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日記と小説の合わせ技、ツンデレはあまり関係ない。 あと当ブログの作品の無断使用はお止めください
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悪魔の契約


今日、僕は悪魔と契約した。
インターネットショッピングで5000円、結構安かった。というか悪魔もこの不況のご時勢だと命だとか魂だとかじゃなくて現金で契約できるらしい、なんか変な感じだ
『お急ぎ便を選んでいただくと+315円で本日のお届けになります!!』
そんな謳い文句を軽くスルーして僕はマウスを操作し注文を確定した
通常配送?配送なのかはしらないがとりあえず普通に注文したので3日後に悪魔は来るらしい

「三日後か、ちょうどいい・・・復讐は寝かせれば寝かせるほど強い力を発揮するんだからな」
意味不明な独り言とともに僕はPCのモニターだけ切るとベットに横になった


三日後、契約した悪魔とやらは別段部屋の窓をぶちやぶってとかそうゆうんじゃなくて普通にインターホンを押してやってきた
「あ、どうもっス。一応契約した悪魔っス」
その一言と金髪、耳にはピアス、チャラチャラしたその格好・・・一目で見て嫌悪感を感じた
「あ、もしかしてゴスロリチックな美少女悪魔とか期待してたっスか?それでいて契約と称して肉体関係を持つとかそんなの想像してた?」
「し、してないわ!!」
「そうなんすか?俺は契約した相手が男だからちょっとショックッス、俺ノーマルなんで男に興味ないし」
そう言いながら見るからに落ち込んでるといわんばかりにがくんと悪魔は頭をたれる
ショックなのはこっちだってのに、いやなんでもない
「ぼ、僕は復讐を頼みたいだけだ、そうゆうゴスロリとかには興味ない!」
「復讐・・・おーそりゃ面白そうっスね、それじゃ中で話し聞かせてもらうっス」
僕の言葉にバッと顔を上げると嬉しそうにズカズカと僕の部屋にあがっていく
「・・・・・・大丈夫なのかよ、本当に」
その後ろ姿を見ながら僕は正直買い物失敗したんじゃないかと思っていた

あんなチャラい男に僕の復讐が理解できるのか?
「あの女、僕に気がある振りをして近づいてきて結局のところ自分のところの商品を売り込みたいだけだったんだ!結局商品を買ったらそれっきり全く連絡もしてこないし、騙されたんだよ僕は!」
「へぇーそれで復讐ってわけですか」
息巻く僕の言葉にチャライ悪魔は麦茶を一気に飲み干すと下品なゲップをして一言
「いやでも俺前科とかつくの嫌なんで復讐とか犯罪行為は無理っス」
よもや悪魔とは思えないことを言い出しやがった
「ふざけるなよ、お前悪魔だろ」
「そう言われても先輩達が結構昔に色々やらかしたっスからね、今じゃ規制が厳しいんっスよ。復讐とかそうゆうのやったら仕事できなくなるんで」
「クソッ!なにが規制だよ・・・、大体ネットショッピングじゃなんでもやりますって書いてあったぞ!」
僕は声を荒げるが悪魔は全くもって平然とした様子で
「いやそりゃ風俗でなんでもしますって言われてなんでもやっちゃたら裏から黒服でてきちゃうっしょ、それと同じっス。そもそも規約にはちゃんと書いてあったっスよ」
「む・・・そうなのか」
思わず押し黙る。注文したときにはイラついて自棄酒してたのもあってそんなところ見ちゃいない
規約を見てないのは悪かったがでもなんかこのチャライ悪魔に言われると無性に腹が立つ
「じゃあお前なんだったらできるんだよ!こっちは5000円も払ってるんだぞ!」
「んーそうっスねー」
悪魔は脳みそあるのかないのかわからない頭をぐわんぐわんと左右に揺らす。
そしてしばらくしてなにかをひらめいたのかポンと手を叩いた
「それじゃ特別サービスで可愛い美少女紹介するっスよ、そんな女の子こと忘れちゃうくらい可愛い子なんでまかしといて欲しいっス」
「いや可愛い子を紹介してくれるのはいいんだが、僕は復讐を・・・・」
「まぁまぁ知り合いなんで好きにしてもらっていいっスから、送信っと」
俺の言葉を無視して悪魔は携帯のボタンをポチっと押すとさらっと一言
「あーそうそう一つ気をつけて欲しいっス、彼女肉食なんで」
「は?肉食・・・?」
「そう肉食っスよ、でも滅茶苦茶可愛いんで安心してくださいっス!!」
グッっ指を立てる悪魔、その顔だけ妙に悪魔らしく僕の目には映った
  

                                    


                                                 つづかない
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二人だけの楽園 二人だけの地獄

「くそっ!どうなってやがる!!」
力一杯に操作パネルを叩く、だがそんな俺の心情を逆なでするように
「───当艦の操作パネルを乱暴に扱わないでください、ベルムハウンド号クルー 役職艦長代理 ヤシロ 総合評価をマイナス1します」
目の前のモニターは定例的なエラーメッセージを呟く、はっ・・・一体今日だけでどれだけ評価が下がるんだよ
俺は一気に息を吐き、その後にがなる声で叫んだ
「PCT2!何度も言うが航行ルートがずれている、俺の計算ではこれでは地球に着くことはできない!俺の意見を聞いて航行ルートの変更をしてくれ!!」
俺の叫びにベルムハウンド号を統括するメインコンピューターであるPCT2がモニターにイメージ画像である碧色の髪の少女を映し出し淡々と答える
「“何度も言う”ナンセンスですねヤシロ。これはカテゴリー1『有機生命体』に属する貴方達の悪癖です、何度も言うことで答えが変わる可能性があるのは同じカテゴリーである貴方達の中だけです」
聞く耳持たないってのはまさにこうゆうことを言うんだな
「実際に航行ルートが徐々にだがずれているんだ!今修正しなければ取り返しの付かないことになるぞ!」
「航行ルートは正常です、これの変更は艦内の秩序を乱す非人道的行為を引き起こすものとして許可できません」
「ったく、これだから0か1かの頭でっかちカテゴリー2『機械』は嫌いなんだ!!」
力任せに操作パネルを足蹴りにする、それに反応したPCT2の答えは
「暴言、暴行、艦長代理ヤシロの総合評価をマイナス2します」
と言うだけで直ぐにモニターから姿を消しやがった

このベルムハウンド号は人間が住む事ができる惑星を探しそれの調査のために長い旅を続け
そして数年彷徨ったのちに俺達はほんの数日前ついに人間が住む事ができる惑星を見つけ出した。気候、重力・・・それはなにをとっても人間が住むに完璧といわざるを得ない惑星だった
そこでの調査を終え俺達は勝利の凱旋のように地球に帰るだけだったはずなんだ
かつての栄光を人間達の世界を取り戻すんだと息巻いた途端───
突然俺達のリーダーである艦長が死を遂げた。原因は衛生班の解剖でも不明・・・ベルムハウンド号統合航行コンピューターであるPCT2はその時点での艦内総合評価の高い俺を艦長代理として選んだわけだが
「よくこんな奴と組んでて平然としていられたよあの人は!」
恨み言のように呟く。それとほぼ同じくらいのタイミングで俺のいる中央管理室の扉が開き女性が入ってくる
「ヤシロさん、こちらにいらしたのですね、珈琲を淹れてきたので休憩しませんか?」
「ああ・・・セツナか、悪いが珈琲を飲んでる暇はないんだ」
珈琲の良い香りとともに入ってきたのはお下げ姿に瓶底メガネが印象的な生物化学班のセツナだった、テーブルにトレイを置くとセツナは俺の作業を覗き込み呟く
「なにをなさっているんですか?」
「航行ルートの変更だよ、毎日若干だがずれているんだ」
自動航行の変更が無理なら手動航行に切り替えてでもルートを変更しなければならない。俺は百科事典ほどの厚さのマニュアルのページを捲りながら答える
「ずれている?そんなPCT2は完全完璧なコンピューターですよ」
「完璧だから自分の間違いを認めないんだよ。そうだちょうどいいセツナ、サエキさんを呼んできてくれ」
サエキさんはこのベルムハウンド号でもかなりの古株で設計段階からいるメンバーの一人だ
こんな無駄に分厚いマニュアルを読むより彼に聞いたほうがこの艦のことを知るには手っ取り早い
「サエキ、サエキ・・・ええっと誰でしたっけ?」
「誰って、整備班長のサエキさんだよ!」
この艦に乗っていてサエキさんのことを知らない人間はいない、なにをぼけていやがるんだこいつはと思ったが
「整備班長、ああ・・・あの人のことですね」
のんびりとした口調で答えるとぽんと両手を合わせるセツナ、そして───
「あの人ならさっき死にましたよ」
予想だにしない言葉を口走りやがった、思わず俺は航行マニュアルを落としそうになりながらセツナに問い詰める
「は?死んだ?そうゆう悪い冗談はよしてくれ」
「冗談じゃないですよ、脈もしっかりとって死んでいるのを確認しましたし・・・艦長と同じ水銀中毒での死亡です」
・・・サエキさんが死んだ?あの「俺はな、戦場でたら毎回ロボットどもを千体もぶっ壊してきたんだぞ」が口癖の殺しても死ななそうなあの人が?
「というか艦長代理は俺だぞ、なんで報告が来ていない!!」
「まぁ、ついさっきのことですから」
「ついさっき!?ふざけるなよ、遺体をこの目で見るまで信じられるかよ」
セツナの脇を抜け外へ出ようとするがなぜか扉のロックがかかり外に出ることはできない
背中に冷たい汗が流れる、なにがなにがおこっている?
「PCT2!なにを勝手にロックしている、解除しろ!!」
苛立ちながら叫ぶがPCT2は全く持って反応しない
「いい加減にしろよPCT2!俺は艦長代理だぞ!」
「まぁ艦長代理はアクマデ艦長代理ですから、艦長である私の権限なしには実権はないようなものですよ」
この状況でも相変わらずゆったりと喋るセツナの言葉に扉の開閉レバーを動かしていた手が止まる
「艦長、なんだ艦長って!!」
「ああ、まだお伝えしてませんでしたっけ?私が今この艦の艦長なんですよ・・・。それとあまりに数が多いんで言ってなかったんですけど死んでいるのはサエキさんだけじゃないんですよ」
「おいおいおいおいおい!!!!どうゆうことだよ、もうなにがなんだかわからねぇー!!」
セツナが艦長?まして死んでいる奴が他にもいる?状況が全くわからない
状況が把握できなすぎて混乱しながら叫ぶ俺にセツナは変わらず暢気に答える
「ヤシロさん、安心してください今の乗組員がどれだけいるかはPCT2が把握してますよ」
セツナの言葉に無視を決め込んでいたPCT2がモニターに再び姿を現す
「ベルムハウンド号 乗組員は全二名。艦長代理 ヤシロ 総合評価マイナス216 艦長 セツナ 総合評価255 以上」
PCT2の冷たい機械音が部屋中に響く、その言葉に満足そうにセツナは笑う
「今この艦にいるのは私とヤシロさんだけなんですよ、そして総合評価からしてPCT2が私を艦長に選んだのは必然」
「嘘だろ?」
思わず聞き返してしまった。おかしい、そんなはずはない、だって今朝のブリーフィングでは皆生きていたじゃないか!

───これで俺達ヒーローになれるぞ!

───これで奴等の指示に従う必要は無くなる!!

───皆、地球まで頑張ろう!!

そう楽しそうに語っていたあいつらが俺が中央制御室に入って数時間しているうちに死んだ?受け入れたくない、この目で見るまでは
「くそ!開けよコラ!!」
乱暴に開閉レバーを動かすが一向に開く気配はしない
「ヤシロさん、開いたとしても誰もいませんよ。皆私が簡単な宇宙葬ってことで艦外へ遺体を捨てておきましたから」
「・・・・・・。」
セツナの言葉にもはや驚くことはなかった。いちいち驚いてもいられなかった
ただじっと向き返し憎き相手を視界に入れる
「・・・艦長を殺したのもお前だなセツナ。あの人の死亡原因は不明だったはずだ、それをお前はさっきサエキさんの死亡原因を『艦長と同じ水銀中毒』と言った。衛生班でもわからなかった死亡原因をなぜお前が知っている?お前が艦長を殺した犯人だからだ!」
「ハンニン?いやだなぁヤシロさん、私は犯人じゃありませんよ?犯人は・・・」
セツナは操作パネルを操作しだすとモニターのPCT2が語りだす
「セキュリティレベルA 艦長のみが閲覧可能です。 案件:航行ルート変更 当艦は既に発生源不明のカテゴリー3 『金属生命体』に支配されています。メインコンピュータの私はこの状態のまま地球に帰還することは危険とハンダンシコウコウルートをヘンコウシ・・・・・・・・。」
PCT2はそれだけを言い残し完全にモニターから姿を消した、いやセツナがモニターを消した
なるほどお前もセツナの被害者だっんだなPCT2!
「安心してください、この子達は私と貴方は絶対に取り込むことはありませんから」
「セツナ、お前が造ってばら撒いたんだな!」
「そうですよ、マーキュロクロムって言うんですこの子達」
「だったら皆を殺したのは・・・悪いのはやっぱりお前じゃないかセツナ!!」
俺は叫ぶがセツナは全く意に介さず薄っすらと笑みを浮かべたまま呟く
「悪い?悪いのは私じゃなくてヤシロさん達なんですよ?」

───クルーの方々はあんな地球と似た惑星を見つけたのが悪い

───艦長は私が航行ルートを変更したのにいち早く気が付いたのが悪い

───そしてヤシロさん、貴方は

セツナは眼鏡を外し、髪留めを外すとゆっくりと服をはだけさせていく
「私に恋心を抱かせたのが悪いんです。地球になんか帰りたくないんですよ、この二人だけの楽園で永遠に愛し合いましょう?」
俺は黙って腰のホルダーから銃を引き抜き構えた
「───俺にとっては地獄だよ」

 

                                                 END
 


ラブ@ポーション 光導き書、そして全ての過去にさよならを

「スレート、貴方吸血鬼と戦ったことある?」
澄み切った満天の星空の下、焚き火の向こう側に座るスレートに私は問いかけた
「一度あるな、ただ教会の協力の下数十人体制でようやく一体といったところだが」
火で炙った干し肉を豪快に頬張りながら言うスレートに思わず嘆息する
「それ私達だけじゃ絶対に無理ってことなんじゃないの?」
「ふむ、確かに無理だな。だがセルリアン、君が無策で飛び出すとは思えないが?」
確かに無策ってわけじゃない、私はこの間エルフ族の行商人シャトルーズから買った魔術書を取り出す
「貴方が教会の力を借りて倒したって言うんなら私はエルフの力を借りて戦うまでよ、まぁ戦う必要がなければ一番良いんだけど」
そう言って私もスレートに習って干し肉を齧る。スレートは最近狩りだけに飽き足らず狩ってきた獲物を燻製にすることを趣味にしだしたのだが・・・これが実に私の口に合わない
「なによこれ、この前と全然変わらないじゃないパサパサして不味いわ」
「変わらないというか干し肉とは本来こうゆう味だ、それで確認だがやはり明朝行くのだな?」
干し肉を租借しながら小さく頷く。全く知らない吸血鬼ならいざ知らずあの子が吸血鬼になったというのなら私がやらなくちゃいけない、それがどんなに無謀な戦いと言われようとも
「ったく、私に出歩かせるなんて立場をわきまえなさいよねあの子も」
私は嘆息し、懐から一通の手紙を取り出すとそのまま焚き火の中へ放り投げた


明朝───私達は郊外にひっそりと佇む屋敷の前に立っていた。屋敷といっても庭は雑草で荒れ放題で、壁は至る所が朽ち果ててもはやあの頃の面影はない
「今となってはただの廃墟か」
感情を込めずに呟くと長く伸びた蔓を掻き分け中に進んでいく
「しかしこんなところに屋敷があるとはな、大分朽ち果てているようだが」
「ここは八年前までの私の家よ」
振り向くことなくただそれだけ言うと私は歩いていく。スレートはその言葉になにを感じ取ったようで私の後ろを付いて歩きながらただ静かに呟く
「なるほど、となるとその吸血鬼とやらは君の知り合いか。ならば君が突然飛び出したのも理解できる」
「・・・・・・。」
スレートの問いに無言のまま私は古びた木製の扉を開けた
屋敷の中は外の明るさとは裏腹に光の差し込む余地などなく飲み込まれるくらい真っ暗な世界が広がっている。
まるでどこまでも深い心の闇のようだ───
「気をつけろセルリアン、物凄い魔力の流れを感じる」
「そんなこと騎士・・・じゃなくて狼男のあんたに言われなくてもわかってるわよ」
そう言い腰から白銀の剣を抜き構えるスレートに私も懐中のフラスコを握り締め
「隠れてないで出てきたらどうかしらエクル!」
闇に向って昔の使用人の名前を叫ぶ
「・・・お久しぶりです、お出迎えが遅くなって申し訳ございませんでしたセルリアンお嬢様」
闇の中から答えは直ぐに返ってきた。そして一つ、また一つと蝋燭の火が闇の中に現れ答えを返した人物の姿が闇の中から浮かび上がっていく
「そうね、久しぶりエクル。貴女のお望みどおり来てあげたわ」
エントランスの中央にエクルは静かに立っていた
紺のワンピースに白いエプロンドレス、そして肩ほどまで伸びたベージュ色の髪
エクルの姿はあのとき私が最後に見たときと変わっていない、ただ一つ吸血鬼になった証とも言える深紅に染まった瞳を除いては
「ありがとうございます、ですがその様子ではどうやら私の望みは叶えられそうではありませんね」
「その通りよ、あいにくと貴女のお仲間にはならないわ」
「そうですか・・・それは残念です」
私の言葉にエクルは丁寧に御辞儀をすると私に背を向けてエントランスの中央階段をゆっくりと歩き出す
「それでもこうやってお嬢様が会いにきてくれたことは嬉しいです。覚えていますか?お嬢様が私に初めてお声を掛けてくださったときのこと」
「さぁ、覚えていないわねそんなこと」
私は冷たく言い放つがエクルは変わらぬ様子で続ける
「『ねぇシンクという方が気になるのだけどどうしたらいいかしら?』そう私に話し掛けられたんですよセルリアンお嬢様は」
ああ───そういえばそんなこともあったな
たがもうそんなことどうだっていい。私は薄っすらと脳裏に浮かぶ記憶を拒否するように頭を横に振る
「お嬢様はあの時シンク様のことが好きで・・・でも声を掛けることもできずいつもただずっと遠くから見つめてられるだけでした。でもそれ以来夜になるとお嬢様は私の部屋によくいらっしゃって二人でどうやって話しかけるかとか、デートはどこに行くか語り合いましたよね・・・あの頃はとても楽しかったです」
「全く八年前のことをよく覚えているわね」
「私にとって人間だった頃の最後のいい思い出ですから」
そう告げるとエクルは階段の途中で足を止め静かこちらを振り返る
最後のいい思い出か、確かにそれは私もそうだった
私とエクルの思い出がその後どうなったのかの答えはこの廃墟と化した屋敷が物語っている
「あの日、お嬢様のお父様・・・ディースバッハ様が国家反逆罪として死刑にされてから私とセルリアンお嬢様の運命は変わってしまった」
そうだ、あの日から私は人間が嫌いになったんだ・・・ずっと無罪を訴え続けたまま死んだ父さん、私の目の前で一方的に嬲り殺されたお母さん、そして最期まで私を逃がそうと必死になってくれた兄さん
「セルリアン、ディースバッハ卿の件に関しては一部の人間の独断で───」
「別にあんたが気に病む必要はないわよスレート、国の判断は間違ってない・・・父さんは実際に高官という役職に就きながら他国と結託し反乱を起そうとしてたのだから」
スレートが心配そうに声を掛けるが、私はローブを裾を握りしめながらただ真実を呟く
そう無罪を訴え続けた父さんは実際には私達を欺き騙していた、そしてそれを最期まで信じた母さんや兄さん使用人達は無残に殺された
同族である人を平然と殺す者、自分の保身のためには肉親さえ平然と裏切る者
そのとき私にとって人間なんて信じるに値しない者ということがはっきりとわかった
───人間なんて嫌いだ
「でもエクル、貴女よく無事だったわね」
「無事?無事なんかじゃありませんでしたよ・・・なんだったら私もあのとき殺されればよかったのに」
エクルはじっと目を閉じ首を横に振る
「私、混乱に乗じた賊に捕らえられて乱暴されたんですよ。少し前までお嬢様とどうやったら好きな人に話し掛けられるかなんて乙女みたいなこと言ってた私がです」
その言葉に私の心のどこかがぐっと熱くなるのを感じそして苦しくなる
「あいつらのアジトで朝から晩まで来る日も来る日も犯されつづけ、必要なくなったら私は娼婦の館に売り飛ばされました」
「・・・・・・くっ」
言葉が出ない、何を言えばいいのかわからないままローブの裾を握り締める力だけが更に篭る
「逃げることも死ぬこともできずそれから私は娼婦として八年間を過ごしました。心も涙も当に枯れましたがそれでも今私がここいれるのは私を救ってくれた二つの希望があったからなんですよセルリアンお嬢様」
「二つの希望?」
鸚鵡返しのように呟くしかない私にエクルはただ静かに頷く
「数ヶ月前、私は娼婦の館で一人の少女と出会ったんです。彼女の名前はエメラルド、娼婦の館にくる者は誰もなにかを背負いその表情は暗く沈んでいるというのに彼女は鮮やかな緑色の髪と同じくらい明るい方でした」
「エメラルド・・・」
エクルの口から出た意外な人物の名に私はただ驚くしかなかった。忘れもしない短かったがあの子と過ごした日々のことは
あの子は街が好きだった。街で何をやっていたか・・・私はそれを知っていながら最期まで見てみぬ振りをし続けた、あの子は元々そのために造られた存在だ自然とそこに行き着いたのも無理はない・・・因果とはそうゆうものなんだ
「彼女はいつも楽しそうに話していましたセルリアンお嬢様のことを。彼女からセルリアンお嬢様が生きているということを知れたのが一つ目の希望、そして───」
エクルは足元のナニカを掴み上げるとこちらに放り投げる。ゴロゴロと音を立てて私の足元まで転がってくる・・・それがナニカ、気が付いたとき
「───ッ!」
息が止まった、それは紛れもない人間の頭部だったからだ
「二つ目の希望は私にこの吸血鬼の力を与えてくれたあの方。今お嬢様の足元に転がっているそいつはあの日私を力任せに屈服させ無理矢理汚物を咥え込ませた賊の一人です、でも吸血鬼になった私に掛かってしまえばごらんの有様ですよ」
ニッコリとエクルは微笑むがもはやそこには恐怖しか感じなかった
違う、明らかに違うもう彼女は私の知っているエクルとは似ているようで違う
「もう一度お誘いいたします、セルリアンお嬢様は街では人間嫌いの魔術師って呼ばれているんですよね。だったら人間なんて辞めて私と同じ吸血鬼に眷族となりましょう?そして昔のようにお友達として一緒に暮らしましょう?」
私を受け入れるように大きく手を広げる、だが私の気持ちは変わらない一歩踏み出し叫ぶ
「ったく、見ないうちに饒舌になったわねエクル。でも答えは変わらないわ、私がここに来たのはエクル───貴女を殺すために来たのよ!!」
ローブからフラスコを取り出しエクルに向って放り投げる、が───
「人間のセルリアンお嬢様と私では力の差がありすぎます、殺すなんて無理ですよ?」
「───!!」
一瞬でエクルの深紅の瞳が目の前に現れる、そのスピードは速いというのを越えていた
エクルの背後で私の投げたフラスコが割れる音がする
「受け入れて頂けないのであれば少しばかり痛い目にあってもらわなければいけませんね!」
「なにをしているセルリアン!!」
エクルの振り下ろされた腕を前に呆然とするしかない私にスレートが割って入りそれを受け止める
「ここで戦うのは危険だ、セルリアン表へ!」
「くっ、わかっているわよ!」
「早くするんだこっちは・・・そうにもたないぞ」
堪えながら叫ぶスレートに促さられるように私は走り入ってきた古びた木製の扉を開ける
「嘘でしょ・・・」
思わず言葉が漏れた、この屋敷に入ったときは太陽が昇り雲ひとつない空だったはずだ
だが今目の前に広がっている空はどこまでも続く暗雲が立ち込めている
「ぐぅっ!!」
どうなっているか考えるよりも先に木製の扉をぶち破りスレートが吹き飛ばされ地面を転がってくる
「スレート!」
「太陽が照らす外でなら吸血鬼に勝てる・・・とでもお思いでしたか?」
闇の中から悠然とエクルが姿を現す、私はすぐにローブからフラスコを取り出し構えた
「この雲も貴女の仕業ってわけね」
「これぐらいの芸当吸血鬼になら簡単です。さぁセルリアンお嬢様、抵抗しないでください抵抗すれば痛みは増すだけですよ?抵抗する価値、人間に固執する価値がありますか?セルリアンお嬢様が私に勝つなんて無理なんです」
「確かにないわね、人間に固執する価値は」
小さく呟く。フラスコを握る手にポツリポツリと雨粒が落ち、次第に強くなる
「だったら!」
「でもエクル、あんたのやったことは私の嫌いな人間がやっていることと同じなのよ!!」
そう叫びフラスコを地面に叩きつける。フラスコの液体が空気に触れ激しい音と土煙を上げ爆発を引き起こす、私はそのまますぐにシャトルーズから買った魔術書を掲げる
「それにね、勝つなんて無理とか勝ってから言いなさい!スレート!行くわよ!!」
「グォォォォッ!!」
エクルの背後で地面に突っ伏していたスレートが私の声に叫び声で答えると見事な四足歩行で地面を駆け一気にエクルの身体を押さえ込む
狼男になったスレートの腕力ならばなんとかエクルを押さえつけれるはずだ
「くっ、ただの人間ではないと思っていましたが狼男だとは」
「少しの間堪えるのよスレート!」
掲げる魔術書から切れ端が次々と空へと舞い上がっていく、これが失敗してしまえば間違いなく私達は終わる
「・・・どうして、どうしてわかっていただけないのですか」
スレートに押さえられ力なく項垂れながら小さな声で呟くエクル
「諦めなさいエクル、どんなに貴女が望んでも私はそれに応えない」
「嫌です、そんなの嫌ですっ!!!」
彼女のなにかに触れたのだろう、今までにない不可視の強烈な力がエクルを中心に吹き荒れ私とスレートを吹き飛ばす
「ちぃっ・・・まだ少し時間が掛かるって言うのに」
地面を転がりローブを泥塗れしながら吐き捨てる、魔術書の切れ端は全て天へと舞い上がったがおそらくまだ発動には時間が掛かる
だけど正直言ってエクルの力をもってすればその短い時間でいともたやすく私を倒すことができるだろう、となれば後はスレートがどこまで時間を稼いでくれるかというところだけど
「だったらもう吸血鬼にならなければ死んでしまうくらいに痛めつけるしかありません」
「そうは・・・させるかッ!」
半分獣化が解け掛かったスレートが俊足で駆け白銀の剣で斬りかかる───だが
「さっきから犬風情が邪魔しないでいただけますか!」
怒号と共にエクルがスレートを睨みつけるとスレートの動きはまるで壊れた時計のようにピタリと止まり
「な、身体が!」
「・・・消えなさい」
抵抗するまもなくエクルの手の平から放たれた紅い光の矢がスレートの胸を穿ち吹き飛ばした
「スレート!」
「安心してください、お嬢様がお望みなら彼も吸血鬼にしてあげますよ。しかしまずはお嬢様、貴女からです!!」
ぐったりと倒れるスレートを心配する暇もなかった。エクルの姿が私の目の前から消え次の瞬間には私の首を締め上げていた
「ぐっ・・・え、エクルッ!」
「苦しいですか?苦しいでしょうセルリアンお嬢様」
エクルの細い腕がどれだけの力を込めてもびくともしない、これが吸血鬼の力か
なんて納得している状況ではないキリキリと締め上げられ意識が今にも消えそうだ
どんどん小さくなっていく魔術書の切れ端を見上げる、あれが届けば───
「次にお目覚めのときはもう吸血鬼になっていますよ、それではお休みなさいませセルリアンお嬢様」
エクルの力が更に篭る、まずい完全に落ちる
そう一瞬諦めかけたその時だった、私とエクルを柔らかい光が包みこむ
さながらそれは真っ暗な舞台に照らされるスポットライト
「こ、この光は太陽の・・・!」
「ったく、遅いわよ!けど間に合った!」
首から手を離し光から逃れようとするエクルの首を今度は私が掴む
「魔術書の名は『光導きし書』。たいそうな名前だけど本来太陽の光が届かない田畑に使う魔術書よ、こんな魔術書だけど今の貴女には一番効くわ!」
最初こんなどうでもいい魔術書をシャトルーズにつかまされた時は文句の一つでも言ってやろうとかとも思っていたが今回ばかりは感謝するほかない
「力が、魔力が抜けて・・・苦しい」
さっきまでは物凄かった吸血鬼の力も太陽の光の前では無力だった
「このまま灰になりなさいエクル!」
「嫌、一人は嫌、私だけ死ぬなんて嫌・・・死ぬならお嬢様も一緒にっ!」
瞬間腹部に激痛が走る。エクルの隠し持っていたナイフが私の腹部に突き刺さる
「ぐっ、往生際が悪いわ・・・ねっ」
けどここで逃したら次はない、魔術書だっていつまで持つかわからない
力を込め痛みを吹き飛ばすように叫ぶ
「感謝しなさいよエクル!殺されるのがあんたの友達の私ってことにね!!」
「お嬢様、今友達って・・・」
「エクル、あんたは色々覚えているみたいだけど肝心なことを忘れているわ。『私と二人のときはお嬢様は止めなさい』そして『私達は一生友達』、友達だからこんな姿になった貴女を見ていたくない!」
首から手を離しエクルの華奢な身体を抱きしめる
「もういい、今まで一人でよく頑張ったわねエクル」
そう言い痛みに耐え笑顔を作ってみせる。笑ったのなんて何時振りだろう、正直自分でもちゃんと笑えているかわからなかった。
「お嬢様・・・いえセル、リアン」
エクルの頬を涙が伝う、少しづつ身体が光に消え去りながら掠れた声で私の名前を呼ぶ
「一緒にいてあげられなくてごめんね」
小さく呟く。その言葉にエクルは何も言うことなく昔のように微笑むと光の中消えていった

雨が止み効力をなくした魔術書の切れ端がゆっくりと落ちていく
「さようならエクル」
体が膝から崩れ、仰向けに倒れ込む。辺りには大きな血溜まりができていた
力が抜け息が大きく漏れる、太陽を覆っていた黒い雲の隙間から光が少しづつ降り注ぐ
それは昔エクルと見た天使が降臨する絵画の情景によく似ていた
「はっ・・・死んだらもしかしたら天使にな・・・れる、かしら?」
天使か、天使にだったらなってもいいかもしれない。そう思い私はゆっくりと目を閉じた

 

 

 

 

 

 

街から離れた森の中、そこには人間嫌いの魔術師が住んでいる
「魔術師様!魔術師様!!」
今日も今日とて魔術師の力を頼りにするものが激しく魔術師のいる小屋の戸を叩く
「魔術師さ───」
言葉を遮るように扉にフラスコがぶつかり弾ける、硝子の破片がキラキラと宙を舞っていた




                                                END


「ラブ@ポーション 歪んだ愛に嘲笑う者」


「はぁ・・・・・・。」
溜息。アルコールランプでグツグツと煮え立つ紫色の液体が入ったビーカーを眺めながら
今日何度目かという溜息をつく
「どうした今日で十六回目の溜息のようだが、やはり何を悩んでいるセルリアン?」
「あんたがそうやって心配してくれるのもこれで十五回目、いいからとりあえず放っておいてくれない?」
剣を磨きながら心配する同居人、灰色の髪の狼男スレートに適当に返事をする
「ふむ、ならいいのだがな。さて私はそろそろ狩りに行って来るとするが今晩はなにが御所望かな」
「ウサギ以外ならなんでもいいわよ、大体あんた最近狩りに行くのが趣味になってるでしょ」
煮えたぎって白い煙を上げだしたビーカーにその辺にあるよくわからない草を放り込んで混ぜながら私は答える
「うむ、狩りをして生きていくというのは中々良いものだぞセルリアン」
「はいはいそれは良かったわね」
「期待して待っているといい、君の溜息を吹き飛ばすような獲物を取ってこよう」
そう言うとスレートは白銀の剣を腰に差し小屋を出て行く、それとほぼ入れ違いになる形で見覚えのある一人の女性が小屋に入ってきた。
「にゃほーセルリアンちゃん、約一ヶ月のお久しぶり♪」
美しい金色の髪に整った顔立ち、少し尖った耳が特徴的な女性の名はシャトルーズ、エルフ族の行商人でときおり私に色んなものを売りつけにやってくるのだ
「はぁー・・・またこうゆう時に限って」
やたら耳につくシャトルーズの明るい声に私の気分は更に悪くなる。手先が器用なエルフ族の作る実験道具等は使いやすいし面白い掘り出し物も沢山ある、これらが街に行かなくても手に入るのだから便利といえば便利なんだけど正直私はシャトルーズのテンションの高さが物凄く苦手だ
「ねぇねぇセルリアンちゃん、さっきの男の人誰?彼氏?」
シャトルーズはその手に持った大きなバスケットをテーブルの上に遠慮もなしに置くと私の前に座り楽しそうに話しかけてくる
「スレートのことなら人じゃなくて狼男、最近なんだかんだで居座ってるただの番犬みたいなもんよ」
「なぁんだつまらないですね、セルリアンちゃんが恋してるんだったら応援しようと思ってたのになー」 
楽しそうに語るシャトルーズの言葉をよそに思いっきり私は嘆息する
「色恋沙汰に興味は無いわよ、そんなことより貴女は商売をしにきたんじゃないの?お喋りしたいなら他所行ってもらえるかしら?」
「あらら?いつにも増して御機嫌ナナメですねー♪そんなんじゃせっかくの可愛い顔が台無しですよ、たまには変な実験とか止めてお化粧して街に繰り出すとかしたらどうですぅ?魔術の品だけじゃなくて化粧品も私取り揃えてるんですよ」
そう言うとシャトルーズは自分のバスケットから色んな化粧品を次々とテーブルに並べていく
「ファンデーションでしょー口紅でしょー」
「そんな物は出されても邪魔なだけよ、いいからフラスコとあと隠し持っている良さげな魔術書を出しなさい」
「んもう、つれないですねー。それじゃセルリアンちゃんにもとっておきを出してもらいますからねー」
息巻くシャトルーズをよそに私は立ち上がりガラスの小瓶が並ぶ戸棚の前に立つ
「とっておきになるのかは知らないけど・・・まぁとりあえずなにが欲しいか、言ってみなさい」
シャトルーズとの取引は物々交換で行う。エルフ族のシャトルーズには人間の使う金貨などはあまり価値がない、そして私としても研究の副産物を処分できるのでこちらの方が好都合なのだ
「そうですねー胸が大きくなる薬はございますかね」
「そんなものはございませんわね、はい次」
「んーそれじゃダイエットに効きそうな薬とお肌がスベスベになる薬なんかは?」
「まぁそれならあるか」
私は戸棚から黄色と緑色の薬瓶を取り出す
「それとセルリアンちゃん、『苦しみながら死ねる薬』はあるかなー?」
シャトルーズのサラリと言った言葉に私の指が止まった
「あるにはあるけど・・・」
戸棚の奥から毒々しい青紫色をした小瓶を手に取り席へと戻る
「そんなもの何に使うのよ?」
「私久しぶりにね人間に恋しちゃったのよぉー♪」
シャトルーズは顔を赤らめてバタバタと腕を振り答える。彼女がとにかく色恋沙汰の話が好きなのは知っているが彼女自身のそんな話を聞くのは初めてだ
「そりゃよかったわね、けど質問の答えになってないわよ」
「私195年前にも人間に恋したことがあってね、ずっと愛し合っていたんですけどエルフと人間じゃ寿命が違うでしょ・・・だから彼が寿命で死んじゃったそのとき『次に人間に恋することがあったらその人が死んだとき私も一緒に死のう』って決めたんですよ」
あくまで先程までと同じ口調で淡々とシャトルーズは語る
「ふぅん、でもなんで苦しみながらなのよ」
呟きながら白煙を上げるビーカーに作品NO.555913315を流し込みガラス棒で掻き混ぜる
「死ぬときは苦しいものでしょ、私だけ楽に死んじゃったら彼が可哀想だもん♪」
シャトルーズの言葉を無視して私はビーカーの中にテーブルに転がる黒い石を放り込む
石はビーカーの中で液体と反応しクルクルと回転するとやがてボンッという音と共に黒煙となる
「それじゃセルリアンちゃん、フラスコと魔術書置いておくね♪それで約束の品を・・・」
「ちょっと待ちなさい」
商品をテーブルに置いて薬瓶を取ろうとしたシャトルーズの手を私は咄嗟に掴んだ
「あ、あれ?セルリアンちゃんどしたの?」
「エルフほど寿命が長いと嘘も平然とつくものね」
言い放ったその言葉に一瞬沈黙が流れたが直ぐに
「あららーさすがセルリアンちゃんです、よく私が嘘ついてるのわかりましたね」
と全く悪びれた様子も無くシャトルーズは微笑みを返した
「あんたの色恋沙汰の話は美談過ぎていつも胡散臭いけど、今日のは特に酷かったわ」
「あはっ、そうですかぁ?でもセルリアンちゃん、私の話全部が嘘ではないんですよ」
「はぁ?もしかしてエルフと人間との恋なんてあるとでも言うつもり?」
その言葉にシャトルーズは私が掴んだ手にもう一方の手を重ねる
「私が人間の彼を愛しているのは本当よ、でもね私が本当に愛せるのは今の彼だけなの」
そっと告げたその言葉に私はなぜシャトルーズがこの薬を欲しがるか理解した
「人間は本当に寿命が短いわ、美しさを保てるのは一瞬でしかない。195年前に思い知ったの、数十年前は心から愛してた人も老いてしまったら美しさの欠片もない・・・ならば殺してしまえば彼の美しさは永遠じゃないかってね。セルリアンちゃんに頼んだのが『苦しみながら死ねる薬』なのはね、どれだけ私が彼に愛されてるか最後に見ておきたかったの。苦しみながらそれでも愛してるって言われたときに私の心は本当に・・・」
「そんなの愛でもなんでもないわね」
言葉を遮るように掴んだ手を振り払うと立ち上がり吐き捨てる
「あら?それじゃセルリアンちゃんは本当の愛ってのを知っているの?」
「知らないし、知るつもりもないわ。用件は済んだんでしょ、さっさと帰ってくれないかしら・・・私は機嫌悪いのよ」
シャトルーズに背を向けたまま不機嫌さを前面に押し出す、ああ人間は嫌いだけどエルフも嫌いになりそうだわ
「それでセルリアンちゃん、本当にこの薬貰ってもいいの?」
「構わないわよ、別に私の知らないところで誰が死のうと関係はないから」
紫色の小瓶を手にし言うシャトルーズに対して私は青紫色の小瓶を手の中で転がしながら振り向き答えたのだった


                                             END

「ラブ@ポーション 剣持ちし誇り高き狼」

 

夜、夜はいい・・・満月の夜は特に良い。
静寂の続く真夜中の森を彷徨う、私にとってこれほどの愉悦はない
「そして───」
森の中の少し広がった場所、そこには一人の男が立っていた。
「グァァァアッ・・・・」
喉を深く鳴らす男の足元には鮮血が広がり、鎧を着た人間が数人倒れている。
「そこの女。逃げろ・・・」
騎士の一人が私に消え入りそうな声で言葉を吐く
おそらく普通の人間ならそれを見、聞いて恐怖を感じ、逃げだすところだが私は違う
「こんなにも早くみつかるなんてね、やはり満月の夜はいいわ」
倒れる騎士達の中にただ一人立つ男、人間のようだが少し違う・・・。人間のように二足で立ってはいるが腕から全身にかけて灰色の逆立った毛が並びその顔には鋭い牙のようなものが見える
一言で言ってしまえばそれは───狼男と呼ばれる存在
「最近この辺に現れるっていう『狼男』、あなたは人間以下?それとも違うのかしら?」
私は挑発するように言うとローブの懐中に手を突っ込みフラスコを握りこむ
「グァァァァッ!!」
狼男は私の動きをじっと見つめるように腰を低く落とし、そして右手に持った血塗られた剣を構える
「剣なんて構えての人間のおつもり?獣なら獣らしく牙や爪を使いなさい・・・よ!!」
フラスコのコルクを指で弾き狼男へと投げつける。粘着性の高い液体が入ったフラスコだ、これは受ければもう一つ用意してある中和剤なしには身動き取れなくなるほど強力な代物だ
「グシャァァ!」
狼男は投げられたフラスコに対し乱暴に剣を振り払う、その攻撃でフラスコが割れれば勝負は決する・・・
と思っていた私の予想は大きく裏切られた。
乱暴に振るわれたと思っていた剣は器用にフラスコを叩き、薄いガラスを割ることなく遥か後方へ弾き飛ばしたのだ
「ガガァァァァッ!」
「野蛮な叫び声の割りに凄い剣術じゃない」
ちょっと予想と違ったので少し焦りを感じつつも後ずさりながらローブに手を突っ込む。ゆっくり動きを止めてからやりたかったがこうなっては仕方ない
「ガグァァッ!!!」
一歩二歩下がる間に狼男は一気に距離を詰める、私が三歩目を踏み出したところで狼男はその右手に持った剣を大きく振りかざし突っ込む
「ああ、もう嫌!こうゆうギリギリってのは嫌いよ!」
振り下ろされた剣を紙一重に避け地面を転がりながらも私は狼男の大きく開けた口の中に用意しておいた丸薬を放り込んだ
「グアガァ!・・・・グアガァァァァァッァァァ!!」
効果はすぐに現れた、狼男は抗うように天に吠えたのち・・・・・・・
地面に突っ伏すように倒れこんだ、なるほどね人間の睡眠薬の量でも狼男は充分眠るわけか
「しかし・・・全く、たまには運動も必要なのかもしれないわね」
私は息を切らしながら起き上がると狼男の足を持つと引き摺りながら家路へと向った


ちょうど日が一番高く昇った頃、私の「狼男」の研究はあらかた終わっていた。
原因はライカンスロープ菌というものを体内に取り込んで起きる一種のアレルギー現象。魔術書で読んだ限りではライカンスロープ菌がアレルギー反応を起すものとして上げられるのは月の光、特に魔力が強くなる満月の光ということだが例外もいるようだ
「しかしまぁ狼男の正体がこんなお偉いさんだとはね」
私はベットで眠る灰色の髪を持った狼男───いまは普通の筋骨隆々の男を見て呟く
私がまだ街にいた頃、一度だけこの男を見たことがある。
それはこの街を治める国の新しい王女の誕生祭、そこで行われたパレードで美しい王女の傍で白銀の鎧を纏い凛々しく剣を構える男
その姿は一度しか見ていなかったというのに脳裏に焼きつくような美しさだった
「王国の騎士団長・・・確か名前は」
「スレートだ、スレート=グレイ、それが私の名前だ」
私の言葉に眠っていたはずの狼男───スレートがベットから身体を起こし答えた
「あら?ようやくお目覚めのようね狼男さん」
少し皮肉を込めて言う私に静かにスレートは言葉を繰り返すように呟く
「狼・・・男、やはりあれは夢ではなかったか」
「夢?もしかして狼男になっていると記憶が曖昧になるとか?」
「いやただ認めたくなかっただけだ、理性が効かなくなっていたとはいえよもや民を守るために姫君より使わされた剣で民を傷つけていたことに」
スレートは立ち上がると私に向って深々と礼をする
「私を止めてくれたこと感謝する、そして君に襲い掛かった無礼を許してくれ」
「別に感謝されることようなことはしてないわね、私は私で狼男に興味があっただけだから」
私はその辺にあった試験管を適当に火で炙りながら、溜息をついた
「ま、大して面白い成果はなかったけどね」
「違っていたら失礼だが、もしかして君があの人間嫌いの魔術師・・・なのか?」
「人間嫌いはその通りだけど、その“魔術師”って呼ぶのはやめてもらえるかしら?私にはセルリアンって名前があるんだから」
怪訝そうに言うとスレートは一言「そうか、済まなかったセルリアン」と再び頭を下げた
全く王国の偉い人にまで私のことが知れ渡っているとは、いい迷惑だわ
「あーあと先に言うけど、狼男から人間に戻せとか言われてもそれは無理だから」
「そうなのか?」
「ええ、そうよ。」
私は頷くとその辺にあった狼男の事が書かれた分厚い魔術書をスレートに投げ渡す
「読んでみればわかるけど体内に入ったライカンスロープ菌を取り除くことは不可能、となれば後はライカンスロープ菌がアレルギー反応を起こす物を取り除くしかない」
試験管を置いて私はスレートに向き直す
「本来なら取り除くとか不可能な月の光だけどスレート、貴方は少し違うから教えてあげるわ」
「少し違う?」
本を持って立ち尽くすスレートを私は指差す
「“怒り”の感情、それに反応して貴方は狼男になる。」
「怒り、そうなのか・・・。」
「ま、それがわかったからといってそう簡単にどうにかなるものでもないでしょうけど」
私は試験管にその辺に放置してあった枯れた草を適当に放り込むと再び火で炙る
「いや、自分自身の“怒り”が狼男に変化する原因というならばなんとかなる」
スレートは分厚い魔術書を机に置くと自分の胸に手を当て
「感謝する、短い間だが世話になったセルリアン」
王国式の敬礼をすると踵を返す。
それはまだ自分が人間だと言わんばかりの行動にしか私には映らない
「あら狼男さんはお散歩にどこかに行くのかしら?」
わざと皮肉を込めて言ってみる。だがスレートは振り返ることなく落ち着いた口調で告げる
「セルリアン、私はもう狼男ではない・・・人間だ。そして散歩ではない、私が狼男になって傷つけた民に謝罪しに行くのだ」
はぁ?そんなことすれば結末は決まってるじゃない
「もう私は自分の意思に反して狼男になることはないということを民に告げねばならない」
「自分が狼男の正体だなんてわざわざ言うつもり?死ぬわよ」
死ぬ、間違いなく死ぬ
「私は民を信じている、そして民の前では狼男にはならない・・・賭けてもいいぞセルリアン」
「はっ、王国の騎士団長様が賭け事なんてしていいのかしら」
「私は生来賭け事が好きでな、もし私が負けたらセルリアン君の言うこともなんでも聞いてあげよう・・・さぁどうする?」
背を向けたままのスレートに私が言う言葉なんて決まっていた
「ふん、人間なんて手のひらをすぐに返すものよ。魔物となった騎士団長様は捕らえられ張り付け刑よ、そして騎士団長様はそんな人間に怒りを感じて狼男に変身する」
「ハッハッハッそうか、セルリアン君は話を作るのが上手いな」
私の言葉にスレートは静かに振り返るとそう言い笑顔を見せた
その笑顔は曇り一つなく美しいものだった

「やれやれ、案の定じゃない」
夕刻、真っ赤に染まるレンガ造り街並み
街の広場には大勢の人が集まっていた
私はそこから少し離れたところでその様子を窺っていた
「今から街を脅かす狼男の処刑を行う!!」
街の人間の一人が大声を上げる、スレートはそのなかで木の十字架に張り付けられている
ぐったりと頭を垂らし表情はわからない
「さぁこいつは我々を欺き、多くの民を傷つけてきた魔物!怒りを込め石を投げるのです!」
その声とともにスレートの処刑は始まった、もはや彼は騎士団長でもなんでもなかったのだ
はじめこそ躊躇していた街の人間も一人、二人と投げ出すと次第に投げられていく石の数は増していく
「この街の人間なんて信じるからこうなるのよ」
じっと黙って石を受け続けるスレートに静かに呟くと私は踵を返す
ああ───嫌な記憶が蘇る

私にも似たようなことがあった、そのときに誰かが手を差し伸べていてくれていたら───

「・・・ここで帰ったら、あの人間達と一緒か」
本当に迷惑な話だ。私は乱暴に髪を掻き毟るとローブからフラスコを取り出し広場に向って放り投げる
スレートの事で興味本位で街にやってきたけど街に出向くのはこれが最後だ、本当嫌なことしかないわこの街は
「な、なんだこの爆発奴の仲間か!?」
フラスコが地面に当たり砕け散ると空気と混ざり激しい音とともに爆発を発生させる
突然の出来事に街の人間はうろたえ警戒するように辺りを見渡す
「どこまでも愚かな生き物だわ、人間って」
一つ深呼吸をして群集に向けて歩き出す
「ちょっとした爆発でも怯えうろたえるほど弱いくせに、誰かに守られてなければそうやって石も投げれないくせに・・・」
ローブから青い色した液体のフラスコを取り出すとそれを高く掲げる
「な、誰だお前!」
「あんたらに名乗る名前はないわよ、道を開けなさい・・・この液体で焼け爛れたくなければね」
フラスコをチラつかせ放つその言葉に周りの人間は蜘蛛の子を散らすように私から距離を置く、私は静かにただゆっくりと十字架に張り付けになったスレートの元へと進んだ
「ごきげんようスレート王国騎士団長、いえ今はただの狼男さんかしら?」
十字架を見上げ思いっきり嫌味を込めて言葉を紡ぐ
「セルリアン、この賭け私の勝ちのようだな」
守ってきた人々に裏切られ恨み言の一つや二つ言うだろうと思っていた私にスレートは全く的外れのことを呟いた
「は?あんたなに言っているの?この状況、私が言っていたのと同じじゃない。所詮人間なんて自分の都合のいいときばっかり魔術師様だの騎士団長様だの言って必要無くなればすぐに手のひらを返す、その結果が今の貴方の・・・」
「セルリアン、私は民に対して怒りなど感じてはいないのだよ。現に私の姿は人間のままだ」
スレートは頭から血を流しながらも別れたときと同じ曇り一つ無い笑顔で答える
「民はなにも間違ってはいない、私は沢山の民を文字通り傷つけたのだからな」
「・・・そうやって貴方は民を信じているかもしれないけど民は貴方を信じちゃいないかもしれない、いえ信じてなんていないわ」
「・・・信じられているさ」
どこまでも真っ直ぐなスレートの瞳が私を捉える、思わず目を逸らしたくなるがその瞳は不思議なことにそれをさせない魅力があった
「少なくともセルリアン、君には」
その言葉と共に夕日がより一層深紅に染まっていった・・・ような気がした


                                                    END

プロフィール
HN:
氷桜夕雅
性別:
非公開
職業:
昔は探偵やってました
趣味:
メイド考察
自己紹介:
ひおうゆうが と読むらしい

本名が妙に字画が悪いので字画の良い名前にしようとおもった結果がこのちょっと痛い名前だよ!!

名古屋市在住、どこにでもいるメイドスキー♪
ツクール更新メモ♪
http://xfs.jp/AStCz バージョン0.06
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