリティが黒い剣を引き抜き見据えて言う。
「逃げ、な……さい…ティア!」
私は姉さんの声を無視して右腕を上げる。人差し指にはめられた真紅の指輪が一瞬淡く光りそ
こから手の平ほどの大きさのナイフを数本生み出す、それを手の中で回転させ一本を右手で逆
手に残りを左手の指の間に挟んで構えた
「なんのつもか知らないけど、降りかかる火の粉は払うまでよ!」
地面を蹴りスリティの右側へ回り込むように一気に走る。スリティの視線が私を追うがそれよ
りも早く駆け手首のスナップとともにナイフを投げつける
ヒュンッ!という空気を裂く音とともに見えない斬撃がスリティを襲う
だが暗黒騎士スリティの前ではその斬撃も虫を払うかの如くあっさりと剣で弾かれる
「────チッ!!」
元よりナイフでは全身漆黒の鎧で包まれたスリティに大したダメージは見込めないのは理解し
た上で牽制として投げたものだったがああも簡単に弾かれるのを見ると少しだけ気が滅入る
…だがそんな事で勝負が決まったわけではない
スリティの周りを囲むように走りつつナイフを召喚、次々とスリティに向かって投げつける
力や魔力ならスリティには勝てないだろうがスピードならまだこちらが上のはず、速度で撹乱
して隙を見つけることができれば例えあのスリティが相手だとしても勝機を見出せる
(見つけた!!)
一瞬の隙を見つけると共に牽制のナイフを投げ一気に距離をつめる
「そこだ!!」
背後から鎧の隙間を狙って斬りかかる
これは騎士のような忠義に重んじた戦いではない、生きるか死ぬかの戦い背後からの攻撃だろ
うがためらいはなかった
「……甘い」
スリティは鈍重そうな見た目とは裏腹に咄嗟に体勢を変え剣を刺し貫く
「ほう……」
奴が貫いたのは私は私でも数秒前の私、さすがのスリティもそれにはおもわず目を細めたのが
わかる。だがスリティがそれに気がついたときには既に私は奴の剣を左手で抑え右手のナイフを首元に突きつけていた
「ティア!」
姉さんが思わず声を上げる、だがナイフを突きつけられたスリティの表情は変わらない
「いくら悪魔じみた力を持ってるとはいえ貴方も人間、速度を落としていた私の動きに目が慣
れてしまっていたようね」
静かにスリティの目が私を捉える。近くで見ると吸い込まれるような紫水晶のような瞳にはや
はりどこか見覚えがあった
「私の力が見たいと言っていたがこれで満足はないな」
返答はない、だが返答の変わりか大きな羽ばたきの音とともにスリティの体を回り込むように
して仮面の天使が飛び込んでくる
(そう来るのはお見通しよ!!)
ナイフを突きつけたまま指を動かし指輪を天使に向けると軽く頭の中で念じる。真紅の指輪が淡く光るとともにナイフと呼ぶには少し大きめの剣が勢いよく飛び出す
「グガガァァァァァァッ!!」
天使の声とは思えないほど醜い声とともに仮面の天使が壁に叩きつけられた。指輪から飛ばし
た剣は天使の左肩に深々と突き刺さっている
「ガァァァァッ!ガァァ!!」
天使はしばらくもがいたがすぐに風船が割れるように弾ける、それとともに部屋中にばら撒か
れて姉さんを拘束していた黒い羽もそれと同時に何事もなかったように消えた
しかしあっけなく失敗に終わった奇襲を前にしてもスリティの表情はまったく変わらない
「観念することね、下手に動けば喉元切り開くわよ」
「ここまでやれるとは思わなかったぞ、だが貴様の命運もここまでのようだ」
「誰が動いていいと言った?誰が喋っていいと言ったッ!?」
剣を動かそうとするスリティの腕を力ずくで押さえ喉元のナイフをさらに近づける、だが警告
を無視して強引に振りほどかれる
「くっ!」
「我が剣は誰にも縛られず!そして貴様の殺意のない剣などに狼狽などするものか!!」
一気に剣を振り上げスリティが叫ぶ。剣からは黒い瘴気のようなものが物凄い勢いで噴出して
きているのが見え、私はそれに魅入られるかのように動きが止まってしまう
(まずい近づきすぎた…!?)
どうやらかなりの瘴気を吸い込んでしまったようだ、体の感覚が痺れて動くことすら難しい
いや、瘴気のせいだけではないだろう…死の恐怖の緊張までもが私の動きを縛る
「…命を散らせ!!」
「残念ですけどそうはいきませんよ!」
姉さんの叫びと共に私の体が真下に落ちる。地面に穴が開いたのではない姉さんの能力である
<扉>が私の足元に発生したのだ
「一瞬遅かったら危なかったわね」
<扉>の出口からすぐに私は飛び出す。壁際にいる姉さんの傍にまで一瞬のうちに移動してい
た、姉さんは能力者と呼ばれる存在でその能力は空間と空間をつなげることのできる<扉>を
生み出すことができる
スリティは剣を振り下ろした状態のままじっとこちらを見据えている、おそらくスリティは姉
さんの<扉>を目のあたりにして警戒しているのだろう
スリティを中心として床にかなり大きな亀裂が入っている、あのまま姉さんに助けられていな
ければ今頃生きてはいなかっただろう
「あれは魔剣スワルツアンド、あれに取り込まれたら私の<扉>でも脱出は不可能でしょうね」
渇望の魔剣スワルツアンド、東の大陸において三大魔剣と呼ばれるほどの強力な力を持った剣
であり剣に物質を取り込むことでその物の力を使用者に与えるという恐ろしい剣
「鬼に金棒ってわけか」
私ははき捨てるように言うと指輪から数本ナイフを取り出す
「とりあえず街に出られたら困るわね、役所のシャオからどれだけ請求書が来るかわかったも
のじゃない」
「ここは二人でやれるだけおもてなしして差し上げましょう、大丈夫ねティア?」
「さっきの瘴気がまだ残っているけど戦えないほどじゃない」
静かにこちらの様子をうかがうスリティの前に姉さんと並び立つ
「面倒だ、二人まとめて果てるがいい」
剣に黒い瘴気をまといゆっくりと近づいてくる、それを迎え撃つ形で私はナイフを構え姉さん
はいつでも<扉>の能力を発生できるように腕を掲げる
止められるかどうかは不安だが止めるしかない、だがそれは意外な形で漆黒の悪魔の動きを止
めた。
「あら?あれは…」
「障壁、か?」
スリティの四方を取り囲むように赤い魔法障壁のようなものが突然現れていた。一瞬姉さんが
何かをしたのかと思ったが障壁を見たときの反応からしてそうでもないようだ、無論私もなに
もしてはいない
「賢しいぞ、この程度で私を止めようなど!」
スリティが障壁に剣を突き立てるが障壁はそれをいとも簡単にそれを弾く
「怪我する前にやめておいたほうがいい、物理、魔力ともに大砲級の威力がなければ壊れんぞ」
突然の声はスリティが入ってきた割れた窓の外からした、そしてすぐに上からロープが落ち一
人の人物がそれをつたって降りてくる
「空間における魔力分布量、属性転換の効率も良さそうだ」
整えられているのか整えられていないのか微妙な髪型に白衣のようなものを纏ったこの人物に
は私も姉さんも見覚えがある。ジークの傭兵時代からの古い仲で今は「インテレス」とかいう
会社の社長をしているシズクという青年だ
「何者だ貴様……」
障壁を前にしてシズクを睨むようにスリティが振り返る。言葉自体は低くゆっくりとしたもの
だったがかなりの殺気がこめられているのがわかる。しかしシズクは平然とした様子だ
「ふむ、悪しき伝説に名前を覚えられるというのもまた一興だな。私は特殊工房「インテレス」
社長のシズクというものだ……で、この状況は何だティア?」
「こっちが聞きたいくらいよ」
思わぬ援軍だが三人でも足りないくらいだ、ロリエンキュールとルミカはジークがいなくなっ
た周辺の調査に行ってるし姫奈は数週間前から武者修行とかにでて屋敷にこれ以上戦える人間
はいない。
あえて救いといえばファラやチャイも朝から遊びに行っているということくらいか、こんな状
況であの子達がでてきてしまったらそれこそ大事に至るからな
「ジークの奴が行方不明だとか聞いたんで話を聞きに来たんだが呼び鈴を鳴らしても誰もでないからな、こうやって屋上から進入したわけだ。しっかしこれはまた騒然としてるな、まさか
かのフランク皇国を一夜にして落城させた暗黒騎士がこんなところにいるとは、まぁこの私が
つくった特殊魔導障壁を試験的につけておいて良かった良かった」
障壁の前に立ちまるで檻に入れられた動物を見るかのように淡々と語る。挑発にしか見えない
がおそらく本人はそのつもりではないのであろう
「そういうのを屋敷の主人に了解なく勝手にそういうのをつけられては困りますが、まぁ今回
は大目に見ましょう」
「いやまだこんなものじゃ…」
こんなものでスリティが止められるものじゃないと直感でわかる、案の定すぐにスリティは剣
を平に返し構えた右手に左手の甲を添える。一瞬ではその構えがあいつの構えと同じという
ことにまではそのときはまだ気がつけなかった
「…私にこれを使わせることになるとはな」
「なっ!」
スルティ体から黒い炎が噴出し障壁内を黒で埋め尽くす、そして障壁の表面から魔力が青白い煙をともなって蒸散する
「障壁を形成している魔力結束を内部から強制解除だと!?」
シズクがおもわず声を上げ後ずさりする、こちらからでも障壁がひび割れていくのが目に見え
「まずいわ!伏せなさい!!」
姉さんが叫んだと同時に私の視界が突如として暗転する。そしてそれが障壁を突き破り噴出し
た黒い炎をだというのを認識できたのは壁に体を叩きつけられた後だった
「くっ……!」
激しく打ち付けた右肩を押さえて起き上がる
「…………ッ!」
思わず私は目を疑った
どうやら姉さんが咄嗟に<扉>の能力で黒い炎から守ってくれていたらしい。そう考えなけれ
ばおかしいほど部屋は酷い有様だった
私が肩を打ちつけた北側の壁以外ほぼ吹き飛んでおり天井を構成していたであろう粉々になっ
た外壁があちこちに散らばり白煙を巻き上げている
姉さんもシズクも瓦礫の下敷きになっているのか白煙でよくわからないが小さなうめき声だけ
は聞こえてくる
「ね、姉さん…」
おぼつかない足取りで前へと歩く
スリティ=クレイド、その強さは予想以上だおそらく今まで私が戦った中で一番強かった
「く……ここまでなの、か」
ぼやける視界ににゆっくりと漆黒の悪魔の姿が浮ぶ、おそらく私はここで死ぬのだろう
白煙から黒い腕が伸び私の首をつかむと高々と持ち上げる
もはや反撃する力も気力もない
「ぐぁ…っ」
「……これがソリチュードストライク、脆弱なりし戦士にはいささか不釣合な技だが若くして
散華を遂げる貴様への死の土産だ」
「ソリチュ……ド」
スリティの発した言葉に思考が止まる。確かにいま奴はソリチュードストライクと言った
(まさか、しかしどういうわけだ…?)
その技には見覚えがある、そしてスリティが現れてから気になっていた誰かに似ているという
違和感……それが今この状況になって繋がるとは
「うっ……ぐ、げ…幻なのか?おまえは…一体!?」
私がふと漏らした言葉に今までほとんど変わらなかったスリティの表情が一転する
「貴様、名もなき者を知っているのか」
動揺したのか拘束が一瞬甘くなるがまたすぐに強い力で壁に叩きつけられる
「知っているのかと聞いている」
スリティの紫水晶の瞳がじっと私をみつめる。間違いない、漆黒の兜から見えるその顔は私の
知っている幻=クレイドと瓜二つ……
「し、知っていたらなんだというんだ。ソリチュードストライクはあいつの技のはず、それを
なんで貴様が使える!?」
「ソリチュードストライクはあいつの技ではない、あれは私の技だ…。しかしまさか貴様が名
もなき者の事を知っているとはな!!」
首を掴まれたまま乱暴に地面に投げ飛ばされ、体を激しく打ちつけ地面を転がる
「『夜風紅葉』……、今の貴様にはこの名前一つで充分だろう」
「やかぜもみじ?誰だ、それは──────ッ!?」
体を起こそうとするが突然頭の中に電撃のような痛みが走る
「くっ!!」
それは体を地面に打ち付けられた痛みとは別の痛みだった
「命拾いしたなティア=マローネ、せいぜいあやつとともにあがくがいい」
スリティはそれだけ言うと踵を返し来た時と同じ黒い硝煙の渦の中に消えていく
(なんなんだ……いった、い)
思うように立ち上がることもできずそのまま私は崩れ落ちるように意識を失った
 
結局屋敷は半壊、異変に気がついた街の住民の通報で幸い姉さんもシズクも大きな怪我もなく
無事救出されたのだがあれからだ、夜風紅葉という名前をスリティの口から聞いた後私の記憶
に別の可能性の世界の記憶が表立って現れてきた
おそらくこうなることをスリティはわかっていて私に『夜風紅葉』という名前を教えたに違い
ないだろう、しかし私が幻と知り合いだからというだけで何故助かったのだろうか?
そして───
横目に幻の方を見る。相変わらずソファに寝転がっているが表情は固い、やはりあいつもなに
かを考えているのだろうか?
幻=クレイドとスリティ=クレイドの事、こいつらの関係は姉さんとシズクのほうでも調べて
もらっているがやはり直接確かめるべきか
「幻、少し話がある」
「んぁ?報酬の件なら費用とは別に計算してくれよ、わざわざ高い魔導船にのってきたんだか
らよ」
まったく返答違いだ、もしかしたらさっきもなにも考えてなかったのかもしれない
「誰もそんな話をしていない、実はだな…」
「す、すいません遅くなりました幻さん!!ティアさん!!」
私の言葉をさえぎって扉が勢いよく開く、そこから顔をひょっこり出したのは私達が待ってい
たセトラ=カートスル本人だった
どうやら聞くタイミングを逃したみたい
「俺達が来ることわかってたんだろ?それにしては随分と遅いじゃねぇか」
「こ、これでも大事なお仕事早めに切り上げてきたんですよぉ」
セトラは息を切らしながら幻の向かいの席にどさっと腰を下ろす。形振り構わず走ってきたの
だろう髪飾りが髪から滑り落ちそうな位置にぶらさがっている
「セトラ、約束もなしに来たこっちが悪いんだから気にするな」
「でも私もお二人に伝えたい事がありましたので良かったです」
「伝えたいことってなんだよ?」
セトラの言葉に幻がようやく体を起こす、最初から人の話を聞く態度ではないな
「かなり難しい話なので要点だけ話しますがお二人が探しているのは夜風紅葉さん、ですよ
ね?」
「話が早いじゃないか、んでそいつはどこにいるんだよ?」
「いえ、私の予知能力では幻さん達は夜風紅葉の居場所を見つけていません」
おもわず私は下唇を噛んだ、まさか私達は夜風紅葉の居場所を見つけることができないなんて
まぁセトラの予知能力で見ているのは私達の未来、その未来で私達が見つけれていないのは
私達の力不足のせいだ。
「なにか手がかりはないのかよ」
「このままの運命の流れなら自然と出会うことになるとおもいます、それはかなり先の未来の
話なので確実とはいいがたいことですが……。」
それじゃ遅すぎる、私の別の記憶の中でも紅葉は最後のギリギリまでその姿を現さなかった
おそらく今回も人形を操って楓の力を充分満たしてから現れるはず、少なくとも私の記憶では
三回目の戦い、紅葉も入念に策を練ってくるのは予想できる
紅葉ではなく楓ならそう探し出すのは難しくないだろうけど……
「すいません、私あまりお役に立てなくて…」
そう言うと申し訳なさそうにセトラが頭を下げる
「まぁ気にするなって、まだなにも終わっちゃいねぇんだぜ……そうだろティア?」
「そうだな、運命なんていくらでも変わりようがある。だがこれから先どこへ向かおうにも
紅葉に先手を取られ続けるのはあまりいいとは思えない」
「……だな」
そこで話は途切れしばらくの沈黙が部屋に流れる
幻はまたソファに寝転がり
セトラはじっと俯いたまま
私はテーブルの少し冷めた紅茶を飲むとソファの背もたれで軽く伸びをする
別段手がなければ実力で探すほかない、セトラの予知はあくまで一つの可能性に過ぎないのだ
からそれは幻の言うとおりまだなにも終わってはいない
だがやはりなにか手がかりになる情報は欲しいのは事実
「……一つ、可能性はあるかもしれません」
沈黙を破ったのはセトラだった、不安交じりに懐から封筒のようなものを取り出す
「んぁ、なんだよそれは…?」
「わわ、ダ、ダメです!!」
幻の手が封筒に伸びるが思わずセトラがその腕を引っ込める
「ちょっと待ってください幻さん、今説明しますから」
「面倒だな、なにが書いてあるんだよそれ」
「ええっとですね」
セトラは立ち上がるとソファの上に土足で上がる、何故ソファの上に立ったのかは不明だ
「私が先ほどお二人に話した未来はこの手紙の内容をお見せしていない未来です」
「それでその封筒はなに?」
「これは今朝この屋敷にお二人宛できた封筒です、差出人は不明……なにか変じゃないですか」
確かに変だ、差出人はどこから「私と幻が一緒にいてさらにセトラの屋敷にいる」という情報
を手に入れたというのだ?
「俺とティアが一緒にいることを知っているやつがいるってことか、何者だ」
「今朝ということはかなり早い段階からこっちの状況を知っているということになるが…やは
り夜風紅葉くらいしか思いつかないな」
夜風紅葉なら別の次元の私達の事から他所から情報を得ずともなんらかの手を打ってくる可能
性はある
「内容は短いです、指定の場所に来るようにと書いてあるだけで他には何も書いてません」
「だぁーいいからさっさとその手紙を見せてくれればいいだろっ」
セトラの煮え切らない態度に釈然としない表情の幻が立ち上がる
「で、ですから!罠である可能性が高いんですよ、それにまだこれをお二人がこれを見た場合
の未来について私は何も掴んでませんし」
「なにもないよりかは全然ましだぜ、罠だろうがなんだろうが俺達はそんなのにやられるほど
弱くはないぜ?俺達は今なんでもいいから情報が欲しいんだ、罠であろうがな」
幻の意志が通じたのかセトラは深呼吸すると幻のほうをじっと見つめ返す
「えっと、あの……わかりました、それでは、げ、幻さん!!う、受け取ってください!!」
何故か顔を赤らめながら手紙を差し出すセトラ、妙におどおどして一見ラブレターでも渡そう
とでもしているかのように見える
「だ、普通に渡せって!!」 
幻は手紙を乱暴に奪い取るとまたソファにどかりと転がり込む。セトラはというとなにか乱暴
に取られたせいか少し不満そうな表情で幻を見下ろしている
「もぅ、女の子からなにかをもらうときの態度としては最低ですよねーティアさん」
「え、あ……そうだな」
急に話を振るからおもわずそっけない返事をしてしまう。正直今はそんなことより手紙の方が
気になるのだから仕方ないだろう
「『翌朝、グバルディン闘技場で待つ。来るも来ないも貴方達のご自由に』か、全くどいつもこ
いつも差出人の名前くらい書けってんだよ、なぁ?」
そう言いながら私に手紙を投げて渡す、差出人を書いてないのは私のときもだっただけに軽く
嫌味が込められてるな
しかし──
こんな手紙に頼るしかないとなるとどうやらこの旅もまた長くなりそうな予感がするな
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プロフィール
HN:
氷桜夕雅
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非公開
職業:
昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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