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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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「あんたなんか…死んじゃえばいいのよ!」
そうかもしれないなぁ。
あれから六時間、気が付けばDVDのキャラクターであるエリスに返事しているほどに精神が病んできてる。
時間は既にもう夜の十一時を回っていた、本来リチェルカーレは昼十二時開店の夕方六時閉店のはず
・・・やはり凄いな天城さんは、あのオタク連中と話が合うって言うんだから。
オレだったら間違いなく五分と話がもたないと思う。
結局天城さんが帰ってきたのはそれから更に三十分ほど後であった。
「いやすまなかったな恭治、だいぶ待たせてしまったな」
「いえ大丈夫です」
黒革のソファにどっしりと深く座り込みタバコを吹かす天城さんはカリスマ性たっぷりだが
すぐ後ろ42型ワイド液晶テレビで流れているDVD「魔法少女エリス」のおかげでその全てが打ち消されていた
「ああ、それで修行のことだが」
「そのことなんですけど先に一つ聞いても良いですか?」
言葉をさえぎる無礼を承知で恐る恐る尋ねる。
天城さんは天城さんだ、それは一年前から変わっていない。オレが憧れた硬派のカリスマ
高校一年で総番になり、高校二年で県内制覇、高校三年で全国を制覇したあの天城さんだ
それは間違いない
だが・・・だがこの萌えだのなんだのってのは硬派とはまるっきり違う、かけ離れている!
修行はする、修行はするけどもなんでこんなことになっているのかここだけははっきりさせておきたいんだ
「まぁ言いたいことがあるならいいぜ、言ってみな」
「あ、あのですね・・・ちと言いにくいんですけど、えっと・・・」
「店長おまたせしました♪黒き魔女の呪いですっ」
ちょうど言葉を発しようとした矢先五葉がトレイに例のホットコーラ二つ乗せて入ってきた
全くなんと言うか間が悪いな、というかホットコーラがメインになっているのも聞き出したいところだなこれは
「そうだちょうどいい、五葉もここに座ってくれるか?恭治が言いたいことがあるらしい」
「はいわかりました店長」
テーブルに二つのホットコーラを置くとちょこんと五葉はソファに座った。硬派のカリスマ
の隣にメイドさんが座っている、やっぱり異常な光景だ。
「で、言いたいことってなんだ恭治?」
「えっとなんていいますか、物凄くシンプルなことなんですけど・・・」
もう言ってしまえ、どうなってもしらない


「天城さん、なんでメイド喫茶なんてやってるんですか?」


なぜかしばらく事務所内に沈黙が流れた。
ただ液晶テレビ内のエリスだけが空気も読まずに喋ってはいたがな
「なんだそんなことが聞きたいのか」
天城さんはタバコを一口吸うと溜息をつくように吐き捨てる。
「単純な話だ、また全国を制覇したくなったってだけだ」
「全国を、ですか?」
「ただ普通にやっても面白くねぇ、そうだろう恭治?」
天城さんの口元がワルっぽく歪む。いやいやでもだからってメイド喫茶はどうなのかと
オレ自身思うのだけど・・・まぁ硬派なので言わないことにしよう。
「以前のリチェルカーレでは底が知れている、そこで考えたのがメイド喫茶さ。でな、この“萌え”っていうのは底が知れねぇ、ビジネスにしてみりゃなんであんな連中が?って奴らが金を大量に持っていてしかもそれを惜しげもなく“萌え”に投資する・・・どうだ面白いだろ?」
「それはまぁそうですけど、いかんせんオレには萌えっていうのがよくわからないというか」
天城さんの言うことは理解できる、だが今まで硬派を目指してきたオレにこの“萌え”なんてものは受け入れがたい
「だから修行するんじゃねぇか。硬派ってのはないついかなるときも動じてはならないんだよ、動じるってことは隙を見せるってことだ・・・戦場じゃその一瞬の隙で死ぬぜ?」
言葉だけなら恰好良いんだけどこれが萌えに対して動じてしまったことに対する事だと思うとなんとも情けない
「確かにそうですね、それで修行っていうのはどのような?」
「そのことなんだが」
天城さんは一度五葉を見るとなにか合図をするように頷き
「しばらく五葉と一緒に暮らしてもらう」
またもとんでもないことを言い出した。
「な、なるほど・・・。」
なんとか表情には出さずに返答する。
そろそろもう“嫌な予感がした”ってパターンはしないししたくない
・・・が、当然ながら心の中では動揺が止まらない。
なんだ一緒に暮らすって!?
チラリと五葉を見やる、目が会うと彼女は静かに笑みを返してきた、なぜこの子は笑えるのか不思議だ、こうゆうとき普通は女の子が反対するものなんじゃないんだろうか
これはもう天城さんと五葉の間でもう話が付いているのは明白だな
「当然なことだがもし五葉に手を出したらバラバラにして山崎川に流すからな」
「それは重々わかってます」
「それじゃそうゆうわけだから後は若い二人でよろしくやってくれ、俺はDVDを見るのでこれから忙しいしのでな」
口早に天城さんは言うとすぐさまDVDの方へ向きなおした、よっぽど見たかったらしい
この「魔法少女エリスDVD11巻、だいぴんち!敵は新人!?」ってやつが
「・・・・・うむ」
様子を伺うように五葉に目配せして見る、五葉は可愛らしく軽く小首を傾げて微笑む
「それじゃ行きましょうか御主人様」
「あ、ああ」
言いたいことが山ほどありすぎて正直もうどうでもよくなってきた
オレのことを御主人様なんて呼ぶメイド服を着たこの子と同じ部屋で過ごす、今回の修行はやり遂げられるんだろうか

喫茶店「リチェルカーレ」は一階部分に喫茶店その奥にキッチン、事務所とあり事務所の横の階段から上にあがると風呂場といくつかの部屋がありその一番奥に五葉の部屋はあった
八畳ほどの部屋にベッドとクローゼット、小さなテレビとペンギンのぬいぐるみ、意外と普通の女の子の部屋だ、メイドなんてやってるんだからもっとこうなんかアニメや漫画が溢れかえってたりするものかと思っていたんだがな
「ここが私の部屋です、あの男の人が入るのって初めて何でえっとあの・・・」
天城さんがいないからか二人っきりになったからか五葉は歯切れ悪く言葉を濁す、オレもそうだが五葉も五葉で緊張しているんだろうな
「いや、オレのほうこそいきなりこんなことになって申し訳ない」
「いえいえ!!謝らないでください、御主人様は悪くないですよ!」
五葉は小動物のようにフルフルと可愛らしく首を振る。それはいいんだがこの修行をしてく
上で言っておかなければならないことを早いところ言っておかなければ
「あのさ、音瀬さん」
「は、はい!なんでしょうか御主人様」
・・・気が付いてないみたいだから放っておくかなんて邪念が出た。いや一種の征服感というかなんというかいやこれは雑念だ雑念、硬派じゃない
「ごめん、その御主人様って呼ぶのはさ、オレ御主人様じゃないわけで」
そこまで言って五葉はようやく「あっ!」と気が付いたようで
「すいません神楽坂さん、お店の感覚で話しちゃって」
「いやまぁ、ちょっと気になって・・・」
「いえ、それでしたら私のことは五葉って呼んでください、私の兄弟多いから苗字だと反応できないんですよ」
「そ、そうなんだわかったよ、とりあえずこれからよろしく五葉」
「こちらこそよろしくおねがいします神楽坂さん」
向かい合って二人揃ってペコリとお辞儀する、お互いの名前を呼んでなにやっているんだろうこの状況。しかもさっきから突っ立ったまんまだし。
「・・・・・・・・・。」
そしてそれから向かい合ったまま沈黙、どうしようどうするべきなんだオレは?
「えっと、あの神楽坂さん?」
それからしばらく、いや大して時間は経ってないんだがオレには凄い長さだった時間が過ぎて話を切り出したのは五葉のほうだった
「あの神楽坂さん、一つ聞いていいですか?」
五葉はオレと目を合わせることなく独白するように言葉を漏らす、その様子にオレはなにか
ただならないものを感じた
「ああ、オレに答えれることなら」
「それじゃあの・・・私の“おまじない”効果ありましたか!?」
おまじない?おまじないっていうとあれかクオーキクオーキなんちゃららって少しだけ幸せになるとか言うあれか
効果なんてなかったな、うんむしろ逆に悪いことは沢山起きた気がする
「いやこれといって効果はなかったかな」
「そうですか・・・」
五葉はがっくりと肩を落し目に見えて落胆しているのがわかった、ここは嘘でも幸せになったっていうべきだったか
「やはり不完全なおまじないだと効力を発揮しないみたいですね」
「はは、不完全とかそんなの関係ないんじゃないかな?」
やれやれなにを真面目に考察してるんだ?
まさか本気でおまじないなんかで幸せになれるとでも思っているんだろうかこの子は?
だからおまじないなんかで幸せになれるわけなら全世界の人が今頃・・・
「そんなことないです!お母さんのおまじないは本当に幸せになれるんですよ!」
言葉には出していなかったが五葉が呟いた一言がさっきまで考えていたことをピタリと止めた
「お母さんのおまじない、なのか?」
「はい!小さい頃お母さんによくやってもらったんです!そうしたら本当にいいことがあって・・・だから私このお母さんのおまじない大好きなんですっ」
おまじないのことを語るときの五葉は子供のように無邪気でそして今日見た中でも一番美しくオレの目には映った
───オレのなかのなにかが弾けた気がした
五葉が一生懸命自分の、そしてお母さんのおまじないについて語っている
それから五葉の言葉にオレはただ小さく「そうか」としか呟けなかった。
馬鹿にしてたさ、ああ馬鹿にしてたなオレは物事の本質も見抜けずに
メイド服なんてものを着たこの女の子、音瀬五葉のおまじない
オレからすればそれは本当にただのおまじないに過ぎない、けど五葉からすればお母さんの
大切な思い出だ
それを馬鹿にしてたとは全然硬派とは言えないじゃないかオレ・・・
知らなかったとはいえもうその普段の心構えから硬派とは言えない

『もし万が一失敗したら全力で速やかにそれを補う行動を起せ』

天城さんの言葉が脳裏をよぎった
オレにはなにができる?オレはなにをすればいい?
考え抜いて出したこのときの言葉がこれからのオレの物語を運命付けることになる
「完全版のおまじないやってみないか、できるんだよね?」
「えっ、完全版ですか・・・できますけど、えっとそのわかりました」
一瞬とまどったように見えたがすぐに五葉はちいさく頷いた
だがこのとき気が付くべきだった。
『なぜ五葉が不完全なおまじない』しかしていなかったことを、一瞬五葉が躊躇ったことを五葉は指をもじもじさせながら一呼吸置くと
「それでは、失礼しますっ!」
と、なぜかオレに抱きついてきた。

「ちょちょちょななななななななななにしてる!?」
流石にもう動じないとおもった矢先にこれか!というか誰だって動じるだろ
「なにって完全版のおまじない、ですよ?」
顔を赤らめながら抱きついてる五葉、そりゃ店でこんなおまじないすれば阿鼻叫喚の状況になるだろうなだから不完全なやつしかやらないわけか
しかしさっきから胸が当たってるし女の子特有のいい香りが理性を無くさせる
まずい、この状況は黙って胸を貸していると思えばなんか硬派っぽいけど誰もそうは見てくれないだろうなぁ
「後はおでこをくっつけて『クオーキ クオーキ キワラケチ ラキサト ラキサト サヲケスタオ』って唱えるんです」
「わ、わかった」
爪先立ちで五葉の顔がぐっと近づく、もう難解なおまじないにツッコミを入れる余裕もない
そりゃ親子ならこんなことしても全然問題ないだろうが年頃の男女がやるとここまで大変なことになるってことだな
して、こうゆうときどうすればいいんだ?正直に言うと生まれてこの方女性とこんなことになったことがないんだが肩とか抱いたほうがいいんだろうか
今のままじゃ両手に鞄を持ってなんか滑稽な姿だが・・・そんなことをする余裕もやっぱりなかった
「そ、それじゃ準備はいいですか?」
「お、おう」
ぎこちない問いかけにぎこちなく答える。おでこがついてるってことはもうキス間近ってわけで濡れた唇が目に入るわ、甘い吐息を感じるわ
これ以上やってたら理性が吹っ飛んじまう
「「クオーキ クオーキ キワラケチ」」
五葉の言葉に合わせるように言葉を呟いていく
「「ラキサト ラキサト サヲケスタオ」」
二人のおまじないが終わる、もちろんなにも起きるわけがない・・・がそれでいいんだ
それがオレが選んだ茨の道なんだ
「あの、ありがとうございます神楽坂さん」
顔を真っ赤にしながらペコリとお辞儀をする五葉を見て思った
そんな茨道もそんなに悪くない
だが冷静になってみてこれから本当にどうなるんだろうな、オレは
「なんか少し幸せになった気分だよ」
とりあえずそう言ってみた、無理な笑顔を作りながら
苦笑いになってなければいいんだけどな

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「ふぅ、退屈だ・・・」
夕刻、オレは川原の茂みに寝転がり一息をついた。
あれからもう一度街の方へ出て行ったがこれといって収穫はなかった。なかったというかそもそもなにかを探しに行ったわけでもないが流石ド田舎桜花町ネットカフェとかホテルとかないとはね
結局その辺をブラブラして行き着いたのが桜花町に流れる川、山崎川だった。
山崎川は他県から続くそこそこの大きさの川だ、まぁ桜花町に入る頃には下流の下流なので
それほどの大きさではないがそれでも川の走る両脇には桜が植えられ春にはよっぱらいが
溢れかえるくらいだ
ちなみにどうでもいいことだが桜花町の桜って言う字はこの春に咲く桜のことではなく桜のことではなくてて
秋桜、つまりはコスモスのことらしい・・・本当にどうでもいい話だったな
話がそれたが今の山崎川は閑散としている、そりゃ秋の夕方にこんなところにいるのはオレ
くらいなもんだろう、でも最悪今日はここで野宿なんだよなオレ
この状況では金はあんまり使うわけにはいかないしなにより今日は日曜日、役所関係もおやすみだ。
最低でも行動するなら明日ってことになる
「後の頼みは天城さんだけど・・・」
「なんだ?俺がどうしたって?」
「えっ!?」
ぽつりと呟いた言葉に返事が来てオレは思わず驚き振り返った
「久しぶりだな恭治」
「あ、天城さん!!」
間違いない!
西日が後光のように照らしてはいるが黒のスラックスに黒のスーツ、バッチリと決めたサングラスとオールバック・・・硬派のカリスマ天城仁さんがそこにいた。
良かった変わってないカリスマのオーラでてる!!
これがもしあのピンクにショックに変わってしまったリチェルカーレのように変わっていないかと内心不安だったんだ
「神楽坂恭治!ただいま一年間の修行より帰ってまいりました!」
飛び上がって芝生の上に正座し深々と頭を下げる。オレにとって天城仁さんはそれだけ大きい存在なのだ。
「お勤めご苦労さん、五葉に電話で聞いたが昼間店に来たんだな」
「いえ!!オレも帰る連絡しないですいませんでした!!」
「気にするな、もし連絡あっても今日の握手会が優先だから同じだ」
・・・・・・はい?
思わずオレは顔をあげた、川原にざぁっと風が吹き抜けていく。
握手会ってなんだ?
「天城さん握手会に行ってたんですか?」
「ああそうだ、恭治お前にも一応土産を買ってきてあるぞ見てみろ」
天城さんはそう言うと手に持っている紙袋をオレに差し出す、某電気店の紙袋だ。
なにか物凄く嫌な予感がする、オレは紙袋を受け取り恐る恐るその中身を覗き見た。



・・・嫌な予感、まさに的中


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
まずは腰が抜けた、マジで本気と書いてマジで。そして思わず素っ頓狂な声をあげていた。
もはやそこに硬派とかそんなものはなかった。
紙袋がオレの手から離れて中身が芝生の上に広がる、そこにあったのは・・・

なにかそのオタク受けしそうなアニメのキャラクターのグッズだった

コミックに小説、ポスターやDVD見ればどれも『魔法少女エリス』というタイトルとともにウェーブがかったブロンド髪の少女が居座っている。
「は、はは・・・」
これは現実なのか?
もはや枯れた声しかでない。まさか桜花高校を三年で全国制覇したりその他色々逸話の
持ち主、あの硬派のカリスマ天城仁さんがこの軟弱な萌えとか満載っぽい『魔法少女エリス』のグッズを持っているこの現実、明らかにおかしい
「恭治、散らかしてるんじゃねぇよ」
「え、あの・・・すいません!」
天城さんの声でハッと我に返り慌てて散らばったグッズを掻き集める。そんなオレを天城さんはサングラスを外し泣く子も黙る鋭い眼光で見つめると、嘆息した
「やれやれ、話には聞いていたが本当にそうだとはな」
「な、なにがですか?」
某電気店の紙袋に『魔法少女エリス』のグッズを詰めながら見上げる。天城さんはぐっと腰を下ろしヤンキー座りの形で座ると俺の頭を鷲掴みにして顔を近づける
「あのな、硬派な男ってのはな多少のことでは動じないんだよ・・・それが恭治、お前はなんだ?」
鷲掴みされた頭に力が入る。それはもう尋常じゃなく力が入ってて物凄く痛いがここは我慢だ。
「それがなんだ?たかがこのくらいのことで腰を抜かし!!」
天城さんの腕に更に力が篭る、それはもう頭蓋骨が砕けそうなくらいの勢いだ
「ヘタレな声を出すような奴が硬派と呼べるのか?お前の一年間の修行ってのはなにしてたんだぁ?」
「す、すいません」
確かにオレの行動は動じまくりだ、硬派とは言えないだろう・・・いやでもちょっと待って欲しい、硬派のカリスマと呼ばれた人が一年振りにあったらオタクになっていた
この状況で動じない人なんて本当にいるんだろうか、いやいるはずもない
「とりあえず全然修行が足りねぇみたいだな恭治、修行の続行だ俺の店に行くぞ」
だがそんな反論を入れる余地はそこにはなかった
なんでこうなったかは知らないがオタク趣味に走っても天城さんは天城さんだったってことだけは鷲掴みのままずるずると引きずられながらでもはっきりと理解できていた。

『わわわっ!冗談よ!本当に死のうとするなんて・・・。やめて、エリスを一人にしないで!』
ブロンドの少女、エリスが42型ワイド液晶テレビの画面内で叫ぶ
オレこと神楽坂恭治は今、なぜだか喫茶店『リチェルカーレ』の事務所でこの「魔法少女エリス」のDVDを見せられていた
このエリスって子は普段は落ちこぼれの魔法少女なんだけどなんでかシーズンの最終回になるとやたら強くなる、ってのはこのDVDを三周ほどしてよくわかった
そしてそのエリス役の声優、鉤宮恵理の握手会とやらに天城さんは行ってきたらしい
・・・で、肝心の硬派のカリスマ天城さんはというとその握手会の土産話をネタに店のオタク連中と盛り上がっている、そうゆうわけでオレは閉店までここでDVDを見せられているってわけだ
なにがどうなっているのかもうわけがわからない、だがこれ以上のハプニングはないだろう
そう思っていたオレに最後の最後でとんでもないことがこの後起きるなんてこのときはまだ
予想できていなかった
 


「いってらしゃいませ御主人様」
五葉の言葉を背にオレは喫茶店「リチェルカーレ」を出た、心地よいカウベルと少し肌寒い
秋の風が心地よく吹き抜けていく
精神的にはどん底だったがな、なんだろうここまで精神的に疲れたのは初めてかもしれない
今さっきのなかったことにはならないんだろうか?
とりあえず心を平穏に家へと歩き出す、オレの実家は「リチェルカーレ」から大通りへ一度出て反対側、
少し奥に入ったところにある一軒家だ
なんでもこの一軒家オレの親父が母さんを嫁にしたいがためにプレゼントしたものらしい
なんていうか変なところで親父はやることがおかしい
並木の並ぶ大通りの信号を越えて角のタバコ屋を左折、しばらくすると家が見えてくる。

「い、家が見えてくるはずなんだがな」

本当そう、本当ならここで一軒家が見えてきてオレが「ただいま」って言って母さんが「おかえり」って
そうゆう感じに進むものだろ?
だがオレの目の前にはあるべきものがなく、奥に広がる田んぼだけがそこにあった
一年ぶりだから道を間違えたか?
そんな淡い期待もすぐに裏切られる
「あらっ!恭くんじゃないの!」
妙に甲高い声が聞こえる、小さい頃から聞き覚えがある隣に住んでいる鈴木さんの声だ
オレより八つ上で昔はどこかのキャンペーンガールをやってたこともあって一児の母親とは
思えないほど美人で今つけているピンクのエプロン姿が良く似合っている
鈴木さんはなぜか更地になっている俺の家のすぐ隣、洗濯物を取り込んでいる最中なのか両手に
大量の洗濯物を抱えていた
「あ、どうもお久しぶりです」  
「恭ちゃん最近見なかったけどどこに行ってたの?」
「いやまぁちょっと修行の旅にでてまして・・・」
「修行?相変わらずなにか面白そうなことやってたのね」
鈴木さんはオレの言葉にクスリと笑う、正直修行の旅なんてちょっとこっぱずかしくてあまり言いたくはない
んだけど実際行ってきたんだからしょうがない。
「あーそれで、あのオレの家ってどうなったんですかね、オレ携帯とか持ってないんで何にも知らないんです
よ」
「そうそうそれなんだけどね、恭ちゃんのお父さん長靴の国に単身赴任になったんだけど奥さんと離れるのが
嫌で家を売り払って一緒に行ったのよ」
「奥さん想いのいい旦那さんですねー」と笑う鈴木さん、いやそこ笑うところじゃないですよ。
長靴の国ってイタリアだよな、栄転なのか左遷なのか知らないけど親父も家を売り払うことはないだろうが、
オレのことは無視かよ
まぁ連絡手段もないままいきなり旅に出ていったオレにも責任はあるだろう
「あ、もし泊まる場所ないんだったら恭ちゃんまた家に来ても良いのよ」
鈴木さんのウインクに思わず身の毛がよだつ、これは語るべきか語らずべきか過去のトラウマなんだが
以前鈴木さんの家にお邪魔することがあってそこで酷い目にあったんだ
それ以来鈴木さんの家に立ち入ることはオレの中で危険度最大級の行為に値する
「いやそれはご遠慮しときますよ」
「えーそれは残念だなぁ、久しぶりに恭ちゃんと楽しめると思ったのにぃ」
そう言って鈴木さんは一児の母とは思えないプロモーションの身体をくねらせる。
というかオレのことを恭ちゃんと呼ぶの止めて欲しい、これでも硬派な男なんですよ
もっと言えば鈴木さんだって下の名前京子だから京ちゃんじゃないか、自分の名前を言ってる感じで
恥ずかしくないのか?
・・・言い出したらキリがないので硬派なオレはそこのところは黙っておこう
「それじゃオレこの辺で失礼しますよ」
「あらそう?お姉さんいつでも待ってるわよ」
鈴木さんに軽く一礼してその場を後にする。鈴木さんの家に厄介になるって選択は今のところ最後の最後だ、
まだ修行の旅で培ったサバイバル能力で野宿っての方がありかもしれない
なんで地元に帰ってまで野宿をしなければならないのかもわからないがな
「はぁまったくなにが幸せになるおまじないだよ」
だたっぴろく広がる田んぼ道を歩きながら思わずぼやいた。
音瀬五葉のおまじない、今日日おまじないなんてもので幸せになれるんだったら今頃全世界幸せだ、
それでもほんの少しあんな安易で幼稚なおまじないを信じてたオレがいる
「御主人様、今から少しだけ幸せになるおまじないを教えますから一緒にやりましょう」
そう言った五葉の顔が思い浮かぶ、穢れのなく笑ったあの顔が
ただなにかのせいにしなければいけないくらい苛立っていたのかもしれない、それがあのできそこないの
おまじないだった、それだけだ
「しょうがない、今度会ったら文句でも言ってやろう」
気持ちは既に切り替え終わった、流石オレ硬派だね・・・でも文句を言うのは硬派でない気もするがまぁいいか

それからしばらく経った。
五葉がキッチンから何度か出てきてはオレへ嫉妬の目を向けていた客の相手をしてくれたおかげもあってとりあえず店内は平穏な時間が流れていた。
「おまたせしました御主人様、黒き魔女の呪いです」
五葉は一通り店内の客の相手をしたのち最後にオレの頼んだ“黒き魔女の呪い”をテーブルへ運んでくる、透明なグラスに湯気を立てた黒い液体そこに浮かぶレモンの輪切りはどうみてもコーラにしかみえない。
「このコーラ、もしかして温かい?」
「はい、リチェルカーレ一番人気黒き魔女の呪いはホットコーラになります御主人様」
オレの知らない間にホットコーラが一番人気になってたとはな。というかなんでホットコーラみたいなかなりレアな飲物がメニューの中で一番人気なんだか・・・まぁ一番人気というだけで少しは気になってくるが
「それじゃまぁ頂くとしますか」
「あ、ちょっと待ってください御主人様」
ホットコーラなんて飲んだことがないので思わずどんな味だろうと期待して伸ばした手を
なぜか五葉はピシャリと止めた。
「おまじないがまだ終わってません御主人様!」
五葉の口から出た『おまじない』という言葉・・・なにか直感的に嫌な予感がした、ついでにいうと名前を教えたはずなのに結局御主人様なところに色々言いたかったがそれはとりあえず置いておこう。
「御主人様、今から少しだけ幸せになるおまじないを教えますから一緒にやりましょう」
「い、一緒に?」
「はいっ!」
恐る恐る尋ねてみたが問答無用で五葉は肯定してくれた、いやちょっと待てちょっと待て!
この店でいう御主人様ってのはオレのことだろ?それでなんだ『少しだけ幸せになる』というおまじないを今からかけるわけだ一緒に・・・一緒っていうことはあれだオレもやるんだ

「まじか・・・」
思わず顔を片手で覆い呟いた。
指の隙間から見える五葉はなんだか物凄く楽しそうに見える。
いや五葉や店の客はいいだろう、これが楽しいんだから・・・がオレはどうなる?
オレこと神楽坂恭治はこの一年間硬派な男になるために修行をしてきた男だ。今でも目を瞑れば思い出す過酷だった修行の旅の日々を
滝に打たれたり、滝に打たれたり、滝に打たれたり
なぜか滝に打たれた思い出しか出てこないがともかく頑張ったんだ、今更こんなところで
女子供がやるようなおまじないなど硬派に生まれ変わったオレがやれるわけもない
だが、もう一つ考えれることがある。

『硬派な男ってのはな、黙って女の頼みを聞いてやるもんだ』

硬派のカリスマ天城仁さん語録にこんな言葉がある。つまりはこの言葉の通りならオレは
五葉と一緒におまじないをやるってことだ。
どっちだ?正直言うとやりたくない、が天城さんの言葉の通りならやるわけで
悩むぞ、凄く悩む。
いやしかしこの悩むって行為自体が硬派ではないのではないのか?
「どうかなさいましたか御主人様?」
五葉、そして店内の客の目がオレに集中する。
恐るべしメイド喫茶、硬派のオレここまで追い詰めるとは・・・もういい、やってやるさ

『迷ったら茨の道を行け』

硬派なオレ語録その壱、今作ってみた。
「おまじない、やってやろうじゃないか!」
「はい、それじゃおまじない教えますね」
オレの一世一代?の決意も五葉からすれば他愛もないことのようであっさりと返された
「おまじないは『クオーキ、クオーキ、キワラケチ』です、これを唱えながらグラスの淵をなぞるんですよ」
「く、くおーき?」
どこの国の言葉だ?いやどちらかというと小さい頃にやったゲームのパスワードみたいな
感じだ、思えばよくノートに汚い字でパスワード書いてそれが間違ってて・・・まぁそれはどうでもいいか
「覚えれますか御主人様?」
「大丈夫だ、硬派なオレに不可能なことはない」
言葉だけ恰好をつけてみたがやるのはおまじない、なんていうか微妙だ。
右手の人差し指をグラスの右端に合わせる、それに合わせて五葉はグラスの左端に合わせた
「それじゃいきますよ御主人様」
五葉の言葉に小さく頷く。
とりあえずこの茶番が終わったら一旦実家に帰ろう、天城さんは携帯電話は持たない主義の人なので直接会う他連絡を取る手段はないし夜まで待ってまたここに来ればいいだろう
「「クオーキ クオーキ キワラケチ」」
オレと五葉の言葉が重なり合い、グラスの上で二人の指が踊る、なんとも言えない不思議な感覚だ
こんなことで本当に少しだけ幸せになれるのかどうかそれはちょっとわからない。
しかしオレの中の硬派のレベルががくっと下がった、これは間違いない気がする。

「あ、あの御主人様どうかなさいましたか?」
「え、ああ・・・いや別になんでもない」
飛躍した思考がメイドの言葉で一気に現実に引き戻された。
「それではお席にご案内しますね」
メイドは軽く微笑み踵を返すとすぐ近くの窓際の席に案内される、奇しくもオレが通いつめていたときにいつも座っていた席だ
まぁ過去の思い出は既に崩壊しかけているがな。
ここから眺めていた以前の店内は黒色彩のシックで落ち着いた感じであったのが、なんということでしょう・・・今は一面ピンク柄のとても硬派のオレには落ち着けない店内になってしまっている。
そして見渡せばお客は見るからに貧弱で軟派なオタクばかり、これがオレの憧れている天城さんの店だなんて信じたくはない
「ご注文はお決まりでしょうか御主人様?」
先程案内をしてくれたメイドが注文を取りにきたようだ、いやもしかしたらこの店の店員は
目の間にいるこの女性一人か?さっきから他の店員がいる様子は見えない、元々店には席が
四つしかないためまぁ一人でも対応できるんだろう。
しかしさっきはあまりにも突然だったのでよく見ていなかったがこのメイド、かなりの美人
だ。・・・が硬派なオレにはこのメイド服と呼ばれる代物は全く受け付けない!
とりあえず目の前のメイドのことは置いておいてとりあえずメニューを開く。
「・・・・・・なんだこれは」
メニューに並ぶ文字を見てまた混乱しそうになる、そもそもこれらはメニューなのか?
天使の涙、天高く昇る剣士の夢、黒き魔女の呪い・・・横に値段が書いてなきゃ食い物かどうかすら怪しいラインナップだ
「じゃこの黒き魔女の呪いを一つ」
多分黒い飲み物、コーヒーかなんかだろう・・・しかし食べ物に「呪い」とか書いて大丈夫なのかこの店
「黒き魔女の呪いですね、他にご注文はありますか御主人様?」
「いや、とりあえずないです」
なまじ変なものを頼んでもな、ここは落ち着いてコーヒーでも一杯・・・
ちょっと待て、そもそもオレはなにしているんだ?
別にメイド喫茶にお茶を飲みにきたわけではない、目的を思い出せ
「それでは少々お待ちくださいませ御主人様」
「あ、ちょっと待って」
キッチンのほうへ戻ろうとするメイドを呼び止める、なんか入店からの流れで席にまで着いてしまったがそもそもそれすら必要ないじゃないか
「どうかなさいましたか御主人様?」
この語尾に毎回『御主人様』をつける女性と天城さんにどんな関係があるかオレには想像できないがなにか手がかりくらいは得られるはずだ
「突然ぶしつけな質問で失礼だけど天城仁さんって知ってます?」
流石にこの質問はあまりにも突然すぎたか?
メイドも一瞬あっけに取られた様子だったがすぐに
「はい、この店『リチェルカーレ』の店長さんです♪もしかしてお知り合いの方でしたか?」
にっこりと笑って答えた。
オレは全然笑えなかった、まさか本当にあの硬派のカリスマ天城仁さんがこの店内ピンク一面なメイド喫茶をやっているなんて
だが信じるしかないないだろう、いくらなんでも同姓同名とは考えられない
「知り合いというかまぁ弟子みたいなもので、ところで天城さんは今どこに?」
弟子なんて言ったもんだからまたメイドは不思議そうな顔をしたがすぐに
「店長なら朝から出かけてますね、多分夜にならないと帰ってこないと思います」
と答えた。
「そうか、ありがとう」
店内の時計はまだ昼の二時を指している、一年前なら平気で店内で待っているんだが正直
メイド喫茶と化してしまったこの状況では小一時間と待てる気がしない。
「あのぉ、御主人様」
「ん、ああ・・・なにかな?」
メイドの問いかけに少し気だるそうに答える。こういっちゃあれだがオレとしては聞く事は聞いたんだしもうこのメイドと話すことない。
いや、なんていうかさっきから店内の客がじぃっとこっちを見ているその視線が耐えられないのだ。この目の前にいるメイドが目的なんだろうがその中にはじとっと湿ったオレへの嫉妬の目っぽいのも混じっている気がする、やめてくれ本当に
「お名前聞かせてもらってもよろしいでしょうか?私はえっと音瀬五葉って言います」
メイド───音瀬五葉───は微笑む。その笑みは別にメイド好きではないオレでも一瞬ドキッとなるくらい可愛らしい、それに伴って周りの客からの視線が一層痛く感じたがな
「オレは神楽坂恭治だ、まぁよろしく」
「はい、よろしくおねがいします!」
そんな客を無視して五葉は軽くお辞儀をすると「それでは少々お待ちくださいませ」と言い残しキッチンへ戻っていく。その動きとともに客も目で五葉を追っていくがやっぱり数名はじぃっとこっちを睨みつけてきている。
「はぁ、やれやれだ」
オレはとりあえず目を合わせないようにして深く溜息ついた

プロフィール
HN:
氷桜夕雅
性別:
非公開
職業:
昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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